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八丁堀組屋敷・Ⅱ
しおりを挟む「ち、違、景山様。
違います。
私は、そのようなこと……」
「分かっておる」
必死に弁明する研水に、景山は不機嫌な一瞥を向けた。
もう怒っている。
景山は、その視線を後藤に向ける。
「後藤。
研水殿は、生真面目で冗談が通じぬ。
からかって、場を和ませようとしても逆効果じゃ」
後藤に苦情を言う景山の顔が、さらに不機嫌になっていく。
「よいか、この先、この場で、この屋敷で、妻の前で、わしの前で、今のような冗談を言ってはならぬ!」
「分かった、分かった」
景山の怒気に、へきえきした顔で頷いた。
「冗談が通じぬのは、景山ではないか。
のう、研水殿も、そう思うであろう」
景山に充分聞こえる小声で、後藤が研水に話を振る。
研水は、返事が出来ない。
「やめよ、後藤。
話が進まぬではないか」
佐竹が顔をしかめて注意をする。
「これは、おふざけが過ぎましたな。
失礼いたしました」
後藤が素直に謝った。
「研水殿。
私に話があるということだが、それはヌエ、人面鳥、そして玄白殿の屋敷で話した、怪物に関係することか?」
「さようでございます」
答えた研水は、ようやく真面目な話ができると安堵した。
「佐竹様、後藤には、玄白殿の屋敷で見聞きしたことをすべて伝えておる。
細かい補足は不要故、わたしに話すつもりで、話されよ」
「承知いたしました」
研水は軽く頭を下げると、どのように話すべきかと考え、まずは玄白の屋敷からの帰路に起こったことを語り始めた。
「あの日、玄白先生の御屋敷を失礼した帰り道、お城の濠で、騒ぐ人々を見ました。
その者たちの中に、お城の濠に、人魚が泳いでいたのを見たと言った者がおったのです」
研水の言葉に、佐竹、景山、後藤の三人が、互いに視線を合わせた。
「なんと」
「いきなり当たったな」
「あの噂、本当であったのか」
驚いた顔で短く言葉を交わす。
研水には、何のことか分からなかった。
しかし、「私にも教えてください」とせがむわけにもいかない。
「研水殿。
おぬしは、どうなのだ?
その人魚を見たのか?」
景山が言う。
「……はい」
研水は、そう答えた。
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