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八丁堀組屋敷・Ⅰ

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 十徳を羽織り、仙台平の袴で正装をした研水は、八丁堀にある景山の屋敷へと向かった。
 この地域は、隅田川沿いに八町もの長さで堀が作られたため、八丁堀と呼ばれるようになったと言われている。
 八丁堀には、与力、同心に支給された組屋敷が多くある。
 そのため同心は、町人たちから「八丁堀」「八丁堀の旦那」と呼ばれることもあった。

 景山の屋敷に着いた研水は、名乗るとすぐに、座敷へと案内された。
 待つほども無く、景山が現れた。
 研水が頭を下げると、景山が「よい」と簡単に応じた。
 研水が頭をあげると、そこにいたのは景山だけではなかった。
 三人の男がいた。

 上座に座ったのは、やや小太りの初老の男である。
 景山は、研水から見て右側、上座から少し下がり、研水に近い位置に座っている。
 そして、研水から見て左側、景山と反対の位置に、ひょろりとした痩躯の男が座っていた。

 「与力の佐竹様である」
 「ははッ。
 町医の戸田研水と申します」
 景山が上座の男を紹介し、研水は驚いて深く頭を下げた。
 与力と言えば、同心である景山の直属の上司である。

 「そちらは後藤殿。
 私と同じく同心である」
 「はッ」
 研水は体をやや左に向け、再度頭を下げた。

 「そう固くなるな、研水殿。
 取り調べではない。
 こちらが、おぬしに尋ねたいことや頼みたいことがあるのだ。
 もそっと気楽にされよ」
 後藤が穏やかな声で言う。

 「で、ございますね。
 佐竹様」
 研水にそう言った後で、後藤は上司である佐竹に確認を取った。
 「うむ」と、佐竹が短く答える。
 研水には、なんとなく三人の関係性が分かるようであった。

 そのとき「失礼いたします」と声がすると、再び襖が開き、景山の妻、佐那が自らお茶を運んできた。
 「佐那殿。
 相変わらず、美しいですな」
 何度か面識があるのであろう、後藤が軽口を叩く。

 「これは、研水殿が、横恋慕してしまうのも仕方あるまい」
 そう言った後藤は、「ははははは」と陽気に笑った。
 「後藤様!」
 「ご、ごご、後藤様!
 なな、何を根も葉もない……」
 佐那が後藤を睨みつけ、研水が目を丸く見開いてうろたえる。
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