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六郎さらに二百文・Ⅱ
しおりを挟む……ここまで、分かりやすい男であったとは。
研水は呆れつつ、説明を始めた。
「景山様に会い、話すべきことがあるのだ。
今朝もその件で、南町奉行所まで出かけたのだが、景山様は不在で、門番は、忙しいと言い、伝言すら預かってはくれなかった。
今日、浅草寺で、そのような大事があったのなら、明日、また奉行所に出向いても、同じことになるであろう」
「分かりました。
景山様に連絡を取り、旦那様と会える時間が無いか、確かめてくれば良いのですな」
「そうだ」
研水が頷いた。
六郎とは思えぬほどの察しの良さである。
「そして、もうひとつ」
「はい」
「玄白先生の所にも伺ったのだが、体調を崩し臥せていると聞いた。
見舞いに行き、どのようなご様子か聞いてきておくれ」
「それだけでよろしいのですか?
玄白先生とは、会わなくてもよろしいのですか」
「いや、会って話すべきことがあるのだが、病と言われては……」
研水は弱った顔で小さく首を振った。
「では、そちらも承知いたしました。
明日、双方に伺ってまいりましょう」
六郎が頭をさげた。
「もちろん、これは成功報酬だ」
研水は手を伸ばし、置いた100文銭二枚を取り、再び懐に戻した。
六郎は成功する自信があるのか、文句を言わない。
「いやいや、そのような話でございましたか。
意味ありげに、銭を出されるものですから、わしはまた、誰ぞを殺めて来いとでも言われるのかと、緊張いたしましたわい」
六郎が「へっへっへっ」と、本気とも冗談ともつかない笑い声をあげた。
「ば、馬鹿なことを申すな」
研水は驚き、顔を引きつらせた。
◆◇◆◇◆◇◆◇
翌日。
研水が目覚めると、すでに六郎はいなかった。
顔を洗って着替え、朝げを終えると、縁側に回って陽を浴びる。
ポツンとひとり、縁側に座っていると、六郎の言っていたことが思い出された。
しばてんとか言う大入道が、自分を訪ねに来たと言う話だ。
本当に妖怪、怪物の類であるのか?
研水がそう思った時、門の辺りで足音が聞こえた。
縁側の位置からは、家屋の角が邪魔になって、門は見えない。
しかし、耳を澄ますと、たしかに足音がする。
誰かが、敷地内に入ってきたのだ。
「先生。おられますか?」
と、声が聞こえた。
研水は止めていた息を吐いた。
その声は、人宿の徳蔵の声であったのだ。
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