105 / 202
六郎さらに二百文・Ⅰ
しおりを挟む「……十文」
と、六郎が答えた。
「十文の釣りが出たのか。
それは、もちろん駄賃として、お前が取っておくといい」
「いえ、団子代が十文でございます」
答えた六郎は、笑顔になっていた。
愛想のいい笑顔ではなく、開き直った笑顔である。
「酒ではなく、団子を買っていったのか?」
研水は呆気にとられた。
200文のほとんどを懐に入れたと言うことである。
「番太郎は酒より甘いものが好きと聞いておったのです。
それで、ほら、柳辻のところに、いつもいる団子屋に声を掛け、串の団子を三本買いました」
六郎はにこにこと説明をする。
その笑顔から「文句はないでしょう」という圧が感じられる。
「……団子は、ひと串、四文であろう。
三本を買ったら、十二文ではないか?」
「はい。三本まとめて買うのですから、十文に負けてもらいました」
……凄いな、こいつは。
研水は、六郎の笑顔を見ながら、ある意味、感心してしまった。
「いや、怒るつもりは無い。
釣りは、お前にやると、わたしから申した。
手土産が酒であろうが団子であろうが、そこは、お前の裁量だ。
団子を買って、わたしの命じた通り、景山様の安否をしっかりと確認してきてくれたのだから、何も問題は無い」
研水は、そう言いながら懐に手を入れ、銭貨の入った巾着袋を探った。
「ただ、団子屋に迷惑は掛けてやるな。
別に、この二文をやるから、団子屋に渡してこい」
「旦那様も人が良過ぎますな」
お咎め無しと判断した六郎は、研水のそばまで戻ってきた。
普段の、どこか人を小馬鹿にしたような笑みになって、素直に二文を受け取る。
いっそ清々しいほどの態度である。
……しかし、情報を集めてきた手並みは大したものであった。
……もしかしてわたしは、六郎の扱いを間違えていたのかも知れぬな。
「釣りは、お前の酒代か?」
研水が問うと、六郎は「へへへへ」と野卑な笑みを浮かべた。
「酒を呑むなら肴も欲しかろう」
研水は、あがり框の上に、パチリと100文銭を置いた。
楕円形をした穴銭である。
六郎は笑みを引っ込め、100文銭を凝視した。
「酒や肴を買い、おのれの小屋で飲むのも良いが、煮付け屋あたりで一杯飲むのもたまらぬであろう」
研水は、さらに一枚、パチリと100文銭を置いた。
「……」
六郎の視線が、穴銭から研水に、ゆっくりと移動した。
「別口でございますな。
何をいたしましょうか?」
どこか頼もしい顔になっていた。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました
ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら……
という、とんでもないお話を書きました。
ぜひ読んでください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる