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六郎さらに二百文・Ⅰ

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 「……十文」
 と、六郎が答えた。
 「十文の釣りが出たのか。
 それは、もちろん駄賃として、お前が取っておくといい」
 「いえ、団子代が十文でございます」
 答えた六郎は、笑顔になっていた。
 愛想のいい笑顔ではなく、開き直った笑顔である。
 
 「酒ではなく、団子を買っていったのか?」
 研水は呆気にとられた。
 200文のほとんどを懐に入れたと言うことである。
 「番太郎は酒より甘いものが好きと聞いておったのです。
 それで、ほら、柳辻のところに、いつもいる団子屋に声を掛け、串の団子を三本買いました」
 六郎はにこにこと説明をする。
 その笑顔から「文句はないでしょう」という圧が感じられる。

 「……団子は、ひと串、四文であろう。
 三本を買ったら、十二文ではないか?」
 「はい。三本まとめて買うのですから、十文に負けてもらいました」
 ……凄いな、こいつは。
 研水は、六郎の笑顔を見ながら、ある意味、感心してしまった。
 「いや、怒るつもりは無い。
 釣りは、お前にやると、わたしから申した。
 手土産が酒であろうが団子であろうが、そこは、お前の裁量だ。
 団子を買って、わたしの命じた通り、景山様の安否をしっかりと確認してきてくれたのだから、何も問題は無い」
 研水は、そう言いながら懐に手を入れ、銭貨の入った巾着袋を探った。

 「ただ、団子屋に迷惑は掛けてやるな。
 別に、この二文をやるから、団子屋に渡してこい」
 「旦那様も人が良過ぎますな」
 お咎め無しと判断した六郎は、研水のそばまで戻ってきた。
 普段の、どこか人を小馬鹿にしたような笑みになって、素直に二文を受け取る。
 いっそ清々しいほどの態度である。

 ……しかし、情報を集めてきた手並みは大したものであった。
 ……もしかしてわたしは、六郎の扱いを間違えていたのかも知れぬな。
 「釣りは、お前の酒代か?」
 研水が問うと、六郎は「へへへへ」と野卑な笑みを浮かべた。
 「酒を呑むなら肴も欲しかろう」
 研水は、あがり框の上に、パチリと100文銭を置いた。
 楕円形をした穴銭である。
 六郎は笑みを引っ込め、100文銭を凝視した。
 「酒や肴を買い、おのれの小屋で飲むのも良いが、煮付け屋あたりで一杯飲むのもたまらぬであろう」
 研水は、さらに一枚、パチリと100文銭を置いた。
 「……」
 六郎の視線が、穴銭から研水に、ゆっくりと移動した。
 「別口でございますな。
 何をいたしましょうか?」
 どこか頼もしい顔になっていた。
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