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卑劣漢・Ⅱ

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 ……火縄の弾は通るのか。
 ……しかし、動きに支障が出ているようには見えない。
 ……あの程度の傷ならば、何ほども感じていないようだな。

 と、ぐりふぉむが立ち止った。
 立てた首を小刻みに振りながら、頭部を回す。
 何かを探しているようにも、何かに聞き耳を立てているかのようにも見える。
 吾妻橋の手前で見せた仕草と同じであった。
 そして、ぐりふぉむは、景山に顔を向けた。
 
 ……!
 景山が緊張する。
 が、その目は、景山を見てはいなかった。
 景山の立つ場所より、やや西に視線を向けている。
 
 カカカッ。
 短く鳴いたぐりふぉむは、わずか三度の跳躍で、視線を向けていた場所に移動した。
 そこは、小さな茶屋であった。
 ぐりふぉむは、店の前にあった縁台を爪で引っ掛け、軽々と放り投げた。
 茶屋の前を広くすると、首を下げて身を低くし、ぐりふぉむは開きっぱなしの茶屋の中へ頭部を潜り込ませようとした。
 
 茶屋の中から、女の悲鳴が聞こえた。
 続いて、男の怒鳴り声も聞こえる。
 さらに、怒号が続き、陶器の割れる音が響くと、茶屋の娘であろう若い女性が、ぐりふぉむの鼻先に転がり出てきた。
 自ら外に出てきたのではなく、茶屋の中にいる誰かに突き飛ばされたようである。

 ぐりふぉむの前に転がった娘は、甲高い悲鳴を上げる。
 その悲鳴が、プツンと途切れた。
 あまりの恐怖に気を失ったのだ。

 ぐりふぉむは、娘には興味が無いように、嘴の側面で乱暴に押しのけた。
 そして、再び茶屋の戸口に頭を突っ込む。
 店内から男の悲鳴と、陶器の割れる音がした。

 ……今ならば。
 景山は音を殺して移動し、倒れている娘に近寄った。
 ぐりふぉむに気付かれれば、一撃で身体を裂かれる近さである。
 しかし、ぐりふぉむが茶屋の中に頭部を突っ込んでいる間なら、何とかなると判断したのだ。

 景山は娘を担ぎ上げた。
 ぐりふぉむは、まだ、茶屋の戸口に頭を突っ込んだままである。
 店内で叫ぶ、男の悲鳴がはっきりと聞こえる。
 「止めろッ! 近寄るなッ!
 お、女を喰えッ!
 差し出したではないか!
 おれより、女を……、ひいぃいいいい!」

 景山は思わず動きを止めた。
 茶屋の中から聞こえてきた声は、紛れもなく田伏の声であったのだ。


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