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崩壊Ⅱ

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 ぐりふぉむは、正面軍を軽々と押しのけ、こちらに体の正面を向けていた。
 その体が、ふっと沈んだ。
 沈んだ体は、次に浮き上がり、そのまま大きく跳躍した。
 どれほど強靭でしなやかな筋肉をしているのか、ぐりふぉむは、そのひと跳びで最高速に達していた。

 「佐竹様!
 こちらへ、早く!」
 後藤が佐竹を引っ張り、土産物屋の軒へ避難しようとする。
 盾兵たちも、わっと逃げ出した。
 50やそこらの兵で、突進してくる魔獣を止められることは不可能であった。

 「しっかりせい!
 逃げるのだッ!」
 景山は、恐怖で固まっていた盾兵を突き飛ばした。
 そのまま、広小路の端へ、強引に引きずる。

 一呼吸置いて、さっきまで景山と盾兵がいた場所を颶風のように、ぐりふぉむが走り抜けた。
 散らばっていた置き盾を踏みつけ、弾き飛ばす。
 その先は、隅田川である。
 600の兵で固めた旗本の包囲網は、まるで紙細工でもあったかのように、安々と突破されてしまった。
 
 「助かった……」
 景山は、足元で聞こえた震え声に目を向けた。
 景山に引きずられ、九死に一生を得た盾兵の声であった。
 地べたに尻を落とし、蒼白な顔で小刻みに震えている。
 虚脱した目は、ぐりふぉむが駆け抜けた、隅田川の方向を見ていた。

 ぐりふぉむの討伐どころか、逃走を許してしまったが、死を目の当たりにした雑兵の本音であった。

 ……?
 景山は怪訝な顔になった。

 虚脱していた盾兵の目に、恐怖が浮かんできたのだ。
 震えが大きくなり、「あ、ああ……」と、声を漏らし始めた。
 涙がぼろぼろとこぼれ始める。
 盾兵の視線を追った景山の顔も強張った。

 吾妻橋の手前で立ち止っていたぐりふぉむが、振り返り始めていた。
 首を伸ばし、猛禽類に似た頭部をピクピクと小刻みに揺らしながら振り返る。
 そして、完全に体をこちらに向けた。
 逃走するようには見えなかった。
 
 「……こやつ、我らを皆殺しにするつもりか」
 景山は、乾いた声でつぶやいた。

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