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崩壊Ⅰ

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 東の陣へと急ぐ景山の耳に、新たな怒号、悲鳴、絶叫が、後ろから届いてきた。
 正面軍がぐりふぉむに接触し、戦いが始まったのだ。
 
 「景山、後藤!」
 東の陣に入ると、二人に気付いた上役の佐竹が駆け寄ってきた。
 「無事か!? 
 無事であったか!」
 景山、後藤の姿を近くで見ると、佐竹は眉尻を下げ、安堵の顔になった。

 「わしが、もっと田伏を見張っておくべきであった。
 まさか、あのような愚かな真似をするとは……。
 激怒した村沢様が、叱責したのだが、その途中、こともあろうか、どこかへ逃げ出しよったわ」
 田伏のことを説明する佐竹の顔は、一転して苦々しいものになった。

 「佐竹様。
 田伏にかまっている暇はありませぬ。
 それよりも、他の同心たちは?」
 景山は、佐竹に問う。
 
 「野次馬が集まらぬよう、手下を連れて辻々を封鎖しておる。
 周囲の家々にも回り、急いで逃げよ、逃げることが出来なくとも、決して外に出るなと触れ回らせた」
 「良い判断でございます」
 景山は素直に感心した。
 このような状況でも、周辺に気配りができることは、佐山の人徳であろう。

 「しかし、江戸の人間は物見高いのう。
 あちこちに残って、この有様を見物しておるわ」
 後藤が苦笑する。

 その言葉につられたように、景山は周囲の建物を見回した。
 広小路には、二階建てになった建物が多い。
 ほとんどは、浅草寺の参拝者を当て込んだ、茶屋、飯屋、宿屋、土産物屋である。
 それらの店々の閉じた雨戸の隙間や、ずらした格子窓の間から、無数の視線を感じる。
 逃げ出すことより、盗み見ることを選んだ者が大半のようであった。
 
 「御奉行に連絡は?」
 景山は、佐竹に視線を戻した。
 「岩瀬様にか?」
 「おそらく旗本勢から、老中首座の土井様に伝令が走っていると思われます。
 ですが、万が一のことを考え、こちらからも岩瀬様に伝令を走らせ、現状の報告をいたしましょう。
 岩瀬様から、土井様に援軍の要請を……」
 景山がそこまで言った時、盾の向こうを見ていた後藤が叫んだ。

 「まずい!
 こちらに来るぞ!」
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