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旗本の事情
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慶長20年(1615年)。
後に『大坂夏の陣』と呼ばれる合戦で、徳川家康は豊臣家を滅ぼした。
この時代(文化14年・1817年)より、ざっと200年前のことである。
これ以降に起こった大きな戦と呼べるものは、1637年に発生した島原の乱のみである。
九州の島原・天草で発生した一揆は、多くのキリシタンと農民が立ち上がり、その数は3万7000人にまで膨れ上がった。
対して幕府側は、最終的に12万4000人の兵を動員した。
兵を動員したのは、肥前をはじめ、肥後、筑前、筑後など、九州の大名たちである。
九州以外からは、備後の国(現広島県の東部)より、5600の兵が出陣したのみであった。
徳川幕府からは、お目付け役、戦後処理を目的として、板倉重昌らが4800の兵を率いて九州に渡った。
三代目徳川将軍家光に直属する旗本たちには、戦功をあげる機会、すなわち出世の機会が与えられなかったと言うことである。
幕府の職務の中で出世という道も無い。
職務の中での出世とは、村沢主税のように、そもそも3000石以上の家禄があり、要職を与えられた者だけが、歩んでいける道であった。
俸禄が少なく、貧しい旗本は、200年もの間、貧しいままであった。
ところが、今、目の前に出世、加増、栄達の機会が、翼を生やした怪物の姿となって現れたのだ。
禄の少ない旗本たちは、決死の覚悟で、ぐりふぉむに挑んでいった。
村沢の思惑通りである。
ただ、思惑から、大きく外れたこともあった。
ぐりふぉむの桁外れの強さであった。
◆◇◆◇◆◇◆
焦れた顔になった旗本の一人が、馬上の将校に声を掛けた
「このまま、動かぬのですか!?
西の陣の救援に向かうべきです」
「い、いかん。
村沢様は、動くなと厳命されて東の陣へと向かった。
勝手な動きは、さらに混乱を招く。
村沢様の命令を待つのだ」
馬上の将校は、苦い顔で答えた。
「後藤」
景山は後藤を呼ぶと、数歩後ろに下がった。
「どうした?」
景山の横に移動した後藤が問う。
「我らは町奉行に属する同心だ。
旗本に同調する義務は無い。
二人で、ぐりふぉむの背後に回り込み、斬り込んでみるか?」
景山が小声で提案すると、後藤は呆れたような顔になった。
「景山、落ち着け。
おぬしは気が昂ぶり過ぎておるのだ。
今、旗本たちは、『集』で戦っておる。
我ら二人が『個』で参加しても、役には立たず、下手すれば邪魔になるわ」
「それに、そもそも」と、後藤は付け加えた。
「わしは、今、太刀を持っておらぬ」
「……そうであったな。
おぬし、太刀はどうしたのだ?」
景山は、改めて後藤の腰を見た。
鞘はあるが、そこに大刀は収まっていない。
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