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魔獣突入Ⅱ
しおりを挟む「村沢様。
友部殿が!」
並走する柴原が叫ぶ。
村沢が西の陣を任せた旗本の一人友部剛典が、馬を降り、囲いから突出すると、魔獣の横っ腹に向かって、一気に間合いを詰めたのだ。
「いっやああぁぁぁぁ!」
気合を発して、槍を繰り出した。
伸びた穂先が、魔獣の脇腹を抉るかと思えた。
が、魔獣が体をひねると、するどい穂先は、その体表を滑り抜けてしまう。
そして、魔獣は、右前肢を振った。
猛禽類の脚を思わせる前肢の一撃は、兜を被った友部の頭部を叩く。
吹き飛んだ友部の兜は、中身ごと潰れていた。
「……ッ」
村沢の耳に、柴原の呻きが聞こえた。
……まだ、士気はある。
……しかし、このまま我らが入り込んでも、密集した混乱を生み出し、被害ばかりが増す。
「坂井ッ!」
村沢は、柴原と反対側を並走する坂井を呼んだ。
「はッ!」
坂井が馬を寄せてくる。
「お前は、お前は雑兵をここで待機させ、新たに囲いを作れ。
鉤縄を用意させ、怪物が逃げてきたならば、絡めとれ。
空に逃がしてはならん!」
村沢は、そう命じた。
空に逃がせば、手の打ちようが無くなる。
「柴原ッ!
これより先は、騎馬のみで突撃する。
怪物の注意を引き、西の陣への圧力を減らす。
ただし、深く入るなッ。
四方から距離を持って囲み、正面は防御、後方より、槍で仕留める!」
村沢は、続けて柴原に命じた。
「承知しました!」
柴原が応えたとき、異変が起こった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「徒歩の雑兵を残し、騎馬が突っ込んでいくぞ」
「……良い判断だな。
密集すると、動きに制約が出来、被害は増すばかりだ。
槍の間合いで余裕をもって囲み、押されれば退き、死角から攻める手しかあるまい」
景山の言葉に、後藤が頷いた。
二人は、盾兵で作られた、囲みの内側に収容されていた。
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