71 / 204
金二分の役目
しおりを挟む同心の役目のひとつに、首切りがある。
死罪となった罪人の首を斬り落とする役目だ。
この時代、罪を犯し、捕縛された容疑者は、奉行所で取り調べを受け、伝馬町の牢屋敷に収容される。
牢屋敷は、敷地が約2600坪もあり、中には、町人、百姓、無宿人、武士、女性など、身分や性別別の牢、自白をさせるための拷問蔵、牢屋奉行の屋敷、そして、罪人の首を落とす、死刑場などがあった。
死罪となった者は、面布という白い布を顔につけられ、数人の手伝人足によって、この死刑場に引き出される。
死刑場では、血溜まりの穴と呼ばれる、穴の前に座らされ、頭を前に突き出すように命じられる。
この姿で、首を落とされるのだ。
首を斬り落とす役を命じられるのは、同心である。
とは言え、首を落とすには、かなりの技量がいる。
首の中には、頚椎という七つの骨があり、これが頭蓋骨を支えている。
頚椎は太い骨であり、胸椎に繋がっている。
胸椎は腰椎に繋がり、この一つながりの骨が背骨と呼ばれる。
日本刀の斬れ味は鋭いが、それでも、相応の業物と腕が揃わなければ、頚椎を断つことは難しい。
そもそも、首を落とすには、頚椎そのものを断つのではなく、頚椎と頚椎の間の軟骨、椎間板と言われる部分を斬る。
正確には、第三頚椎と第三頚椎の間の軟骨を斬る。
しかし、この部分の軟骨の厚みは、7mmほどしかない。
さらに、罪人がじっとしていることは稀である。
「動くでない。
動くでないぞ。
動かば、苦しみが増すぞ」
そう忠告をしても、死の恐怖から暴れる。
観念した者であっても、ガクガクと小刻みに震える。
ある同心が、斬首を行ったときなどは、三度、刀を振り下ろしても首は落ちず。
最後には、激痛に暴れる罪人を、手伝人足たちがうつ伏せに押さえつけ、太刀をノコギリで引くようにして使い、何とか罪人の首を落としたと言う。
罪人は激痛に泣き喚き、その場にいた全員に、大量の血飛沫が掛かった。
地獄絵図であったと言う。
斬った同心も、返り血を浴びて、茫然自失となってしまった。
斬首の役を命じられた同心には、金二分が、刀の研ぎ代として支給されるが、割に合う役目では無い。
(現在の貨幣価値で一両が約7万5千円。金二分は、一両の半分の価値)
そのため、斬首を命じられた同心のほとんどは、山田浅右衛門に役目を譲った。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。
出撃!特殊戦略潜水艦隊
ノデミチ
歴史・時代
海の狩人、潜水艦。
大国アメリカと短期決戦を挑む為に、連合艦隊司令山本五十六の肝入りで創設された秘匿潜水艦。
戦略潜水戦艦 伊号第500型潜水艦〜2隻。
潜水空母 伊号第400型潜水艦〜4隻。
広大な太平洋を舞台に大暴れする連合艦隊の秘密兵器。
一度書いてみたかったIF戦記物。
この機会に挑戦してみます。
猿の内政官 ~天下統一のお助けのお助け~
橋本洋一
歴史・時代
この世が乱れ、国同士が戦う、戦国乱世。
記憶を失くした優しいだけの少年、雲之介(くものすけ)と元今川家の陪々臣(ばいばいしん)で浪人の木下藤吉郎が出会い、二人は尾張の大うつけ、織田信長の元へと足を運ぶ。織田家に仕官した雲之介はやがて内政の才を発揮し、二人の主君にとって無くてはならぬ存在へとなる。
これは、優しさを武器に二人の主君を天下人へと導いた少年の物語
※架空戦記です。史実で死ぬはずの人物が生存したり、歴史が早く進む可能性があります
枢軸国
よもぎもちぱん
歴史・時代
時は1919年
第一次世界大戦の敗戦によりドイツ帝国は滅亡した。皇帝陛下 ヴィルヘルム二世の退位により、ドイツは共和制へと移行する。ヴェルサイユ条約により1320億金マルク 日本円で200兆円もの賠償金を課される。これに激怒したのは偉大なる我らが総統閣下"アドルフ ヒトラー"である。結果的に敗戦こそしたものの彼の及ぼした影響は非常に大きかった。
主人公はソフィア シュナイダー
彼女もまた、ドイツに転生してきた人物である。前世である2010年頃の記憶を全て保持しており、映像を写真として記憶することが出来る。
生き残る為に、彼女は持てる知識を総動員して戦う
偉大なる第三帝国に栄光あれ!
Sieg Heil(勝利万歳!)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる