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金二分の役目
しおりを挟む同心の役目のひとつに、首切りがある。
死罪となった罪人の首を斬り落とする役目だ。
この時代、罪を犯し、捕縛された容疑者は、奉行所で取り調べを受け、伝馬町の牢屋敷に収容される。
牢屋敷は、敷地が約2600坪もあり、中には、町人、百姓、無宿人、武士、女性など、身分や性別別の牢、自白をさせるための拷問蔵、牢屋奉行の屋敷、そして、罪人の首を落とす、死刑場などがあった。
死罪となった者は、面布という白い布を顔につけられ、数人の手伝人足によって、この死刑場に引き出される。
死刑場では、血溜まりの穴と呼ばれる、穴の前に座らされ、頭を前に突き出すように命じられる。
この姿で、首を落とされるのだ。
首を斬り落とす役を命じられるのは、同心である。
とは言え、首を落とすには、かなりの技量がいる。
首の中には、頚椎という七つの骨があり、これが頭蓋骨を支えている。
頚椎は太い骨であり、胸椎に繋がっている。
胸椎は腰椎に繋がり、この一つながりの骨が背骨と呼ばれる。
日本刀の斬れ味は鋭いが、それでも、相応の業物と腕が揃わなければ、頚椎を断つことは難しい。
そもそも、首を落とすには、頚椎そのものを断つのではなく、頚椎と頚椎の間の軟骨、椎間板と言われる部分を斬る。
正確には、第三頚椎と第三頚椎の間の軟骨を斬る。
しかし、この部分の軟骨の厚みは、7mmほどしかない。
さらに、罪人がじっとしていることは稀である。
「動くでない。
動くでないぞ。
動かば、苦しみが増すぞ」
そう忠告をしても、死の恐怖から暴れる。
観念した者であっても、ガクガクと小刻みに震える。
ある同心が、斬首を行ったときなどは、三度、刀を振り下ろしても首は落ちず。
最後には、激痛に暴れる罪人を、手伝人足たちがうつ伏せに押さえつけ、太刀をノコギリで引くようにして使い、何とか罪人の首を落としたと言う。
罪人は激痛に泣き喚き、その場にいた全員に、大量の血飛沫が掛かった。
地獄絵図であったと言う。
斬った同心も、返り血を浴びて、茫然自失となってしまった。
斬首の役を命じられた同心には、金二分が、刀の研ぎ代として支給されるが、割に合う役目では無い。
(現在の貨幣価値で一両が約7万5千円。金二分は、一両の半分の価値)
そのため、斬首を命じられた同心のほとんどは、山田浅右衛門に役目を譲った。
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