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斬骨
しおりを挟む「しゃあああぁぁぁぁ!」
後藤の左後ろで、鋭い気合が響いた。
景山である。
左から襲ってくる、ぐりふぉむの右前肢に対して、気合と共に、景山が割って入ってきたのだ。
構えは上段。
右足を踏み込みながら、上半身を左にひねり、変則気味の袈裟斬りを放った。
十分に速度の乗った斬撃が、ぐりふぉむの右前肢を迎え撃つ。
バツッと異様な音がした。
「……斬れぬか」
景山が呻いた。
景山の袈裟斬りは、ぐりふぉむの右前肢の一撃を止めていた。
反りのある日本刀は、刃筋を合わせて振り下ろせば、それだけで、対象物を引き斬る軌道を走る。
しかし、景山の一撃は、ぐりふぉむの前肢の皮膚は切り裂いたものの、深く、肉にまでは斬り込んでいなかった。
「骨だ。骨」
景山の状態を見て取った後藤が叫んだ。
景山の太刀が深く斬り込まなかったのは、骨に当たったからだと言っているのだ。
ぐりふぉむは、ほんの一瞬、左右の前肢を後藤と景山に支えられた形になった。
不安定な姿勢から上半身が崩れる前に、右前肢を捻って、景山の太刀を弾き返すと、ぐりふぉむは、石畳の上に鉤爪を降ろした。
鉤爪に叩かれた石畳が、小さな破片を飛ばす。
石畳に降りたことで、ぐりふぉむの体重が右前肢に移った。
そのため、後藤の支えていた、左前肢が軽くなる。
軽くなると同時に、後藤は、これまでとは別の動きを始めていた。
左手の十手のみで、ぐりふぉむの左前肢を支え、右手首をひねって太刀の向きを変えると、峰の部分をぐりふぉむの黄色い指に当て、スーーッと滑らせたのだ。
前に向かって伸びる三本指のなか、一番外側の指である。
第四趾(あしゆび)と呼ばれる指だ。
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