68 / 203
有原老歩
しおりを挟む老歩の技は、相手の体の芯を自在に操ると言われ、素手でかなうものは皆無だったと言われる。
しかも、相手と言うのは、人間に限らなかった。
ある日、酔った老歩が、成長した牡牛の横に立ち、手の平で牛の肩をトンと押したことがあった。
すると、牡牛は、トットットッと横へと移動した。
牛が横移動することは滅多にない。
しかし、その牡牛は、重心が定まらないかのように、どんどん横歩きで移動した。
ようやく止まったのは、最初の場所から、五間(約9m)も移動した後である。
止まった牡牛は、老歩を見た。
自分を不愉快な目に遭わせたのが、老歩だと理解している目である。
怒気を発し、頭を下げて、老歩へ突進してきた。
牛は動物の中でも、早く走る方ではない。
だが、重量がある。
激突されれば、人間など紙屑のように吹き飛ばされる。
突進してくる牡牛に対して、老歩は逃げなかった。
逃げずに、右手をひょいと前に出した。
そして、突っ込んできた牡牛の右の角に、右手の甲を添えた。
それだけで、牡牛の進行方向が、老歩の体の分だけ反れた。
「ほりゃ、ほりゃ、ほりゃ」と、老歩が楽しそうに、その場で回転する。
すると、手の甲で角を押さえられた牡牛が、回転する老歩に合わせて、その周りを回り始めた。
手の甲と牡牛の角は、ぴったりと張り付いたように離れない。
「ほりゃ、ほりゃ、ほりゃ」
老歩は、その場で三回転し、牡牛も老歩の周りを三周した。
そこで、老歩が右手を離すと、解放された牡牛は、そのまま逃げ去っていった。
残った老舗は、目を回して嘔吐したと言う。
後藤は、その老歩から、直々に指導を受けたのだ。
右手の太刀、左手の十手に、ぐりふぉむの体重が掛かってくる。
ゆっくりではない。
一気に掛かってくる。
それに倒れ込んできた加速が足され、前肢そのものの力も加わる。
……相手の力を押し返さず、むしろ引き寄せる。
……引き寄せながら、力の方向をかえる。
後藤は、刹那の瞬間に、太刀と十手に掛かる力を操作した。
ぐりふぉむの巨体がわずかに傾いた。
重心がズレる。
しかし、そこまでであった。
あまりにも体重差、体格差があり過ぎるのだ。
体を傾けたものの、ぐりふぉむは倒れるまではいかず、振り下ろしていた右前肢の方向を変えた。
左前肢で抑え込んでいる獲物に、横から爪を立てる動きであった。
……まずいな。
後藤の顔が、さすがに強張った。
自身の左から、魔獣の右前肢が迫ってくることを察したのだ。
察したが動けない。
逃げようとして、力の均衡を崩せば、ぐりふぉむの左前肢で押し潰される。
絶体絶命であった。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
13歳女子は男友達のためヌードモデルになる
矢木羽研
青春
写真が趣味の男の子への「プレゼント」として、自らを被写体にする女の子の決意。「脱ぐ」までの過程の描写に力を入れました。裸体描写を含むのでR15にしましたが、性的な接触はありません。
【18禁】「胡瓜と美僧と未亡人」 ~古典とエロの禁断のコラボ~
糺ノ杜 胡瓜堂
歴史・時代
古典×エロ小説という無謀な試み。
「耳嚢」や「甲子夜話(かっしやわ)」「兎園小説」等、江戸時代の随筆をご紹介している連載中のエッセイ「雲母虫漫筆」
実は江戸時代に書かれた書物を読んでいると、面白いとは思いながら一般向けの方ではちょっと書けないような18禁ネタや、エロくはないけれど色々と妄想が膨らむ話などに出会うことがあります。
そんな面白い江戸時代のストーリーをエロ小説風に翻案してみました。
今回は、貞享四(1687)年開板の著者不詳の怪談本「奇異雑談集」(きいぞうだんしゅう)の中に収録されている、
「糺の森の里、胡瓜堂由来の事」
・・・というお話。
この貞享四年という年は、あの教科書でも有名な五代将軍・徳川綱吉の「生類憐みの令」が発布された年でもあります。
令和の時代を生きている我々も「怪談」や「妖怪」は大好きですが、江戸時代には空前の「怪談ブーム」が起こりました。
この「奇異雑談集」は、それまで伝承的に伝えられていた怪談話を集めて編纂した内容で、仏教的価値観がベースの因果応報を説くお説教的な話から、まさに「怪談」というような怪奇的な話までその内容はバラエティに富んでいます。
その中でも、この「糺の森の里、胡瓜堂由来の事」というお話はストーリー的には、色欲に囚われた女性が大蛇となる、というシンプルなものですが、個人的には「未亡人が僧侶を誘惑する」という部分にそそられるものがあります・・・・あくまで個人的にはですが(原話はちっともエロくないです)
激しく余談になりますが、私のペンネームの「糺ノ杜 胡瓜堂」も、このお話から拝借しています。
三話構成の短編です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる