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旗本八万騎Ⅰ
しおりを挟む旗本と御家人の違いは、将軍に謁見できる資格の有無である。
将軍に謁見することを御目見得と言い、御目見得の資格を持つ者が旗本、持たない者が御家人であった。
老中首座の土井利厚は、譜代大名。
ぬえを討った杉原、町奉行の岩瀬、永田は旗本。
与力である佐竹、同心である景山は御家人である。
実際に現場で指揮を執るのは、ほとんどが同心であり、事件によっては与力も出動する。
土井の『御家人の采配では、怪物退治は荷が重いか』とは、本人にそのつもりはなくとも、二人を侮ったようなものであった。
「景山、ようやってくれた。
おぬしが人面の化け物鳥を斬り殺したと、片桐から報告を受けたときは、溜飲が下がったわ。
しかも三羽と言うではないか、ぬえ一頭よりも、重みがあろう」
佐竹が嬉しそうに言う。
その嬉しそうな顔に、景山は困った気持ちになりつつも正直に話した。
「いえ、我らが討った人面の怪鳥は、一羽のみでございます。
残る二羽は、千葉周作と名乗る武士が斬り殺しました」
「……そうか。
その者は、まさか旗本ではあるまいな」
佐竹はキナ臭い顔になる。
「いえ、武芸者のようでした。
なにやら、杉原様に因縁があるようなことを口にしておりましたが……」
「……千葉周作か。
その者のこと、調べておく方がよいだろうな」
「はッ」
「話を戻すが」と、佐竹が言った。
「土井様は、次に化け物が出た場合、旗本勢で討ち取ると言われたのだ」
「旗本が?」
「杉原様がぬえを討ったことで、よほど気が大きくなったのであろうな。
岩瀬様は、参勤交代で江戸にいる外様大名から、兵を出させてはと申されたのだが、将軍の武威を知らしめると言われたそうだ」
……旗本勢か。
景山は眉を寄せた。
旗本には軍役があり、石高によって、侍が何人、弓兵が何人、鉄砲撃ちが何人と、常備する兵力が定められている。
たしかに、あの化け物鳥との戦いで、槍や弓、鉄砲があれば、あれほどの被害は出なかったであろう。
景山は、はあぴいとの戦いで死んだ者たちの骸を思い出した。
そもそも岡っ引きや手下は、ヤクザ者や博徒、粗暴な町人の次男坊や三男坊を使うことがほとんどである。
怪物相手に戦うことに、無理があるのだ。
しかし……。
と思う。
旗本の手に負えるのか?
軍役によって、常備すべき兵や人数というのは決まっているが、あくまで建前である。
300石以下の旗本で、兵を持つ余裕のある者など稀である。
旗本といえども、暮らしは厳しいのだ。
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