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悪夢
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町中を歩いていた。
覚えがあるような無いような、どうにも、はっきりとしない道である。
路地と言うほど狭くは無いが、大通りほど広くは無い。
どこだろう?
前方に目を凝らすと、突き当りは水路となっていた。
岸をきっちりと石で固められている。
水路の向こうは、土壁が視界を防いでいた。
研水は、恐ろしくなった。
これ以上、水路に近づくことが恐ろしいのだ。
なぜだろう?
なぜ恐ろしいと感じているのか?
それは、水路が、お城の内濠に繋がっているからだ。
内濠から、ナマズの尾を持つ人魚が、前方の水路まで入り込んできているのだ。
そこで、研水を待ち伏せている。
水路に近づけば、濁った水の中に引きずり込むつもりである。
近づいてはダメだ。
研水は、来た道を引き返そうとした。
しかし、それも出来ないことを不意に思い出した。
後から大入道が迫ってきているのだ。
丸い托鉢笠を被った大入道である。
僧衣の内には、河童と天狗が隠れている。
どうすればいい?
どこに逃げれば?
そのとき研水は、左手の建物に、多くの人々が流れ込んでいることに気が付いた。
何かの大店だろうか。
店頭は大きく開け放たれ、人々は広い敷地内へと吸い込まれていく。
祭りでみる、見世物小屋にも、どこか似ている。
ここに入ろう。
ここに入って、やり過ごすのだ。
研水は、人ごみに紛れて、建物内へと入り込んだ。
建物中には、幾つもの展示台があった。
腰ほどの高さで、入ってきた人々が、展示物に触れることができないよう、簡単な竹の柵で囲まれている。
展示台の上には、様々な本草が並べられていた。
干された植物、木の実、牽かれて粉末状になった木の実、同じく粉末状になった鉱物、乾燥した小動物と思しきモノ、そのほか、見たことも無い本草たち……。
展示物の前には、それが何で、どんな効能があるのかを説明した紙が貼りつけられていた。
ここは物産会場か!?
……いや、そうではない。
何か、おかしい。
並べられた本草も説明書きも、行き来する人々までも、曖昧な感じがする。
……夢か。
研水は、自分が夢を見ていることを自覚した。
夢の中で夢であることを自覚する。
現代で言う、明晰夢である。
しかし、夢であることに気付いたからと言って、何でもできることは無い。
現実世界で身につけた常識や良心、羞恥心、罪悪感が枷となり、たとえ夢だと分かっても、好き勝手なことができる訳では無いのだ。
研水は、物産会場に、ひとつの集団を見つけた。
何度か挨拶をしたことがある、本草学者の田村元雄、蘭学者の中川淳庵がいる。
そして、師である杉田玄白がいた。
まだ、若いころの師である。
ここは……、ただの物産会場ではない。
東都薬品会だと、研水は気が付いた。
玄白から聞いた、東都薬品会の話を夢に見ているのだ。
ならば、あの男がいるはずである。
研水は、元雄、淳庵、玄白の向こうに、その男を見つけた。
魔人平賀源内である。
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