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星王剣

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 捕り方たちは、恐怖で血の気の引いた白い顔になり、金縛りに掛かったかのように動かない。
 「……ぬッ」
 研水の横に立つ景山が、呻くような声をあげたが、景山とて、捕り方たちへの指示も、自身の行動も起こせなかった。

 人面鳥から目を離せない研水は、嫌なことに気が付いた。
 同種の鳥を並べられ、個別に見分けることができるかと問われれば、研水は、「できない」と答える。
 スズメはスズメ、ニワトリはニワトリである。
 際立った特徴が無い限り、個体を識別はできない。

 しかし、土倉の屋根に並んでとまる二匹の人面鳥は、はっきりと区別が出来たのだ。
 どちらも、先の人面鳥と同じく、老婆の顔をしている。
 ただし、その顔つきが違う。

 向かって右は、下ぶくれで、目が小さい。
 向かって左は、眉が離れ、鼻が低い。
 最初の一匹は、目はやや落ちくぼみ、頬から顎が角ばっていた。
 別人という言葉が適切でなければ、どれも別の個体である。

 個体の識別が、私にできると言うことは……。
 あれは、鳥よりも人に近いのではないのか……。
 あの化け物の根っこは、鳥ではなく……。
 研水は、自分の考えのおぞましさに、総毛立った。

 ゴエゴエッ。
 ゴワガカッ。
 土倉の上の二匹は、時折顔を見合わせるような仕草をし、首を伸ばして嫌な鳴き声をあげる。
 まるで会話をしているようであった。

 緊迫した空気の中、後ろから、飄々とした声が聞こえた。
 「あの妖物は、杉原藤一郎を殺した、ぬえの仲間でしょうか?」

 研水と景山が振り返る。
 ちょうど、二人の間から、半歩下がった場所に、一人の若い武士がいた。

 二十代前半に見える。
 背丈は、研水と変わらない。
 大小の二本を腰に差し、小奇麗な小袖に袴、羽織を身に着けている。
 色白で、目元に涼しさがある武士であった。

 「おそらくは……」
 研水が答えると、その武士は前へと踏み出した。
 研水と景山の間の狭い隙間を抜けて、するりと前に出る。
 どういう身のこなしをしたのか、研水にも景山にも、触れることがなかった。

 そのまま通りを渡り、人面鳥に近づく動作は、そよ風のようである。
 研水と景山の間を吹き抜け、気が付けば通りを渡り終えていた。

 ただ、人面鳥に向かって、真っすぐ近づいたわけでは無かった。
 人面鳥のとまる土倉は、商家の敷地内にある。
 土倉に近づくには、まず土塀を乗り越えねばならない。

 若い武士は、それを避け、商家の隣に建てられた櫓に向かった。
 最初の人面鳥が、とまっていた櫓である。
 羽織、二本差しをそのままに、するするとマシラのように櫓を登っていく。

 土倉の高さを超えたとき、二匹の人面鳥が反応した。
 グワッと鳴くと、土倉の屋根を蹴って、羽ばたいたのだ。

 若い武士も動きを変えた。
 さらに三歩、体を引き上げ、櫓から手を離したのだ。
 体がスーーッと外側に傾いていく。
 傾きながら左手で鯉口を切ると、抜刀した。
 そこで、櫓の柱を蹴った。

 刀を振りかぶった若い武士は、一匹の人面鳥に向かって落ちていった。

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