18 / 202
星王剣
しおりを挟む捕り方たちは、恐怖で血の気の引いた白い顔になり、金縛りに掛かったかのように動かない。
「……ぬッ」
研水の横に立つ景山が、呻くような声をあげたが、景山とて、捕り方たちへの指示も、自身の行動も起こせなかった。
人面鳥から目を離せない研水は、嫌なことに気が付いた。
同種の鳥を並べられ、個別に見分けることができるかと問われれば、研水は、「できない」と答える。
スズメはスズメ、ニワトリはニワトリである。
際立った特徴が無い限り、個体を識別はできない。
しかし、土倉の屋根に並んでとまる二匹の人面鳥は、はっきりと区別が出来たのだ。
どちらも、先の人面鳥と同じく、老婆の顔をしている。
ただし、その顔つきが違う。
向かって右は、下ぶくれで、目が小さい。
向かって左は、眉が離れ、鼻が低い。
最初の一匹は、目はやや落ちくぼみ、頬から顎が角ばっていた。
別人という言葉が適切でなければ、どれも別の個体である。
個体の識別が、私にできると言うことは……。
あれは、鳥よりも人に近いのではないのか……。
あの化け物の根っこは、鳥ではなく……。
研水は、自分の考えのおぞましさに、総毛立った。
ゴエゴエッ。
ゴワガカッ。
土倉の上の二匹は、時折顔を見合わせるような仕草をし、首を伸ばして嫌な鳴き声をあげる。
まるで会話をしているようであった。
緊迫した空気の中、後ろから、飄々とした声が聞こえた。
「あの妖物は、杉原藤一郎を殺した、ぬえの仲間でしょうか?」
研水と景山が振り返る。
ちょうど、二人の間から、半歩下がった場所に、一人の若い武士がいた。
二十代前半に見える。
背丈は、研水と変わらない。
大小の二本を腰に差し、小奇麗な小袖に袴、羽織を身に着けている。
色白で、目元に涼しさがある武士であった。
「おそらくは……」
研水が答えると、その武士は前へと踏み出した。
研水と景山の間の狭い隙間を抜けて、するりと前に出る。
どういう身のこなしをしたのか、研水にも景山にも、触れることがなかった。
そのまま通りを渡り、人面鳥に近づく動作は、そよ風のようである。
研水と景山の間を吹き抜け、気が付けば通りを渡り終えていた。
ただ、人面鳥に向かって、真っすぐ近づいたわけでは無かった。
人面鳥のとまる土倉は、商家の敷地内にある。
土倉に近づくには、まず土塀を乗り越えねばならない。
若い武士は、それを避け、商家の隣に建てられた櫓に向かった。
最初の人面鳥が、とまっていた櫓である。
羽織、二本差しをそのままに、するするとマシラのように櫓を登っていく。
土倉の高さを超えたとき、二匹の人面鳥が反応した。
グワッと鳴くと、土倉の屋根を蹴って、羽ばたいたのだ。
若い武士も動きを変えた。
さらに三歩、体を引き上げ、櫓から手を離したのだ。
体がスーーッと外側に傾いていく。
傾きながら左手で鯉口を切ると、抜刀した。
そこで、櫓の柱を蹴った。
刀を振りかぶった若い武士は、一匹の人面鳥に向かって落ちていった。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
お嬢様、お仕置の時間です。
moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。
両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。
私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。
私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。
両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。
新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。
私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。
海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。
しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。
海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。
しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる