大江戸怪物合戦 ~禽獣人譜~

七倉イルカ

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悪夢

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 ゲゲゲッ!
 グワガガッ!
 人面鳥が、巨大な翼を狂ったようにバタつかせ、上空へと逃げようとする。

 「に、逃がすなッ!」
 捕り方の一人が、悲鳴のように叫んだ。

 その声が合図であったかのように、人面鳥に向かって、四方から刺又、袖絡、突棒が叩きつけられた。
 「殺せッ!」
 「りゃああ!」
 捕り方たちの長柄で打たれた人面鳥が激しくもがき、千切れ抜けた、黒く大きな羽根が無数に舞う。

 空へ逃がせば、もう手の打ちようがなくなる。
 再び、あの惨劇が始まる。
 その恐怖感が、捕り方たちから、一切の手加減を奪ってた。

 「止めよ! もうよい! 
 手を止めるのだ!」
 景山の制止も耳に届かない。

 「もう死んでおる!
 化け物は、死んだ!」
 その言葉で、ようやく捕り方たちは手を止めた。

 そのときには、無数に飛び散った黒い羽根と、ズタズタになった肉塊が、撒き散らかされたような惨状が残っているだけであった。
 我に返った捕り方の何人かは、背を向けて嘔吐をする。

 「研水殿。
 怖い役を強いてしまったな」
 地べたに尻を落としたままの研水に、景山が手を伸ばしてきた。
 「い、いえ。あ、ありがとうございます」
 研水が、その手を取ると、強い力で引き起こされた。

 研水は景山に支えられながら、通りの惨状に目を向けた。
 倒れている七人は、確かめるまでもなく絶命していた。
 首が千切れるほどに引き裂かれている者。
 心臓が引きずり出されている者。
 はらわたを掻き出され、胴と腰の間が、妙に伸びている者もいた……。

 誰一人として助けることは出来ない。
 なにが、江戸一番の蘭方医か……。
 研水は唇を嚙み、己の無力さを恨んだ。

 グゲゲゲゲ。
 ゴエッ。ゲゲ。
 人面鳥の鳴き声が聞こえた。

 血みどろの肉塊が鳴くはずはない。
 幻聴か……。
 研水は、自身の耳に指を当てた。

 あまりに強烈な体験であったため、記憶にある怪鳥の鳴き声が、今も聞こえているように錯覚を起こしているのだ。
 そう思った研水の耳に、今度は、はっきりと聞こえた。

 グエッゲゲゲ。
 ゴエッゲゲゲ。
 鳴き声のした方へ顔を向けた。
 そこに、悪夢のような光景が見えた。
 二匹の人面鳥が、土倉の屋根に並んでとまっていたのだ。 
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