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戸田研水
しおりを挟む「うわわわ!」
向かってくる人面鳥に対して、一人の捕り方があわてて刺又を振った。
しかし、恐怖で目測を誤ったためか、まるで届かない。
逆に、刺又が通り抜けた後の空間に、人面鳥が飛び込んできた。
「ひッ!」
悲鳴をあげた捕り方と人面鳥が、一瞬交差した。
人面鳥は、すれ違いざまに、捕り方の顔面を鋭い鉤爪で掻き毟った。
一本が大人の指ほどもある鉤爪である。
捕り方は、顔全体から血を吹き出して、棒のようにぶっ倒れた。
それを見た他の捕り方たちは、悲鳴をあげて長柄を振り回しはじめた。
しかし、人面鳥は、長柄が届かぬ高さを嘲るように飛び回り、不意に急降下をしては、新たな新たな獲物に襲い掛かる。
血飛沫と悲鳴の中で、犠牲者が増えていった。
天水桶の陰に隠れた研水は、震えながら目の前の惨劇を見ていた。
陽光の注ぐ、真っ昼間の町中で、老婆の顔をした巨大な人面鳥が、捕り方たちを襲っているのだ。
あまりにも非現実的な光景であった。
新たに捕り方の一団が現れたが、状況は変わらない。
犠牲者は増える一方で、みな及び腰になって逃げ回っている。
その逃げ回る捕り方たちを、ひとり、ふたりと人面鳥が襲い、すでに七人の犠牲者が骸となって転がっていた。
「研水殿ッ!
そこに、いたか!」
そんな地獄絵図の中、刀を手にした景山が、研水のそばに走り寄ってきた。
「か、景山様」
「研水殿、立て!
立って胸を張るのじゃ!」
景山は、しゃがみ込んでいた研水を引き起こそうとした。
「む、無理でございます」
研水は首を振る。
この状況で立ち上がれば、あの人面鳥がすぐさま襲い掛かってくる恐怖があった。
「聞くのだ!」
景山が、怖い形相で言う。
「このままでは、みな怯えて逃げ惑い、被害者が増えるだけじゃ。
決死の覚悟で、あの化物を地面に引きずり降ろさねばならぬ。
そのために立ってくれ! 立つのじゃ!」
研水は、強引に引き起こされた。
景山のいう言葉の意味は分かる。
しかし、自分が立たされる意味が理解できない。
まさか、囮にされるのかと思った。
「者ども、臆するな!」
研水を立たせた景山が叫んだ。
「ここに江戸一番の蘭方医、戸田研水殿がおる!
いくら深手を負おうが、必ずや治してくれよう!
恐れるな! 腹を据えて、あの化け物を打ち殺すのじゃ!」
景山の言葉に、全員の視線が研水に向いた。
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