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七倉イルカ

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遅刻の言い訳

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 寝坊しちゃった!
 遅刻だ。遅刻!

 駅の改札を出たあたしは、走って学校へと向かう。
 
 いつもは、大勢の生徒たちと一緒に登校する道。
 その道を一人で走るのは、けっこう新鮮な気分だった。
 
 角を曲がると、あたしの通う学校が見える。
 おっとっと!
 正門には、生活指導の先生が二人立っていた。

 体育の熊川先生と物理の猫山先生である。
 
 しまった!
 遅刻した場合、少し遅れたていどのタイミングで登校したらダメなんだ。
 その場合、こうやって先生が立っている。

 一時限目が終わった後の休憩時間を狙って、素早く校門を潜り抜けることがベストなのに……。

 しかし、もう二人の先生と視線が合っている。
 ここでUターンは出来ない。
 あたしは、覚悟を決めた。

 「おはようございます」

 「ずいぶんとゆっくりだな。
 寝坊か?
 遅刻は、生活指導室で自習だぞ」
 挨拶をすると、熊やんが声をかけてきた。

 遅刻した生徒は、一日中、生活指導室で自習をさせられるのだ。
 回数を重ねれば、親を呼ばれたり、最悪、停学処分にもなる。
 
 「待ってください。
 これには、その、あの、理由があるんです」
 あたしは抵抗を試みた。

 「言い訳か?」
 熊やんが、ニヤニヤと笑って言う。

 「えっと、あのですね……。
 駅で、おばあさんが困っていたんです。
 ほら、乗り換えが分からないとか言って。
 で、あたし、一緒に切符を買ってあげて、向かいのホームまで行って、乗り換える駅を教えてあげて……。
 で、それで時間を取られて、遅刻したんです」

 「本当か?」
 熊やんが、胡散臭そうな目で言う。

 (もちろんウソです)
 「もちろん本当です」
 あたしは、目をキラキラとさせて答えた。

 「おばあさんに、最近では珍しいほど優しい学生だと言われたんで、先生方のご指導のたまものだと答えました」

 「う、うむ」

 よっしゃ、熊やんが怯んだ。
 追撃のタイミングである。

 「どこの学校の生徒かも聞かれました。
 もちろん、わが校の名前をはっきりと伝えました。
 もしかしたら、お礼の連絡が来るかも知れません」

 熊やんは、困った顔になった。
 これは落ちたと、あたしは確信した。

 もし、あたしを生活指導室に連れていき、後で、お礼の電話がかかってきた場合、人助けをした生徒を疑い、罰した教師というレッテルを貼られるからだ。
 あたしの言い訳を疑いながらも、認める以外に無い。

 「では、入っていいですよね」
 あたしは、二人の間をすり抜けようとした。

 「待て」
 今度は、猫やんが、鋭くあたしを呼び止めた。

 「人助けは、いけないことなんですか?」
 振り返ったあたしは、目をウルウルさせながら猫やんを見る。

 「持ち物検査をする。
 カバンの中を見せなさい」
 猫やんは、絡め手で攻めてきた。

 そーくるか。
 あたしは、大急ぎで記憶を探った。
 マズイものは、持ってきていないはずだ……。
 ゲーム機。OK。持ってきてない。
 スマホ。OK。持ってきてない。
 お菓子。OK。持ってきてない。
 化粧品。OK。持ってきてない。
 OKOK。何も持ってきてないはずである。OK。

 「いいですよ。
 はい、どうぞ」

 猫やんは、あたしから受け取ったカバンを開けた。
 熊やんと二人で、カバンの中を覗き込む。

 「……どういうことだ?」
 猫やんが、あたしに厳しい目を向けた。

 「何がですか?」

 「何も入ってないじゃないか!
 教科書は?
 ノートは?
 筆記用具は?
 お前は一体、何をしに学校に来とるんだ!」

 し、しまった……。
 あたしは、固まった。
 確かに、何も持ってきていなかったのだ。

 「言い訳は?」

 「……ありません」

 「では、生活指導室に行こうか」

 「……はい」
 
 ん~~、惜しかったなあ。
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