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七倉イルカ

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びっくりした

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 シム環境官はびっくりした。
 3500年ぶりに太陽系を巡回すると、環境保護指定惑星である地球に、誰かがラクガキをしていたのだ。
 広大な平原に、ハチ鳥、クモ、サルなどの絵がラクガキされている。
 美しい惑星がだいなしである。
 シム環境官は、さっそくラクガキの消去にかかった。

 地球人はびっくりした。
 ペルーのナスカ高原に、巨大な円盤が飛来したのだ。
 科学者、軍隊、テレビ局、そして無数のヤジ馬の見る中、円盤から緑色の光線が発射された。
 光線が命中すると、有名なナスカの地上絵が、次々に消えていった。

 シム環境官はびっくりした。
 ラクガキを消していると、二本の手と二本の足をもつ奇妙な生物が無数に現れ、ワイワイと騒ぎはじめたのだ。
 よく見ると、地球のあちこちに、そいつたちの巣がある。鉄とコンクリートで出来た見苦しい巣である。
 自然を破壊してつくられた巨大な巣は、排煙や廃液、大量の廃棄物で、大気と大地、そして海を汚していた。
 「害虫だ」
 シム環境官は、さっそく害虫駆除にかかった。

 地球人はびっくりした。
 円盤が緑の光線の発射をやめると、オレンジのガスを噴霧しはじめたのだ。
 ガスに包まれた人々は、一瞬で消えていく。 科学者、軍隊、テレビ局、そして無数のヤジ馬が消えた。

 オレンジのガスは地球全体を覆いつくし、しばらくすると、消滅した。
 そして、シム環境官の乗る巨大円盤は、飛び去ったのである。

 地球はびっくりするほど綺麗になり、びっくりするほど静かになった……。
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