奴隷商貴族の領地経営〜奴隷を売ってくれ? 全員、大切な領民だから無理です

秋田ノ介

文字の大きさ
上 下
46 / 60

第44話 奴隷商、王家の秘宝に触れる

しおりを挟む
マギーに兄がいたとはな。

「彼は本当にマギーの兄なのか?」
「そうよ。顔だって、似ているでしょ?」

どうだろう?

顔の骨格はかなり違うし……

強いて言うなら……目かな?

といってもマギーの顔が変わる前のだけど……。

特に、学園時代、睨みつけるような目に似ている。

「そ、そうだね。でも、なぜ公表されていないんだ? 公爵家に男子ともなれば……」

大変な騒ぎになるだろう。

僕が言うのも何だが、顔は整っているし、背も高い。

社交場では主役になれるのは間違いないだろう。

だが、彼はこの辺鄙な土地の屋敷付きの執事をしている。

訳がわからない。

「言ってもいいわよね?」
「はい。マーガレット様の意のままに」

何があると言うんだ?

「フィリムは孤児なの。子供に恵まれなかった両親は孤児を預かり、自分の子供として育てたの」

養子か……

貴族の世界ではよくある話だが、孤児とはな……

普通は親戚筋か、上位貴族から養子をとるものだが……。

「だけど、すぐに私が生まれたの。だから、その……」

不要になったわけか。

これはかなり厄介な問題になっただろう。

一応、孤児とは言え、養子として迎え入れてしまったのだ。

後継問題は切っても切れないだろう。

「話は分かった。一つ、聞いてもいいか?」
「ええ」

「いや、彼に聞きたい」
「……なんでしょう」

今はおかしな状況だ。

オーレック家の後継者であるマギーは死亡扱いだ。

そうなれば……

「フィリム……君は後継者になるつもりか?」

これは重要な問題だ。

オーレック家はその辺の貴族とは格が違う。

今でこそ、失脚しているが、返り咲くだけの地力はまだ残っているはずだ。

その後継者ともなれば、絶大な力を持っていると言ってもいい。

しかし、それが血のつながりのない……ん?

血の繋がりがない?

僕は変な疑問が湧いた。

血の繋がりのないもの同士が腕を組んで、歩いた?

再び、僕の中にどす黒いものが流れ込んできた。

嫉妬……嫉妬の気持ちが再び襲い掛かってくる。

苦しい……

「マギー。僕の手を握ってくれ」
「え? ええ。どうしたの?」

これでいい。

今はこれで……

話を続けよう。

なんだっけ?

「私は……後継者と名乗り出るつもりはありません。大恩ある旦那様を裏切るような真似はしません」

ああ、その話か。

「そうか」

しかし、そうなるとオーレック家はどうなる?

後継者不在で最悪、消滅してしまう。

領土も地位もすべてが消えてしまう。

それだけは避けなければならない。

僕がイルス領を統治し、王都へ返り咲くためにも……

「不躾ながら、お悩みは不要かと」

何?

この難問に解決策が?

「マーガレット様のお子を継がせればよいのです。その子を旦那様の養子とすれば、血は絶えません」

なるほど……。

真実は知っている者のみか……

それは妙案だな。

いつしか、マギーが生きていることも公表できるだろう。

そうすれば……ん?

マギーの子供?

それって……

「私達の子供よ。ロッシュ」
「……そうだな。イルスとオーレック、二人必要だな」
「ええ」

僕はなんて幸せなんだ。

彼女のため……生まれてくるであろう子供のためにも領地経営を全力でやらなければ。

……何の話だっけ?

「子供……か。だが、君はそれでいいのか? 王国最大の家柄なんだぞ?」
「私がその器でないことは旦那様はよく知っております。私はそれに従うまで」

なんて、欲のない男なんだ。

だが、忠義に篤い……素晴らしい男だ。

是非とも、我が陣営に加わってもらいたいな。

だが、給料……払えるかな?

「フィリム。我々と共に行かぬか? 君のような男がいると助かるんだが」
「いいえ。私にはこの屋敷と領地を守る仕事があります。残念ですが、付いていくことは出来ません」

どうやら無粋な質問だったようだな。

「悪かった」
「いいえ。お誘い頂いたことは、とても嬉しいです。私のようなものを必要としてくれるのですから」

ますます気に入ったな。

いつか、オーレック卿に相談してみよう。

……。

「とてもいい話が聞けたよ。じゃあ……」
「ロッシュ。本題はこれからなの」

話が終わっていない?

かなり内容の濃い話だったと思うが、これ以上だと頭が痛くなりそうだ。

まずは心の整理をしたいところなんだが……

「ねぇ、ロッシュ。お父様からもらった小袋。今、持っている?」

もちろんだ。

指輪が入っていた小袋。

義父上様から託された大切なものだ。

肌身放さず、持ち続けていた。

「ああ。でも、なぜ?」
「メモもあるかしら?」

メモ?

ああっ!! あの、訳の分からない数字が並んでいた……

僕は首から下げていた小袋を引っ張り出し、メモを取り出した。

相変わらず、訳の分からない数字だ。

「それをフィリムに渡して」
「ああ」

フィリムはじっとメモを見つめ、急に移動を促してきた。

「こちらにどうぞ。旦那様からお渡ししたいものがございます」

……どういうことだ?

あの数字に何の意味が?

「マギー?」
「大丈夫よ。行きましょう」

案内されたのは、大きな部屋だった。

赤い絨毯に赤い壁紙の、目が痛くなる部屋だ。

その中央に大きな金庫が鎮座していた。

「マーガレット様。この数字の通りにダイヤルを回して下さい」
「ええ」

マギーの手でダイヤルが回される。

カチッ。

そんな音が部屋中に聞こえた。

どうやら開いたようだ。

「ロッシュ。開けてくれないかしら」

この金庫に何が入っているのだろうか?

まさか、金貨か?

そうだと、嬉しいが……

意を決して、少し祈る気持ちでノブに手を掛け、一気に開けた。

「これは……」

フィリムがさっと布を取り出し、神妙にそれを取り出した。

それはとてつもない輝きを放っていた。

見たことのない……。

「アウーディア王国初代様の愛剣・ブラッドソードでございます」

ブラッドソード、だと……

修復不可能と言われ、王宮の奥深くに眠り続けてきた秘宝。

それが……

「なぜ、ここに……?」
「それは旦那様が請け負ったからにほかなりません。我が領は鍛冶が盛んです。それゆえ……」

嘘だ。

それは絶対に嘘だ。

確かにオーレック領は鍛冶で有名なのは子供でも知っている。

だが、この秘宝はどのような技術を持ってしても修復が出来ないと判断されたのだ。

だから、絶対にありえない。

しかし、目の前の剣は完全な修復が施されている。

どういうことだ?

「私の話よりも、かの者から話を聞くといいでしょう」

かの者とは……一体。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

裏切られ追放という名の処刑宣告を受けた俺が、人族を助けるために勇者になるはずないだろ

井藤 美樹
ファンタジー
 初代勇者が建国したエルヴァン聖王国で双子の王子が生まれた。  一人には勇者の証が。  もう片方には証がなかった。  人々は勇者の誕生を心から喜ぶ。人と魔族との争いが漸く終結すると――。  しかし、勇者の証を持つ王子は魔力がなかった。それに比べ、持たない王子は莫大な魔力を有していた。  それが判明したのは五歳の誕生日。  証を奪って生まれてきた大罪人として、王子は右手を斬り落とされ魔獣が棲む森へと捨てられた。  これは、俺と仲間の復讐の物語だ――

クラス転移で裏切られた「無」職の俺は世界を変える

ジャック
ファンタジー
私立三界高校2年3組において司馬は孤立する。このクラスにおいて王角龍騎というリーダーシップのあるイケメンと学園2大美女と呼ばれる住野桜と清水桃花が居るクラスであった。司馬に唯一話しかけるのが桜であり、クラスはそれを疎ましく思っていた。そんなある日クラスが異世界のラクル帝国へ転生してしまう。勇者、賢者、聖女、剣聖、など強い職業がクラスで選ばれる中司馬は無であり、属性も無であった。1人弱い中帝国で過ごす。そんなある日、八大ダンジョンと呼ばれるラギルダンジョンに挑む。そこで、帝国となかまに裏切りを受け─ これは、全てに絶望したこの世界で唯一の「無」職の少年がどん底からはい上がり、世界を変えるまでの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 カクヨム様、小説家になろう様にも連載させてもらっています。

爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。

秋田ノ介
ファンタジー
  88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。  異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。  その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。  飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。  完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。  

八百長試合を引き受けていたが、もう必要ないと言われたので圧勝させてもらいます

海夏世もみじ
ファンタジー
 月一に開催されるリーヴェ王国最強決定大会。そこに毎回登場するアッシュという少年は、金をもらう代わりに対戦相手にわざと負けるという、いわゆる「八百長試合」をしていた。  だが次の大会が目前となったある日、もうお前は必要ないと言われてしまう。八百長が必要ないなら本気を出してもいい。  彼は手加減をやめ、“本当の力”を解放する。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

白と黒

更科灰音
ファンタジー
目を覚ますと少女だった。 今までの日常と同じようで何かが違う。 のんびり平穏な暮らしたがしたいだけなのに・・・ だいたい週1くらいの投稿を予定しています。 「白と黒」シリーズは 小説家になろう:神様が作った世界 カクヨム:リーゼロッテが作った世界 アルファポリス:神様の住む世界 で展開しています。

無能扱いされ会社を辞めさせられ、モフモフがさみしさで命の危機に陥るが懸命なナデナデ配信によりバズる~色々あって心と音速の壁を突破するまで~

ぐうのすけ
ファンタジー
大岩翔(オオイワ カケル・20才)は部長の悪知恵により会社を辞めて家に帰った。 玄関を開けるとモフモフ用座布団の上にペットが座って待っているのだが様子がおかしい。 「きゅう、痩せたか?それに元気もない」 ペットをさみしくさせていたと反省したカケルはペットを頭に乗せて大穴(ダンジョン)へと走った。 だが、大穴に向かう途中で小麦粉の大袋を担いだJKとぶつかりそうになる。 「パンを咥えて遅刻遅刻~ではなく原材料を担ぐJKだと!」 この奇妙な出会いによりカケルはヒロイン達と心を通わせ、心に抱えた闇を超え、心と音速の壁を突破する。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

処理中です...