奴隷商貴族の領地経営〜奴隷を売ってくれ? 全員、大切な領民だから無理です

秋田ノ介

文字の大きさ
上 下
31 / 60

第31話 奴隷商、野盗に襲われる

しおりを挟む
「ロッシュ。怪物を見てから、浮かない顔ね」

マギーは聞いていなかったのか?

シェラの話を。

あの怪物は遠目で見てもかなりの大きさがあった。

あんな物に攻撃でもされたなら……。

それもたくさんいるとなると……。

自信が無くなる。

「僕はこれからやっているのだろうか?」
「何、言っているのよ。ロッシュなら大丈夫よ」

……マギーは本当に変わらないんだな。

「ご主人様。この先に野盗がいます。いかがしますか?」

この北方街道に野盗だって?

信じられないな。

「何かの間違いではないのか? こんな主要な街道で……」

いるはずがない。

王国軍だって、この道を使って行軍をする。

野盗が出没すれば、直ちに討伐されてしまう。

「間違いはないと思います。どうやら、向こうはこちらに気付いているものと……」

ますます分からない。

サヤサの能力を全て知っているわけではないが……

獣人の特徴である大きな耳で、小さな音も感じることが出来る。

野盗とは言え、人間だ。

その点で獣人より先に相手を把握することは難しいはず。

そうなると……。

「相手は最初から僕達を狙っているということか?」
「多分……」

これは厄介だな。

そうなると手練である可能性が高い。

「サヤサ。野盗に遭わないようにすることは可能か?」
「引き返す以外はないかと。もしくは……」

街道から外れるが、大きな迂回路を通れば先に進める……か。

無用な争いは避けたほうがいい。

「意外ね。ロッシュなら真っ向から戦いそうなのに。デリンズ領では真っ先に戦いを選んだじゃない」

僕は最初から逃げの一択だった。

なのに、侯爵が訳の分からないことを言ったせいで……

「逃げられるなら逃げたほうがいい。いつも勝てるわけじゃない。それに……」

その戦いに背負っているものがないから。

「サヤサ。案内を頼む」
「はい。では、私に付いてきて下さい」

僕は馬の手綱をぐいっと引っ張った。

「ねぇ、ロッシュ。なんでサヤサって馬車に乗らないの?」
「なんでも、さっきの戦いで役立たずって……」

僕は後ろで薬草を擦り潰しているシェラを見る。

「シェラに言われたのが、そんなにショックだったのね」
「まぁ、そうらしいね。だけど、本当の理由は馬が苦手なだけなんじゃないかな?」

最初の頃は馬車に乗っていた。

でも、いつも吐きそうな顔をしていたんだ。

きっと酔っていたんだと思う。

酔い止めの薬はシェラに頼めば作ってもらえるだろうが……

頼みたくないんだろうな。

「そう。サヤサも大変ね」
「うん。そのうち、馬の代わりに馬車を引くって言ってきそうだな」

そんな話をしていると、森を抜ける細い小道に入ってしまった。

こんな道……大丈夫なのか?

すると、急にサヤサが止まった。

僕はなんとか馬を止めることに成功したが、一歩間違えれば、サヤサに激突していた。

「サヤサ! なんで急に……」

何か様子が可怪しい。

サヤサの耳がしきりに動き、辺りを警戒している。

「囲まれた」
「シェラ。何にだ?」

「分からない。獣ではない」

それって……。

「来ます!! 私は右を。ご主人様は左をお願いします」

いや、そんな事を言われても……。

ドスッ。

「きゃっ」

矢が馬車に突き刺さったみたいだ。

こんな木が生い茂る森で、これほど正確に射ってくるとは。

相当な手練……。

だが、こちらにも矢の名手がいる。

「シェラ!! あれ? いない」

馬車からさっきまでいたシェラが消えていた。

そうか……もう行ったか。

「お主。何を見ておるんじゃ? そこに伸びておるではないか」

……さっきの急停車で頭を打つけてしまったみたいだ。

薬草作りに夢中だったからな。

「えっと……マリーヌ様、行けます?」
「たわけが!! こんな美少女を守ろうという気概はないのか!!」

美……少女?

まぁ、あまり考えないでおこう。

とはいえ、僕も男だ。

「ロッシュ。行くの?」
「ああ。僕だって王宮剣術を習っていたんだ。賊の一人や二人倒せるさ」

ああ、そうだ。

やってやる。

「お主よ。一人、二人ではなさそうじゃぞ」

おいおいおい。

どこから湧いてきた?

十人?

いや、二十人はいる。

こっちがこんなにいるって事はサヤサの方も……。

早く、こっちを片付けないと……

だが、どうやって……

武器と言えば、剣一本だけだ。

「マギー。君は馬車の中に避難を」
「イヤよ。私も戦う」

「ダメだ!! 君をまた失いたくない」
「それは私も。ロッシュを失いたくない。それに私はオーレックよ。たかが野盗ごときに怯えるなんて許されないわ」

……。

「分かった。マリーヌ様……」
「なんじゃ? もう倒してしもうたが……」

何をバカな……。

こんな一瞬で……。

「本当だ。でも、どうやって」

物音一つ聞こえなかった。

マリーヌ様は一体、何者なんだ?

「毒じゃ」

……ん?

「毒って……いつの間に?」
「最初からじゃ。近寄ってくる者がいたからの。毒を風魔法でちょいっとな」

つまり……

矢が飛んできた直後にはすでに毒を撒き散らしていたと?

じゃあ、僕に気概だ、何だのって言ったのは何だったんだ?

「ここぞという時に立つ男が妾は好きじゃ。折角、旅を同行するんじゃ。そんな男が良かろ?」

知るか!

大体、最初から毒を使うなら言って欲しい。

僕達にも被害があった、どうするつもりだったんだ。

いや、ちょっと待て。

「サヤサ!」

サヤサが危ない!

一人でこの人数を相手にするのは、サヤサといえども苦戦するに違いない。

「僕はサヤサの助けに入る!!」
「それも心配はあるまい」

マリーヌ様はサヤサを信じているのか?

獣人としての実力を知らないから僕は不安になっているのだろうか?

しかし……彼女の細い体を想像して、大丈夫だとはとても思えない。

「やっぱり、行きます!!」
「ロッシュ!! サヤサよ」

良かった。

本当に良かった。

「サヤサ!! 大丈夫だったか!」
「へ? 何か……あったんですか?」

どういうことだ?

サヤサにとっては野盗の十人や二十人は呼吸をするように倒せるということか?

獣人というのはそこまでの戦闘力が……。

ん?

なんだろう……。

「サヤサ。何を持っているんだ?」
「えへへへ。大物ですよ」

ちょっと待て。

何かが可怪しい。

「サヤサ。なんで、単身で行ってしまったんだ?」
「なぜって……一人の方が狩りはうまくいきますから。ご主人様の方はどうでした?」

ああ、なんとなく分かった気がする。

サヤサが察知したのは獣だったんだ。

僕達を襲ってきたのは、偶々、この辺りを根城にしている山賊だったかも知れない。

街道から離れているから、可怪しいと思っていたんだ。

タイミングが良すぎるって。

やっぱり、街道には野盗はいなかったんだ。

獣か何かと勘違いしたんだろう。

「街道に戻ろう。どっちにしろ、この細道では馬車は難しいからな」
「でも、街道には野盗が……」

サヤサにも分かってもらうしかない。

街道には野盗がいないと……。

だが、僕は大きな間違いをしてしまったみたいだ。

大勢の野盗に囲まれてしまった……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

裏切られ追放という名の処刑宣告を受けた俺が、人族を助けるために勇者になるはずないだろ

井藤 美樹
ファンタジー
 初代勇者が建国したエルヴァン聖王国で双子の王子が生まれた。  一人には勇者の証が。  もう片方には証がなかった。  人々は勇者の誕生を心から喜ぶ。人と魔族との争いが漸く終結すると――。  しかし、勇者の証を持つ王子は魔力がなかった。それに比べ、持たない王子は莫大な魔力を有していた。  それが判明したのは五歳の誕生日。  証を奪って生まれてきた大罪人として、王子は右手を斬り落とされ魔獣が棲む森へと捨てられた。  これは、俺と仲間の復讐の物語だ――

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

ハズレスキル【分解】が超絶当たりだった件~仲間たちから捨てられたけど、拾ったゴミスキルを優良スキルに作り変えて何でも解決する~

名無し
ファンタジー
お前の代わりなんざいくらでもいる。パーティーリーダーからそう宣告され、あっさり捨てられた主人公フォード。彼のスキル【分解】は、所有物を瞬時にバラバラにして持ち運びやすくする程度の効果だと思われていたが、なんとスキルにも適用されるもので、【分解】したスキルなら幾らでも所有できるというチートスキルであった。捨てられているゴミスキルを【分解】することで有用なスキルに作り変えていくうち、彼はなんでも解決屋を開くことを思いつき、底辺冒険者から成り上がっていく。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

八百長試合を引き受けていたが、もう必要ないと言われたので圧勝させてもらいます

海夏世もみじ
ファンタジー
 月一に開催されるリーヴェ王国最強決定大会。そこに毎回登場するアッシュという少年は、金をもらう代わりに対戦相手にわざと負けるという、いわゆる「八百長試合」をしていた。  だが次の大会が目前となったある日、もうお前は必要ないと言われてしまう。八百長が必要ないなら本気を出してもいい。  彼は手加減をやめ、“本当の力”を解放する。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第三章フェレスト王国エルフ編

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

錬金術師が不遇なのってお前らだけの常識じゃん。

いいたか
ファンタジー
小説家になろうにて130万PVを達成! この世界『アレスディア』には天職と呼ばれる物がある。 戦闘に秀でていて他を寄せ付けない程の力を持つ剣士や戦士などの戦闘系の天職や、鑑定士や聖女など様々な助けを担ってくれる補助系の天職、様々な天職の中にはこの『アストレア王国』をはじめ、いくつもの国では不遇とされ虐げられてきた鍛冶師や錬金術師などと言った生産系天職がある。 これは、そんな『アストレア王国』で不遇な天職を賜ってしまった違う世界『地球』の前世の記憶を蘇らせてしまった一人の少年の物語である。 彼の行く先は天国か?それとも...? 誤字報告は訂正後削除させていただきます。ありがとうございます。 小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで連載中! 現在アルファポリス版は5話まで改稿中です。

処理中です...