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第24話 奴隷商、味方に呆れる
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暴挙とはまさにこのことだ。
デリンズ侯爵家の跡目争いはライルが大きくリードしてしまった。
紡績で大きく栄えたデリンズ領の領民はライルに大きな期待を持ってしまったのだ。
一方、アンドルは長男という立場と正室の子であるという点だけで跡目争いで有利になっていただけだ。
僕が最後に提案した暗殺計画をアンドルはライルに実行しようとしたということだ。
「では、僕達はこのへんで」
こんな争いに巻き込まれるのはゴメンだ。
幸いと言うか、僕は表舞台に立ってはいない。
目立たずに行動することも難しくないだろう。
踵を返すが、当然と言うか……
「肩を離してくれませんか? デリンズ卿」
「イルス卿。つれないではないか。もう少し話をしようではないか」
何を言っているんだ?
事が大事となれば、侯爵として、やるべきことは決まっているだろうに。
しかも、それは僕には全く関係のないこと。
「兵には兵を。僕はこれにて」
「待て。儂を殺す気か?」
訳が分からない。
たかが、息子の反乱だろうに。
侯爵領は王国でも大きな領土を持ち、抱える子飼いの領主も多い。
動員できる兵力もかなりのものだろう。
一方で息子は無役だ。
一般人とは言えないが、所詮は取り巻きと一緒に暴れまわるだけだ。
大人が出ていって、叱ってやれば話は終わり。
「よく分かりませんよ。主力で包囲殲滅でもしたらいいのでは?」
「それが出来れば苦労はない。儂は全軍の指揮権をアンドルに預けているのだから」
……嘘、だろ?
あのバカ息子に?
しかも、全軍だって?
僕は理解した。
ああ、あの子供ありて、この親ありだと。
この人も相当……バカだぞ。
「そんな目で見るな。まさか、ライルがあそこまで成長を見せるとは思ってもいなかったのだ。それに……」
前に渡してから、すっかり忘れていただと。
全軍の指揮権を?
忘れる?
そんなことがあるのか?
だが、これはいよいよ不味いな。
兵はすでにこちらに向かっているという。
僕は報告にやってきた者に尋ねることにした。
「規模と到着時間を教えてくれ」
「……奴隷商には教えられません」
こんな時に……。
今までの会話を聞いていなかったのか?
僕がデリンズ卿に目で合図すると、同じ質問を続けた。
「はっ!! 規模は歩兵、約1000人! 到着は3時間後と推定されます!」
時間がないな。
このままでは街を包囲されて、逃げられなくなるな。
「デリンズ卿。逃げましょう。そんな人数に勝てるわけがない」
「しかし……アンドルの目的はライルと工場だ。それを今、失うわけには」
何を言っているんだ。
ライルととも逃げればいい。
工場は再建すればいい。
それくらい分かるだろうに。
「それにこの都市を見捨てることは……。それをすれば、領主として民に顔向けが出来ぬ」
息子の反乱を起こさせた時点で顔向けは出来ないのではないだろうか?
とは口が裂けても言えない。
「では、どうするつもりですか!?」
「それが分からぬのだ。どうすればいい? イルス卿」
……くそっ。
まずは……
「シェラ。済まないが、サヤサとマリーヌ様を馬車と共にこっちに連れてきてくれないか?」
「承知」
「マギーは僕のサポートを頼む」
「うん」
「デリンズ卿。この周辺の地図を出してくれ」
「う、うむ。分かった。おい、地図をもってこい」
僕の見立てでは、この領都は防衛には向かない。
平地にぽつんと作られた街だ。
周囲には軍を遮るような障害物はない。
「デリンズ卿。手兵はどれくらいです?」
いくら全軍の指揮権を持って行かれても、領都守備のための兵は残っているはず。
「300程か。いや、もっと少ないかもな」
相手の半数にも満たない数字か。
……相手の目的はライルと工場……
「地図をお持ちしました」
テーブルに広げられた地図は領都を中心として描かれていた。
……。
敵はまっすぐ北方街道を南下してきている。
街道上はほとんど平地だ。
だが……。
「デリンズ卿、ここは?」
「ああ。十年前に流行病があってな。その時に放置された廃村だな」
現地を見ていないが、戦いを仕掛けるならここしかない。
だが、出来るか?
3時間という短い時間で、兵を連れて、廃村に配備……。
何とかしなければならないな……
なぜ?
ふと、思ってしまった。
なぜ、僕は侯爵家の尻拭いをしなければならない?
狼狽する侯爵はただ地図を眺めるだけに終始していた。
恩を売っておけば、王族復帰が早くなるからか?
……分からない。
とにかく、自分のやれることを……
「デリンズ卿。兵300の指揮を僕に執らせて下さい」
「ふ、ふざけるな! 俺達はお前なんかに従わないぞ!」
衛兵が割って入るように声を荒げた。
侯爵はどうするつもりだ?
「……指揮は……ライルに執らせる」
……順当な判断だ。
しかし、ライルに出来るのか?
すると扉がこの上なく大きな音で開かれた。
「話は聞きました。私が出ます!」
「おお!! ライル、来たか」
……決まったみたいだな。
これでいい……。
「ライル。君がここの指揮官だ。あとは頼んだぞ」
これで僕は正々堂々と逃げられるな。
なぜ、肩をつかむんだ?
「離してくれないか? ライル。僕は自分がしなければならないことをするんだ」
「お願いします!! どうか、私に協力して下さい」
……やっぱり逃げられないみたいです。
ライルは今回が初陣のようだ。
だったら、デリンズ卿に指揮を執ってもらおうと思ったが……
「聞いてくれ。イルス卿。儂は苦しいのだ。息子同士で戦うのが……儂にアンドルを討つ覚悟が出来んのだ!!」
……。
この人……領主失格だ。
もう、話しにならない。
「ライル!! 僕が裏方に回ろう。敵は1000だが、徒に恐れる必要はない。なにせ、指揮官はあのアンドルなのだから」
「はい!! では、すぐに出陣を」
これなら、なんとかなるかもしれない。
問題は……時間だな。
デリンズ侯爵家の跡目争いはライルが大きくリードしてしまった。
紡績で大きく栄えたデリンズ領の領民はライルに大きな期待を持ってしまったのだ。
一方、アンドルは長男という立場と正室の子であるという点だけで跡目争いで有利になっていただけだ。
僕が最後に提案した暗殺計画をアンドルはライルに実行しようとしたということだ。
「では、僕達はこのへんで」
こんな争いに巻き込まれるのはゴメンだ。
幸いと言うか、僕は表舞台に立ってはいない。
目立たずに行動することも難しくないだろう。
踵を返すが、当然と言うか……
「肩を離してくれませんか? デリンズ卿」
「イルス卿。つれないではないか。もう少し話をしようではないか」
何を言っているんだ?
事が大事となれば、侯爵として、やるべきことは決まっているだろうに。
しかも、それは僕には全く関係のないこと。
「兵には兵を。僕はこれにて」
「待て。儂を殺す気か?」
訳が分からない。
たかが、息子の反乱だろうに。
侯爵領は王国でも大きな領土を持ち、抱える子飼いの領主も多い。
動員できる兵力もかなりのものだろう。
一方で息子は無役だ。
一般人とは言えないが、所詮は取り巻きと一緒に暴れまわるだけだ。
大人が出ていって、叱ってやれば話は終わり。
「よく分かりませんよ。主力で包囲殲滅でもしたらいいのでは?」
「それが出来れば苦労はない。儂は全軍の指揮権をアンドルに預けているのだから」
……嘘、だろ?
あのバカ息子に?
しかも、全軍だって?
僕は理解した。
ああ、あの子供ありて、この親ありだと。
この人も相当……バカだぞ。
「そんな目で見るな。まさか、ライルがあそこまで成長を見せるとは思ってもいなかったのだ。それに……」
前に渡してから、すっかり忘れていただと。
全軍の指揮権を?
忘れる?
そんなことがあるのか?
だが、これはいよいよ不味いな。
兵はすでにこちらに向かっているという。
僕は報告にやってきた者に尋ねることにした。
「規模と到着時間を教えてくれ」
「……奴隷商には教えられません」
こんな時に……。
今までの会話を聞いていなかったのか?
僕がデリンズ卿に目で合図すると、同じ質問を続けた。
「はっ!! 規模は歩兵、約1000人! 到着は3時間後と推定されます!」
時間がないな。
このままでは街を包囲されて、逃げられなくなるな。
「デリンズ卿。逃げましょう。そんな人数に勝てるわけがない」
「しかし……アンドルの目的はライルと工場だ。それを今、失うわけには」
何を言っているんだ。
ライルととも逃げればいい。
工場は再建すればいい。
それくらい分かるだろうに。
「それにこの都市を見捨てることは……。それをすれば、領主として民に顔向けが出来ぬ」
息子の反乱を起こさせた時点で顔向けは出来ないのではないだろうか?
とは口が裂けても言えない。
「では、どうするつもりですか!?」
「それが分からぬのだ。どうすればいい? イルス卿」
……くそっ。
まずは……
「シェラ。済まないが、サヤサとマリーヌ様を馬車と共にこっちに連れてきてくれないか?」
「承知」
「マギーは僕のサポートを頼む」
「うん」
「デリンズ卿。この周辺の地図を出してくれ」
「う、うむ。分かった。おい、地図をもってこい」
僕の見立てでは、この領都は防衛には向かない。
平地にぽつんと作られた街だ。
周囲には軍を遮るような障害物はない。
「デリンズ卿。手兵はどれくらいです?」
いくら全軍の指揮権を持って行かれても、領都守備のための兵は残っているはず。
「300程か。いや、もっと少ないかもな」
相手の半数にも満たない数字か。
……相手の目的はライルと工場……
「地図をお持ちしました」
テーブルに広げられた地図は領都を中心として描かれていた。
……。
敵はまっすぐ北方街道を南下してきている。
街道上はほとんど平地だ。
だが……。
「デリンズ卿、ここは?」
「ああ。十年前に流行病があってな。その時に放置された廃村だな」
現地を見ていないが、戦いを仕掛けるならここしかない。
だが、出来るか?
3時間という短い時間で、兵を連れて、廃村に配備……。
何とかしなければならないな……
なぜ?
ふと、思ってしまった。
なぜ、僕は侯爵家の尻拭いをしなければならない?
狼狽する侯爵はただ地図を眺めるだけに終始していた。
恩を売っておけば、王族復帰が早くなるからか?
……分からない。
とにかく、自分のやれることを……
「デリンズ卿。兵300の指揮を僕に執らせて下さい」
「ふ、ふざけるな! 俺達はお前なんかに従わないぞ!」
衛兵が割って入るように声を荒げた。
侯爵はどうするつもりだ?
「……指揮は……ライルに執らせる」
……順当な判断だ。
しかし、ライルに出来るのか?
すると扉がこの上なく大きな音で開かれた。
「話は聞きました。私が出ます!」
「おお!! ライル、来たか」
……決まったみたいだな。
これでいい……。
「ライル。君がここの指揮官だ。あとは頼んだぞ」
これで僕は正々堂々と逃げられるな。
なぜ、肩をつかむんだ?
「離してくれないか? ライル。僕は自分がしなければならないことをするんだ」
「お願いします!! どうか、私に協力して下さい」
……やっぱり逃げられないみたいです。
ライルは今回が初陣のようだ。
だったら、デリンズ卿に指揮を執ってもらおうと思ったが……
「聞いてくれ。イルス卿。儂は苦しいのだ。息子同士で戦うのが……儂にアンドルを討つ覚悟が出来んのだ!!」
……。
この人……領主失格だ。
もう、話しにならない。
「ライル!! 僕が裏方に回ろう。敵は1000だが、徒に恐れる必要はない。なにせ、指揮官はあのアンドルなのだから」
「はい!! では、すぐに出陣を」
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