奴隷商貴族の領地経営〜奴隷を売ってくれ? 全員、大切な領民だから無理です

秋田ノ介

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第10話 奴隷商、愛する彼女と再会する

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シェラの煎じた薬草は効果が強いのか、すぐにエリスは寝てしまった。

「大丈夫なのか?」
「もちろん。この辺りは手付かずだったから、いい薬草がたくさんあった」

そうなのか……。

まぁ、薬草師であるシェラが言うのだから、信じたいが……。

その辺の草が本当に役に立つのか?

薬草とはもっと特別なものと思っていたんだけど。

「シェラはその辺りで寝てくれ。僕はこっちで寝よう」

いくら狭い小屋とは言え、男女が一緒に生活するのだ。

そこはしっかりと境界線を決めなければ……僕の身が持たない。

……ん?

「どうして、こっちで寝ようとするんだ? 君はあっちで寝てくれ」
「私はずっと一人だった。あの屋敷には十年以上、いた。だから、久しぶりに人の温もりを感じたいんだ」

十年、だと。

シェラの姿はどうみても僕とさほど変わらない。

十年という歳月を考えると、一体幼少の頃に何をすれば、あの屋敷に囚われるのだ?

だが、聞くのも憚られるな。

とりあえず……

「いいから……あっちに行ってくれ」

やはり、シェラのような女性に近づかれるのは非常に良くない。

「そう。今日は許してあげる」

一体、何を許されたのだ?

これで……ゆっくりと休める……今日は本当に疲れたな……。

目が覚めた。

寝床を変えたせいでぐっすり寝れた感じがしない。

体がちょっと痛い……じゃない!!

「シェラ! 離れろ! 何なんだ、一体!!」
「イルス。お前は温かいな。故郷を思い出す」

こいつ、寝ぼけているのか?

「起きろ! シェラ」
「いや……」

「起きなさいよ。この泥棒猫!」

……ん?

あれ?

シェラの声じゃない女性の声が聞こえた。

幻聴?

「いいから、ロッシュから離れなさいよ」

やっぱり、聞こえる。

この声……どこかで。

「起きた」
「シェラか。この声は?」

抱きつくように上体を起こしたシェラにドキッとしたが、それどころではない。

「いい加減にしなさいよ!」

まただ。

「声、戻ったの? どうして? こんなに早い訳がないのに……」

何を言っているんだ?

というか……この声は……エリス?

いや……違う。

どこかで聞いたことが……懐かしい……。

シェラが目をこすりながら、隣部屋に向かう。

エリスが寝ている部屋だ。

「声が戻ったの?」
「貴女! 一体、どういうつもりなの?」

会話をしている?

怖い……見るのが怖い。

そんなはずはないんだ……。

僕はゆっくりと隣部屋に足を運ぶ。

そこにはシェラと包帯を巻いたエリスだけがいる……はずだった。

「ロッシュ……話したかった……私だって叫びたかった」

……嘘、だろ?

「マギー……なのか?」
「エリスじゃなくてショック?」

違う……そうじゃない。

そうじゃないんだ。

「マギー! 君にずっと謝りたかった。不甲斐ない僕が君を傷つけていた。許してくれ」

「ロッシュ……私も謝りたいの。私は……ごほっごほっ……私は……」

マギーが苦しそうにもがき始めた。

「シェラ。何が起きているんだ!?」
「分からない。急に話したから、体が拒絶しているのかも。なんにしても、今は安静。それと薬」

シェラはマギーに煎じた薬を飲ませた。

すると苦しんでいたマギーが落ち着き、眠りに落ちた。

……どうなっているんだ?

今までエリスと思っていたのが……婚約者のマギーだった。

どこですり替えられた?

分かっている……玉座の間だ。

包帯を巻かれていたから気付かなかった。

でも、疑っていれば分かったかも知れない。

顔が分からなくとも……エリスはこんなに胸は大きくなかったんだ。

なぜ、それに気付かなかったんだ……。

情けない……婚約者を見抜けないなんて……。

「シェラ。マギーの薬はこの辺りで手に入るのか?」
「それは無理。これはあくまでも進行を止めるだけのもの。治そうと思ったら、買いに行くか、採りに行くしかない」

買いに行くには薬草ギルドに行かねばならない。

簡単に手に入るだろうが、今は手持ちが心もとない。

買えるかどうか……。

そうなると冒険者ギルドに依頼をして、薬草採取を頼むか?

だが、いつ手に入る?

頼めば、すぐに手に入るものなのか?

すぐに欲しいんだ。

マギーは今、苦しんでいるんだ。

「薬草ギルドに行こう。今の有り金……いや、今から商売をしてくる。それを合わせれば……薬が買えるかも知れない」
「そう……じゃあ、私は先に薬草ギルドに行っている。後で合流する」

それが良さそうだな。

薬と言っても数多の種類があるのだろう。

探すだけでも苦労しそうだ。

シェラには時間を与えたほうがいい。

その間に僕は自分の仕事を済ませてしまおう。

運が良ければ、昨日の商会のように臨時収入を得られるかも知れない。

マギーは静かな寝息を立てている。

「待っていてくれ。マギー。必ず薬を持って帰る」

シェラとは薬草ギルドの前で別れた。

薬草ギルドは商業エリアにはないので、奴隷商貴族も出入りが出来た。

それを見届けてから、東門に向かった。

仕事はすぐに終わった。

今日も初めて行く商会だったからか、幸運に恵まれたのか臨時収入を得ることが出来た。

昨日よりかは少ないが、金貨5枚。

ないよりはマシだろう。

薬草ギルドのドアを開けると、独特な臭いが鼻につく。

「ようこそ。薬草ギルドへ。当ギルドは何人も拒むことはいたしません」

それは僕が奴隷商貴族だと分かっていっているのか?

まぁ、拒まれないのは助かる。

「ありがとう。ところで僕の手の者……いや、仲間が先に来ていると思うが」
「……もしかして、あのエルフの方ですか? 良かった!! ちょっとお話をさせてもらえませんか? ギルマスが是非にと」

……何が起きているんだ?

まさか、ギルマスに会うことが出来るなんて。

ギルマスは一種の特権階級の住人だ。

貴族位は持ってはいないが、背景にあるギルドと豊富な資金で王宮でもそれなりの地位を築いている。

その辺の貴族では絶対に会えない人物だ。

案内された部屋にはすでにシェラがいた。

ソファーに座らされ、何を考えているか分からない無表情を貫いていた。

「これはこれは、ロッシュ様。ようこそ、お越しいただきました。儂は薬草ギルド、ギルドマスターのゴードンと申します。お見知りおきを」

まさかの丁寧な態度……

ある意味、見慣れた光景だったが、遠い昔のようだ。

「ご丁寧に痛み入ります。私はロッシュ=イルス。この者の仲間です」
「仲間……ですか。そうですか……どのような事情があるかは分かりませんが、シェラ殿はすべては貴方に全てを委ねていると」

……どういうことだ?

「単刀直入に言います。是非とも、シェラ殿を当ギルドの一員に向かえたいと思っております。彼女の薬草への理解は相当なもの。学ばせていただきたいのです」

そういうことか。

なんとなく話は分かった……

「大変ありがたい話だと思います……しかし、お断りさせていただきます」

シェラは僕の言葉を聞いても、ずっと無表情だった。
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