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第400話 魔族の侵攻

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 魔族が王弟と共に飛び立ってすぐに王都を脱出したが、すでに影も形も無くなっている。フェンリルでも追いつけないとは。ミヤやシラーも首を傾げている。

「あいつらがこんなに早く移動できるのは可怪しいわ。そこまで程度の高い魔物じゃなかったもの。こう言ってはなんだけど、カミュが召喚される魔族の中では群を抜いているわ。それでも追いつけないなんて変よ」

 そうなのか。僕には魔族の強弱がよく分からないが、ミヤが言うのであれば間違いないだろう。そうなれば、召喚というものに何か秘密があるということなのか? それとも別な? 今は考えても答えは出そうにないな。僕達はようやく連合軍の司令室に到着した。

「ライルはいるか!!」

「ロッシュ公か。さっきの魔族の群れは一体何だったんだ。オレ達はすぐに退避したから被害はなかったが……あいつらの向かった方角って」

「そうだ。狙いは公国だろう」

「それじゃあ、すぐに引き返さねぇと!! おい、全員を集めろ!!」

「待ってくれ。ライル。いいか? 魔族相手に公国軍がぶつかってもいたずらに犠牲者が出るだけだ。それよりも王都攻略に全力を上げてくれ。王都を制圧すれば、魔族の対価となる人も減るだろう。それを公国軍……いや、連合軍の最大の目標にしてくれ」

「ロッシュ公は、公国民よりも王国民が大切だって言いたいのか!? オレは公国を助けに行くぜ」

「ダメだ!! 王都ではルド達が必死に頑張っている。連合軍でそれを後押しするんだ。魔族のことは僕達に任せて欲しい。必ず阻止する」

「でも北と南同時に向かっていったぞ。ロッシュ公の手数じゃあ間に合わないんじゃないか?」

「分かっている。しかし、なんとかしてみせる。僕を信じて欲しい」

「分かった……でも、もしやばくなったらロッシュだけでも逃げろよ。公国が無くなっちまっても……ロッシュ公さえいれば」

「それ以上は言うな。大丈夫だ。必ずや魔族達を追い返してみせよう。ライル達も王都の攻略をよろしく頼むぞ。王都の正門はすでに壊れている。直される前に進軍を開始してくれ」

「ああ!! わかったぜ」

 ライルはすぐに部下の方に振り返り、進軍の伝達を始めた。それを見てから、すぐにフェンリルに跨った。まずは向かうのは南だ。どれほどの数の魔族が南北に向かったのか分からないのであれば、魔族の攻撃に耐えられない方に向かうべきだ。そうなると城郭都市のほうが圧倒的に防御力は高い。それに避難が容易だ。それに比べれば南の砦の破られれば、公国を蹂躙されてしまう。

「南だ!! 南に向かうぞ」

 フェンリルを鞭打つように急がせた。すると南の砦目前というところで追いつくことが出来た。王都で見た数からするとかなり少ないな。となると主力は北か? といってもこれだけの魔族だけでも脅威だ。

「ふふっ。我が吸血鬼の強さを思い知らせてやるわ。皆、行くわよ」

 そういうと、ミヤとシラー、眷属達がフェンリルから飛び降りて魔族に向かっていく。乗り捨てられたフェンリルも共に向かっていった。

「ロッシュは北に行きなさい。私達だけで十分よ」

 そんなわけがない。魔族は少ないと言っても数百はいるんだ。たった三十人でなんとかなるわけがないだろ。

「ルード、ドラド。ミヤ達を助けてやってくれ。そしてドラドは……」

「分かっている。我の本当の姿は最後の最後にしておくぞ。これだけの魔族を相手にするのも久しぶりだな。精々楽しむさ」

「私は……弓で援護します。それでは行きます!! ロッシュ殿もご武運を」

 ルードは近くの木に向かい、ドラドはゆっくりとした足取りで向かっていった。魔族が近寄ってくるドラドに襲いかかったが、ドラドはハエを払うように薙ぎ払うと魔族が吹き飛んでいく。まるで何もない野原を歩くようだ。これなら、ここは大丈夫だろう。

 ミヤ達の戦いを見ていると、ミヤがこっちに手を振ってきた。なんで戦い中によそ見が出来るんだ? 本当にミヤは規格外の魔族なんだな。

 僕とリード、カミュだけで北に向かうことにした。果たして、この人数だけで大丈夫だろうか? でも南の砦は破られるわけにはいかない。それに僕達の半数以上の戦力を向けたのだ。かならずや救援に持ってきてくれるはずだ。僕達の仕事はそれまで魔族達を足止めして時間を稼ぐことだ。

 南の砦から城郭都市には森を抜けていくのが最短だ。

「僕達の役目はとにかく足止めだ。カミュ。本当はこんなことに巻き込むつもりはなかったんだが、本当に申し訳ない」

「いいの。私が付いていきたいって言ったんだから。それに魔導書をたくさん持ってきちゃったのは私にもちょっとは責任があるからね。でも、言っておくけど大魔法は一発だけだからね。それ以上は出来ないわよ」

 一発の大魔法か。どんなものか想像も出来ないが、使いどころを見誤るわけにはいかないな。リードには遠距離からの狙撃が一番だろう。

「ロッシュ殿。それは出来ません。今回はミヤさん達がいない以上、私が護衛を務めます。どんな敵が現れてもロッシュ殿の側から離れるつもりはありません。それにエルフの得意は弓だけではありませんよ。短剣だって上手いんですから」

 それは知らなかったな。しかし、ミヤの眷属の数人は連れてくるべきだったか? いや、中途半端な戦力は戦争をいたずらに長引かせるだけだ。これが正解……のはずだ。しばらく走ると、森がようやく切れ城塞都市が見えてきた。城塞都市の壁には魔族が張り付き、破壊を続けている。羽ばたく魔族は、魔法で街を焼き尽くしていた。

「くっ……遅かったか」

 急ぎ城塞都市に近づいた。城塞都市には地下から入れる道があるのだ。その道から城塞都市に入った。住民は急に来襲した魔族に阿鼻叫喚の様相を呈していた。なんとか城塞都市に残っている公国軍が避難を誘導していたが、羽ばたく魔族から逃れることもできそうにない。まさに目の前の人が魔族に襲われそうになっているのを目撃した。

「リード、カミュ。行くぞ。この街を守るんだ!!」

 二人は返事をし、目の前の魔族に攻撃を加えた。思いっきり魔族を殴ると、想像以上な破壊力で魔族が壁に当たり気絶した。

「お見事です。ロッシュ殿。いつの間にそのような力を?」

「知らないな。いつの間にか力が増していたんだ」

「それはおそらく魔力がやっと体に馴染んできたからではないですか? ロッシュは潜在的にはすごい魔力を秘めていますが、それを肉体が拒絶していたのでしょう。せっかくですから、思いっきり暴れてみてはどうです? もっと魔力が体に馴染むかも知れませんよ」

 そういうものなのか? 僕にははっきりとは分からない。でも、力が増したのはありがたい。今はとにかく、魔族を凌駕するだけの力が欲しいのだ。目の前にやってくる魔族を片っ端から殴り飛ばしていく。リードも離れずに短剣で魔族と格闘しているが、苦戦しているようだ。やはり本人がいうほど短剣を得意ではなかったか。カミュも接近戦は苦手のようだ。

 それでも各地に魔族の手が伸びていく。僕達はそれらを相手に戦い続けるが、とうとう城郭都市の壁が壊されてしまったようだ。魔族がどっと押し寄せてきた。そこには王弟の姿も見えた。下卑たような笑いを浮かべ、僕達に目もくれず、魔族に襲われている人々を見て喜んでいるようだ。

「王弟!! 止めるんだ!! このようなことをして何がしたいんだ!?」

「うるさい。小童が。私の邪魔をするものは誰であろうと容赦しない。それがどんなに矮小なものであってもな」

 だめだ。完全に魔族の力に酔っているようだ。僕の事も全く認識していないようだ。僕と王弟が会話している間も大量の魔族が街中に流れ込んでいく。住民たちは必死に叫びながら逃げていく。それでも逃げ遅れる住民は尽く魔族の餌食になっていく。

 こんなことがあっていいのか? 憎い。目の前に暴れている魔族達が憎い。そして、何も出来ない僕の非力が許せない。

「リード、カミュ!! とにかく住民たちを避難させ……」

 僕達はいつの間にか魔族に取り囲まれ、リードとカミュは魔族の相手で手が離せない状態だった。僕にも魔族が殺到し、なんとか相手をするがとにかく数が多すぎる。なんとか裁こうとするが、徐々に魔族の強さが増していくような感じがする。それとも、僕が疲弊しているのか。

 僕とリードとカミュはついに背中合わせになるほど追い詰められた。魔族は僕達を囲み、いたぶるような姿勢を見せる。その後ろでは逃げ遅れた住民が魔族に襲われているのが見えた。もう我慢できない。その時、体中に何かが暴れるような感覚に襲われた。これは……前に一度……まずい。飲み込まれる……。

 ん? 気絶しない。それどころか気分が高揚してくる。無性に暴れたくなる。リードとカミュが何かを言っているが、何も聞こえない。とにかく、目の前にある憎い魔族を潰してくれる。僕は手に魔力を込め、目の前の魔族に向かって薙ぎ払った。すると強烈な圧縮した風が魔族を襲い、すべてを真っ二つに割っていく。

 気持ちいいな。魔族達が見せる血しぶきに喜びを感じてしまう。辺りに見える敵を尽く駆逐していく。まさに虫のように。それでも魔族達はますます僕の周りに群がってくる。

 面倒だな……。魔力を開放すると辺り一面が焦土と化した。群がっていた魔族は消し炭のようになり、動きを止めていく。あとは……。そう思うと急に脱力感が襲ってくる。冷静な気持ちになり、同時に吐き気が出るほど気分が悪くなる。これは……魔力欠乏の症状だ。カバンから魔力回復薬を飲み、なんとか気絶だけは免れた。

 くそっ。もう少しこの力があれば王弟を押さえることが出来たのに。ふらつきながらもリードとカミュを探した。しかし、悲惨な状況が広がっていた。街の様子は一変していたのだ。街のほとんどが燃え尽くしていたのだ。そして、その瓦礫の中にリードとカミュの姿があった。

 やってしまったのか……なんとか足に力を入れて駆け寄った。二人共、大怪我を負っていたが意識はかろうじてあった。

「今すぐに回復魔法を使うからな」

 しかし、僕は二人に回復魔法を使おうとするが、どういう訳か使うことが出来ない。

「なぜだ!! なぜ魔法が使えない」

 すると大怪我を負いながらもなんとか体を起こしたカミュがフッと笑った。

「暴れすぎですよ。ロッシュ。まさかそれほどの魔力を持っていると思ってもいなかったわ。おそらく、大量の魔法を使った反動でしょうね。しばらくは魔法は無理かもね」

 でも今使えないと……リードとカミュが。迫りくる魔族達。僕がかなり数を減らしたというのに、なぜこうもワラワラと。僕はおぼつかない足に活を入れて、なんとか立ち上がった。

 魔法が使えなくとも、リードとカミュは僕が守らなければ。しかし、それはただの願望……魔力のない体では魔族に対抗なんて出来るわけがない。魔族に倒された僕は身を引きずりながらリードとカミュの前に倒れた。身を挺しているつもりなんだが……思うようにいかないな。

 ここで終わるのか……なんとも短いような長いようなものだったな。使命を少しは果たせただろうか? これから死にゆくものが考えることもないか。魔族が僕達に襲い掛かってくるを見ていた。随分とゆっくりと見える。

 まさに僕に魔族の手が伸びようとしたとき、魔族が吹き飛んだ。何事だ? 

「やあ、ロッシュ君。随分とやられてしまったね。でも大丈夫だ。私が来たからね」

 この声は……

「あら? 妾達も来ておることを忘れては困るぞ。我が君」

 そこにいたのは、トランとリリだった。
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