爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。

秋田ノ介

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第398話 王城に潜入

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 ルドたちとの合流を果たした僕達は、シラー達と作った地下道を通って王城に向かった。その間はライル達に王都にいる兵たちの気を引いてもらうことにした。普通に考えれば王城周りの警備は多いはずだ。その注意をそらすだけでも僕達の潜入は簡単になる。

 ところどころから水が染み出してくる。なんとか井戸を避けながら進んでいたが、この辺りは地下水位が高いのだろうな。あまりに酷いところは進みながら補修をしていく。心配はないだろうが、帰りに水が溜まって使えなくなるのは困るからな。

 ちょうど王城の裏手に出た。ここはマグ姉が王城にいた頃、薬草の菜園として使っていたらしい。今はみる影もなく、手入れもされずに草が生い茂っている。これだけでも王都の現状を表しているようだ。周囲を見渡しても衛兵の影はない。遠くの方で兵士たちが動き、公国軍が動いたことを告げるように騒いでいる。どうやらライルがタイミングを合わせて動いてくれたようだ。

 さて、ここからはルド達の出番だ。今はルド達の護衛に徹することにした。王城に入るには正面の大手門の他に裏の使用人用の入り口、物資を運ぶこむための扉があるがどれも人の出入りが多いため、僕達のように隠密に潜入するには向いていない。上を見ると、王城内の各部屋の窓やテラスが見える。しかし、白昼堂々と上に登ることは難しいだろう。そこで残されたのは排水口となった。王城の地下部には排水が流れる場所がある。そこならば、誰も出入りはしていることはなく、昼間でも見られる心配はないようだ。

「よし。じゃあ私に付いてきてくれ」

 ルドがそう言うと一旦王城の敷地を出るように行動し、それから迂回することで地下部に入るための階段が姿を現した。階段の先は薄暗く、先を見通すことが出来ないほど深いようだ。妙にジメッとした感じで、若干臭い。その階段を慎重に降りていく。時折、階段の表面が苔に覆われており、滑りそうになる。ここも管理がされている様子がなさそうだな。

 その間のミヤ達の表情はかなり暗い。なんでここに来ちゃったんだろう? と本気で呟いていた。僕もそう思い、なんとか王弟への恨みに変えて耐え忍んだ。階段を降り切ると、大きな鉄格子が現れた。ここから排水口に入れるようだ。扉の先には通路と排水が流れているのが見えた。通過する間は汚水が流れてこないことだけ祈ろう。

 鉄格子には鍵がかけられていたが、シラーが難なく破壊した。鉄格子は押すでもなく勝手に開いていった。鈍い音を出しながら。どうやら相当錆びているようだ。つい、そんなことばかりに目がいってしまう。ルドはあまり躊躇もなく先に進んでいく。それに疑問に思ったマグ姉がルドに聞いた?

「ねぇ、ルドベック。あなた、やけにこの道に詳しいようだけど」

「え? マーガレットもこの道を使ってよく城を抜け出さなかったのか? てっきり皆やっているのかと思っていたよ。ここが一番見つかりにくいところだって教えてくれたんだ」

「誰が?」

「掃除婦のトントさんだよ」
 
「ああ。あの噂好きのトントさん?」

「そうそう!! あの人、この城のことなら何でも知ってたよな? 子供の時だから考えもしなかったけど、何者だったんだろうな?」

「そうね……言われてみればその通りね。一体何者だったのかしら?」

 うん。本当に何者なんだろうね? 僕が知りたいよ。そんな話をしていると、トントさんお薦め? の通用口に出ることが出来た。人目につかないというところらしいが、なるほど。どうやら、ここは誰も使っていないトイレのようだ。変な臭いが辺りに充満していた。とても耐えられそうにない。僕は浄化魔法を使った。とたんに衛生的な香りとなりトイレの隅々まで綺麗になっていた。汚れは木桶に放り込んでおけばいいな。なんと邪悪な色をした木桶なんだ……。

 ルドはすぐにトイレのドアを開けようとするがどうやら向こうから鍵か何かがかかっているようで開かなかった。なんどもドアノブを回すが開かず、ドアノブが壊れてしまった。ルドはドアノブを呆然と眺めていたが、どうやらドアノブの取れた場所から城内を覗けるようだ。

 ふむ……壁しか見えない。おっ……なんとか花瓶が見えた。だめだ、何も情報が入ってこない。とにかくこの扉を開けなければ。僕は慎重に体重をかけながらドアを開けようとするがなかなか開かない。それにしびれを切らしたミヤがドアを蹴っ飛ばした。するとドアは向こう壁まで吹き飛んでしまった。

「ミヤ!! なんてことしてくれたんだ!! 折角ここまで気付かれずに来たのに……」

 小さな声で抗議したが、ミヤが逆ギレしだした。

「うるさいわね!! こんな臭いところに長居なんてしたく何のよ!! いいじゃない。気付かれたって。私が殴ってあげるから」

「いやいやいや。気付かれちゃまずいだろ。それに臭くないだろ? 浄化したんだから!!」

 そんなことを言っていると、案の定廊下を駆けてくる音が聞こえた。どうやら一人の衛兵が気になって見に来たようだ。僕達はトイレに戻り、衛兵の様子を窺うことにした。衛兵はまず吹き飛んだドアを見てから、慎重にトイレに近づいてきた。その時、マグ姉がトイレの隅々まで覆っていた汚れが入った木桶を衛兵に投げたのだ。それは見事に飛んでいき、衛兵の頭にぶつかり、その拍子に中身が全て衛兵の顔にかぶってしまった。

「うげっ!!」
 

 そういうと衛兵は気絶してしまった。とりあえず衛兵をトイレに入れ、僕達はドアの外を注意深く覗いてから城内への侵入を果たした。ここからは別行動を採る予定だ。ルドたちにはライロイド王の捜索をお願いすることにした。そして、僕達は王弟を拘束することとなった。

「ロッシュ。この城の内部は至って単純だ。全てが左右対称となっており、階段は二階に上がるのはエントランスのみ。それより上は左右にある階段を使うんだ。城内となれば衛兵の数も少ないだろう。いざという時は気絶させて適当な部屋に放り込んでおけばいい。王弟はおそらく最上階の部屋だ。最上階は王の私室となっていて、一部屋しかないからすぐに分かるはずだ。いいか? そこにいなくても、隠し部屋があるかも知れない。注意深く探すんだぞ」

「分かった。ルド達はどこから探すんだ?」

「とりあえず、牢屋から当たってみるつもりだ。幽閉される場所はそんなにないはずだ。外鍵が付いている場所と言えばたかが知れている。お互い、気をつけ……そっちは大丈夫そうだな」

「ルドこそ無事でな。それとマグ姉とマリーヌも。危険だと思ったら……」

「分かってるわよ。逃げろ、でしょ? 私も命がまだ惜しいわ。娘もいるんだから。とにかく、この事態を脱したらいっぱい娘を抱きしめたいわ」

 僕達は頷き、その場で別れた。ミヤの眷属をルドとマリーヌの護衛とした。とにかく最上階を目指せばいいのだ。エントランスに向かうことにした。ここをまっすぐ進めばあるそうだ。周りに警戒をしながら慎重に進んでいく。その役目はリードとルードが適役だ。エルフは耳が非常に良いのだ。ゆっくりと進み、エントランスに出たが、誰一人として影も形もなかった。もしかして、さっきの汚物をかぶった衛兵が最期の衛兵? と思うくらい人の気配がない。

 ただ、これは良い機会だ。階段を上がり二階に出た。この城は全部で五階だ。リードは左の方向を指差して移動を開始した。やはり誰も出てこない。ここは謁見の間や応接室などがあるようで扉の数は異様に少ない代わり、どれもが豪勢な作りをしている。

 階段が現れ三階にあがった。ここは客室がほとんどかな? 扉ばかりがやけに多い。兵が潜んでいるとしたらここが怪しそうだ。しかし、潜んでいる兵士なんてどこにもいない。これはおかしいな? と思いながらも更に上に上がる。ここは王室の部屋があるようだ。部屋数の少なさといい、扉の豪華さといい、今までで一番だ。そこも警戒していたが、無駄だったようだ。何事もなく最上階の王の部屋に辿り着くことが出来た。リードはドアに耳を当て、中の音を聞こうとするが……リードは首を横に振った。

 どうやら中にも誰もいないようだ。王弟は一体どこに行ってしまったのだ? とにかく王の部屋に入ってみよう。ルドが言っていた隠し部屋が潜んでいるかも知れない。ドアノブを回すと簡単にドアが開いた。中は……なるほど。金をふんだんに使った細工品が壁一面にあり、暮らしの格の高さを感じることができる。辺りを物色しているとミヤが酒瓶を発見した。どうやらここで酒盛りを始めるつもりだ。すぐに栓を抜き、ぐいっと飲み込んだ。

「マズっ!! こんなものよく飲めるわね。あれ? なんか目が回る……」

 急にミヤが倒れた。僕が近づくとどうも酒の臭いが変だ。すると眷属の一人がその臭いの正体を突き止めた。毒だ。この酒瓶に毒が入っていたようだ。僕はすぐに浄化魔法を使い、回復魔法をかけた。

「なんだったの、一体? 毒入りの酒瓶が置かれているなんておかしいわよ。もしかして、私達嵌められた?」

 その可能性は否定できないな。衛兵が全くいないのもおかしな話だ。とにかくこの部屋で王弟に関する情報を集めるんだ。ここにいなければ、探しようがない。その手がかりならばなんでも欲しい。しかし、その部屋には資料どころか、紙切れ一枚なかった。あるのは毒入りの酒瓶、座ると刃が突き出るソファー、鎧に見せかけたアイアンメイデン。明らかに手が込みすぎている気がする。

 するとリードが壁に耳を当てながら調べていると音が変な場所があると言ってきた。壁の中なのに空気が流れているというのだ。壁の外が屋外に出るならばともかく、作り的にはそうなっていない。ここは思いっきりミヤに蹴っ飛ばしてもらおう。

 壁はもろくも崩れ去り、見事な装飾品は粉々に散った。なんとそこには、下に潜る階段が出現した。一体、どれほど深いのだろうか? 螺旋状の階段が永遠と感じるほど続いている。ようやく階段が終わったが、辺りが暗くて何も見えない。食べ物が腐ったような臭いが漂い、水滴が落ちる音だけだ妙に響く。すると誰かが僕の袖を引っ張る。そして耳元に声がした。くすぐったいな。

「あっちに誰かいます」

 リードは指差しているのだろうが、暗くて見えない。リードの腕を辿りながらその方角を見た。しかし、やはり何も見えない。その時、声が聞こえた。弱々しく微かな声だ。

「誰か、そこにいるの?」

 まだ幼い感じが残る声だが。

「お前は誰だ?」

「僕? 僕は……ライロイドだよ。この国の第四王子なんだ」

 僕達は王の部屋の地下でライロイド王を発見したのだった。
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