391 / 408
第390話 回復魔法のあり方
しおりを挟む
都では祭りが待っているという中でルドの屋敷で足止めを食らっている。内容が重要なのは分かっているつもりなんだが……。ルドが進行役のようにライルに質問する。
「公国軍の現状を教えてくれないか?」
「王国軍との……いや魔族との接触による怪我人がかなり多いな。治療を施しているが、問題が多すぎて回復が遅れているのが現状だ。出来れば、ロッシュ村長に回復魔法をお願いしたいところだ」
やはり怪我人は相当数だったんだな。レントークのときは然程には感じなかったが、戦場ということで皆は痛痒感が鈍っていたのかも知れないな。出来る限り治療に協力するというと、ライルは素直に頭を下げてきた。
「情けない話だぜ。本当はロッシュ村長の魔法にはなるべく頼らないようにしたいんだが」
そうなのか? 使えるものがあれば使う。それが素直な考え方だと思うが。
「回復魔法ってやつはたしかに凄い。皆が使えるようになったら、戦争なんてものは劇的に変わる可能性だってある。でもな、大怪我だって魔法で一発で治っちまうと勘違いするやつが出てくるんだ。そいつはシェラさんに治療をしてもらって戦線に復帰した口なんだが、回復できるからって無謀にも王国軍に突っ込んでいきやがったんだ。幸い大怪我程度で済んだが、どうも回復魔法ってやつは命を軽んずるやつを生む傾向があるんだ」
ライルの顔は切実さを物語っていた。おそらく、そのような者が後を絶たなかったのだろう。僕やシェラからすれば回復魔法は簡単に使えるものだ。それを見ているが故に回復魔法を使われることへの抵抗がなくなり、怪我をすることへの抵抗も無くなっていくのかも知れないな。
「それでも戦場では兵士の回復が早いのは助かる。オレ達将軍ってのをやっていれば、その気持ちは人一倍強いだろう。でもな、体は回復しても精神までは回復しないんだ。今回の戦争でも精神がおかしくなっちまった奴が何人も出た。俺達は回復魔法ってやつをちゃんと考えて使わないといけないと思うぜ」
ライルの言葉は重い。グルドも頷いている。
「確かにライルの言うことは正しいかもな。回復魔法をかけられてから戦線に復帰したやつは、戦後の気持ちの部分がなかなか元に戻らない気はするな。体は治っても、そんな状態のやつに兵士をさせておくことはできないんだ。うちの部隊からもかなりの人数を軍から外してしまった」
そうだったのか。回復魔法は精神まで回復するものではない。それを完全を失念していたな。
「ただ一応言っておくが、回復魔法はありがたいんだぜ。ただ問題は兵を預かるオレ達の問題だ。オレ達はずっと王国との戦いで少ない兵で大軍を打ち破ってきた。その背後が回復魔法のおかげであることは間違いないんだ。でも、王国も兵をかなり失い、公国との戦力差は以前ほどではなくなってきている。オレは、怪我をすれば戦線に復帰できないという事を実践するべきときなのではないかと思うぜ。グルドさんもそう思うか?」
「ああ。回復魔法の便利さに常識が変わったと思っていたが、人が強くなっているわけではないからな。すり減った精神にも目を向けるべきだっただろう。是非、ライルの意見を軍に取り入れよう。回復魔法に頼らなくても勝てる軍隊を作ればいい話だ。そうなると、兵がもう少し必要だな。ゴードンさん……どうだ?」
「私もその話を聞いて、なるほどと思ってしまいました。軍人にも休養が必要というわけですな。分かりました。人員の増員をもう少し認めましょう。それで軍人の活力が戻るのであれば」
ん? んん? この話って結局のところ、軍の人員増加を持っていくための話だった? まぁライル達は嘘を言っているわけでもないし、納得してしまったのだから別にいいんだが……。それよりも早く話を終わらせてくれるとありがたいんだが。
それからは戦力分析というのが始まった。公国の現状は陸軍五万人、海軍一万五千人が所属しており、すぐに戦線に出られるのはその半分と言った状態らしい。一年程度をかけて全員復帰ということを計画しているらしいが、どうなるかわからないようだ。大砲などの新兵器も相当数が失われ、現在急ぎで大砲の製造をしているようだが、半年程度の時間が必要なようだ。
また、レントークとサントークの状況だ。サントークは残念ながら評価するほどの兵力はない。ガモン隊の五千人はサントークの守備隊も含めた数字で、国を空にしないと実現しない数字なのだ。それゆえ、遠征となると兵数は少なくなるだろう。レントークは軍の再編が進められ、人数は八万人程度。地域の振興のために人数が若干少なくなってしまった。といっても、減ったのはほとんど兵としての素養がない者たちばかりだと言う。レントーク軍には公国からクロスボウが輸出されており、クロスボウ隊が徐々に増えているそうだ。
一方王国軍は数としては五十万人と言われるが、実質的には十五万から二十万人程度と考えられている。今回の戦で精鋭の大多数を失ってしまったからだ。これは、王国軍は局地戦をやるだけの能力しかなくなってしまった事を意味する。ライルは言葉をまとめた。
「はっきり言えば、レントークと同時に王国に侵攻すれば勝てる見込みはかなり高いと思うぜ。ただ、オレ達が相手にしないといけないのは王国軍兵士だけじゃない。あの魔族もだ。おそらくあの魔族だけで精鋭二十万人、三十万人に相当する戦力だと考えている。次も出てくるとなれば、こちらも相当な準備をしなければならないぜ」
やはりあの魔族、カミュと言ったか。彼女の存在が次の戦の趨勢を決めると言っても過言ではないようだな。なんとかこちらの味方……とまではいかなくとも召喚を阻止することが出来ればよいのだが。ルドはじっとこちらを見てきた。
「そういえば、その魔族は召喚と言っていたがどういうものなのだ?」
ふむ。僕が言うよりミヤに聞いたほうが良いかも知れないな。僕はミヤを呼ぶことにした。すでにミヤは酒を浴びるほど飲んでいたのか、呼ばれて不機嫌極まりない表情だ。それでもカミュのためだというと、仕方ないという表情くらいには変わった……気がする。
「それで何が聞きたいの?」
「魔族の召喚についてだ」
「ああ。召喚するには一冊の本が必要なのよ。魔界では召喚される部署っていうのがあってね、その者たちは各人が本を作らされるのよ。それを使って、召喚をしてもらって対価を稼ぐの」
「つまり、その本がこちらの手もとに渡れば召喚を阻止できるということか?」
「そういうことね。現にバカが召喚してたじゃない」
バカとは王弟の息子ミータスのことだ。一応は故人になってしまったのだから、名前で呼んだほうが良いような気もするが、魔族には関係のない考えか。
「なあ、ロッシュ。その本を手に入れる方法はないか?」
そんな方法があれば、今頃やって……あっ、あるかも。そういえば、盗……拝借することが得意な組織があったな。
「その顔は心当たりがありそうだな。それをやってみないか? 公国はかつてないほど王国を追い詰めている。今叩かなければ、いずれ勢力を盛り返すだろう。その時間は然程ないと思うぞ」
ふむ。僕は頷いた。とりあえず、やるだけやってもらおう。一旦部屋を出ることにした。そして、ハトリを呼び出した。すぐにやってきたハトリは涙ぐみながら僕に抱きついてきた。
「ようやく……ようやく呼んでくださいましたね。私のことを忘れているのではないかと思いましたよ」
忘れていたわけではないねど、最近はハトリを通さなくても忍びの里から情報が入るようになったからな。ハトリを仲介する必要性が乏しくなっていたのだ。
「それだったら、もう隠れてないで堂々としていたらどうだ? ハトリも公国の一員で僕の部下なのだから」
僕としてはいい考えだと思っているのだが、ハトリはきっぱりと断ってきた。
「それはできません。私の美学に反するので」
「それじゃあ、今までどおりだな。ハトリを呼び出す機会はこれが最期かも知れないな」
「ぐぐぐ……。分かりましたよ。ちょっとは人前に姿を現しますから。そんなことは言わないでください」
「分かった分かった。ところで話は聞いていたな? 出来そうか?」
「分かりません、としか言いようがありません。所在も分かりませんし、未だに発見したという報告もありません。おそらく王都のどこかにあるのでしょうが……もうちょっと深い部分まで探る必要がありそうですね」
ハトリがいうには調査だけでもかなりの時間がかかるそうだ。そうなると公国の軍の立て直しが先か、僕達が召喚の書を奪い、レントークと共に王国打倒の軍を起こすのが先か、微妙な感じになってきたな。それでも希望があるだけマシかも知れないな。今すぐ、王国打倒の軍を起こしても魔族による返り討ちがあるかも知れないからな。
「ハトリ、この任務はこれからの公国の命運を分ける重要なものだ。脅しているわけではないが、念押しのつもりで言う。頼むぞ」
「ハッ!!」
そう言うとハトリはどこへともなく消えていった。僕は再び部屋に戻ると、皆の注目が集まる。僕は頷くと、皆にはそれだけで伝わった。ミヤもどことなくホッとした様子だ。それでは話は終わりだな。
そうもいかなかった。対魔族という答えが見えない話し合いに突入したのだ。ミヤも何故か面白そうに話に参加していた。それも魔族に寄った話し方でライルやグルドが提案する度に粉砕していった。ミヤがいる限り、この話し合いに終わりはないのではないだろうか。
結局、解放されたのは日が暮れようとしていたときだった。おそらく祭りはすでに始まっていることだろう。聞こえない祭囃子が脳内で再生されていく。ゴードンも同じような気持ちなのだろうか。しきりに窓の外を覗き、時間帯を気にしているような表情を浮かべていた。
「長く拘束して申し訳なかったな。私としては王国打倒を一日も早く達成して、公国を真の平和な国家として君臨させたいのだ」
それにはライルが感心したような声を上げた。
「ほお。ルドベックはそんなことを考えていたのか。なるほどな。たしかに俺のような亜人からしたら、公国はこれ以上ない国だ。しかし、ルドベックがそんなことを言うのは珍しいな。何かあったのか?」
実は話を聞くと、マリーヌが妊娠したようなのだ。戦争をしている国に生まれてほしくないという親心らしい。なんとも微笑ましいことだが、危うさも同時に感じてしまう。気のせいだと良いが。ルドの屋敷を出ると、待機していた兵たちと共に都へ凱旋することにした。
「公国軍の現状を教えてくれないか?」
「王国軍との……いや魔族との接触による怪我人がかなり多いな。治療を施しているが、問題が多すぎて回復が遅れているのが現状だ。出来れば、ロッシュ村長に回復魔法をお願いしたいところだ」
やはり怪我人は相当数だったんだな。レントークのときは然程には感じなかったが、戦場ということで皆は痛痒感が鈍っていたのかも知れないな。出来る限り治療に協力するというと、ライルは素直に頭を下げてきた。
「情けない話だぜ。本当はロッシュ村長の魔法にはなるべく頼らないようにしたいんだが」
そうなのか? 使えるものがあれば使う。それが素直な考え方だと思うが。
「回復魔法ってやつはたしかに凄い。皆が使えるようになったら、戦争なんてものは劇的に変わる可能性だってある。でもな、大怪我だって魔法で一発で治っちまうと勘違いするやつが出てくるんだ。そいつはシェラさんに治療をしてもらって戦線に復帰した口なんだが、回復できるからって無謀にも王国軍に突っ込んでいきやがったんだ。幸い大怪我程度で済んだが、どうも回復魔法ってやつは命を軽んずるやつを生む傾向があるんだ」
ライルの顔は切実さを物語っていた。おそらく、そのような者が後を絶たなかったのだろう。僕やシェラからすれば回復魔法は簡単に使えるものだ。それを見ているが故に回復魔法を使われることへの抵抗がなくなり、怪我をすることへの抵抗も無くなっていくのかも知れないな。
「それでも戦場では兵士の回復が早いのは助かる。オレ達将軍ってのをやっていれば、その気持ちは人一倍強いだろう。でもな、体は回復しても精神までは回復しないんだ。今回の戦争でも精神がおかしくなっちまった奴が何人も出た。俺達は回復魔法ってやつをちゃんと考えて使わないといけないと思うぜ」
ライルの言葉は重い。グルドも頷いている。
「確かにライルの言うことは正しいかもな。回復魔法をかけられてから戦線に復帰したやつは、戦後の気持ちの部分がなかなか元に戻らない気はするな。体は治っても、そんな状態のやつに兵士をさせておくことはできないんだ。うちの部隊からもかなりの人数を軍から外してしまった」
そうだったのか。回復魔法は精神まで回復するものではない。それを完全を失念していたな。
「ただ一応言っておくが、回復魔法はありがたいんだぜ。ただ問題は兵を預かるオレ達の問題だ。オレ達はずっと王国との戦いで少ない兵で大軍を打ち破ってきた。その背後が回復魔法のおかげであることは間違いないんだ。でも、王国も兵をかなり失い、公国との戦力差は以前ほどではなくなってきている。オレは、怪我をすれば戦線に復帰できないという事を実践するべきときなのではないかと思うぜ。グルドさんもそう思うか?」
「ああ。回復魔法の便利さに常識が変わったと思っていたが、人が強くなっているわけではないからな。すり減った精神にも目を向けるべきだっただろう。是非、ライルの意見を軍に取り入れよう。回復魔法に頼らなくても勝てる軍隊を作ればいい話だ。そうなると、兵がもう少し必要だな。ゴードンさん……どうだ?」
「私もその話を聞いて、なるほどと思ってしまいました。軍人にも休養が必要というわけですな。分かりました。人員の増員をもう少し認めましょう。それで軍人の活力が戻るのであれば」
ん? んん? この話って結局のところ、軍の人員増加を持っていくための話だった? まぁライル達は嘘を言っているわけでもないし、納得してしまったのだから別にいいんだが……。それよりも早く話を終わらせてくれるとありがたいんだが。
それからは戦力分析というのが始まった。公国の現状は陸軍五万人、海軍一万五千人が所属しており、すぐに戦線に出られるのはその半分と言った状態らしい。一年程度をかけて全員復帰ということを計画しているらしいが、どうなるかわからないようだ。大砲などの新兵器も相当数が失われ、現在急ぎで大砲の製造をしているようだが、半年程度の時間が必要なようだ。
また、レントークとサントークの状況だ。サントークは残念ながら評価するほどの兵力はない。ガモン隊の五千人はサントークの守備隊も含めた数字で、国を空にしないと実現しない数字なのだ。それゆえ、遠征となると兵数は少なくなるだろう。レントークは軍の再編が進められ、人数は八万人程度。地域の振興のために人数が若干少なくなってしまった。といっても、減ったのはほとんど兵としての素養がない者たちばかりだと言う。レントーク軍には公国からクロスボウが輸出されており、クロスボウ隊が徐々に増えているそうだ。
一方王国軍は数としては五十万人と言われるが、実質的には十五万から二十万人程度と考えられている。今回の戦で精鋭の大多数を失ってしまったからだ。これは、王国軍は局地戦をやるだけの能力しかなくなってしまった事を意味する。ライルは言葉をまとめた。
「はっきり言えば、レントークと同時に王国に侵攻すれば勝てる見込みはかなり高いと思うぜ。ただ、オレ達が相手にしないといけないのは王国軍兵士だけじゃない。あの魔族もだ。おそらくあの魔族だけで精鋭二十万人、三十万人に相当する戦力だと考えている。次も出てくるとなれば、こちらも相当な準備をしなければならないぜ」
やはりあの魔族、カミュと言ったか。彼女の存在が次の戦の趨勢を決めると言っても過言ではないようだな。なんとかこちらの味方……とまではいかなくとも召喚を阻止することが出来ればよいのだが。ルドはじっとこちらを見てきた。
「そういえば、その魔族は召喚と言っていたがどういうものなのだ?」
ふむ。僕が言うよりミヤに聞いたほうが良いかも知れないな。僕はミヤを呼ぶことにした。すでにミヤは酒を浴びるほど飲んでいたのか、呼ばれて不機嫌極まりない表情だ。それでもカミュのためだというと、仕方ないという表情くらいには変わった……気がする。
「それで何が聞きたいの?」
「魔族の召喚についてだ」
「ああ。召喚するには一冊の本が必要なのよ。魔界では召喚される部署っていうのがあってね、その者たちは各人が本を作らされるのよ。それを使って、召喚をしてもらって対価を稼ぐの」
「つまり、その本がこちらの手もとに渡れば召喚を阻止できるということか?」
「そういうことね。現にバカが召喚してたじゃない」
バカとは王弟の息子ミータスのことだ。一応は故人になってしまったのだから、名前で呼んだほうが良いような気もするが、魔族には関係のない考えか。
「なあ、ロッシュ。その本を手に入れる方法はないか?」
そんな方法があれば、今頃やって……あっ、あるかも。そういえば、盗……拝借することが得意な組織があったな。
「その顔は心当たりがありそうだな。それをやってみないか? 公国はかつてないほど王国を追い詰めている。今叩かなければ、いずれ勢力を盛り返すだろう。その時間は然程ないと思うぞ」
ふむ。僕は頷いた。とりあえず、やるだけやってもらおう。一旦部屋を出ることにした。そして、ハトリを呼び出した。すぐにやってきたハトリは涙ぐみながら僕に抱きついてきた。
「ようやく……ようやく呼んでくださいましたね。私のことを忘れているのではないかと思いましたよ」
忘れていたわけではないねど、最近はハトリを通さなくても忍びの里から情報が入るようになったからな。ハトリを仲介する必要性が乏しくなっていたのだ。
「それだったら、もう隠れてないで堂々としていたらどうだ? ハトリも公国の一員で僕の部下なのだから」
僕としてはいい考えだと思っているのだが、ハトリはきっぱりと断ってきた。
「それはできません。私の美学に反するので」
「それじゃあ、今までどおりだな。ハトリを呼び出す機会はこれが最期かも知れないな」
「ぐぐぐ……。分かりましたよ。ちょっとは人前に姿を現しますから。そんなことは言わないでください」
「分かった分かった。ところで話は聞いていたな? 出来そうか?」
「分かりません、としか言いようがありません。所在も分かりませんし、未だに発見したという報告もありません。おそらく王都のどこかにあるのでしょうが……もうちょっと深い部分まで探る必要がありそうですね」
ハトリがいうには調査だけでもかなりの時間がかかるそうだ。そうなると公国の軍の立て直しが先か、僕達が召喚の書を奪い、レントークと共に王国打倒の軍を起こすのが先か、微妙な感じになってきたな。それでも希望があるだけマシかも知れないな。今すぐ、王国打倒の軍を起こしても魔族による返り討ちがあるかも知れないからな。
「ハトリ、この任務はこれからの公国の命運を分ける重要なものだ。脅しているわけではないが、念押しのつもりで言う。頼むぞ」
「ハッ!!」
そう言うとハトリはどこへともなく消えていった。僕は再び部屋に戻ると、皆の注目が集まる。僕は頷くと、皆にはそれだけで伝わった。ミヤもどことなくホッとした様子だ。それでは話は終わりだな。
そうもいかなかった。対魔族という答えが見えない話し合いに突入したのだ。ミヤも何故か面白そうに話に参加していた。それも魔族に寄った話し方でライルやグルドが提案する度に粉砕していった。ミヤがいる限り、この話し合いに終わりはないのではないだろうか。
結局、解放されたのは日が暮れようとしていたときだった。おそらく祭りはすでに始まっていることだろう。聞こえない祭囃子が脳内で再生されていく。ゴードンも同じような気持ちなのだろうか。しきりに窓の外を覗き、時間帯を気にしているような表情を浮かべていた。
「長く拘束して申し訳なかったな。私としては王国打倒を一日も早く達成して、公国を真の平和な国家として君臨させたいのだ」
それにはライルが感心したような声を上げた。
「ほお。ルドベックはそんなことを考えていたのか。なるほどな。たしかに俺のような亜人からしたら、公国はこれ以上ない国だ。しかし、ルドベックがそんなことを言うのは珍しいな。何かあったのか?」
実は話を聞くと、マリーヌが妊娠したようなのだ。戦争をしている国に生まれてほしくないという親心らしい。なんとも微笑ましいことだが、危うさも同時に感じてしまう。気のせいだと良いが。ルドの屋敷を出ると、待機していた兵たちと共に都へ凱旋することにした。
5
お気に入りに追加
2,667
あなたにおすすめの小説

病弱が転生 ~やっぱり体力は無いけれど知識だけは豊富です~
於田縫紀
ファンタジー
ここは魔法がある世界。ただし各人がそれぞれ遺伝で受け継いだ魔法や日常生活に使える魔法を持っている。商家の次男に生まれた俺が受け継いだのは鑑定魔法、商売で使うにはいいが今一つさえない魔法だ。
しかし流行風邪で寝込んだ俺は前世の記憶を思い出す。病弱で病院からほとんど出る事無く日々を送っていた頃の記憶と、動けないかわりにネットや読書で知識を詰め込んだ知識を。
そしてある日、白い花を見て鑑定した事で、俺は前世の知識を使ってお金を稼げそうな事に気付いた。ならば今のぱっとしない暮らしをもっと豊かにしよう。俺は親友のシンハ君と挑戦を開始した。
対人戦闘ほぼ無し、知識チート系学園ものです。

荷物持ちだけど最強です、空間魔法でラクラク発明
まったりー
ファンタジー
主人公はダンジョンに向かう冒険者の荷物を持つポーターと言う職業、その職業に必須の収納魔法を持っていないことで悲惨な毎日を過ごしていました。
そんなある時仕事中に前世の記憶がよみがえり、ステータスを確認するとユニークスキルを持っていました。
その中に前世で好きだったゲームに似た空間魔法があり街づくりを始めます、そしてそこから人生が思わぬ方向に変わります。

明日を信じて生きていきます~異世界に転生した俺はのんびり暮らします~
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生した主人公は、新たな冒険が待っていることを知りながらも、のんびりとした暮らしを選ぶことに決めました。
彼は明日を信じて、異世界での新しい生活を楽しむ決意を固めました。
最初の仲間たちと共に、未知の地での平穏な冒険が繰り広げられます。
一種の童話感覚で物語は語られます。
童話小説を読む感じで一読頂けると幸いです

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

【完結】神スキル拡大解釈で底辺パーティから成り上がります!
まにゅまにゅ
ファンタジー
平均レベルの低い底辺パーティ『龍炎光牙《りゅうえんこうが》』はオーク一匹倒すのにも命懸けで注目もされていないどこにでもでもいる冒険者たちのチームだった。
そんなある日ようやく資金も貯まり、神殿でお金を払って恩恵《ギフト》を授かるとその恩恵《ギフト》スキルは『拡大解釈』というもの。
その効果は魔法やスキルの内容を拡大解釈し、別の効果を引き起こせる、という神スキルだった。その拡大解釈により色んなものを回復《ヒール》で治したり強化《ブースト》で獲得経験値を増やしたりととんでもない効果を発揮する!
底辺パーティ『龍炎光牙』の大躍進が始まる!
第16回ファンタジー大賞奨励賞受賞作です。

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?
歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。
それから数十年が経ち、気づけば38歳。
のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。
しかしーー
「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」
突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。
これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。
※書籍化のため更新をストップします。

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~
しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」
病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?!
女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。
そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!?
そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?!
しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。
異世界転生の王道を行く最強無双劇!!!
ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!!
小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!

【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~
石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。
ありがとうございます
主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。
転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。
ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。
『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。
ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする
「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる