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第378話 レントーク決戦終結
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王国軍が最後の兵力でこちらに進軍してくる。最後の一兵になるまで戦う意味がこの戦にはあるのだろうか? この戦で王国軍が失った兵はあまりにも多すぎる。それでも、無謀にもこちらに攻めの一手を打ってくる。ただ、無謀と言ったがこちらもとても戦争を継続できる状態ではない。全軍が砦に入った後に、訳の分からない魔族に強大な魔法を使われ、多数の兵が瓦礫に埋もれてしまっている状態だ。
幸い、将軍たちは無事で、少しずつ兵たちも起き上がり始めている。しかし、この状態では王国軍に対抗することは難しいだろう。
「ライル!! どれ位の時間が必要だ?」
「三十分だ」
三十分か……。後ろにいるミヤと眷属、リード、ルード、ドラドは全員無事だ。魔馬は無事だったが、魔馬に乗っていた兵士は怪我を負っている状態だ。敵軍が来るまで十分程度だ。四万人相手に堪えられるだろうか? するとミヤがすっと横に立った。
「時間稼ぎをすればいいんでしょ? だったら、敵の大将を潰しに行きましょう。こんな少数で、馬鹿正直に一人一人の兵を相手にする必要なんてないわよ。私達が敵の中心に突進していくの。どうせ、あっちには私達を止められる者なんていないわ」
甘美な言葉だった。そんな突撃が成功すれば、自軍の消耗もなく戦争をすぐに終わらせることができる。しかし、一歩間違えれば包囲され、逃げ場もなく窮地に追い込まれることになるのだ。ミヤ達が信頼できないわけではない。ミヤ達にはそれだけの力があるのだが。
「ダメだ。僕にはミヤたちが危険になる作戦はできない。別の方法を考えよう」
ミヤは特に不満を漏らすことはなかった。おそらく僕が、こう言うであろうと分かっていたかのようだった。
「そしたらロッシュは壁を作りなさい。敵はどうせ砦内にいる兵士たちを殺したいんでしょうから」
分かった。王国兵が砦に入れないような壁を作ればいいんだな。
「違うわよ。私達が砦前に陣取るから、田んぼ一枚分を囲めるくらいの壁を作って欲しいの。さすがに私達でも同時に相手出来る人数は限られているわ。私達は、その壁の中にいる敵だけを相手にするのよ」
なるほど。ようやく合点がいって、田んぼ一枚分の幅の双璧を作ることにした。片方はシラーに任せ、敵が来る直前まで壁を高くした。足の早い王国軍の兵士は肉薄するほど接近してくる。しかしその者達は、ミヤと眷属達によって形が無くなっていく。それにしても、ミヤの口から田んぼ一枚分とは。さすが私の妻だ。
「なんとか間に合ったな」
「お疲れ様。あとは後ろで見ていなさい。まぁ、風魔法で壁の外側にいる王国軍を吹き飛ばしてくれると助かるかも」
「了解!!」
僕とルードはできたての壁によじ登り、迫ってくる敵たちを風魔法で吹き飛ばしていく。ルードはさすがに風魔法の制御が上手く、敵をしっかりと砦に向かうように誘導していく。壁と言っても全体に広がっているわけではなく、砦の正面だけに作っているため、回り込まれる心配が常にある。
王国軍は砦前に群がり、細い通路に押し込まれるように流れていく。その先に待っているミヤたちに、次々と吹き飛ばされ、軍の後方で転がっている。その光景がしばらく続いたが、王国軍が引き下がる気配は微塵もない。なんというしつこさなんだ。するとライルが足を引きずりながらやってきた。怪我をしていたのか。
「ロッシュ公。すまねえ。けが人が思ったよりも多くて編成が難しそうだ。撤退の判断をしてくれないか?」
「数千人でもいいんだ。どうになからないか」
「すまねえ」
ライルはくやしさを滲ませながら、僕の言葉を拒絶する。ミヤたちの様子を見るとまだまだ疲れを知らないと言った様子だが、やる気はかなり落ちている。単純作業のようで嫌気が差してきたのだろう。仕方ない。撤退を選択するしかないようだな……そう思っていると、北から見知らぬ勢力が王国軍めがけて突撃を開始していた。
その姿は勇猛そのもので、手当り次第王国軍に牙を向いていく。ガモン将軍だ。大森林に潜ませていたから無傷だったのか。いいタイミングだ。しかし、王国軍とてやられてばかりではない。急に現れたガモン隊をすぐに追い詰め始める。五千人程度では意味がなかったか。
その時、砦南方の海岸線から大きな地鳴りのような声が聞こえてきたかと思うと、王国軍に突撃を始めた。次は一体何だ。ライルもその光景をじっと見ている。
「これはすげえな。七家軍だぜ。持ち直しやがったか。こっちもうかうかしてられねえな。ロッシュ公。すまねえが俺の足を治してくれ。千人でもいいから、かき集めてくるぜ」
すぐにライルの足を治療をすると、ライルは砦の方に駆け出していった。瞬く間にライルは、グルド将軍、ガムド将軍と千人程度の公国兵を連れてきた。ライル隊がミヤ達の横を通過し、砦の眼前に迫る敵たちに攻撃を仕掛け始めた。王国軍は、三方からの攻撃に初めて動揺を見せた。敵の指揮官は声を荒らげるが、敵兵士は目の前に迫る公国軍の兵士への対応に負われて、指揮系統が機能していない様子だ。
こうなれば、王国軍は弱い。公国軍からはガモン隊五千人、ライル隊千人と寡兵ではあるが士気は旺盛で、獅子奮迅の働きをしている。それだけではとても王国軍を追い詰めることは出来ないが、七家軍三万人が参加したことで一気に形勢が逆転したのだ。七家軍の先頭にはアロンの姿があった。そして後方には……サルーン? あいつも戦争に参加したのか。
七家筆頭当主が軍に加わったことで、兵の覇気が違う気がする。先の戦いでは王国軍に圧倒されていたが、今は微塵もない。七家軍の本領を見た気がする。三方に展開している公国軍と七家軍は徐々に包囲網を小さくし、王国軍を追い詰めていく。
すると王国軍の一部が戦線を離脱し始めた。おそらく王弟だろう。王弟は戦線から離脱するタイミングを明らかに間違っていた。なぜ今逃げる? 逃げるなら、もっと前に逃げるべきでしょ。
「この後に及んで……逃がしてなるものか」
僕はそう呟き、公国軍と七家軍の様子を見るが、両軍には追手を出すだけの余裕はなさそうだ。それならば……。
「ミヤ!! 僕達が王弟を追うぞ!! この戦争はこれで終わりにする!!」
ハヤブサを呼び、すぐに跨ぐとミヤの返事も待たずに飛び出していった。その後ろに続くのは、北の森から来たフェンリル隊だ。更に後ろにミヤと眷属が従ってくる。ミヤは明らかに僕を睨んでいる。あとで小言を言われそうだ。
フェンリルの速さで、戦線を離脱していった敵部隊にはすぐに追いつくことが出来た。敵部隊は王弟を庇うように撤退していたが、本当に少ない供回りだったため、既にフェンリル達で取り囲まれている。
「王弟よ。もう観念したらどうだ? お前がいなくなれば、この戦争は終わる。さっさとその馬車から出てこい」
王弟は馬車に乗ったままでいる。未だに姿は見えないが、馬車に翻っている旗は紛れもなく王弟のもの。供回りは観念した様子もなく、剣を構えたままこちらを睨んでくる。往生際が悪いな。
「ドラド。本当の姿を見せてやれ。ここならば誰にも見られまい」
「ようやく我の出番か。ロッシュはてっきり我を忘れているかと思ったぞ。あまり人間たちの争いには関わりたくはないのだが、ミヤ達だけでは少し心もとないからな」
使い方が難しいんだよな。基本的に戦争では個人の戦闘能力に頼ることはめったにない。ミヤと眷属は連携が上手く、多人数を相手にしても難なくこなしていく。リードとルードは狙撃という点で使い勝手がいいのだ。ドラドは確かに戦闘能力では妻の中でも一番を誇るだろう。しかし、戦争となれば話は別なのだ。
ドラドは息を吸い込むと、本来の姿に変身していく。相変わらずの巨体をさらけ出し、少し吐いた息がブレスとなって王弟の供回りに容赦なく降りかかる。なんとか耐える供回りだったが、その代償として鎧は吹き飛び、一糸まとわぬみっともない格好になっていた。まさに、剣もなくなり裸一貫となった供回りも、流石に断念したように座り込んでしまった。
そして、ようやく馬車の扉が開けられ転がるように男が地べたに這いつくばった。
「ど、どうか命だけは……」
「お前は誰だ?」
ミヤたちに顔を向けるが知っているわけがないか。すると供回りが勝手に答えた。
「こ、このお方は王弟殿下御嫡男、ミータス殿下だ。ず、頭が高いぞ!!」
その言葉は言わなくてはいけないものなのか? 言葉より手が早いミヤはその男を蹴り飛ばし、数メートル先で肉の塊になっていた。その姿を見てから、ミータスを見下した。かなり怯えているな。それもそうか。目の前にドラゴンが控え、馬ほどもあるフェンリルが取り囲み、一騎当千の活躍をしていた吸血鬼族がいるのだから。
「さて、ミータスと言ったか。今回の戦の首謀者はお前か?」
ミータスは無言を貫く。
「言いたくなければ、それでいいぞ」
その言葉をどう勘違いをしたのかわからないが、ミータスは馬車によじ登ろうとしていた。
「なにをしているんだ? 馬車に忘れ物でもしたか?」
怯えたような表情をしているミータスはこちらを振り向く。
「み、見逃してくれるんじゃないのか? さっき、そういったではないか?」
? そんなこと言ったか? こいつは話が通じないタイプなのか?
「よく分からないな。こんな戦争を仕掛けておいて、生きて戦場から出られると思うなよ。お前にはこれから皆の判断を仰がねばならない。僕の一存でも構わないだろうが……お前には色々と聞きたいことがあるからな。ただ一つ。あの魔族を召喚したどうかを説明してもらおうか」
こんなところで再び召喚されては堪ったものではないからな。しかしミータスは首を横に振るばかりだ。どうも話が出来ないな。眷属に命令し、締め上げてもらうことにした。
「な、無いんだ!! ここにはもう無いんだ」
「どういうことだ?」
「魔族を召喚する魔導書は、さっき使ったら消えてしまったんだ。本当だ。どこを探してくれてもいい」
消えた? 一度しか使えない代物なのか? するとミヤが呟く。
「どうやら、持ち主はこいつじゃないようね。大方、盗んできたのよ」
「ち、違うぞ!! あの魔導書は確かに父上のものだ。しかし、いずれは僕が相続するんだ。つまり僕の物と言ってもいいはずだ」
違うぞ!! といいたいがミータスという男は頭が悪いようだ。何を言っても通じまい。とにかく締め上げて、この戦争の実態を知ったら、煮るなり焼くなりアロンたちに任せればいいだろう。
空を見上げた。空は青く澄んでいる。とにかく戦争が終わったのだな。
幸い、将軍たちは無事で、少しずつ兵たちも起き上がり始めている。しかし、この状態では王国軍に対抗することは難しいだろう。
「ライル!! どれ位の時間が必要だ?」
「三十分だ」
三十分か……。後ろにいるミヤと眷属、リード、ルード、ドラドは全員無事だ。魔馬は無事だったが、魔馬に乗っていた兵士は怪我を負っている状態だ。敵軍が来るまで十分程度だ。四万人相手に堪えられるだろうか? するとミヤがすっと横に立った。
「時間稼ぎをすればいいんでしょ? だったら、敵の大将を潰しに行きましょう。こんな少数で、馬鹿正直に一人一人の兵を相手にする必要なんてないわよ。私達が敵の中心に突進していくの。どうせ、あっちには私達を止められる者なんていないわ」
甘美な言葉だった。そんな突撃が成功すれば、自軍の消耗もなく戦争をすぐに終わらせることができる。しかし、一歩間違えれば包囲され、逃げ場もなく窮地に追い込まれることになるのだ。ミヤ達が信頼できないわけではない。ミヤ達にはそれだけの力があるのだが。
「ダメだ。僕にはミヤたちが危険になる作戦はできない。別の方法を考えよう」
ミヤは特に不満を漏らすことはなかった。おそらく僕が、こう言うであろうと分かっていたかのようだった。
「そしたらロッシュは壁を作りなさい。敵はどうせ砦内にいる兵士たちを殺したいんでしょうから」
分かった。王国兵が砦に入れないような壁を作ればいいんだな。
「違うわよ。私達が砦前に陣取るから、田んぼ一枚分を囲めるくらいの壁を作って欲しいの。さすがに私達でも同時に相手出来る人数は限られているわ。私達は、その壁の中にいる敵だけを相手にするのよ」
なるほど。ようやく合点がいって、田んぼ一枚分の幅の双璧を作ることにした。片方はシラーに任せ、敵が来る直前まで壁を高くした。足の早い王国軍の兵士は肉薄するほど接近してくる。しかしその者達は、ミヤと眷属達によって形が無くなっていく。それにしても、ミヤの口から田んぼ一枚分とは。さすが私の妻だ。
「なんとか間に合ったな」
「お疲れ様。あとは後ろで見ていなさい。まぁ、風魔法で壁の外側にいる王国軍を吹き飛ばしてくれると助かるかも」
「了解!!」
僕とルードはできたての壁によじ登り、迫ってくる敵たちを風魔法で吹き飛ばしていく。ルードはさすがに風魔法の制御が上手く、敵をしっかりと砦に向かうように誘導していく。壁と言っても全体に広がっているわけではなく、砦の正面だけに作っているため、回り込まれる心配が常にある。
王国軍は砦前に群がり、細い通路に押し込まれるように流れていく。その先に待っているミヤたちに、次々と吹き飛ばされ、軍の後方で転がっている。その光景がしばらく続いたが、王国軍が引き下がる気配は微塵もない。なんというしつこさなんだ。するとライルが足を引きずりながらやってきた。怪我をしていたのか。
「ロッシュ公。すまねえ。けが人が思ったよりも多くて編成が難しそうだ。撤退の判断をしてくれないか?」
「数千人でもいいんだ。どうになからないか」
「すまねえ」
ライルはくやしさを滲ませながら、僕の言葉を拒絶する。ミヤたちの様子を見るとまだまだ疲れを知らないと言った様子だが、やる気はかなり落ちている。単純作業のようで嫌気が差してきたのだろう。仕方ない。撤退を選択するしかないようだな……そう思っていると、北から見知らぬ勢力が王国軍めがけて突撃を開始していた。
その姿は勇猛そのもので、手当り次第王国軍に牙を向いていく。ガモン将軍だ。大森林に潜ませていたから無傷だったのか。いいタイミングだ。しかし、王国軍とてやられてばかりではない。急に現れたガモン隊をすぐに追い詰め始める。五千人程度では意味がなかったか。
その時、砦南方の海岸線から大きな地鳴りのような声が聞こえてきたかと思うと、王国軍に突撃を始めた。次は一体何だ。ライルもその光景をじっと見ている。
「これはすげえな。七家軍だぜ。持ち直しやがったか。こっちもうかうかしてられねえな。ロッシュ公。すまねえが俺の足を治してくれ。千人でもいいから、かき集めてくるぜ」
すぐにライルの足を治療をすると、ライルは砦の方に駆け出していった。瞬く間にライルは、グルド将軍、ガムド将軍と千人程度の公国兵を連れてきた。ライル隊がミヤ達の横を通過し、砦の眼前に迫る敵たちに攻撃を仕掛け始めた。王国軍は、三方からの攻撃に初めて動揺を見せた。敵の指揮官は声を荒らげるが、敵兵士は目の前に迫る公国軍の兵士への対応に負われて、指揮系統が機能していない様子だ。
こうなれば、王国軍は弱い。公国軍からはガモン隊五千人、ライル隊千人と寡兵ではあるが士気は旺盛で、獅子奮迅の働きをしている。それだけではとても王国軍を追い詰めることは出来ないが、七家軍三万人が参加したことで一気に形勢が逆転したのだ。七家軍の先頭にはアロンの姿があった。そして後方には……サルーン? あいつも戦争に参加したのか。
七家筆頭当主が軍に加わったことで、兵の覇気が違う気がする。先の戦いでは王国軍に圧倒されていたが、今は微塵もない。七家軍の本領を見た気がする。三方に展開している公国軍と七家軍は徐々に包囲網を小さくし、王国軍を追い詰めていく。
すると王国軍の一部が戦線を離脱し始めた。おそらく王弟だろう。王弟は戦線から離脱するタイミングを明らかに間違っていた。なぜ今逃げる? 逃げるなら、もっと前に逃げるべきでしょ。
「この後に及んで……逃がしてなるものか」
僕はそう呟き、公国軍と七家軍の様子を見るが、両軍には追手を出すだけの余裕はなさそうだ。それならば……。
「ミヤ!! 僕達が王弟を追うぞ!! この戦争はこれで終わりにする!!」
ハヤブサを呼び、すぐに跨ぐとミヤの返事も待たずに飛び出していった。その後ろに続くのは、北の森から来たフェンリル隊だ。更に後ろにミヤと眷属が従ってくる。ミヤは明らかに僕を睨んでいる。あとで小言を言われそうだ。
フェンリルの速さで、戦線を離脱していった敵部隊にはすぐに追いつくことが出来た。敵部隊は王弟を庇うように撤退していたが、本当に少ない供回りだったため、既にフェンリル達で取り囲まれている。
「王弟よ。もう観念したらどうだ? お前がいなくなれば、この戦争は終わる。さっさとその馬車から出てこい」
王弟は馬車に乗ったままでいる。未だに姿は見えないが、馬車に翻っている旗は紛れもなく王弟のもの。供回りは観念した様子もなく、剣を構えたままこちらを睨んでくる。往生際が悪いな。
「ドラド。本当の姿を見せてやれ。ここならば誰にも見られまい」
「ようやく我の出番か。ロッシュはてっきり我を忘れているかと思ったぞ。あまり人間たちの争いには関わりたくはないのだが、ミヤ達だけでは少し心もとないからな」
使い方が難しいんだよな。基本的に戦争では個人の戦闘能力に頼ることはめったにない。ミヤと眷属は連携が上手く、多人数を相手にしても難なくこなしていく。リードとルードは狙撃という点で使い勝手がいいのだ。ドラドは確かに戦闘能力では妻の中でも一番を誇るだろう。しかし、戦争となれば話は別なのだ。
ドラドは息を吸い込むと、本来の姿に変身していく。相変わらずの巨体をさらけ出し、少し吐いた息がブレスとなって王弟の供回りに容赦なく降りかかる。なんとか耐える供回りだったが、その代償として鎧は吹き飛び、一糸まとわぬみっともない格好になっていた。まさに、剣もなくなり裸一貫となった供回りも、流石に断念したように座り込んでしまった。
そして、ようやく馬車の扉が開けられ転がるように男が地べたに這いつくばった。
「ど、どうか命だけは……」
「お前は誰だ?」
ミヤたちに顔を向けるが知っているわけがないか。すると供回りが勝手に答えた。
「こ、このお方は王弟殿下御嫡男、ミータス殿下だ。ず、頭が高いぞ!!」
その言葉は言わなくてはいけないものなのか? 言葉より手が早いミヤはその男を蹴り飛ばし、数メートル先で肉の塊になっていた。その姿を見てから、ミータスを見下した。かなり怯えているな。それもそうか。目の前にドラゴンが控え、馬ほどもあるフェンリルが取り囲み、一騎当千の活躍をしていた吸血鬼族がいるのだから。
「さて、ミータスと言ったか。今回の戦の首謀者はお前か?」
ミータスは無言を貫く。
「言いたくなければ、それでいいぞ」
その言葉をどう勘違いをしたのかわからないが、ミータスは馬車によじ登ろうとしていた。
「なにをしているんだ? 馬車に忘れ物でもしたか?」
怯えたような表情をしているミータスはこちらを振り向く。
「み、見逃してくれるんじゃないのか? さっき、そういったではないか?」
? そんなこと言ったか? こいつは話が通じないタイプなのか?
「よく分からないな。こんな戦争を仕掛けておいて、生きて戦場から出られると思うなよ。お前にはこれから皆の判断を仰がねばならない。僕の一存でも構わないだろうが……お前には色々と聞きたいことがあるからな。ただ一つ。あの魔族を召喚したどうかを説明してもらおうか」
こんなところで再び召喚されては堪ったものではないからな。しかしミータスは首を横に振るばかりだ。どうも話が出来ないな。眷属に命令し、締め上げてもらうことにした。
「な、無いんだ!! ここにはもう無いんだ」
「どういうことだ?」
「魔族を召喚する魔導書は、さっき使ったら消えてしまったんだ。本当だ。どこを探してくれてもいい」
消えた? 一度しか使えない代物なのか? するとミヤが呟く。
「どうやら、持ち主はこいつじゃないようね。大方、盗んできたのよ」
「ち、違うぞ!! あの魔導書は確かに父上のものだ。しかし、いずれは僕が相続するんだ。つまり僕の物と言ってもいいはずだ」
違うぞ!! といいたいがミータスという男は頭が悪いようだ。何を言っても通じまい。とにかく締め上げて、この戦争の実態を知ったら、煮るなり焼くなりアロンたちに任せればいいだろう。
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