爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。

秋田ノ介

文字の大きさ
上 下
376 / 408

第375話 新手への対処

しおりを挟む
 王国軍が十五万人。王弟直下の精鋭が相手だ。一方、公国軍は三万五千人。戦いを終えたばかりの疲れた軍だ。新兵器の大砲も砲身が焼けてしまい、使える大砲もいくらもない。しかも、公国軍に地理に明るいものがいないときている。これ以上ないほど不利な状況だ。普通であれば、七家領を見捨てて公国に戻り、態勢を整えるという選択肢が妥当なところだろうな。

 作戦を考えている時にふとライルが笑っているのが視界に入った。

「ライル、何を笑っているんだ? いい作戦でも思いついたか?」

「いや、そうじゃないが。なんか懐かしいと思ってな。オレ達がまだ公国と名乗っていなかった頃、王国が攻めてきた時のことを覚えているか?」

「忘れもしないさ。あの時は村とラエルの街でなんとか食料が自給出来そうだった頃だ。そんなときに、確か二万人の王国軍が攻めてきたんだよな。人口が一万二千人しかいないところに大軍で攻めていたことを恨んだものだ」

「そうだ。あの時のオレ達は、千人が限界だった。しかも訓練された兵は少なく、ほとんどが狩猟や畑仕事しかしたこともない者だったな。あの時は、戦力差が二十倍もあったが、よく勝てたものだ。最初は誰も勝利を信じなかったけどな。それが今になって懐かしく思えたんだ」

「なるほど。今は、三万五千人の正規兵で構成され、兵器も充実している。それに、海上には多数の軍艦が待機している。あの頃は、一人が二十人を相手にしなければならなかったが、今回は、たった五人しかいない。比べてみれば、随分と簡単に感じてしまうな」

「ああ。その通りだ。それにあの時は援軍は期待できなかったが、今回は七家軍が後ろに控えていると思えば安心感が違う。一層のこと、こちらから出向くのはどうだ? どうせ王国軍はオレ達が守りに入ると踏んでいるはずだ。それの裏をかくんだ」

 それは面白そうだな。十五万人という数字に恐れを感じたが、その数を動かすことは容易なことではない。優秀な将軍が何人も居て、それを統率する者、各将軍の下にも部隊長が必要だ。果たして王国軍にそれだけの将軍がいるか? グルドに聞いてみると、じっと腕を組んで考えていた。

「オレが王国を離れて久しいが、優秀な将は自然と名前が表に出てくるものだ。オレが思いつくだけでも数人。ただ、そいつらがこの戦いに出ているかは分からないな。なんにしても、王弟が指揮官なら大したことはないな。王国軍十五万人相手に、こちらから出向くのはいい作戦かも知れないな」

 一応、基本方針が決まった。 公国軍が王国軍の態勢が整う前に攻勢を仕掛けることで、相手を混乱させ、こちらに有利な状況を作り出すということになった。そうなると、急がなければならないな。王国軍は、刻一刻とレントーク王国に近づいている。出来るならば、途中で攻撃を仕掛けたいところだ。

 そうなると、問題の焦点はどこで攻撃を仕掛けるか、ということになる。これについてはすぐに決まった。それは、レントーク王国と王国の国境にある砦だ。ここは、地形的には陸地がくびれている場所にあり、砦はもっとも細くなった場所に作られている。ここならば、海もすぐに望むことが出来るのだ。つまり、海上攻撃も可能な場所なのだ。

 すると見計らうようにガムドがやってきたのだ。

「皆さん、お揃いで。さて、海軍に出来ることはありますでしょうか?」

 ここまで決まったことをガムドに説明した。

「なるほど。それならば、全艦隊を砦付近の海域に布陣させましょう。艦上から一斉射撃をすれば、大きな被害を与えることが出来るでしょう。初手で全ての弾を使い切るつもりです。その後、海兵を引き連れ上陸し、皆さんと合流をするということでどうでしょうか?」

 艦上大砲の威力は折り紙付きだ。密集した十五万の軍に着弾すれば、被害は甚大だろう。飽和攻撃を仕掛ければ、初手から公国軍がかなり有利に攻撃を進めることが出来るだろう。

「いいじゃねえか。そういえば、移動式大砲は少ないがバリスタならたくさんあったよな? それを砦に設置しよう。ロッシュ公、砦の増強はできそうか?」

「どうだろうな? 土を盛り上げるだけなら簡単だな」

「十分だ。どうせ残された時間は少ないんだ。南の砦みたいな強固なものは無理だろう。王国兵が砦に張り付くまでの時間稼ぎさえできればいい。その間にバリスタで超長距離攻撃をしてやるぜ。それからは相手の出方次第だな。それだけで撤収してくれるといいんだが。まだ王弟がレントークに攻め込んでくる理由が分からないからな」

 そうなのだ。王弟が自ら動く理由が分からない。それほど王国内の状況が王弟にとって危機感を募らせるものなのだろうか。僕からすれば、王国は比較的安定した状態だと思っている。亜人の扱いについては見るに堪えないものだが、政治的には王弟に権限が集まり、意見を言うことが出来る者も限られている。それゆえ、王弟がわざわざ外征に赴き、失策の可能性を負う必要性はない。まさか、ライロイド王が。

 それとも、今回の戦いに必勝する方法でもあるということなのか? それならば納得はいくが……王国軍の軍様は従来と変わるところはない。新兵器の噂もないし、考え過ぎなのだろうか?

「ライル。今回の戦ではお前が総大将だ。全軍の指揮を頼むぞ」

 それに伴い、ニード将軍麾下の第三軍を解体し、第一軍と第二軍に振り分けた。第一軍にはグルド将軍を、第二軍をニード将軍を充て、ガムドには直轄の兵として五千人を割り当て、第一軍と第二軍にはそれぞれ一万四千を振り分けた。バリスタを含む大砲隊はライル直下とした。そして、ガムトと大砲の合図の確認をしてから、各軍出発するための準備に向かった。ライルは、基本的には僕の側で仕える状態だ。

「ライル。正直なところ、今回の戦をどう見る?」

「かなり苦戦はするだろう。今回は公国もほぼ全軍を投入している。この勝敗が公国と王国の優劣を決定づけることになるだろうな。だからこそ、王国はギリギリまで撤退という選択肢は採らないな。とにかく初手だ。それでこの戦いの結果がほぼ分かると言ってもいいだろう。ガムド将軍に期待だな」

 なるほど。やはりこの戦いは総力戦になる可能性が高いな。そうなるとミヤたちにも出てもらうしかなくなる。今のうちに話をしておいたほうがいいだろう。ライルに断ってから、ミヤ達がいる場所に向かった。なんだかんだでミヤ達と会ってない。新たに王国軍が来ていないければ。今頃戦勝に沸いていたと言うのに。

 ミヤ達は領外の近くで待機した状態だった。どうやら僕を待っていたようだ。

「ロッシュ。随分と待たせてくれたわね。勝ったんでしょ? さあ、帰りましょう。早くお風呂に入りたいわ」

「ミヤ、済まないが帰るのはもう少し後だ。実は……」

「はあ? まだ戦うわけ? まったく王国って国は、本当に往生際が悪いわね。いいわ。今度こそ、王弟ってやつを潰してくれるわ。それでこの戦争は終わりよ」

「ミヤ達はあくまでも僕の護衛に徹してもらうつもりだ。それにミヤは僕の妻だ。愛する者を簡単に敵地に送り込むなんてこと出来るわけ無いだろ? 眷属達も僕にとって大切な者たちだ。ミヤには、いつまでも僕の側にいてもらいたいと思っている。これからも、僕の側にいてくれるかい?」

「うん」

 言葉少なめに、ミヤは恥ずかしそうに俯いてしまった。

「エリスたちとも話したいが、時間がない。我々はすぐに出発することになる。ミヤと眷属、リード、ルード、ドラドは僕に付いてきてくれ。ミヤの眷属十人は引き続きエリス達の護衛を頼む」

 シラーにエリスたちへの伝言を頼んだ。エリスとシェラとクレイはこれから七家領の住民とともにサントーク王国に避難する。しばらく離れることになるが、とにかく自分たちの安全と住民達の安全だけ考えてほしいと伝えてもらった。シラーにはエリス達への伝言が終わったら、すぐに僕達を追ってきてもらうように頼むと、エリスたちの下に向かった。

「ミヤ。僕達も行こうか。今回の戦いが終われば、王国との戦いはある程度終わるだろう。そうしたら、皆とゆっくりとしたいものだな」

「そうね。私もゆっくりしたいわね。またみんなで温泉なんかもいいかもね。なんだかんだで楽しかったもの。そろそろ、オコトとミコトを受け入れてあげれば?」

 オコトとミコトは別に拒んでいるつもりはないんだが。どちらかというと向こうが遠慮していると言うか、やはり忍びの里を抜けたことに何かしらの負い目を感じているのかも知れない。まぁ、この戦いが終わったら、考えてみてもいいかも知れないな。一生、屋敷……ではなかった。城で家政婦というのもな。

「分かったよ。温泉も含めて、皆が楽しめるように考えよう。さて、急ごうか」

 一足先に砦を補強するため、ミヤ、リード、ルード、ドラド、眷属達とフェンリル、魔馬隊で向かうことにする。ライルとその直下の部下は、船からバリスタと大砲持って向かうことにした。七家領からは東の道を使うと辿り着くことができる。今から出発すれば、僅差で王国軍よりも早く砦に到着することが出来るだろう。砦に向かう道中は、明るい表情をするものはほとんどいなかった。やはり、これからの戦争が公国にとって悲壮なものになることを誰もが予想しているのだろう。外国という土地で、戦うのはやはり厳しいな。特に、ライルとグルドに付いてきた者たちはこの地への思い入れは薄い。

 一応はレントーク王国出身者が公国軍には多いが、そのうちのどれだけがレントーク王国に思い入れを持っているだろうか。僕だって、この地がクレイの出身地でなければ、ここまで積極的に戦いに赴くか分からない。ただ、今はこの戦争が王国との最終戦という気持ちでだけで、砦に向かっている。

 砦が見えてくると、その粗末な砦を見て愕然としてしまった。国境にある砦と聞いていたので、それなりに立派なものがあると思っていたが、ほぼ廃墟と言った様子だ。一応はレンガ造りで外壁があるが、かろうじて外壁と見える程度だ。中はただ更地が広がっており、敵が来たら頼りない外壁一枚で対抗しなければならない。これほど心もとない砦も珍しい。

 それでも場所は良かった。やや高台にあり、遠くを一望することができる。比較的勾配のきつい坂があるため王国軍の体力を奪い取ってくれることだろう。それに海が思ったよりも近かったことだ。海と陸には遮蔽物はなく、海からもこちらを簡単に眺めることが出来る。これならば初手からこちらが有利に運べることができそうだ。

 とにかく短時間で強固な砦を構築するためにシラーとルードに協力をしてもらうことになったのだ。
しおりを挟む
感想 38

あなたにおすすめの小説

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

【幸せスキル】は蜜の味 ハイハイしてたらレベルアップ

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前はアーリー 不慮な事故で死んでしまった僕は転生することになりました 今度は幸せになってほしいという事でチートな能力を神様から授った まさかの転生という事でチートを駆使して暮らしていきたいと思います ーーーー 間違い召喚3巻発売記念として投稿いたします アーリーは間違い召喚と同じ時期に生まれた作品です 読んでいただけると嬉しいです 23話で一時終了となります

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜

霞杏檎
ファンタジー
祝【コミカライズ決定】!! 「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」 回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。 フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。 しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを…… 途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。 フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。 フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった…… これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である! (160話で完結予定) 元タイトル 「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」

知識スキルで異世界らいふ

チョッキリ
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

処理中です...