爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。

秋田ノ介

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第363話 公国軍との合流

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 サントーク王国を出発してからしばらく北に向け進んでいた。王には大森林が広がっていると聞かされていたが、本当に右も左も前も後ろもすべてが木に覆われた世界だった。歩いている道も人が行き来することで踏み固められて、なんとか木の侵食を逃れていると言う感じだ。地面はデコボコとしており、時々木の根が道に横たわるように露出しており、跨いで行かねばならない。はっきり言って悪路だ。

 ただ、そんな道でも、なければ森で迷う自信がある。ガモンの案内で目的地である小さな漁村に向かっている。ガモンは王が僕に託したサントーク軍の名将だ。なけなしの兵五千人と共に僕に預けられた。兵は屈強そうな亜人だが、所持している武器は粗末なものが多く防具は獣の革をなめしたものを身に着けているだけだ。蛮族という言葉がお似合いの集団だ。そんな彼らもサントーク王家への忠誠心は高い。

 王から託された集団は、次の主としてエリスを選んだようだ。道中でもマリアナ様と言って慕っている様子が時々見ることが出来た。エリスもその度に自分の名前を直していたが、全く直る気配がないので最後は諦めた感じだ。それにしてもミヤの様子がおかしい。エリスと再会してから離れようとしないのだ。エリスがなにやら人気者になったようだな。

 まる1日歩くと集落のような場所に出ることが出来た。集落のような、というのは建物が何軒か建っているのだが人の気配がないのだ。ただ建物の様子から少し前までは使っていたような感じだが。建物を観察しているとガモンが近寄ってきた。

「ロッシュ公。今日はとりあえず、ここを野営地としましょう。久々に開けた場所ですからゆっくりと休めるでしょう」

 ここがどういう場所か聞くと、少しガモンの表情が曇った。

「ここはレントーク王国との物資を交換するための場所として利用していたのです。ただ数年前からレントーク王国がアウーディア王国との取引が増えだしていったのか、我らとの取引に応じなくなったのです。それからは当てにしていたレントーク王国からの食料は途絶え、山から採れる食料に頼る生活になったのです」

 なるほど。レントーク王国では農業はほとんどやらないと聞いていたが、サントークも例外ではないのだな。僕からすれば海もあり山もある。見たところ、木々があるが豊かな印象だ。農業をするには適している場所と言えるのだが。こればかりは民族の違いと思って今は諦めるしかないな。もっとも僕がサントーク王国の主になったからには農業振興は必須だけどね。

 しばらくして、ようやく一本道ではない分岐した道に出ることが出来た。ガモンが言うには西に行くと食料庫がある街に出るらしく、東に行けば七家領に行くことが出来るようだ。最初の攻略目標は食料庫がある街だが、今は仲間と合流するために東に向かうしかない。ガモンに指示を出し、東へと進路を変えた。

 それからもずっと続く森に辟易しながらも、再び分岐する道に遭遇した。北と東に向かう道だ。北に進むと七家領、東に進むと目的地の小さな漁村だ。ただ、東に向かう道といってもほとんど獣道に等しいほど荒れ果てている。これは何年も人が出入りしている様子がないな。ガモンもこの先に仲間が待っているという僕の言葉が信用できないようだ。

「ロッシュ公。この先に本当に漁村なんてあるのでしょうか? 私も何十回とこの道を通っていますが、未だに漁村に向かう人を見たことがないのですが?」

「おそらく漁村があったというのは随分昔の話なのだろうな。僕も驚いているんだ。しかし、レントーク王国に上陸するための場所として、この先の漁村を指定しているのだから、絶対にいるはずだ」

 ガモンとの話はずっと平行線だった。段々と僕の方も自信が無くなってくる。本当にいるのだろうか? そんな疑問が胸の中で巻き起こる中、ようやく森を抜け海が見える場所に出ることが出来た。すると僕はつい笑ってしまった。望んでいた物があったからだ。

 沖の方にだが、公国の船が七隻停泊していた。船上の様子は伺うことは出来ないが、めだった破損も見られないので、あの嵐を無事に抜け出すことが出来たようだな。浜の方に向かって歩いていくと、向こうから武装した数十人の兵がこちらに向かってきた。どうやら敵と認識しているようでクロスボウを構えながら近寄ってきた。

 ふと、失敗したことに気付いた。案内をさせるためにサントーク兵を全面に出していたんだっけ。これでは疑われても無理はないな。集団の前に出て、公国兵に姿を見せた。それでも公国兵は構えを解く気はない。あれ? 僕の顔を知らないのか? 後ろからミヤ達が駆け寄ってきて、ようやく構えを解いた。僕より妻たちのほうが顔を知られているってことなのか? ……ショックだ。

 到着したことは、すぐに公国軍将軍ニードの耳に入ったようで、副官のイハサが僕達の出迎えにやってきた。

「イルス公。ご無事でしたか!! 我らも方々を探索に当たったのですが見つけられず、帰国しようにも出来ずに途方に暮れておりました。いや、本当に良かった。とにかく、ニード将軍がイルス公をお待ちしております。ところで、こちらにいるお方たちは?」

 イハサはするどい眼光でガモン達を見つめる。そんなイハサに笑いながら、緊張をしなくていいことを告げた。経緯は……面倒なので、ニードに会ってからにしよう。イハサの案内で浜に向かうと、そこには一万人以上の公国兵が僕達を歓迎してくれた。その様子にガモンも驚いたようで、特に軍容に関心をしていた。

「ロッシュ公。公国というのがどれほど豊かなのかわかったような気がします。サントーク兵がまるで蛮族のようですな」

 どう返事していいか困ったが、まずは今まで従ってくれた者たちに礼を言って公国軍と合流をしてもらうことにした。妻たちには魔馬とフェンリルを乗せた船がくるまでこの地で休養することを言い、僕とガモンはニードが待つ幕舎に向かうことにした。

「イルス公。ご無事で何より。我らはいささかも心配もしておりませんでしたぞ。神がかり的な技をいくつも持つイルス公があのような嵐ごときに負けるわけはないと。イハサは心配症な男ゆえ、方々を探し回っておりましたが。やはり生きていただろ? イハサ」

 イハサは苦々しくニードを睨む。両者はきっと僕がいない間に揉めたのだろうと簡単に想像が出来た。僕はガモンを二人に紹介した。

「この者はガモン将軍だ」

 将軍という肩書に二人はピクリと反応した。

「サントーク王国軍の名将で僕に従って、今回の戦の援軍として来てくれたのだ。援軍と言っても、公国軍の一部と思ってくれて構わない。サントーク王国は公国の傘下に収まったからな。この状況での五千人の加兵はありがたいと思い、連れてきた次第だ」

 その話を聞いても二人にはあまりピンときていない様子だ。特にニードがしきりに頭を横にしている。こういう時はイハサが話をまとめてくれる。

「つまりは、レントーク王国南部に居を構えるサントーク王国を武力を用いずに傘下にしてしまわれたと。そして、友好的な証として兵五千人を無償で援軍として預けられたと。何をどうしたら、そうなるのは私にはさっぱり分かりませんな」

 あれこれと説明したが、最後まで納得されることはなかった。ガモン率いるサントーク兵五千人は、公国軍に加わることが認められたが軍装が違いすぎるため、独立した部隊として運用されることになる。さて、僕達の話はここまでだ。ニードに状況を説明してもらおう。と言っても話すのはイハサだけど。

 イハサはこれまでの経緯を簡単に説明してくれた。僕とはぐれた後、とにかく目的地に向かうことになった。いたずらに探すよりは目的地で僕を待ったほうがいいという判断だ。ニード達がこの地につくと、先行していたクレイ隊五千人と合流することになった。しかし、クレイと側近の姿だけが見つからなかった。

 話を聞くと、クレイは五千人を漁村に残して単身で七家領にむかったそうだ。当然、兵たちが許すはずがないのだが、クレイは外国の兵がこのあたりを歩き回っているのは無用な刺激を与えるために得策ではないこと、少人数で向かったほうが相手に警戒されないことを説明し、皆を説得させたようだ。

 しかし、クレイが出発してから幾日経っても連絡は入らないため、数名を斥候として送り出したが、その者たちも戻ってくることはなかった。つまりはクレイは行方不明になったということだ。クレイ隊は漁村に待機した状態で、ニード率いる公国軍と合流して今に至るというわけだ。

 クレイのことを考えた。おそらくクレイは、七家領に幽閉されている可能性が高いだろう。一応は七家筆頭を継ぐとまで言われたので、殺すようなことはしないだろう。しかし、こちらの出方次第ではどうなるかわからない。

「ニード。軍はすぐに動き出せそうか?」

「もちろんです。船が戻り次第、出陣は可能です」

 ん? そうか。よく考えてみれば九隻なければならないのか。クレイ隊の船をすっかり忘れていた。そんな話をしていたら船が姿を現した。しかも二隻だ。なんと僕が乗っていた船がなんとか抜け出してこちらと合流することが出来たようだ。幸先がいいな。しかも、ハトリが戻ってきてくれた。フェンリルのモモも一緒だ。あちこちと怪我をして歩くのもやっと言う様子だが。

 モモに駆け寄り、回復魔法をかけてやると緊張感が無くなったのかモモはその場に伏せって寝てしまった。これではしばらく動くのは難しいな。ハトリに話を聞くと、どうやら船員に手紙を届けた後、ハトリの相棒ロンロが急に騒ぎ出し、ついていくと波打ちに横たわっているモモを発見したそうだ。その時は衰弱がひどく、手持ちの食料や薬草やらでなんとかここまで来られるほどに回復したそうだ。

 治療を終え、横たわっているモモにエリスが近づき、優しく撫でながら感謝を告げていた。エリスはずっとモモのことを心配していたが、無事でよかった。これで憂いは全て無くなった。僕達に残されているのはクレイが向かった七家領に行くことだ。

「ガモン。早速サントーク王国の旗の出番のようだ。すぐに使えるように準備しておいてくれ」

「承知しました」

 ここからの行動は、とにかく七家を刺激せずに近づくことが重要だ。そのために持ってきたサントーク王国の大量の旗だ。これがあれば、少なくとも攻撃はされないだろう。

 結局、次の日出発することになった。クレイ隊は公国軍に組み込まれることになり、公国軍二万五千人、サントーク兵五千人で北上し、七家領を目指すことにした。全軍にサントーク王国の旗が与えられ、それを掲げながら悠々と歩き出した。

 その光景は、遠く離れた七家にもすぐに伝わり、使者がやってくるのに大した時間もかからなかった。
 
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