348 / 408
第347話 ドラゴンとの別れ
しおりを挟む
トランと漆黒のドラゴンの死闘は、トランの変身によって決着を見せた。終始ドラゴンが圧倒していたが、土壇場で状況が一変した。トランの変身はシュリーの大怪我がきっかけのようだ。これは凄い発見だ。おそらく大切な人が傷つくことが重要なのだろう。そうなるとトマトジュースは? 分からなくなってきたぞ。だが、その前に目の前にいる漆黒のドラゴンに集中しなければ。
漆黒のドラゴンはトランのことを友と表現した。どういうことだ? トランは、じっと漆黒のドラゴンを見つめていた。
「おまえ、まさか……魔界で私が戦ったドラゴンなのか?」
トランがドラゴンに話しかけた。さて、このドラゴンと話し合いは出来るのか?
「ようやく思い出してくれたか」
おお、しっかりと話し合いが出来ているぞ。魔の森のドラゴンの時は然程思わなかったが、他人がドラゴンと話している姿を見ると驚きしかないな。そもそも、魔獣で言葉を話すことがすごい。フェンリルのハヤブサくらいしかいないと思っていた。
「うむ。それで? なぜお前がここにいるのだ? 私がどう仕掛けても決して山から出てこなかったではないか。それが魔界を飛び出し、こっちに来るとは。何か理由でも?」
「それは……こっちのセリフだ!!」
急にドラゴンがブレスを吐いてきたぞ。戦意が無くなったのではないのか!?
「すまん。つい興奮してしまった。我が友こそ、なにゆえ我に内緒で魔界を出ていってしまったのだ? 我はそれが知りたくて、こちらに来たのだ」
「分からんな。しかし、その前に我が友と言っているが、私はお前と友になった覚えがないのだが」
「何を言っている。我はどの世界でも最強の存在。この強靭な鱗はあらゆる攻撃、魔法を防ぎ、強力な爪であらゆる敵を屠る。そして、ブレスで全てを無に帰する。それが我の存在だ。しかし、お前は我との戦いで小さいながらも手傷を負わせた。それは驚嘆すべきことだ。それから我とお前は対等な立場となり、友となったのだ。拒否権はない!!」
二人の会話はまだまだ続きそうだ。黙って話を聞いていた。
「まぁよい。我が友というのなら、どうして私の仕掛けに応じなかったのだ? 私は何度もお前に再戦を願ったではないか。ついに諦めてしまったが会いに来てくれればよかったものを」
「もしや。お前、気付いていなかったのか?」
「何をだ?」
ここでドラゴンが大きなため息と共にブレスが吐き出された。その度に巨木がなぎ倒されていく。なんという破壊力なんだ。
「お前のところでドラドと言う者がいなかったか?」
「ドラド? ああ、いたぞ。息子の家庭教師だ。あの者はとにかく強かったな。私の眷属を相手にしても引けを取らないほどにな。それゆえ息子の家庭教師にしたのだが……。いつの間にかいなくなってしまったってな。惜しい人材だった。しかしお前がなぜ、それを知っているのだ?」
「それが我だ。我はずっとお前の側にいたのだ。お前に興味が湧いたのだが、一切我に見向きもしようともしない。五十年は我慢したが、馬鹿らしくなって山に帰ったのだ。それからも一応はお前のことは見守っていたが、突如として消えてしまったのだ。我はその文句を言いたくて、追ってきたのだ」
なんとも健気なドラゴンだな。戦いでようやく対等な存在を見つけたから近づいたら、相手にされなかった。それでも遠い場所から見守って、相手が消えたら追ってくる。なんか、不憫だ。トランがなにやら悪者に見えてくるな。
「ロッシュ君。なんだね、その目は。私だって気付いていれば相手にしていたさ。しかし、まさかドラゴンが魔族の姿に変身が出来て、潜入しているなんて誰が分かるっていうんだ? それに私はドラゴンから何も告げられていないんだぞ。私は無実だ!!」
まぁ、話はこの辺りで終わりそうだな。ところで少し疑問があるな。
「ドラゴン。僕はロッシュだ。少し聞きたいことがあるんだが」
ドラゴンは僕の方を見向きもしない。あくまでもトランとしか会話をする気がないようだ。僕が何度も話しかけると、ようやく反応があった。こっちは見向きもしないけど。
「矮小なる生き物が我に話しかけるとは無礼千万だ。我は我が友との再会で機嫌がいいから生かされていることを勘違いするべきではない。とにかく、目障りだ。すぐにどこかに消えろ」
そうか。それならば残念だな。
「トラン。シュリーが待っている。僕達も帰ろう。ドラゴンと話をしていてもしょうがないだろ? ここでの目的も果たしたしな。聞いているかわからないが、もう二度と僕達に関わるなよ。トラン、行こう」
「それもそうだな。驚いたが、別にこのドラゴンと話すこともない。それでは帰ろうか」
「ちょ、ちょっと待つのだ。なにゆえ、そのように我を邪険にするのだ。我はわざわざ魔界から追ってきたのだぞ。すこしは相手をするの礼儀ではないのか?」
ドラゴンのくせに礼儀だと?
「お前は僕の話を一切聞く気もなかったくせにか? 魔の森のドラゴンとは大違いだな。あのドラゴンはちゃんと話を聞いてくれたぞ。まったく、爪の垢でも煎じて飲ませてやりたいくらいだ」
「矮小なる生き物よ。嘘はよくない。あのドラゴンは今頃、青息吐息。そのような話が出来るわけがない。あのドラゴンにかけた呪いは我の最大級のもの。ドラゴンには呪いへの耐性があるが、それを凌駕するものだ。あのドラゴンに呪いが解けるわけがない。それともお前が解いたというのか?」
「ん? あれがそんなに凄い呪いだったのか? 僕からすれば、どのような呪いでも同じにしか感じないけどな」
「矮小なる生き物よ……お前は我を不愉快にさせたいのか? お前に解けるわけがないだろう」
「いや、待て。ドラゴンよ。ロッシュ君が嘘をつくとは思えない。どうだろう。見に行ってみては。それで全てが分かるではないか」
「我が友がそれほど言うのならば。嘘だった、我を不快にした罰として死んでもらうぞ」
「いや、別にいいです。魔の森のドラゴンは元気だし、お前と賭けをする必要もない。僕はトランと一緒に帰りたいだけなんだ。悪いけど、勝手に見に行ってくれる? 一応言っておくけど、あのドラゴンにまた手を出したら、トランに懲らしめてもらうからな。じゃあトラン、行こうか」
「だから!! ちょっと待ってくれ。我が少し言葉を選ばなかったのが悪かったかも知れない。ど、どうだ? 一緒にあのドラゴンのところに見舞いに行かないか?」
「違うだろ? 謝罪しに行くんだろ? そもそも呪いをかけた理由は何だ?」
「ああ、そうだな。謝罪に行く。それでいいだろ? 我は最初、あのドラゴンに挨拶に行ったのだ。それが魔界では常識だからな。しかし、あのドラゴンの住処には魔石がゴロゴロと転がっているではないか。これほど集めるとは気が狂ったドラゴンと思ったな。それでも旨そうな魔石ゆえな、少し譲って欲しいと願い出ると了承してくれたのだ。だから、我は食したのだ。そしたら、あのドラゴンが我を汚いだの、気持ち悪いだの罵ってきたのだ。それで我も腹が立って呪いの攻撃をしたのだ。もちろん、ちょっと小突く程度のつもりだったのだが、魔石で魔力が高まってな、あれほどの呪いになってしまったのだ」
話が長い!! とりあえず、不慮の事故みたいなものだったわけね。うん、お互いの事情が分かっているとどっちもどっちという感じだ。僕はひとつだけ、魔の森のドラゴンを庇っておこう。
「言っておくが、あの魔石。魔の森のドラゴンの排泄物だぞ」
「お前、排泄物を旨そうと思って、食ったのか? 私は失望したぞ。済まないが、金輪際我が友と呼ばないでくれるか?」
「排泄物、だと? 我が排泄物を喜んで食べていた、だと……信じられん。そんなドラゴンがいたとは。そうか、我は汚れてしまったのか」
あれ? ものすごい落ち込みようだな。まぁ、排泄物だもんな。それは落ち込むか。ドラゴンに近づき、肩を叩こうと思ったが爪先しか触れなかった。
「まずは謝りに行こう。それと排泄物を食べる趣味はないです、とはっきり言うんだ。きっと分かってくれるさ。僕とトランも一緒に行ってあげるから。行けそうか?」
ドラゴンは頷き、僕達は再び山を登ることになった。
「また、登るのか。今回は眷属がいないから、ちょっと骨が折れそうだな」
「ふん。我の背中に乗れ。本来であれば我が友しか乗せないが、特別に乗せてやる」
おお、このドラゴンの背中に乗れるのか!! 凄い経験じゃないか。ドラゴンの背中によじ登った。トゲトゲとした鱗はとても乗り心地がいいとはいい難いが……僕達が乗るやいなや、急に飛び始めた。凄まじい速さだ。あっという間に魔の森のドラゴンの住処前に着いてしまった。
ドラゴンから降りた。ドラゴンはなぜか、住処に行こうとしない。
「どうしたんだ? 行かないのか?」
「矮小なる生き物よ。先に行くことを許そう」
いつまでも偉そうだな。まぁいいか。洞窟に入り、魔の森のドラゴンを呼びながら奥へと向かっていった。すると返事があった。
「どうしたのですか? ん? 嫌な気配を感じますね。もしかして連れてきてしまったのですか? 帰ってください」
「そう言わないで。怪我を負わされた上に呪いまでかけられただけだろ? それについて謝りたいって言っているんだ。会ってやってくれないか?」
「いやです。私が会いたくないのは呪いのことではないのです。美味しそうに排泄物を食べるような変態に近寄ってほしくないんです」
なんとか説得して、対面することを許してもらった。
「本当に呪いが解けている。まさか矮小なる生き物が……我の魔力を凌駕するというのか。信じられないが……」
「僕が呪いを解いたかどうかなんて、どうでもいいことだ。とにかく謝るんだ」
ようやくドラゴン同士の誤解がなくなった。うむ、一件落着だ。魔の森のドラゴンに別れを告げ、山の麓にドアを設置することの許可だけをもらった。
「どのようなものか分かりませんが、麓においておけば魔獣がいたずらをするかも知れません。洞窟の近くに作ってはどうですか? 目的は私の排泄……ではなくて魔石なのですよね? その方が便利では?」
嬉しい申し出があり、ドアを洞窟近くに再設置することになった。僕達は洞窟を出ることにし、流石に漆黒のドラゴンとはお別れだ。これ以上は付き合っていられない。
「漆黒のドラゴン。僕達は本当に帰るぞ。再び会うことはないだろうが、元気でな」
「ちょっと待ってくれ。我も一緒に行くぞ……いや、連れて行ってください。お願いします。我はずっと一人だった。お前たちとなら楽しめそうなのだ。それに我はお前に興味が湧いた。お前も我が友と認めよう。どうだ?」
もう知らん。
「別に構わないが、いろいろと条件は付けさせてもらうぞ。だが、その前に姿が。さっき、魔族になれると言っていたな? 今もなれるのか?」
「ああ、勿論だ」
そういうとドラゴンは何かの魔法を使ったのか、小さな魔族になった。ドラゴンの面影は、小さな角としっぽくらいか? 龍人って言う感じだな。それにしても見て驚いたが、女の子だったのか?
「お前、女の子だったのか?」
「我を何だと思っていたのだ? まぁ良い。よろしく頼むぞ」
僕は条件をしっかりと了承してもらい、共に屋敷に戻ることになった。
漆黒のドラゴンはトランのことを友と表現した。どういうことだ? トランは、じっと漆黒のドラゴンを見つめていた。
「おまえ、まさか……魔界で私が戦ったドラゴンなのか?」
トランがドラゴンに話しかけた。さて、このドラゴンと話し合いは出来るのか?
「ようやく思い出してくれたか」
おお、しっかりと話し合いが出来ているぞ。魔の森のドラゴンの時は然程思わなかったが、他人がドラゴンと話している姿を見ると驚きしかないな。そもそも、魔獣で言葉を話すことがすごい。フェンリルのハヤブサくらいしかいないと思っていた。
「うむ。それで? なぜお前がここにいるのだ? 私がどう仕掛けても決して山から出てこなかったではないか。それが魔界を飛び出し、こっちに来るとは。何か理由でも?」
「それは……こっちのセリフだ!!」
急にドラゴンがブレスを吐いてきたぞ。戦意が無くなったのではないのか!?
「すまん。つい興奮してしまった。我が友こそ、なにゆえ我に内緒で魔界を出ていってしまったのだ? 我はそれが知りたくて、こちらに来たのだ」
「分からんな。しかし、その前に我が友と言っているが、私はお前と友になった覚えがないのだが」
「何を言っている。我はどの世界でも最強の存在。この強靭な鱗はあらゆる攻撃、魔法を防ぎ、強力な爪であらゆる敵を屠る。そして、ブレスで全てを無に帰する。それが我の存在だ。しかし、お前は我との戦いで小さいながらも手傷を負わせた。それは驚嘆すべきことだ。それから我とお前は対等な立場となり、友となったのだ。拒否権はない!!」
二人の会話はまだまだ続きそうだ。黙って話を聞いていた。
「まぁよい。我が友というのなら、どうして私の仕掛けに応じなかったのだ? 私は何度もお前に再戦を願ったではないか。ついに諦めてしまったが会いに来てくれればよかったものを」
「もしや。お前、気付いていなかったのか?」
「何をだ?」
ここでドラゴンが大きなため息と共にブレスが吐き出された。その度に巨木がなぎ倒されていく。なんという破壊力なんだ。
「お前のところでドラドと言う者がいなかったか?」
「ドラド? ああ、いたぞ。息子の家庭教師だ。あの者はとにかく強かったな。私の眷属を相手にしても引けを取らないほどにな。それゆえ息子の家庭教師にしたのだが……。いつの間にかいなくなってしまったってな。惜しい人材だった。しかしお前がなぜ、それを知っているのだ?」
「それが我だ。我はずっとお前の側にいたのだ。お前に興味が湧いたのだが、一切我に見向きもしようともしない。五十年は我慢したが、馬鹿らしくなって山に帰ったのだ。それからも一応はお前のことは見守っていたが、突如として消えてしまったのだ。我はその文句を言いたくて、追ってきたのだ」
なんとも健気なドラゴンだな。戦いでようやく対等な存在を見つけたから近づいたら、相手にされなかった。それでも遠い場所から見守って、相手が消えたら追ってくる。なんか、不憫だ。トランがなにやら悪者に見えてくるな。
「ロッシュ君。なんだね、その目は。私だって気付いていれば相手にしていたさ。しかし、まさかドラゴンが魔族の姿に変身が出来て、潜入しているなんて誰が分かるっていうんだ? それに私はドラゴンから何も告げられていないんだぞ。私は無実だ!!」
まぁ、話はこの辺りで終わりそうだな。ところで少し疑問があるな。
「ドラゴン。僕はロッシュだ。少し聞きたいことがあるんだが」
ドラゴンは僕の方を見向きもしない。あくまでもトランとしか会話をする気がないようだ。僕が何度も話しかけると、ようやく反応があった。こっちは見向きもしないけど。
「矮小なる生き物が我に話しかけるとは無礼千万だ。我は我が友との再会で機嫌がいいから生かされていることを勘違いするべきではない。とにかく、目障りだ。すぐにどこかに消えろ」
そうか。それならば残念だな。
「トラン。シュリーが待っている。僕達も帰ろう。ドラゴンと話をしていてもしょうがないだろ? ここでの目的も果たしたしな。聞いているかわからないが、もう二度と僕達に関わるなよ。トラン、行こう」
「それもそうだな。驚いたが、別にこのドラゴンと話すこともない。それでは帰ろうか」
「ちょ、ちょっと待つのだ。なにゆえ、そのように我を邪険にするのだ。我はわざわざ魔界から追ってきたのだぞ。すこしは相手をするの礼儀ではないのか?」
ドラゴンのくせに礼儀だと?
「お前は僕の話を一切聞く気もなかったくせにか? 魔の森のドラゴンとは大違いだな。あのドラゴンはちゃんと話を聞いてくれたぞ。まったく、爪の垢でも煎じて飲ませてやりたいくらいだ」
「矮小なる生き物よ。嘘はよくない。あのドラゴンは今頃、青息吐息。そのような話が出来るわけがない。あのドラゴンにかけた呪いは我の最大級のもの。ドラゴンには呪いへの耐性があるが、それを凌駕するものだ。あのドラゴンに呪いが解けるわけがない。それともお前が解いたというのか?」
「ん? あれがそんなに凄い呪いだったのか? 僕からすれば、どのような呪いでも同じにしか感じないけどな」
「矮小なる生き物よ……お前は我を不愉快にさせたいのか? お前に解けるわけがないだろう」
「いや、待て。ドラゴンよ。ロッシュ君が嘘をつくとは思えない。どうだろう。見に行ってみては。それで全てが分かるではないか」
「我が友がそれほど言うのならば。嘘だった、我を不快にした罰として死んでもらうぞ」
「いや、別にいいです。魔の森のドラゴンは元気だし、お前と賭けをする必要もない。僕はトランと一緒に帰りたいだけなんだ。悪いけど、勝手に見に行ってくれる? 一応言っておくけど、あのドラゴンにまた手を出したら、トランに懲らしめてもらうからな。じゃあトラン、行こうか」
「だから!! ちょっと待ってくれ。我が少し言葉を選ばなかったのが悪かったかも知れない。ど、どうだ? 一緒にあのドラゴンのところに見舞いに行かないか?」
「違うだろ? 謝罪しに行くんだろ? そもそも呪いをかけた理由は何だ?」
「ああ、そうだな。謝罪に行く。それでいいだろ? 我は最初、あのドラゴンに挨拶に行ったのだ。それが魔界では常識だからな。しかし、あのドラゴンの住処には魔石がゴロゴロと転がっているではないか。これほど集めるとは気が狂ったドラゴンと思ったな。それでも旨そうな魔石ゆえな、少し譲って欲しいと願い出ると了承してくれたのだ。だから、我は食したのだ。そしたら、あのドラゴンが我を汚いだの、気持ち悪いだの罵ってきたのだ。それで我も腹が立って呪いの攻撃をしたのだ。もちろん、ちょっと小突く程度のつもりだったのだが、魔石で魔力が高まってな、あれほどの呪いになってしまったのだ」
話が長い!! とりあえず、不慮の事故みたいなものだったわけね。うん、お互いの事情が分かっているとどっちもどっちという感じだ。僕はひとつだけ、魔の森のドラゴンを庇っておこう。
「言っておくが、あの魔石。魔の森のドラゴンの排泄物だぞ」
「お前、排泄物を旨そうと思って、食ったのか? 私は失望したぞ。済まないが、金輪際我が友と呼ばないでくれるか?」
「排泄物、だと? 我が排泄物を喜んで食べていた、だと……信じられん。そんなドラゴンがいたとは。そうか、我は汚れてしまったのか」
あれ? ものすごい落ち込みようだな。まぁ、排泄物だもんな。それは落ち込むか。ドラゴンに近づき、肩を叩こうと思ったが爪先しか触れなかった。
「まずは謝りに行こう。それと排泄物を食べる趣味はないです、とはっきり言うんだ。きっと分かってくれるさ。僕とトランも一緒に行ってあげるから。行けそうか?」
ドラゴンは頷き、僕達は再び山を登ることになった。
「また、登るのか。今回は眷属がいないから、ちょっと骨が折れそうだな」
「ふん。我の背中に乗れ。本来であれば我が友しか乗せないが、特別に乗せてやる」
おお、このドラゴンの背中に乗れるのか!! 凄い経験じゃないか。ドラゴンの背中によじ登った。トゲトゲとした鱗はとても乗り心地がいいとはいい難いが……僕達が乗るやいなや、急に飛び始めた。凄まじい速さだ。あっという間に魔の森のドラゴンの住処前に着いてしまった。
ドラゴンから降りた。ドラゴンはなぜか、住処に行こうとしない。
「どうしたんだ? 行かないのか?」
「矮小なる生き物よ。先に行くことを許そう」
いつまでも偉そうだな。まぁいいか。洞窟に入り、魔の森のドラゴンを呼びながら奥へと向かっていった。すると返事があった。
「どうしたのですか? ん? 嫌な気配を感じますね。もしかして連れてきてしまったのですか? 帰ってください」
「そう言わないで。怪我を負わされた上に呪いまでかけられただけだろ? それについて謝りたいって言っているんだ。会ってやってくれないか?」
「いやです。私が会いたくないのは呪いのことではないのです。美味しそうに排泄物を食べるような変態に近寄ってほしくないんです」
なんとか説得して、対面することを許してもらった。
「本当に呪いが解けている。まさか矮小なる生き物が……我の魔力を凌駕するというのか。信じられないが……」
「僕が呪いを解いたかどうかなんて、どうでもいいことだ。とにかく謝るんだ」
ようやくドラゴン同士の誤解がなくなった。うむ、一件落着だ。魔の森のドラゴンに別れを告げ、山の麓にドアを設置することの許可だけをもらった。
「どのようなものか分かりませんが、麓においておけば魔獣がいたずらをするかも知れません。洞窟の近くに作ってはどうですか? 目的は私の排泄……ではなくて魔石なのですよね? その方が便利では?」
嬉しい申し出があり、ドアを洞窟近くに再設置することになった。僕達は洞窟を出ることにし、流石に漆黒のドラゴンとはお別れだ。これ以上は付き合っていられない。
「漆黒のドラゴン。僕達は本当に帰るぞ。再び会うことはないだろうが、元気でな」
「ちょっと待ってくれ。我も一緒に行くぞ……いや、連れて行ってください。お願いします。我はずっと一人だった。お前たちとなら楽しめそうなのだ。それに我はお前に興味が湧いた。お前も我が友と認めよう。どうだ?」
もう知らん。
「別に構わないが、いろいろと条件は付けさせてもらうぞ。だが、その前に姿が。さっき、魔族になれると言っていたな? 今もなれるのか?」
「ああ、勿論だ」
そういうとドラゴンは何かの魔法を使ったのか、小さな魔族になった。ドラゴンの面影は、小さな角としっぽくらいか? 龍人って言う感じだな。それにしても見て驚いたが、女の子だったのか?
「お前、女の子だったのか?」
「我を何だと思っていたのだ? まぁ良い。よろしく頼むぞ」
僕は条件をしっかりと了承してもらい、共に屋敷に戻ることになった。
5
お気に入りに追加
2,659
あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。
完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-
ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。
自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。
安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。
いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して!
この世界は無い物ばかり。
現代知識を使い生産チートを目指します。
※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

異世界に転生した社畜は調合師としてのんびりと生きていく。~ただの生産職だと思っていたら、結構ヤバい職でした~
夢宮
ファンタジー
台風が接近していて避難勧告が出されているにも関わらず出勤させられていた社畜──渡部与一《わたべよいち》。
雨で視界が悪いなか、信号無視をした車との接触事故で命を落としてしまう。
女神に即断即決で異世界転生を決められ、パパっと送り出されてしまうのだが、幸いなことに女神の気遣いによって職業とスキルを手に入れる──生産職の『調合師』という職業とそのスキルを。
異世界に転生してからふたりの少女に助けられ、港町へと向かい、物語は動き始める。
調合師としての立場を知り、それを利用しようとする者に悩まされながらも生きていく。
そんな与一ののんびりしたくてものんびりできない異世界生活が今、始まる。
※2話から登場人物の描写に入りますので、のんびりと読んでいただけたらなと思います。
※サブタイトル追加しました。

[完結連載]蔑ろにされた王妃様〜25歳の王妃は王と決別し、幸せになる〜
コマメコノカ・21時更新・エブリスタ投
恋愛
王妃として国のトップに君臨している元侯爵令嬢であるユーミア王妃(25)は夫で王であるバルコニー王(25)が、愛人のミセス(21)に入り浸り、王としての仕事を放置し遊んでいることに辟易していた。
そして、ある日ユーミアは、彼と決別することを決意する。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる