爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。

秋田ノ介

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第347話 ドラゴンとの別れ

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 トランと漆黒のドラゴンの死闘は、トランの変身によって決着を見せた。終始ドラゴンが圧倒していたが、土壇場で状況が一変した。トランの変身はシュリーの大怪我がきっかけのようだ。これは凄い発見だ。おそらく大切な人が傷つくことが重要なのだろう。そうなるとトマトジュースは? 分からなくなってきたぞ。だが、その前に目の前にいる漆黒のドラゴンに集中しなければ。

 漆黒のドラゴンはトランのことを友と表現した。どういうことだ? トランは、じっと漆黒のドラゴンを見つめていた。

「おまえ、まさか……魔界で私が戦ったドラゴンなのか?」

 トランがドラゴンに話しかけた。さて、このドラゴンと話し合いは出来るのか?

「ようやく思い出してくれたか」

 おお、しっかりと話し合いが出来ているぞ。魔の森のドラゴンの時は然程思わなかったが、他人がドラゴンと話している姿を見ると驚きしかないな。そもそも、魔獣で言葉を話すことがすごい。フェンリルのハヤブサくらいしかいないと思っていた。

「うむ。それで? なぜお前がここにいるのだ? 私がどう仕掛けても決して山から出てこなかったではないか。それが魔界を飛び出し、こっちに来るとは。何か理由でも?」

「それは……こっちのセリフだ!!」

 急にドラゴンがブレスを吐いてきたぞ。戦意が無くなったのではないのか!?

「すまん。つい興奮してしまった。我が友こそ、なにゆえ我に内緒で魔界を出ていってしまったのだ? 我はそれが知りたくて、こちらに来たのだ」

「分からんな。しかし、その前に我が友と言っているが、私はお前と友になった覚えがないのだが」

「何を言っている。我はどの世界でも最強の存在。この強靭な鱗はあらゆる攻撃、魔法を防ぎ、強力な爪であらゆる敵を屠る。そして、ブレスで全てを無に帰する。それが我の存在だ。しかし、お前は我との戦いで小さいながらも手傷を負わせた。それは驚嘆すべきことだ。それから我とお前は対等な立場となり、友となったのだ。拒否権はない!!」

 二人の会話はまだまだ続きそうだ。黙って話を聞いていた。

「まぁよい。我が友というのなら、どうして私の仕掛けに応じなかったのだ? 私は何度もお前に再戦を願ったではないか。ついに諦めてしまったが会いに来てくれればよかったものを」

「もしや。お前、気付いていなかったのか?」

「何をだ?」

 ここでドラゴンが大きなため息と共にブレスが吐き出された。その度に巨木がなぎ倒されていく。なんという破壊力なんだ。

「お前のところでドラドと言う者がいなかったか?」

「ドラド? ああ、いたぞ。息子の家庭教師だ。あの者はとにかく強かったな。私の眷属を相手にしても引けを取らないほどにな。それゆえ息子の家庭教師にしたのだが……。いつの間にかいなくなってしまったってな。惜しい人材だった。しかしお前がなぜ、それを知っているのだ?」

「それが我だ。我はずっとお前の側にいたのだ。お前に興味が湧いたのだが、一切我に見向きもしようともしない。五十年は我慢したが、馬鹿らしくなって山に帰ったのだ。それからも一応はお前のことは見守っていたが、突如として消えてしまったのだ。我はその文句を言いたくて、追ってきたのだ」

 なんとも健気なドラゴンだな。戦いでようやく対等な存在を見つけたから近づいたら、相手にされなかった。それでも遠い場所から見守って、相手が消えたら追ってくる。なんか、不憫だ。トランがなにやら悪者に見えてくるな。

「ロッシュ君。なんだね、その目は。私だって気付いていれば相手にしていたさ。しかし、まさかドラゴンが魔族の姿に変身が出来て、潜入しているなんて誰が分かるっていうんだ? それに私はドラゴンから何も告げられていないんだぞ。私は無実だ!!」

 まぁ、話はこの辺りで終わりそうだな。ところで少し疑問があるな。

「ドラゴン。僕はロッシュだ。少し聞きたいことがあるんだが」

 ドラゴンは僕の方を見向きもしない。あくまでもトランとしか会話をする気がないようだ。僕が何度も話しかけると、ようやく反応があった。こっちは見向きもしないけど。

「矮小なる生き物が我に話しかけるとは無礼千万だ。我は我が友との再会で機嫌がいいから生かされていることを勘違いするべきではない。とにかく、目障りだ。すぐにどこかに消えろ」

 そうか。それならば残念だな。

「トラン。シュリーが待っている。僕達も帰ろう。ドラゴンと話をしていてもしょうがないだろ? ここでの目的も果たしたしな。聞いているかわからないが、もう二度と僕達に関わるなよ。トラン、行こう」

「それもそうだな。驚いたが、別にこのドラゴンと話すこともない。それでは帰ろうか」

「ちょ、ちょっと待つのだ。なにゆえ、そのように我を邪険にするのだ。我はわざわざ魔界から追ってきたのだぞ。すこしは相手をするの礼儀ではないのか?」

 ドラゴンのくせに礼儀だと?

「お前は僕の話を一切聞く気もなかったくせにか? 魔の森のドラゴンとは大違いだな。あのドラゴンはちゃんと話を聞いてくれたぞ。まったく、爪の垢でも煎じて飲ませてやりたいくらいだ」

「矮小なる生き物よ。嘘はよくない。あのドラゴンは今頃、青息吐息。そのような話が出来るわけがない。あのドラゴンにかけた呪いは我の最大級のもの。ドラゴンには呪いへの耐性があるが、それを凌駕するものだ。あのドラゴンに呪いが解けるわけがない。それともお前が解いたというのか?」

「ん? あれがそんなに凄い呪いだったのか? 僕からすれば、どのような呪いでも同じにしか感じないけどな」

「矮小なる生き物よ……お前は我を不愉快にさせたいのか? お前に解けるわけがないだろう」

「いや、待て。ドラゴンよ。ロッシュ君が嘘をつくとは思えない。どうだろう。見に行ってみては。それで全てが分かるではないか」

「我が友がそれほど言うのならば。嘘だった、我を不快にした罰として死んでもらうぞ」

「いや、別にいいです。魔の森のドラゴンは元気だし、お前と賭けをする必要もない。僕はトランと一緒に帰りたいだけなんだ。悪いけど、勝手に見に行ってくれる? 一応言っておくけど、あのドラゴンにまた手を出したら、トランに懲らしめてもらうからな。じゃあトラン、行こうか」

「だから!! ちょっと待ってくれ。我が少し言葉を選ばなかったのが悪かったかも知れない。ど、どうだ? 一緒にあのドラゴンのところに見舞いに行かないか?」

「違うだろ? 謝罪しに行くんだろ? そもそも呪いをかけた理由は何だ?」

「ああ、そうだな。謝罪に行く。それでいいだろ? 我は最初、あのドラゴンに挨拶に行ったのだ。それが魔界では常識だからな。しかし、あのドラゴンの住処には魔石がゴロゴロと転がっているではないか。これほど集めるとは気が狂ったドラゴンと思ったな。それでも旨そうな魔石ゆえな、少し譲って欲しいと願い出ると了承してくれたのだ。だから、我は食したのだ。そしたら、あのドラゴンが我を汚いだの、気持ち悪いだの罵ってきたのだ。それで我も腹が立って呪いの攻撃をしたのだ。もちろん、ちょっと小突く程度のつもりだったのだが、魔石で魔力が高まってな、あれほどの呪いになってしまったのだ」

 話が長い!! とりあえず、不慮の事故みたいなものだったわけね。うん、お互いの事情が分かっているとどっちもどっちという感じだ。僕はひとつだけ、魔の森のドラゴンを庇っておこう。

「言っておくが、あの魔石。魔の森のドラゴンの排泄物だぞ」

「お前、排泄物を旨そうと思って、食ったのか? 私は失望したぞ。済まないが、金輪際我が友と呼ばないでくれるか?」

「排泄物、だと? 我が排泄物を喜んで食べていた、だと……信じられん。そんなドラゴンがいたとは。そうか、我は汚れてしまったのか」

 あれ? ものすごい落ち込みようだな。まぁ、排泄物だもんな。それは落ち込むか。ドラゴンに近づき、肩を叩こうと思ったが爪先しか触れなかった。

「まずは謝りに行こう。それと排泄物を食べる趣味はないです、とはっきり言うんだ。きっと分かってくれるさ。僕とトランも一緒に行ってあげるから。行けそうか?」

 ドラゴンは頷き、僕達は再び山を登ることになった。

「また、登るのか。今回は眷属がいないから、ちょっと骨が折れそうだな」

「ふん。我の背中に乗れ。本来であれば我が友しか乗せないが、特別に乗せてやる」

 おお、このドラゴンの背中に乗れるのか!! 凄い経験じゃないか。ドラゴンの背中によじ登った。トゲトゲとした鱗はとても乗り心地がいいとはいい難いが……僕達が乗るやいなや、急に飛び始めた。凄まじい速さだ。あっという間に魔の森のドラゴンの住処前に着いてしまった。

 ドラゴンから降りた。ドラゴンはなぜか、住処に行こうとしない。

「どうしたんだ? 行かないのか?」

「矮小なる生き物よ。先に行くことを許そう」

 いつまでも偉そうだな。まぁいいか。洞窟に入り、魔の森のドラゴンを呼びながら奥へと向かっていった。すると返事があった。

「どうしたのですか? ん? 嫌な気配を感じますね。もしかして連れてきてしまったのですか? 帰ってください」

「そう言わないで。怪我を負わされた上に呪いまでかけられただけだろ? それについて謝りたいって言っているんだ。会ってやってくれないか?」

「いやです。私が会いたくないのは呪いのことではないのです。美味しそうに排泄物を食べるような変態に近寄ってほしくないんです」

 なんとか説得して、対面することを許してもらった。

「本当に呪いが解けている。まさか矮小なる生き物が……我の魔力を凌駕するというのか。信じられないが……」

「僕が呪いを解いたかどうかなんて、どうでもいいことだ。とにかく謝るんだ」

 ようやくドラゴン同士の誤解がなくなった。うむ、一件落着だ。魔の森のドラゴンに別れを告げ、山の麓にドアを設置することの許可だけをもらった。

「どのようなものか分かりませんが、麓においておけば魔獣がいたずらをするかも知れません。洞窟の近くに作ってはどうですか? 目的は私の排泄……ではなくて魔石なのですよね? その方が便利では?」

 嬉しい申し出があり、ドアを洞窟近くに再設置することになった。僕達は洞窟を出ることにし、流石に漆黒のドラゴンとはお別れだ。これ以上は付き合っていられない。

「漆黒のドラゴン。僕達は本当に帰るぞ。再び会うことはないだろうが、元気でな」

「ちょっと待ってくれ。我も一緒に行くぞ……いや、連れて行ってください。お願いします。我はずっと一人だった。お前たちとなら楽しめそうなのだ。それに我はお前に興味が湧いた。お前も我が友と認めよう。どうだ?」

 もう知らん。

「別に構わないが、いろいろと条件は付けさせてもらうぞ。だが、その前に姿が。さっき、魔族になれると言っていたな? 今もなれるのか?」

「ああ、勿論だ」

 そういうとドラゴンは何かの魔法を使ったのか、小さな魔族になった。ドラゴンの面影は、小さな角としっぽくらいか? 龍人って言う感じだな。それにしても見て驚いたが、女の子だったのか?

「お前、女の子だったのか?」

「我を何だと思っていたのだ? まぁ良い。よろしく頼むぞ」

 僕は条件をしっかりと了承してもらい、共に屋敷に戻ることになった。
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