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第346話 ドラゴンとの死闘

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 魔の森のドラゴンと会い、友好的に魔石をもらう契約をすることに成功した。これで慢性的な魔石不足を解消することが出来る。早速、近くに転がっている魔石を拾い上げカバンにしまい込むことにした。

「ひぃ!! な、何をしているのです? そ、それは私の排泄物ですよ」

「ん? そんなのは知っているぞ」

「知っている……? そういえば、先程のドラゴンも手当たり次第に排泄物を食べていましたが何か意味があるのですか?」

 するとシラーが少し考えるような仕草をした。ちなみに今、ドラゴンは自分の口で話している。さっきまでは衰弱していたから、訳の分からない方法で言葉を発していたようだ。それを偶然、聞くことが出来たけど、僕でなかったら終わっていたようだ。

「ご主人様。それはまずいかも知れませんよ」

 一体どういうことだ? シラーが言うには、魔界の魔獣で突然変異のように強くなることが稀にあるそうだ。その原因は魔石にあるとされ、魔石を取り込んだ魔獣は高濃度の魔素によって魔力が活性化し、肉体的にも飛躍的に強度が向上するそうだ。

 つまり?

「あの漆黒のドラゴンがトラン様がかつて戦ったドラゴンであるならば、その時以上の強さを持ってしまったということです。あの時、互角かやや競り負けていましたから。今回はかなり危ないかも知れませんよ。といっても私達が行っても、きっと足手まといにしか……」

「私の排泄物にそんな効果が……それならば、そこの娘も魔石を取り込んでみたらいいのでは? 魔族なんでしょ?」

「魔族と魔獣は違います。我々にもそのように考え、魔石を取り込んだものがいました。しかし、その者の末路は酷いものでした」

 何があったというのだ。魔獣になった、とか?

「ひどい下痢になったのです」

 下痢……ひどい? んんん。微妙だな。

「凄いんですよ。日に何度も。しかも数年は続くという話ですよ。お尻はボロボロ。それ以来、魔石を口にするのは危険だといわれているんですから」

 そ、そうか。それは大変だったんだな。しかし、気になることがあるな。あの漆黒のドラゴンはなんなんだ?

「さあ、分かりません。急にやってきて、私の排泄物を食べ始めるんですから。私がそれを注意すると、この様で。私、別に悪い事してませんよね? 自分の排泄物を目の前で食べられたら注意しますよね? 全く、これだから魔界のものは」

「ちょ、ちょっと待ってください!! あのドラゴンを見て、魔界をひと括りにしないでもらえませんか!! 私達のように農業を営み、その恵みをもらっている者もいるのです。排泄物を食べるなんて、あのドラゴンくらいなものですよ」

 うん。よく分からないけど、たしかに排泄物食いのドラゴンと一緒にされるのは嫌だよね。これは魔の森のドラゴンが悪い!!

「それは申しわけありませんでした」

 おお、魔の森のドラゴンは随分と素直じゃないか。と、お遊びは程々にしなければ。さて、どうしたものかな。ここにずっといるわけにもいかないな。

「魔の森のドラゴン。ここからの抜け道みたいのはないのか? 漆黒のドラゴンから逃げたいんだけど」

「ないですね。見ての通り、山の頂上ですから。素直に下山する以外の方法はないですよ。ところであなた達は何者なんですか?」

「僕はロッシュだ。こっちがシラー。僕の妻だ」

「夫婦でこの山を? それは仲が宜しいですね。私には恋愛というものが分かりませんが、二人を見ているとなにやら羨ましい限りで。私も早く伴侶を見つけたいものです」

 ドラゴンの恋路か。なんだか面白そうだな。いやいやいや、まずはトランたちとここを脱出する方法を考えなければ。魔の森のドラゴンは……使い物にならなそうだ。とにかく表に出て、トランたちと合流しよう。魔の森のドラゴンと別れを告げた。

「いつでも遊びに来てくださいね。排泄物もそのときお持ち帰りください。よく考えたら住処が綺麗になるからいいことかも知れませんね。掃除屋のロッシュ。よろしく頼みますね」

 新たな肩書きを得てしまったようだな。掃除屋ロッシュ。結構好きだな。洞窟から出ると相変わらず深い霧だ。なんとなく方角を見定めながらトランたちのもとに向かった。

 ようやく遠くの方から金属がぶつかるような高い音が聞こえだしてきた。近いぞ。僕達は慎重な足取りでトラン達がいるであろう場所に向かった。そうこうするうちに霧が晴れている場所に出ることが出来た。久しぶりに開けた視界で気分が良くなる。

 トランは遠くにいながらも僕達に存在に気付き、すごい勢いでこちらに向かってきた。戦いは眷属達に任せたようだ。近づくトランの姿は壮絶なものだ。手足や顔には多くの傷を負い、血で真っ赤に染まっている。

「ロッシュ君。無事だったか。しかし、手強いぞ……あのドラゴンは。全く手も足も出ない」

 そんなことを言っていても、逃げるという言葉を一切言わないのはなぜなんだろう? これが戦闘狂の成れの果てか。とにかく、トランに回復魔法をかけた。

「ありがたい。それでトマトジュースを分けてくれないか? 今こそ、吸血鬼の本領を発揮するときだと思うのだ」

 まだ言っているのか。しかし、ここで言い争っても仕方ないだろう。一応、シラーの了承を取ってからトランにコップ一杯のトマトジュースを差し出した。

「おお。真紅のなんとか!! 我に力を与えてくれ」

 変なことを口に出しながら、一気に飲み干した。ああ、やっぱりむせてるよ。だから喋りながら飲むのはやめろと言ったのに。

「……力が湧いてくる。じゃあ、行ってくるぞ。ロッシュ君達は私の勝利を信じ、下山して待っていてくれ」

 なんか間があったけど、効かないことに気付き始めているんじゃないか? トランは再び戦場に戻っていった。トランにはああ言われたがどうしたものか。

「ご主人様。私もトラン様と同意見です。私達にはどうすることも出来ませんから、下山しましょう。下るだけなら簡単でしょうから」

 そう? 絶叫を上げていた。シラーに担がれ、すごい勢いで滑り落ちていくのだ。ものの数分で下に到着したが、永遠とも言える長さを感じた。下山してきたことにシュリー達が気付き、近づいてきた。

「ロッシュ様。ご無事でなりよりです。それでトラン様はどこに?」

 事の成り行きを説明することにした。

「そうでしたか。やはり戦闘意欲を抑えることが出来ませんでしたか。きっとトラン様も戦闘の末、命を落としても本望でしょう。目的を果たしたのですから、我々は戻りますか?」

 あれ? そこは心配するところなのでは? これが魔族の夫婦というやつなんだろうか?

「もう少し、ここでトランたちの帰りを待とう」

 シェラが寝泊まりしているテントで数日間、寝泊まりを繰り返した。それでもトラン達が戻ってくる気配がない。ちなみに、シュリーに聞くと以前ドラゴンと戦った時は一週間戦い続けたらしい。まだ、数日という感じなのだろうか?

 日課のようになった周囲の散策をしていると、どこからか、呼ぶ声が。周囲を見渡してもその影はない。再び呼ぶ声が。上からか!! そう、上からトランが山を滑り落ちてくるではないか。よかった。無事だったか。ドラゴンをなんとか倒……せてなぁい!!

 トランのはるか上空から付いてきている。

「ロッシュ君。また真紅のなんとかをくれないかぁ!!」

 遠くから再び聞こえてきたので、シラーに確認してからコップに入れて、掲げた。するとトランが通り過ぎざまにコップを奪っていく。その直後に続くドラゴンがすごい勢いで通り過ぎていく。マラソンの給水所みたいだったな。トランは少し離れた場所でトマトジュースをぐいっと飲む。むせてるな。また、喋りながら……。

「なぜ、変身しないのだぁ!!」

 大声が辺りにこだまする。本当に変身すると思っているのか。なんとも困ったものだな。しかし、トランの手傷は酷いものだが、ドラゴンにはかすり傷一つないぞ。これは本格的に逃げを考えなければな。

 そんなことを考えている最中にトランとドラゴンの一騎打ちが始まっていた。他の眷属達は? そう思っていたら、全員が下山をしてきた。皆も満身創痍だ。駆け寄り、すぐに回復魔法をかけてやった。それが終わると、眷属達は眠ってしまった。相当疲れていたのだろうな。

 トランとドラゴンの戦いに再び目線を向けると、戦況がトランにかなり不利な状態になっている。万全ならともかく、トランも体力が著しく削られ、立っているのもやっとの様子だ。このままではまずいかも知れない。周囲から木材を調達し、ドアを作った。それにドアノブを取り付け、いつでも逃げ出せる準備を整えた。

 シラーと一緒に、眷属達をドアの中に放り込み、シェラとオリバもドアに誘導した。この場に残るのはトランとドラゴン、僕とシラーとシュリーだ。シュリーにも避難をするように促し、頷いてドアに入ろうとしたがふと足を止めた。

 トランの危機的状況を目にしたからだ。シュリーは咄嗟にトランの体をかばうために盾となったのだ。ドラゴンの爪が容赦なくシュリーの体を切り裂く。シュリーの体には大きく抉られるような傷が出来、大量の血しぶきが辺りに散った。

 その瞬間だった。トランの様子が変わったのは。目が真っ赤に染まり、大きな翼が背中から飛び出してきたのだ。

 ……変身したのだ。

「ロッシュ君。シュリーを頼む」

 小さな声だがはっきりと聞こえてきた。頷くと、トランはドラゴンに向かって突撃していった。それは一方的なものだった。ドラゴンは防戦一方となり、トランは容赦なくドラゴンの鱗を剥ぎ取り、柔肌に大きなダメージを与えていく。シュリーに近づき、回復魔法で手当をする。

「ついにトラン様も変身を。なんと美しい姿なのでしょう。これが先祖様のお姿」

 そういうとバタッと気絶してしまった。流した血の量が多すぎたのだ。シラーにシュリーを預け、避難してもらうことにした。

「ご主人様は?」

「僕はこの戦いを見届ける。いざとなったら、避難をするからシュリーのことをよろしく頼む」

「分かりました。どうか無事で」

 そういうとシュリーを担いだシラーはドアに入っていった。シラーを見届けてから戦いを注視した。やはり、戦況は一変してしまった。変身後のトランは圧倒的な力を手に入れ、ドラゴンに着実にダメージを与えていく。もはやあと一撃というところで、ドラゴンの動きが急に止まった。それと同じくするようにトランの動きも止まったのだ。

 注意しながら、トランに近づく。トランの姿はすでに変身前の姿になっている。

「ロッシュ君。もう、このドラゴンに戦意はないようだ。これ以上の戦いは無意味だ」

「トラン。すごかったぞ。まさか本当に変身するとは」

「だから言ったではないか。真紅のなんとか、は秘宝だと」

 話をしていると、誰かが間に入ってきた。ここには僕とトランの他には一人、いや一匹しかいない。ドラゴンだ。

「我に勝利するとは。腕を上げたな、我が友トランよ」

 どういうことだ? トランが友だと!? トランは不思議そうにドラゴンを見つめる。二人には一体何があったというのだ。
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