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第341話 移動ドア
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シュリーの襲撃事件以降、トランはなんというか落ち着いたように感じる。僕を見下すような発言がなくなり、むしろ友のように接してくれる。一応、義理の親子ということになるのだが、あまり気にすることもないか。
「そういえば、ロッシュ君。私に仕事をくれると言っていただろう? あれはどうなったのだ?」
僕はトラン……というかシュリーと話したのだが、魔の森での専属護衛として仕事をしてもらうことになっているのだ。今までも何度も魔の森に入ったのだが、それはミヤとシラーがいたからこそだったのだが、ミヤは今は子供がいるため長旅には同行できない。シラー一人でも、と思うがそれは皆が許してくれない。僕にもっと誰にも頼らない強さがあればな。
「そろそろ魔の森の探索には出掛けるつもりだ。その時はよろしく頼むぞ。それよりも酒のほうは大丈夫か? 仕事をしてくれるのだ好きなだけ飲んでくれて構わないぞ」
「酒は……十分にもらっている。あの時、私は酒で我を忘れてしまっていた。そのせいでシュリーを暴走させてしまった。私は皆を率いる主としては失格だ。それゆえ酒はほどほどにしているのだ」
「意外だな。魔界の王とはそれほど部下思いだとは」
「ふむ。私も意外だったな。なにやらロッシュ君を見ているとそう感じてしまうのだ。よく分からんが、悪い気分ではない。シュリーもあれ以降、見たこともないほど機嫌が良いのだ。それに、最近は城の裏に畑を作ったのだ。なんとなく始めたのだが、なかなかいいものだな。さて、そろそろ帰るか。シュリーが待っているからな。探索の件、こちらはいつでもいいからな。ところで目的とかあるのか?」
「ん? うん。ちょっとドラゴンのところに行って、排泄物の採取をね」
「ドラゴン、だと。ど、どういうことだ。この魔の森にはドラゴンがいるというのか?」
僕は魔の森のドラゴンの事を説明すると、トランは腕を組み唸っていた。
「そうか……ドラゴンか。ミヤも行きたがるだろうな。ふっふっふ。面白くなってきたな。早速、行くか!!」
急にトランが立ち上がり、僕の腕を掴み、出ていこうとする。なんて強い力だ。
「トラン、まずは腕を離してくれ」
「おお、済まなかったな。ドラゴンと聞いて興奮してしまったようだ。いつぞやのドラゴンとの再戦を願っていたのだ。ここでその願いが叶うとはな」
ん? 話を聞いていなかったのか? ドラゴンとは戦うとは言っていないんだが。シェラから聞いた話では魔の森のドラゴンはいなくなってしまうと大変なことになってしまうらしい。でも、トランには何を言っても聞く耳を持ちそうにないな。トランには近日中に探索に行くことを告げると、上機嫌で帰っていった。
そのすぐ後にミヤが部屋に入ってきた。
「帰った?」
未だにミヤとトランの間の確執が残ったままだ。ミヤにも許してやりたい気持ちがありありと感じるのだが、なかなか仲直りは難しいようだ。
「やっぱりお父様もドラゴンに食いついていたわね。私も行きたいけど、シェードが心配だからね。場所がもうちょっと近ければと思うけど、うまくはいないものね」
この親子はなぜドラゴンを討伐対象としか見ていないのだろうか。本当に似たもの同士なのだろうな。僕がミヤと話をしていると、ドワーフのギガンスが大声を上げて窓からこちらを覗き込んできた。一瞬ビクッとしたが、僕と目があったギガンスは手を振ってから、玄関の方から回って入ってきた。
「おお、早速済まないな。どれ……」
僕はギガンスがやってくる前に酒を入れたコップをテーブルの上に置いておいた。これが最近の恒例となってきているのだ。ギガンスは一気に飲み干すと、大きな息を吐いた。
「旨いな。今回の報せは我らドワーフにとって重要なものだ。もちろん、ロッシュにとってもじゃ。実はな……あの扉の改良が上手くいったのじゃ。今までの魔石使用量をぐっと抑えることができたのじゃ。どうじゃ? これから実験をしたいのじゃが……魔石は持っているか?」
たしか、カバンの中に未使用の魔石があったはずだ。僕は何気なく取り出しギガンスに手渡した。その大きさにギガンスは驚きながら、魔石を眺めていた。すると近くでコーヒーを飲んでいたミヤが魔石を見て、驚いた声を上げた。
「ロッシュ。また魔石!! 一体、何個持っているの? 絶対、何か隠しているでしょ?」
しまった……ミヤは魔石にとにかく敏感に反応するのを忘れていた。なんとか誤魔化したが、やはり疑いの目を向けられている。はやくドラゴンのもとに行って、魔石の安定供給の途を作らなければ。胡散臭そうにミヤが僕のことを見つめてくる。とにかく、この場から逃げたい。
「ギガンス。それはすごいな。是非見てみたい。うん。今すぐ行こう!!」
「お、おう」
僕の剣幕にギガンスが押され気味になりながらも、魔の森のドワーフ工房に向かっていった。工房は僕が知らない間にもう一つ大きな工房が建てられていた。
「ああ、それはただの倉庫だ。ドワーフの技術はちょっと入っているが何の変哲もない倉庫じゃよ。最近は村と関わりも増えて、物も増えたからの。そんなことよりも、これじゃ!!」
ギガンスの横には大きなドアが置かれていた。前に見たものより少し大きな感じがするな。高さ三メートルほどだろうか。ちょっと設置場所に困る感じがする。しかし、ドアが一つしかないようだが。
「これはな、移動ドアの本体なんじゃ。そして、これが……」
そう言って取り出してきたのは、ドアノブ?
「これを取り付ければ、このドアと繋がることができるんじゃよ」
なるほど。つまり本体を拠点に据えることで各地に行けるようになるということか。ただ、拠点を常に経由しなければならないのだ。まぁ、大した問題はないだろうな。
「それが問題はあるんじゃ。この扉は魔石を消費して使うことが出来るのは分かっておるの? 消費量が決めるのは、移動する距離、人数、使用する間隔で決まるのじゃ。確かに拠点を経由すれば、ドアを設置した場所に行けるじゃろう。しかし、ある場所から拠点に移動し、すぐに違う場所に行こうとすると大量に魔石を消耗してしまうんじゃ。これは移動ドアの特性と思って諦めてくれ」
どれほど消耗するか聞くと、すぐに別の場所に移動しようと思ったら通常の九百回分の魔力消費になるらしい。まだ、一度の消費量がわからないからなんとも言えないが、すぐに使えるものではなさそうだ。ちなみに、使用間隔を丸一日開けると問題ないそうだ。つまり、移動は一日に一回ということだ。考えて利用しなければな。
ドアノブはとりあえず三つある。僕はギガンスから受け取り、とにかく試すことにした。
「そういえば、ロッシュは魔の森の天辺山に向かうんじゃろ? だったら、我らが住んでいた里からの方が近いじゃろ。このドアからなら、里に置いてきたドアに繋がるから使うとええじゃろう。と、その前に試したいのじゃな。どれドアノブを一つ貸してくれ。先程の倉庫に取り付けてくるわい」
ギガンスは工房を出ていったと思うとすぐに戻ってきた。僕はギガンスに魔石を手渡し、それをドアの真ん中にある石に近づけていくと魔石はその石に取り込まれてしまった。それまで黒かった石が真っ赤に染まった。
「良い石じゃな。これほど良質なものはなかなかお目にかかれないの。どうじゃ? 儂にも何個か分けてくれんか?」
僕は手持ちの魔石が殆どないことを告げると、ギガンスは肩を落として落ち込んでしまった。しょんぼりとした様子でドアの実験をすることにした。僕はドアノブに手をかけ、静かに開けてみた。するとドアの奥にあったものはゴミゴミと物が積まれている場所だった。
……成功だ。
ちょっと倉庫の中の物に目移りしてしまった。そして僕は戻ろうしたが、どうやったら戻るんだ? また移動ドアを使ってしまえば大量に魔石を消耗してしまう。しかし、この倉庫には目の前にあるドアがひとつだけ。開けるに開けられなくなってしまった。閉じ込められた……。
そう思ったらすぐにドアが開けられた。外の風景が広がり、工房が見えていた。
「すまんかったの。開け方を教えるのを忘れてしまっていたわ。移動ドアを使う時にはドアノブを上に動かすんじゃ。普通に外に出たかったら下に動かせばいい。移動ドアの本体だけはどう開けても移動ドアとして機能してしまうから注意が必要じゃ。ちなみに移動先を変えるにはここをいじるんじゃ」
僕はギガンスから使い方を教えてもらった。特に注意は魔石の補充のタイミングだ。それはドアの本体の石の色で判断する。今は真っ赤に光っているが、黒ずみだしたら補充のタイミングだ。これを見過ごすと、変な場所に取り残されることになる。
移動ドアは、遠隔地に置かれるのが常だ。それはそうだろう。ひどい場合は離島に置かれ、長い間離島で暮らさざるを得ないことになる。ただ、僕が渡した魔石であればそう簡単にはなくならないらしい。
「ギガンス。本当に助かったぞ。このドアはもらっていってもいいのか?」
「もちろんじゃよ。儂らには不要なものじゃ。まぁ気が向いたら、改良してやるぞ。それとさっきのドアノブじゃ。この里にドアノブを付ける必要はないじゃろ?」
たしかに、村から目と鼻の先に三つしかないドアノブを使うのは勿体無いな。僕はドアノブを受け取り、ドア本体を屋敷に持って帰ることにした。しかし、ドアが入らない。大工を呼び出し、屋敷の一室に移動ドア専用の部屋を作ってもらった。その部屋の真ん中に移動ドアを設置した。今開ければ、魔の森のドワーフの里だった場所に行けるはずだな。
これで魔の森探索は随分と日数を減らすことが出来るな。たしか、ドワーフの里に向かうだけでも一月以上はかかっていたはず。往復で二ヶ月分。しかも今回は、ドラゴンがいる天辺山にドアを設置すれば片道分の時間だけを考えておけばいい。そうなれば、ドワーフの里だった場所にあるドアノブも回収しておきたいところだな。
なにせ手元に三つ。ドワーフの里に一つ。全部で四つしかないからな。
僕はトランに探索に出掛ける事を告げ、家族にも伝えた。やはり皆は心配してくれたが、今回はトラン一行が同行してくれるのだ。これ以上の護衛はないだろう。それでもシェラは文句を言ってくる。
「だからこそ、心配なのよ。一度は旦那様の命を狙ったのよ。よく簡単に信頼できるわね。とにかく、今回は私も付いていくからね。旦那様の事も心配だけど、ドラゴンも心配だわ。あの魔族達、ドラゴンは狩りの対象にしか見ていないもの」
それは僕の危惧しているところだ。トランが納得してくるかどうか。するとミヤが意外なことを言った。
「その点については大丈夫よ。一応は元魔王よ。約定は必ず守るわ。今回の探索はロッシュからの依頼でしょ? だったらロッシュの意向を無視するようなことはないわ。まぁシェラが同行するのはいいと思うわ。あなた、最近太ったでしょ? ちょっと運動したほうがいいわ」
「なっ……!!!!」
ふむ……僕はシェラの体を上から下まで見る。たしかに……
「見ないでぇ!!」
シェラは体をかばいながら、自分の部屋に逃げていった。さて、久しぶりの探検だ。どんな発見が出来るか楽しみだ。
「そういえば、ロッシュ君。私に仕事をくれると言っていただろう? あれはどうなったのだ?」
僕はトラン……というかシュリーと話したのだが、魔の森での専属護衛として仕事をしてもらうことになっているのだ。今までも何度も魔の森に入ったのだが、それはミヤとシラーがいたからこそだったのだが、ミヤは今は子供がいるため長旅には同行できない。シラー一人でも、と思うがそれは皆が許してくれない。僕にもっと誰にも頼らない強さがあればな。
「そろそろ魔の森の探索には出掛けるつもりだ。その時はよろしく頼むぞ。それよりも酒のほうは大丈夫か? 仕事をしてくれるのだ好きなだけ飲んでくれて構わないぞ」
「酒は……十分にもらっている。あの時、私は酒で我を忘れてしまっていた。そのせいでシュリーを暴走させてしまった。私は皆を率いる主としては失格だ。それゆえ酒はほどほどにしているのだ」
「意外だな。魔界の王とはそれほど部下思いだとは」
「ふむ。私も意外だったな。なにやらロッシュ君を見ているとそう感じてしまうのだ。よく分からんが、悪い気分ではない。シュリーもあれ以降、見たこともないほど機嫌が良いのだ。それに、最近は城の裏に畑を作ったのだ。なんとなく始めたのだが、なかなかいいものだな。さて、そろそろ帰るか。シュリーが待っているからな。探索の件、こちらはいつでもいいからな。ところで目的とかあるのか?」
「ん? うん。ちょっとドラゴンのところに行って、排泄物の採取をね」
「ドラゴン、だと。ど、どういうことだ。この魔の森にはドラゴンがいるというのか?」
僕は魔の森のドラゴンの事を説明すると、トランは腕を組み唸っていた。
「そうか……ドラゴンか。ミヤも行きたがるだろうな。ふっふっふ。面白くなってきたな。早速、行くか!!」
急にトランが立ち上がり、僕の腕を掴み、出ていこうとする。なんて強い力だ。
「トラン、まずは腕を離してくれ」
「おお、済まなかったな。ドラゴンと聞いて興奮してしまったようだ。いつぞやのドラゴンとの再戦を願っていたのだ。ここでその願いが叶うとはな」
ん? 話を聞いていなかったのか? ドラゴンとは戦うとは言っていないんだが。シェラから聞いた話では魔の森のドラゴンはいなくなってしまうと大変なことになってしまうらしい。でも、トランには何を言っても聞く耳を持ちそうにないな。トランには近日中に探索に行くことを告げると、上機嫌で帰っていった。
そのすぐ後にミヤが部屋に入ってきた。
「帰った?」
未だにミヤとトランの間の確執が残ったままだ。ミヤにも許してやりたい気持ちがありありと感じるのだが、なかなか仲直りは難しいようだ。
「やっぱりお父様もドラゴンに食いついていたわね。私も行きたいけど、シェードが心配だからね。場所がもうちょっと近ければと思うけど、うまくはいないものね」
この親子はなぜドラゴンを討伐対象としか見ていないのだろうか。本当に似たもの同士なのだろうな。僕がミヤと話をしていると、ドワーフのギガンスが大声を上げて窓からこちらを覗き込んできた。一瞬ビクッとしたが、僕と目があったギガンスは手を振ってから、玄関の方から回って入ってきた。
「おお、早速済まないな。どれ……」
僕はギガンスがやってくる前に酒を入れたコップをテーブルの上に置いておいた。これが最近の恒例となってきているのだ。ギガンスは一気に飲み干すと、大きな息を吐いた。
「旨いな。今回の報せは我らドワーフにとって重要なものだ。もちろん、ロッシュにとってもじゃ。実はな……あの扉の改良が上手くいったのじゃ。今までの魔石使用量をぐっと抑えることができたのじゃ。どうじゃ? これから実験をしたいのじゃが……魔石は持っているか?」
たしか、カバンの中に未使用の魔石があったはずだ。僕は何気なく取り出しギガンスに手渡した。その大きさにギガンスは驚きながら、魔石を眺めていた。すると近くでコーヒーを飲んでいたミヤが魔石を見て、驚いた声を上げた。
「ロッシュ。また魔石!! 一体、何個持っているの? 絶対、何か隠しているでしょ?」
しまった……ミヤは魔石にとにかく敏感に反応するのを忘れていた。なんとか誤魔化したが、やはり疑いの目を向けられている。はやくドラゴンのもとに行って、魔石の安定供給の途を作らなければ。胡散臭そうにミヤが僕のことを見つめてくる。とにかく、この場から逃げたい。
「ギガンス。それはすごいな。是非見てみたい。うん。今すぐ行こう!!」
「お、おう」
僕の剣幕にギガンスが押され気味になりながらも、魔の森のドワーフ工房に向かっていった。工房は僕が知らない間にもう一つ大きな工房が建てられていた。
「ああ、それはただの倉庫だ。ドワーフの技術はちょっと入っているが何の変哲もない倉庫じゃよ。最近は村と関わりも増えて、物も増えたからの。そんなことよりも、これじゃ!!」
ギガンスの横には大きなドアが置かれていた。前に見たものより少し大きな感じがするな。高さ三メートルほどだろうか。ちょっと設置場所に困る感じがする。しかし、ドアが一つしかないようだが。
「これはな、移動ドアの本体なんじゃ。そして、これが……」
そう言って取り出してきたのは、ドアノブ?
「これを取り付ければ、このドアと繋がることができるんじゃよ」
なるほど。つまり本体を拠点に据えることで各地に行けるようになるということか。ただ、拠点を常に経由しなければならないのだ。まぁ、大した問題はないだろうな。
「それが問題はあるんじゃ。この扉は魔石を消費して使うことが出来るのは分かっておるの? 消費量が決めるのは、移動する距離、人数、使用する間隔で決まるのじゃ。確かに拠点を経由すれば、ドアを設置した場所に行けるじゃろう。しかし、ある場所から拠点に移動し、すぐに違う場所に行こうとすると大量に魔石を消耗してしまうんじゃ。これは移動ドアの特性と思って諦めてくれ」
どれほど消耗するか聞くと、すぐに別の場所に移動しようと思ったら通常の九百回分の魔力消費になるらしい。まだ、一度の消費量がわからないからなんとも言えないが、すぐに使えるものではなさそうだ。ちなみに、使用間隔を丸一日開けると問題ないそうだ。つまり、移動は一日に一回ということだ。考えて利用しなければな。
ドアノブはとりあえず三つある。僕はギガンスから受け取り、とにかく試すことにした。
「そういえば、ロッシュは魔の森の天辺山に向かうんじゃろ? だったら、我らが住んでいた里からの方が近いじゃろ。このドアからなら、里に置いてきたドアに繋がるから使うとええじゃろう。と、その前に試したいのじゃな。どれドアノブを一つ貸してくれ。先程の倉庫に取り付けてくるわい」
ギガンスは工房を出ていったと思うとすぐに戻ってきた。僕はギガンスに魔石を手渡し、それをドアの真ん中にある石に近づけていくと魔石はその石に取り込まれてしまった。それまで黒かった石が真っ赤に染まった。
「良い石じゃな。これほど良質なものはなかなかお目にかかれないの。どうじゃ? 儂にも何個か分けてくれんか?」
僕は手持ちの魔石が殆どないことを告げると、ギガンスは肩を落として落ち込んでしまった。しょんぼりとした様子でドアの実験をすることにした。僕はドアノブに手をかけ、静かに開けてみた。するとドアの奥にあったものはゴミゴミと物が積まれている場所だった。
……成功だ。
ちょっと倉庫の中の物に目移りしてしまった。そして僕は戻ろうしたが、どうやったら戻るんだ? また移動ドアを使ってしまえば大量に魔石を消耗してしまう。しかし、この倉庫には目の前にあるドアがひとつだけ。開けるに開けられなくなってしまった。閉じ込められた……。
そう思ったらすぐにドアが開けられた。外の風景が広がり、工房が見えていた。
「すまんかったの。開け方を教えるのを忘れてしまっていたわ。移動ドアを使う時にはドアノブを上に動かすんじゃ。普通に外に出たかったら下に動かせばいい。移動ドアの本体だけはどう開けても移動ドアとして機能してしまうから注意が必要じゃ。ちなみに移動先を変えるにはここをいじるんじゃ」
僕はギガンスから使い方を教えてもらった。特に注意は魔石の補充のタイミングだ。それはドアの本体の石の色で判断する。今は真っ赤に光っているが、黒ずみだしたら補充のタイミングだ。これを見過ごすと、変な場所に取り残されることになる。
移動ドアは、遠隔地に置かれるのが常だ。それはそうだろう。ひどい場合は離島に置かれ、長い間離島で暮らさざるを得ないことになる。ただ、僕が渡した魔石であればそう簡単にはなくならないらしい。
「ギガンス。本当に助かったぞ。このドアはもらっていってもいいのか?」
「もちろんじゃよ。儂らには不要なものじゃ。まぁ気が向いたら、改良してやるぞ。それとさっきのドアノブじゃ。この里にドアノブを付ける必要はないじゃろ?」
たしかに、村から目と鼻の先に三つしかないドアノブを使うのは勿体無いな。僕はドアノブを受け取り、ドア本体を屋敷に持って帰ることにした。しかし、ドアが入らない。大工を呼び出し、屋敷の一室に移動ドア専用の部屋を作ってもらった。その部屋の真ん中に移動ドアを設置した。今開ければ、魔の森のドワーフの里だった場所に行けるはずだな。
これで魔の森探索は随分と日数を減らすことが出来るな。たしか、ドワーフの里に向かうだけでも一月以上はかかっていたはず。往復で二ヶ月分。しかも今回は、ドラゴンがいる天辺山にドアを設置すれば片道分の時間だけを考えておけばいい。そうなれば、ドワーフの里だった場所にあるドアノブも回収しておきたいところだな。
なにせ手元に三つ。ドワーフの里に一つ。全部で四つしかないからな。
僕はトランに探索に出掛ける事を告げ、家族にも伝えた。やはり皆は心配してくれたが、今回はトラン一行が同行してくれるのだ。これ以上の護衛はないだろう。それでもシェラは文句を言ってくる。
「だからこそ、心配なのよ。一度は旦那様の命を狙ったのよ。よく簡単に信頼できるわね。とにかく、今回は私も付いていくからね。旦那様の事も心配だけど、ドラゴンも心配だわ。あの魔族達、ドラゴンは狩りの対象にしか見ていないもの」
それは僕の危惧しているところだ。トランが納得してくるかどうか。するとミヤが意外なことを言った。
「その点については大丈夫よ。一応は元魔王よ。約定は必ず守るわ。今回の探索はロッシュからの依頼でしょ? だったらロッシュの意向を無視するようなことはないわ。まぁシェラが同行するのはいいと思うわ。あなた、最近太ったでしょ? ちょっと運動したほうがいいわ」
「なっ……!!!!」
ふむ……僕はシェラの体を上から下まで見る。たしかに……
「見ないでぇ!!」
シェラは体をかばいながら、自分の部屋に逃げていった。さて、久しぶりの探検だ。どんな発見が出来るか楽しみだ。
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