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第340話 ミヤの父親トラン 終わり
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目を覚ますとベッド周りに多くの人が詰めかけていた。もちろん、僕の妻であるエリス達なのだが、場違いな者達もいた。そう、土下座をし続けるトランと大怪我を負っているシュリーがいたのだ。一体何が……。僕は記憶を無くす前のことを思い出そうとした。シュリーと話をしている時に、僕の中で何かが膨れ上がるのを感じたのだ。
それに自分が乗っ取られたような、いわば浮遊感のようなものを感じた直後に記憶を無くしているのだ。思い出せるのはそれだけだ。それからは一体どうなったのか。そういえば、シラーは一体どこに行ったのだ? この場には……僕が見渡すと部屋の隅でおどおどとした様子で立っていたのが見えた。
「シラー。なんでそんなところにいるんだ? こっちに来てくれ。僕が記憶を失う前の話を教えてくれないか?」
シラーは僕に声を掛けられてビクッとした様子で、恐る恐るこちらに近づいてきた。一体どうしたというのだ。僕はシラーが近づいてきたので手を握ると、少し明るい顔に戻ったような気がする。
「ご主人様に戻っていただけたのでしょうか?」
「一体、なんのことだ。僕はいつだって僕じゃないか。それよりも教えてくれないか?」
「分かりました。あの時……」
シラーは思い出すのも恐ろしいのか、ひどく恐怖に顔を引きつらせながらぽつりぽつりと言葉を出し始めた。僕が急にふらりともと来た道を戻ろうとしたところから話が始まった。そのときシュリーが僕の前に立ちはだかったことに僕が激昂した様子だったようだ。
「そこを……どけ」
僕がその言葉を出すと、急に周囲に突風が吹き荒れ始めたというのだ。シラーは尋常ではない様子だったので、僕に何度も声を掛けてみたいだが、全く聞く耳を持たずにじっとシュリーを睨んだままだったという。この状況でもシュリーはまだ余裕があったようだ。
「そのような児戯に私が屈するとでも思っているのか? 所詮は人間よ」
そういうとシュリーは眷属達に僕に攻撃を仕掛けるように命令を出したそうだ。眷属達は躊躇なく僕に攻撃を加えるために近づいていく。シラーはなんとか数人の眷属を抑えることが出来たが、数名が僕に襲いかかった。シラーにとっても、これが僕との別れだと思ったみたいだ。それほど眷属と僕の間には力量に差があり、しかも数人ともなれば間違いなく負けると思っていた。
しかし、シラーの目の前には信じられない光景が広がっていたのだ。眷属達が襲いかかる瞬間、シラーが見たこともない構えを僕がしだしたと思うと、眷属達が吹き飛んでいたのだ。シラーは信じられない様子で手を止めてしまった隙に、押さえ込んでいた数人の眷属も僕に襲いかかってしまった。
「しまった!!」
シラーの叫びは虚しく響いた。その襲いかかった眷属達も先と同じように吹き飛んでいく。何度も何度も眷属達が襲いかかるが、その度に僕は当たり前のように吹き飛ばしていく。まるで眷属が子供のような扱いだ。
「信じられない。あのトラン様の眷属がこうも簡単にあしらわれるなんて」
シラーはつい言葉にしてしまったが、その光景はそれほど信じられなかった。トランの眷属は魔界でも最強の部類に属するほど強く、眷属が数人いるだけで敵軍団を葬ってしまうほどだ。それが十人もいるのに、僕に傷一つ負わせることができないのだ。
眷属達にも手傷がないものの、体力とプライドを大きくすり減らして戦意を徐々に失い始めていた。それまで静かに見守っていたシュリーが遂に出てきたのだ。シュリーは眷属の中でも古参で、トランの妻となれるほどの実力者なのだ。同じ眷属でも一線を画するため、前線に出ても一人で全てを片付けてしまうほどの強さだ。ここにいる眷属達も強いが、シュリーの前では色あせてしまう。
「そなたは本当に人間か。まとっている魔力は明らかに、人間のものではない。それでも私に勝てるほどではないですね」
ついにシュリーが僕に攻撃を加え始めた。シュリーの攻撃は体術だけだ。その一打一打に込められる力は尋常なものではなく、かすっただけでも魔獣の体が破裂してしまうほどだ。僕とてただでは済まないだろう。シュリーが渾身の一撃を僕に繰り出した。
シラーはこの瞬間はさすがに駄目だと思い、目を閉じてしまったらしい。しかし、辺りが静まり返っていることに不信を持ち、目を開いてみると僕がシュリーの拳を掴み、シュリーがそこから抜け出そうと必死にもがいている姿だった。
「離せ!! はな……あああっ」
どうやら僕がシュリーの拳を握りつぶそうと力を込めていたようだ。それにシュリーは必死にあがき、僕に蹴りを入れ、その反動でようやく脱することが出来た。しかしシュリーの拳はすっかり潰れ、とても使い物になる様子はない。これをみて、シラーはもはや決着は着いたと思った。
「負けられない!! このまま、おめおめと帰ってしまえばトラン様に申しわけが立たない。この勝負は絶対に負けられないのだ!!」
シュリーはそう叫ぶと、渾身の一撃を僕に繰り出してきた。すると、今まで一言も発していなかった僕が急に大声を上げだした。その変化はとても僕とは思えないものだったようだ。大地が揺れ、烈風は吹き荒れ、周りの木々がなぎ倒されていく。襲いかかっていたシュリーも突風に阻まれて、僕に近寄ることが出来ない。ただ、不思議とシラーの周りには風が吹いていなかったという。シラーはつい僕に近寄っていった。
「ご主人様。もう十分です!! シュリーさんは戦意を失っています!! だから、もう……」
シラーの言葉は僕に届いたのか、僕の叫びが一旦止まった。すると今まで吹き荒れていた風は止み、大地の震えが止まった。この状況でもシュリーは戦意を失っておらず、一撃を僕に繰り出してきた。すると、僕はシラーの体を寄せたと思うと手を前に突き出した。
「終わりだ……」
僕がそう言うと、強大な魔力が僕の手に集まりだした。禍々しい真っ黒な魔力だ。それが霧散したと思うと周囲の地形は大きく変わっていた。シュリーもこの魔力に飲み込まれたのか、遠くに転がっていた。魔力を放出した僕は急に脱力したようにバタリと倒れてしまった。
それで話は終わった。僕はシラーに屋敷まで運び込まれ、事情を説明し、ミヤの眷属達がその場所に探索に赴き、命からがらといった様子のシュリーと眷属達を発見し、城の運び込んだというのだ。僕は一週間ほど寝込み、今に至るというのだ。
僕は自分の手を見つめ、この体には一体何が起こっているというのだ。とにかく、今は視界に入っているトランをどうにかしなければ。さすがに土下座を続けているのは可哀想だろう。
「トラン……何故、土下座をしているのだ? とにかく頭を下げてくれ」
「ロッシュ君。今回は本当に申しわけないことをした。シュリーは私の妻だ。きっと、私の事を気にかけてしたことだとしても……許されなことをした。ミヤも私には会ってくれないという。当然のことだ。我々はこのまま君たちの前から去ろうと思う。それを伝えたくて、ここに居させてもらった」
シュリーもその場にいたが、僕の姿を恐ろしげなものを見るような目が変わることはなかった。
「トラン。気にすることはないぞ」
僕の言葉にシェラが言葉を荒げた。
「貴方は死ぬところだったのよ? なんで、そんな言葉が出るのよ。旦那様にこんな思いをさせたこの女だけは絶対に許さないわよ」
「シェラも落ち着いてくれ。こんな危機は今までもあったじゃないか。いちいち目くじらを立てなくてもいい。それよりも聞きたいことがあるんだ。トランは公国に危害を加える気があったのか?」
「公国はいい国だ。危害を加える気など一切ない。それはロッシュ君を王と認めたときから、私の誓いにもなった。それは私の命に代えても嘘はないぞ」
「それならば、シュリーに城を出る時に言われた時、笑っていただろう。あれはなんだったのだ?」
「いや、それはな……実はどうしても酒が欲しくてな。酒の在り処を知って、盗みに行こうと……もちろん、途中で我に返って、それはしなかったが。なるほど、そこを勘違いしていたのか」
僕はつい笑ってしまった。どうやら僕はトランのことを勘違いしてようだ。トランを信じていれば、このような事態にはならなかったかも知れない。シュリーの暴走も僕がトランに何も相談もせずに酒を渋ったのが原因だろう。もちろん、ミヤのこともあるだろうけど。
「トラン。前に話した、魔の森での護衛をしてくれるというのであれば、ここでの滞在を許可しよう。それに見合うだけの酒も渡そう。どうしても飲みたければ、村の屋敷に遊びに来るがいい。その時はミヤの父だ。歓迎しよう」
「ロッシュ君……私は君が気に入ったよ。ミヤの旦那として申し分ないと思う。シュリーも異存はないな?」
ずっと黙っていたシュリーは僕の方をちらっと見て、小さな溜息をした。
「私から申し上げることはありません。魔族にとって力は絶対なもの。伴侶にはそれにふさわしい力があれば良いのです。今回の一件で、ロッシュ様にはその力があると十分に理解しました。はっきりと言えば、魔界でも魔王以上に相当するものと思います」
「ほお。シュリーがそこまで評価しているとはな。ロッシュ君。これからも是非よろしく頼む。そして、義父からの最初の願いだ。なんとかミヤの機嫌を直してくれないだろうか」
随分とトランが小さくなってしまったな。しかし、ようやく義父であるトランと分かり合えたような気がする。それにしてもミヤの機嫌をか。普段、あまり感情を表にしないシェラがこの調子では思いやられるな。僕はベッドから出て、体の調子を確認したが、どこも異常はないようだ。どれ、まずはシュリーの怪我を治してやらねばならないだろう。
先程の話からすれば、拳が砕けているはずだ。僕がシュリーに対して手を出すと、シュリーは一歩後ろに引き下がった。
「大丈夫だ。ただ、回復魔法を使うだけだ」
そう言って、僕はシュリーに回復魔法をかけた。血が滲んでいた腕がきれいな肌に変わっていった。形がやや崩れていた拳もほっそりとしたきれいな手に変わった。こんな拳で激戦を繰り広げるとはな。僕はじっとシュリーの拳を眺めていると、さすがに嫌がったのか、シュリーが手を引いてしまった。
「そんなに見つめられると恥ずかしいので止めてください。本当にロッシュ様は何者なんでしょうか。今回の一件でトラン様の眷属もロッシュ様への見方を大きく変わり、慕うものも多くいます。なにとぞ、彼女らもかわいがってください」
一体何を……。それにいつの間にか呼び方が変わっている。まぁいいか。とにかく、これで全てが丸く収まったというものだ。僕の体の謎については分からない仕舞いだったが、きっとこのようなことは二度とないだろうから考えないようにしよう。
むしろ、ミヤの説得が……頭が痛い。
それに自分が乗っ取られたような、いわば浮遊感のようなものを感じた直後に記憶を無くしているのだ。思い出せるのはそれだけだ。それからは一体どうなったのか。そういえば、シラーは一体どこに行ったのだ? この場には……僕が見渡すと部屋の隅でおどおどとした様子で立っていたのが見えた。
「シラー。なんでそんなところにいるんだ? こっちに来てくれ。僕が記憶を失う前の話を教えてくれないか?」
シラーは僕に声を掛けられてビクッとした様子で、恐る恐るこちらに近づいてきた。一体どうしたというのだ。僕はシラーが近づいてきたので手を握ると、少し明るい顔に戻ったような気がする。
「ご主人様に戻っていただけたのでしょうか?」
「一体、なんのことだ。僕はいつだって僕じゃないか。それよりも教えてくれないか?」
「分かりました。あの時……」
シラーは思い出すのも恐ろしいのか、ひどく恐怖に顔を引きつらせながらぽつりぽつりと言葉を出し始めた。僕が急にふらりともと来た道を戻ろうとしたところから話が始まった。そのときシュリーが僕の前に立ちはだかったことに僕が激昂した様子だったようだ。
「そこを……どけ」
僕がその言葉を出すと、急に周囲に突風が吹き荒れ始めたというのだ。シラーは尋常ではない様子だったので、僕に何度も声を掛けてみたいだが、全く聞く耳を持たずにじっとシュリーを睨んだままだったという。この状況でもシュリーはまだ余裕があったようだ。
「そのような児戯に私が屈するとでも思っているのか? 所詮は人間よ」
そういうとシュリーは眷属達に僕に攻撃を仕掛けるように命令を出したそうだ。眷属達は躊躇なく僕に攻撃を加えるために近づいていく。シラーはなんとか数人の眷属を抑えることが出来たが、数名が僕に襲いかかった。シラーにとっても、これが僕との別れだと思ったみたいだ。それほど眷属と僕の間には力量に差があり、しかも数人ともなれば間違いなく負けると思っていた。
しかし、シラーの目の前には信じられない光景が広がっていたのだ。眷属達が襲いかかる瞬間、シラーが見たこともない構えを僕がしだしたと思うと、眷属達が吹き飛んでいたのだ。シラーは信じられない様子で手を止めてしまった隙に、押さえ込んでいた数人の眷属も僕に襲いかかってしまった。
「しまった!!」
シラーの叫びは虚しく響いた。その襲いかかった眷属達も先と同じように吹き飛んでいく。何度も何度も眷属達が襲いかかるが、その度に僕は当たり前のように吹き飛ばしていく。まるで眷属が子供のような扱いだ。
「信じられない。あのトラン様の眷属がこうも簡単にあしらわれるなんて」
シラーはつい言葉にしてしまったが、その光景はそれほど信じられなかった。トランの眷属は魔界でも最強の部類に属するほど強く、眷属が数人いるだけで敵軍団を葬ってしまうほどだ。それが十人もいるのに、僕に傷一つ負わせることができないのだ。
眷属達にも手傷がないものの、体力とプライドを大きくすり減らして戦意を徐々に失い始めていた。それまで静かに見守っていたシュリーが遂に出てきたのだ。シュリーは眷属の中でも古参で、トランの妻となれるほどの実力者なのだ。同じ眷属でも一線を画するため、前線に出ても一人で全てを片付けてしまうほどの強さだ。ここにいる眷属達も強いが、シュリーの前では色あせてしまう。
「そなたは本当に人間か。まとっている魔力は明らかに、人間のものではない。それでも私に勝てるほどではないですね」
ついにシュリーが僕に攻撃を加え始めた。シュリーの攻撃は体術だけだ。その一打一打に込められる力は尋常なものではなく、かすっただけでも魔獣の体が破裂してしまうほどだ。僕とてただでは済まないだろう。シュリーが渾身の一撃を僕に繰り出した。
シラーはこの瞬間はさすがに駄目だと思い、目を閉じてしまったらしい。しかし、辺りが静まり返っていることに不信を持ち、目を開いてみると僕がシュリーの拳を掴み、シュリーがそこから抜け出そうと必死にもがいている姿だった。
「離せ!! はな……あああっ」
どうやら僕がシュリーの拳を握りつぶそうと力を込めていたようだ。それにシュリーは必死にあがき、僕に蹴りを入れ、その反動でようやく脱することが出来た。しかしシュリーの拳はすっかり潰れ、とても使い物になる様子はない。これをみて、シラーはもはや決着は着いたと思った。
「負けられない!! このまま、おめおめと帰ってしまえばトラン様に申しわけが立たない。この勝負は絶対に負けられないのだ!!」
シュリーはそう叫ぶと、渾身の一撃を僕に繰り出してきた。すると、今まで一言も発していなかった僕が急に大声を上げだした。その変化はとても僕とは思えないものだったようだ。大地が揺れ、烈風は吹き荒れ、周りの木々がなぎ倒されていく。襲いかかっていたシュリーも突風に阻まれて、僕に近寄ることが出来ない。ただ、不思議とシラーの周りには風が吹いていなかったという。シラーはつい僕に近寄っていった。
「ご主人様。もう十分です!! シュリーさんは戦意を失っています!! だから、もう……」
シラーの言葉は僕に届いたのか、僕の叫びが一旦止まった。すると今まで吹き荒れていた風は止み、大地の震えが止まった。この状況でもシュリーは戦意を失っておらず、一撃を僕に繰り出してきた。すると、僕はシラーの体を寄せたと思うと手を前に突き出した。
「終わりだ……」
僕がそう言うと、強大な魔力が僕の手に集まりだした。禍々しい真っ黒な魔力だ。それが霧散したと思うと周囲の地形は大きく変わっていた。シュリーもこの魔力に飲み込まれたのか、遠くに転がっていた。魔力を放出した僕は急に脱力したようにバタリと倒れてしまった。
それで話は終わった。僕はシラーに屋敷まで運び込まれ、事情を説明し、ミヤの眷属達がその場所に探索に赴き、命からがらといった様子のシュリーと眷属達を発見し、城の運び込んだというのだ。僕は一週間ほど寝込み、今に至るというのだ。
僕は自分の手を見つめ、この体には一体何が起こっているというのだ。とにかく、今は視界に入っているトランをどうにかしなければ。さすがに土下座を続けているのは可哀想だろう。
「トラン……何故、土下座をしているのだ? とにかく頭を下げてくれ」
「ロッシュ君。今回は本当に申しわけないことをした。シュリーは私の妻だ。きっと、私の事を気にかけてしたことだとしても……許されなことをした。ミヤも私には会ってくれないという。当然のことだ。我々はこのまま君たちの前から去ろうと思う。それを伝えたくて、ここに居させてもらった」
シュリーもその場にいたが、僕の姿を恐ろしげなものを見るような目が変わることはなかった。
「トラン。気にすることはないぞ」
僕の言葉にシェラが言葉を荒げた。
「貴方は死ぬところだったのよ? なんで、そんな言葉が出るのよ。旦那様にこんな思いをさせたこの女だけは絶対に許さないわよ」
「シェラも落ち着いてくれ。こんな危機は今までもあったじゃないか。いちいち目くじらを立てなくてもいい。それよりも聞きたいことがあるんだ。トランは公国に危害を加える気があったのか?」
「公国はいい国だ。危害を加える気など一切ない。それはロッシュ君を王と認めたときから、私の誓いにもなった。それは私の命に代えても嘘はないぞ」
「それならば、シュリーに城を出る時に言われた時、笑っていただろう。あれはなんだったのだ?」
「いや、それはな……実はどうしても酒が欲しくてな。酒の在り処を知って、盗みに行こうと……もちろん、途中で我に返って、それはしなかったが。なるほど、そこを勘違いしていたのか」
僕はつい笑ってしまった。どうやら僕はトランのことを勘違いしてようだ。トランを信じていれば、このような事態にはならなかったかも知れない。シュリーの暴走も僕がトランに何も相談もせずに酒を渋ったのが原因だろう。もちろん、ミヤのこともあるだろうけど。
「トラン。前に話した、魔の森での護衛をしてくれるというのであれば、ここでの滞在を許可しよう。それに見合うだけの酒も渡そう。どうしても飲みたければ、村の屋敷に遊びに来るがいい。その時はミヤの父だ。歓迎しよう」
「ロッシュ君……私は君が気に入ったよ。ミヤの旦那として申し分ないと思う。シュリーも異存はないな?」
ずっと黙っていたシュリーは僕の方をちらっと見て、小さな溜息をした。
「私から申し上げることはありません。魔族にとって力は絶対なもの。伴侶にはそれにふさわしい力があれば良いのです。今回の一件で、ロッシュ様にはその力があると十分に理解しました。はっきりと言えば、魔界でも魔王以上に相当するものと思います」
「ほお。シュリーがそこまで評価しているとはな。ロッシュ君。これからも是非よろしく頼む。そして、義父からの最初の願いだ。なんとかミヤの機嫌を直してくれないだろうか」
随分とトランが小さくなってしまったな。しかし、ようやく義父であるトランと分かり合えたような気がする。それにしてもミヤの機嫌をか。普段、あまり感情を表にしないシェラがこの調子では思いやられるな。僕はベッドから出て、体の調子を確認したが、どこも異常はないようだ。どれ、まずはシュリーの怪我を治してやらねばならないだろう。
先程の話からすれば、拳が砕けているはずだ。僕がシュリーに対して手を出すと、シュリーは一歩後ろに引き下がった。
「大丈夫だ。ただ、回復魔法を使うだけだ」
そう言って、僕はシュリーに回復魔法をかけた。血が滲んでいた腕がきれいな肌に変わっていった。形がやや崩れていた拳もほっそりとしたきれいな手に変わった。こんな拳で激戦を繰り広げるとはな。僕はじっとシュリーの拳を眺めていると、さすがに嫌がったのか、シュリーが手を引いてしまった。
「そんなに見つめられると恥ずかしいので止めてください。本当にロッシュ様は何者なんでしょうか。今回の一件でトラン様の眷属もロッシュ様への見方を大きく変わり、慕うものも多くいます。なにとぞ、彼女らもかわいがってください」
一体何を……。それにいつの間にか呼び方が変わっている。まぁいいか。とにかく、これで全てが丸く収まったというものだ。僕の体の謎については分からない仕舞いだったが、きっとこのようなことは二度とないだろうから考えないようにしよう。
むしろ、ミヤの説得が……頭が痛い。
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