爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。

秋田ノ介

文字の大きさ
上 下
336 / 408

第335話 ミヤとマグ姉の出産

しおりを挟む
 秋の終わりに差し掛かろうとしている。秋の収穫の全盛を迎え、各地から豊作の報せが村に舞い込んできた。主食となる米やじゃがいも、砂糖の原料の甜菜、繊維原料の綿など公国にとって必要なものばかりだ。中には面白いものとしてゴムなんてものもあった。ハーフ魔族というのか、ワーモスが代表をする一団に任せてあったゴムの木の栽培が順調に進んでいるらしい。

 ワーモスが魔の森付近にやってきたのは、村近くには魔族が住み着いているからだ。魔牛牧場の吸血鬼やエルフ、ドワーフも加わる。ゴブリンも魔族に加わるのかな? それはよく分からないが、こちらに友好的な魔族と接し、自らのルーツを辿るという目的があったようだ。

 しかし、残念ながらその目的は達成できていないようだ。なにせワーモス達は極度の人見知りをするようで、魔族に声を掛けられないでいるようだ。一応、僕の方からも吸血鬼達にはワーモスを気にかけてくれるように頼んでおいたが、功を奏しなかったようだ。それでもゴムの木の栽培には真面目に取り組んでくれているので、僕としては、というより公国としては何も言うことはないな。

 ゴムの木から採れた天然ゴムはそのすべてがタイヤ製造に回されている。すでに僕専用の馬車には装着されており快適な馬車移動を実現することが出来ている。もっとも、公国内の主要な道路は整備がかなり進んでいるため、タイヤがなくても問題ないのだが。

 秋の時間はあっという間に過ぎ去り、冬の影がチラチラと見え始めた頃、遂にやってきたのだ。マグ姉が産気づいたというのだ。村にいる産婆を呼び出し、すぐに処置をしてもらうことになったのだが、産婆は慌てるな、と一点張りで何もしようとしない。ちょっとイラッとしてしまったが、エリスが僕の手にそっと手を重ねてくれた。

 「赤ちゃんは自然に出るものですから、そのタイミングを見計らっているんですよ。あの産婆は腕がいいですから信頼して待ちましょう。コーヒーは如何ですか? 長丁場になるかもしれませんから」

 そうか。よく考えたらエリスの出産には立ち会えなかったし、リードとリリはエルフの里で勝手が違かったな。僕は冷静になるために一旦その場を離れ、コーヒーを飲みに行った。そこには皆が勢揃いしていた。ミヤのお腹も張り裂けんばかりに膨らみ、今か今かという状態になっている。

 「やっぱりマーガレットの方が早く産まれるのね。私の子供を兄か姉にしたかったけど、諦めるわ。それよりも聞いたかしら。最近、魔の森が騒がしいらしいわ。魔界との境界が曖昧になって、魔界の魔獣が暴れているらしいわよ。もっとも、こちらには被害がなさそうだけどエルフの里には知らせておいたほうがいいわね。あの種族は弱っちいから」

 その言葉に反応したのはリードだ。
 「あら? ミヤさん。それは聞き捨てなりませんね。エルフはかつて魔界では森の狩人の異名を持つほど、精強を誇っていたと聞いたことがあります。魔界の魔獣ごときにエルフの里が遅れを取ることはありません」

 「ふふっ。そうね。森に引きこもり続けて、そう呼ばれていたんですものね。もっとも森の狩人ではなくて森の番人ですけどね」

 リードは悔しそうに歯噛みしていたが、ミヤは気にする様子もない。しかし、魔界の魔獣か。一体どんなものなんだろうか。少し気になるな。

 「魔の森の魔獣は元々は魔界から来たものだから、同じようなものよ。ただ、強さについては桁違いかもしれないわね。単純に力やスピードが違うものもいれば、狡猾なものもいるわ。なんにしてもロッシュは近寄らないほうがいいわよ。貴方では逃げるだけで精一杯ですもの」

 そういうものか。ちょっと残念だ。魔界との境界線か……ということは魔族もやってくる可能性があるのか?

 「ないわね。境界線が曖昧になることなんて珍しいことではないわ。それでも魔の森にはエルフとドワーフくらいしかいないじゃない。それくらい魔の森っていうのは魔族にとっては興味が薄いのよ。私はお父様が命がけで逃がしてくれて、ロッシュと出会った場所だからとっても大切な場所だけどね」

 そうか。まぁ、魔族は来ないに限るな。吸血鬼のような暴風みたいな力が暴れられても困るし、ミヤみたいに友好的とは限らないからな。シェラにちょっと聞いてみよう。

 「シェラ。境界が曖昧になる理由ってなんだ?」

 「えっ!? 知らないわよ」

 「知らないってこの世界の女神だったんだろ?」

 「魔界との境界線については誰も触れたがらないものよ。魔界の神に会いたくないから」

 魔界にも神がいるのか。つまり、魔界とこの世界は別物。ん? ミヤも異世界人ってことか?

 「そういう風に言えるかもしれないけど、旦那様とは全然違うわよ。この世界と魔界は表裏一体みたいな関係なの。どちらもお互いに補い合っているのよ。だから、魔界もこの世界も大きな括りで言えば同じ世界なのよ。境界線が曖昧になっているのは、どちらかのバランスが崩れたときなのもしれないわね」

 壮大な話だな。しかし、魔族も大きな括りでは人間や亜人となんら変わらないことが分かったんだ。それだけを知れただけでも良かったな。僕達はそれからシェラの魔界の神への小言が続いたが、文句しか言わなかったので聞かなかったことにした。

 長い休憩をしていると、遠くの方から泣き声が聞こえてきた。産まれてしまったのか!! ああ、また見過ごしてしまった。僕は立ち会えない呪いでも掛けられているのか? いや、そんなことよりも早く行こう。僕は足早にマグ姉の部屋に入った。ちょうど産湯から上げられ、きれいな姿になった赤ちゃんがマグ姉の腕の中で目をつむっていた。

 「ロッシュ。私、頑張ったわよ。あんなに苦しかったのに、今は幸せが溢れてくるの」

 「ああ、よく頑張ったな。元気そうな赤ちゃんで安心したぞ」

 「ふふっ。どっち似かしらね」

 赤ちゃんの少ない毛は金色に輝き、肌も白い。目は閉じているが、なんとなくマグ姉の面影を感じるな。

 「きっとマグ姉のように美人になるよ」

 マグ姉は安心して睡魔に襲われたのか、近くにいたエリスに赤ちゃんを委ねて眠りについてしまった。エリスはリードにベッドを持ってくるように頼み、手際よく着替えをさせていた。こうやってみるとエリスも母親なんだなと実感する。

 数日もしないうちにミヤも産気づくことになる。ミヤの眷属には産婆の家業の者がいるらしく、その者が赤ちゃんを取り出すらしい。

 「ロッシュ。頑張って立ち会いなさい。私の赤ちゃんの時が初めてになるんでしょ」

 「ああ、わかったよ」

 しかし、ミヤの出産は多くの時間が必要となり、僕が一時部屋を出ている時を見計らったように子供が産まれてしまった。まさに部屋のノブに手をかけたその瞬間に泣き声が聞こえてきたのだ。その虚しさは一瞬ドアを開けるのを躊躇うほどのものだった。中から元気のいい声が聞こえてきて、ドアを開けるとそこには吸血鬼の赤ちゃんがいた。

 すでに小さな牙が生えており、短い尻尾がピコピコと動いていた。

 「ミヤ。よく頑張ったな。僕は……陰ながら応援していたぞ」

 「ふふっ。そんなに心配そうな顔をしないで。ロッシュがずっと側にいてくれたから安心できたわ。立ち会えなかったことを責めたりなんてしないわよ……きっとね」

 絶対に責められるだろうなと覚悟する瞬間だった。

 「吸血鬼の男の子か。可愛いものだな。牙もしっかりと生えているぞ」

 「そうなのよね。普通は生えていないものなんだけど。もしかしたら、とても優秀な吸血鬼かも知れないわね。将来が楽しみだわ」

 今回は長期戦だったため、ベッドはすでに用意されており赤ちゃんはベッドに横たわらせると、すこし起きてたが眠ってしまった。ミヤの体調は、なぜか元気いっぱいな様子だ。

 「なんだか力が溢れてくる気がするわ。不思議ね」

 その言葉は嘘ではなかったようだ。すぐに立ち上がり、何の苦労もなく歩き始めたのだから。眷属の産婆も無理はしないように、と告げているところを見るとミヤが特別なのだろうな。

 「ミヤ。今は無理をするときではないぞ。とにかく体を休めてくれ」

 ミヤは渋々と言った様子だが素直にベッドに横になってくれた。これで我が家にも五人の子供が産まれたわけか。急に賑やかになってきたな。オコトとミコトはどちらがどちらの面倒を見るか会議をしていたが、さすがに二人で五人を見るのは難しいだろうな。

 僕は名前を考えることにした。マグ姉にそっくりな女の子には、ヴェヌスタと名付けた。生まれながらに吸血鬼の特徴を持つ子供にはシェードと名付けた。ミヤもマグ姉も一応は満足してくれたみたいでホッとしている。ただ、命名式は別にやらなくてもいいとうことになった。お披露目会を兼ねてるんだけどな……ショックだ。

 屋敷内は幸せな雰囲気に包まれ、出産を知った村人が大勢屋敷に押しかけ、祝いをしにやってきてくれた。もっともただで返すわけにはいかないと、様々な料理が振る舞われ、まるでお祭り騒ぎになっていた。僕もつい嬉しくてはしゃいでいると、ミヤが起き出してきて怒られてしまい、お開きとなった。

 ミヤに怒られている姿を村人たちに見られてしまったせいで、ずっと後までこの光景が語りぐさとなったのだった。

 それからしばらくして、屋敷にミヤの眷属が現れた。それはとんでもない報告だった。魔界から来訪者がやってきたというのだ。
しおりを挟む
感想 38

あなたにおすすめの小説

雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜

霞杏檎
ファンタジー
祝【コミカライズ決定】!! 「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」 回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。 フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。 しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを…… 途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。 フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。 フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった…… これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である! (160話で完結予定) 元タイトル 「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

転生をしたら異世界だったので、のんびりスローライフで過ごしたい。

みみっく
ファンタジー
どうやら事故で死んでしまって、転生をしたらしい……仕事を頑張り、人間関係も上手くやっていたのにあっけなく死んでしまうなら……だったら、のんびりスローライフで過ごしたい! だけど現状は、幼馴染に巻き込まれて冒険者になる流れになってしまっている……

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~

しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」 病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?! 女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。 そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!? そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?! しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。 異世界転生の王道を行く最強無双劇!!! ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!! 小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!

処理中です...