爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。

秋田ノ介

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第331話 海戦前

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 王国軍の動きが顕著に増えてきたことで公国でも緊張が日に日に増してきている。大砲が戦艦に配備されてから二ヶ月が経つが未だ王国軍の艦影を見ることはない。ただ、その間にも第四軍の新村防衛軍は第一海軍と言う名称に改められ、日々訓練が行われていた。

 第一海軍が作れられるまでは結構揉めたのだ。母体は第四軍ということになるのだが、彼らは艦船の操縦が出来るわけではない。そのためにチカカに依頼をし、操縦が得意なものを第一海軍所属にしてもらおうとしたのだ。しかし、チカカはそれを拒絶してきたのだ。

 「私が手塩に育てた者たちを簡単に手放すわけにはいかないな。それに軍に持って行かれたら漁業や物流に大きな支障があるんだよ」

 チカカはそう言って軍への引き渡しを拒絶し続けた。しかし、軍としても一貫した訓練が必要となるのだ。大砲と兵器を手に入れても、船の動き次第では何の役にも立たない無用の長物となってしまうからだ。チカカは一定の理解をしつつも、やはり賛成はしてくれない。

 そこでガムドが僕に相談にやってきたのだ。一応、軍についてはガムドに一任しているため、これまでのガムドの行動に何ら矛盾はない。しかし、僕としても対立が起きるとは思ってもいなかった。ガムドの話を聞いているが、第一海軍の新設はまだ早いのでは?

 「私は第一海軍は早期に新設するべきだと思っています。王国軍の動きは日々活発化しており、海路を利用した侵攻も今後増えてくることも考えられます。そのためにも熟練した技術を持った海軍の創設が一日も早く必要なのです。熟練した技術の者と戦艦が合わさることで海の砦となるのです」

 海の砦か。なかなか面白いことを言うな。たしかに海軍があることで王国軍の侵攻を防ぐことが出来るならば砦と見ることもできるな。僕は頷き、すぐにチカカを呼び出すことにした。チカカはすぐにやってきたが、ガムドの顔を見て殊更に不機嫌な表情を作っていた。

 「ロッシュ公。私は第一海軍には反対です。今まで育ててきた者たちをずっと海軍に奪われるなんて我慢できません。船乗りは、日々船に乗り、漁師の手伝いや物資運搬をして公国に貢献しているんです。軍は敵が来なければ訓練訓練で公国に貢献なんてしてないじゃないですか」

 それを言うと、ガムドが……やはりガムドが立ち上がった。凄い剣幕だ。

 「軍が公国に貢献していないだと!? 聞き捨てならない。よいか? 王国軍が公国に攻めてきても土地を蹂躙されないのは誰のおかげだ? 軍が日々訓練をしてきたおかげで王国軍と対等に渡り歩き、勝利をもぎ取っているからに他ならないではないか。訓練こそが公国に貢献している証拠ではないか」

 そんな言葉をチカカに投げつけても、チカカは全く聞く素振りもない。この二人、随分と険悪な雰囲気になってしまったな。それだけ自分の仕事に誇りを持っているということなのだろうが。

 「二人共。まずは僕の話を聞いてもらおう。チカカには悪いが、部下三百人については今回の海戦で協力させてもらうぞ。それは構わないな?」

 チカカは頷く。

 「問題は船乗りが少ないということだ。チカカの言う通り、三百人が常に軍に所属されてしまうと漁業や物資運搬に支障が出てしまうのは当然だ。しかし、一方でガムドの言うことも一理ある。そこで折衷案を取ろう。戦時、もしくはその傾向が見られた場合、船乗りの軍への配備を強制しようと思う。しかし、平時に関しては漁船や運搬船に従事してもらおうと思う」

 僕がそういうとガムドが反論してきた。

 「ロッシュ公。それでは訓練が十分とは言えず、敵に隙を与えてしまいます」

 「ガムドも船乗りの数が少ないことを理解していることだろう。軍を強調すれば、物資が止まる。それをやれば公国のさらなる発展は鈍ってしまうのだ。それだけは分かってくれ。そして、今回の戦に目途が付けば船乗りの教育を拡充して、海軍付きの船乗りを育成しようではないか。それでどうだ?」

 ガムドは苦虫を潰したような渋い顔をして、了承してくれた。彼も根底には公国に貢献するために日々悩んでいるのだ。決して、チカカに反抗したくて言っているわけではない。一方、チカカは僕の案には簡単に応じてくれた。

 「私は最初からこの頑固頭に言っていたことなんですから、なにも言うことはありません。船員の育成の拡充についても協力は惜しみません。ただ、漁船も運搬船も日々増えていますから、果たして軍に回せるほど人が増えるか……」

 チカカの挑発にガムドは苛立ちを覚えたものの、一応は堪えてくれたみたいだ。まったく、この二人の仲は元に戻るのだろうか。それともこういうものなのか? よく分からないな。

 こんな経緯があって、第一海軍は動き出した。専属の船乗りがいない組織で、なんとも頼りないのだが、どこも人材不足だから仕方がないのだ。それから臨時で借り受けた船乗りが第一海軍と合流し、日々訓練すること二ヶ月が経過した。

 しかし、未だに王国軍の姿がないという状況だ。チカカからはそろそろ船乗りを戻してほしいという要望がチラチラ聞こえるようになってきたと言う。来ては欲しくないのに、いい加減王国軍には動き出してほしいと思う、変な気持ちが湧いてくるようになってきた。

 その間も少ない船乗りで漁業と物資運搬が行われおり、状況も日々逼迫しだしている。ガムドの方は、日々船を外洋に繰り出し、操船から大砲まですべての訓練を隙間なく行い、特に大砲の発射訓練は入念に行われた。そのおかげで、命中率も随分と上がったという報告が来ていた。

 更に一月が流れ、大砲とバリスタはさらに量産されていたが、さすがに鍛冶工房でも他の製品にも職人を割り振ってほしいという嘆願が日々届いていると言う。僕は忍びの里の報告から王国には動きが見られないということで、一旦戦時状態を解消し平常に戻すことにした。

 第一海軍からは船乗りが消え、陸上での大砲の練習をするということになった。その訓練光景は他の軍にも興味を持たれ、第一軍と第二軍の拠点に大砲が二門ずつ据え付けられ、第一海軍の砲兵がその指導に当たるようになった。王国軍の動きで公国の軍備が更に拡充することになったな。

 夏が終わり、秋に差し掛かろうとしている時、ついに王国軍に動きがあったという報告がなされた。どうやら戦艦への兵装の装備が手間取っていたからだそうだ。船大工が大勢いなくなったことが、ここまでの影響を与えるとはな。王国の造船部門の脆弱性を見たような気がした。

 長い月日でようやく整備を終え、公国に向け出攻することになったようだ。公国ではその報を受けて、戦時としすぐに船乗りを第一海軍に召集し、出撃の命令が下された。僕も乗船するべく、急ぎ新村に向かった。僕の護衛としてシラーとルード、公国の歴史の記録と僕の世話としてオリバも同行することになった。すぐに出産してしまうだろう重そうなお腹を抱えているマグ姉とミヤが見送りをしてくれた。僕は二人のお腹に手をやり、行ってきます、といって屋敷を離れた。

 新村ではすでに第一海軍の出陣式が行われていた。第一海軍は発足時二千人の軍だったが、今では五千人まで増え、第四軍の半数が第一海軍に編入したということになる。皆の表情は勇ましく、戦意に満ち溢れた顔をしていた。

 「皆のもの。今回の戦は公国では初となる海戦だ。相手は強大な王国だが、決して我らが勝てない相手ではない。諸君らの日々の努力で、一発でも多くの砲弾を相手に叩きつけて欲しい。そして、勝利すれば諸君らの名前は公国史に残るであろう。僕も君らと共に戦うつもりだ。必ずや勝利をもぎ取ろう!!」

 すぐに喝采が起こり、ますます戦意が高まっていった。ガムドも顔を引き締め、乗船命令を下した。僕が乗る船はエリス号と呼ばれる船だった。なぜか戦艦には僕の妻の名前が付けられている。三隻にはそれぞれエリス号、ミヤ号、マーガレット号と付いていた。旗艦はエリス号ということだ。

 それぞれ名前は違うが、作りは全く同じだ。ただエリス号だけ船室がいくつか潰され、僕の専用室がある。旗艦の船長はチカカが受け持つことになっている。彼女以外にいまのところ安心して任せられるものがいないのが公国の弱いところだ。

 第一海軍の将軍にはガムドが臨時で付いている。まだ発足して間もない組織ゆえに人事が確定していない部分が多い。とりあえず第四軍の人事と兼務してもらっているのが現状だ。ちなみに船同士の連絡には旗が用いられている。これは王国でも採用されている方法で、テドから聞いたので間違いはない。

 旗はいくつもあり、その組み合わせにより様々な連絡をすることが出来るというものだ。しかし、旗ゆえに視覚に頼ることになるため、海上でよく発生する霧が出てくると十分に機能しなくなる。陸上では狼煙という代替手段もあるが船上で火をおこすわけにはいかない。霧が出ないことを祈るばかりだ。

 三隻は縦に並んで走っている。旗艦はその真ん中だ。その陣形のほうが砲撃をするのに都合がいいそうだ。なるほど。砲は左右両舷に据えられているので、横に並ぶと砲撃をすることが出来ないか。よく出来たものだな。縦長になると言うのにいささか不安を覚えてしまうが、海上では全く違うようだ。

 新村から出航してから三時間ほど経っただろうか。今は半島の南側に来ている。王国軍は今どの辺を入っているのだろうか? 船の中ではさすがに忍びの里からの情報が入ってこない。ここからは僕達の目が頼りということになる。望遠鏡という物がないため、遠くを見る手段がないのが心もとないところだ。

 しかも運が悪く、霧が辺りを包み始めてきた。視界は徐々に狭くなり、前後ろにある姉妹艦すら艦影が薄っすらと見える程度になってしまった。これでは、長距離を強みにしていた公国軍にとっては不利な状況だ。急に出くわしたらと思うと震えが出てくる。

 チカカも慎重に辺りを警戒しながら操船をしていく。前もって遭遇する場所を考えていたが、そこをすでに超えてしまっている。僕達の中ではもしかしたらすれ違いをして、王国軍は新村の方に向かっているのではないかという憶測が浮かび始めた。情報が一切はいらないとはこれほど不安になるとは。

 予定の場所を過ぎ、一時間ほど進んで、さすがに会議が開かれた。一旦引き返すか否かだ。ガムドは進むべきだといい、チカカは引き返すべきだという。二人は意見を譲らずに互いに責め合っている。この状況で不満が噴出してしまったのだ。僕は二人を止め、冷静になることを求めた。その時、艦橋の方から連絡が入った。王国軍の艦影を捉えたというのだ。しかも、距離が千メートル。かなり近いな。相手方も気づいているのか、真っ直ぐこちらに向かってきているというのだ。

 僕は二人に戦闘態勢を入るように命じ、僕も艦橋に上がることにした。たしかに、薄っすらとだが艦影が見える。その数は想像した数より多い。二十はあるだろうか。これからどうなるのだろうか。遂に海戦が始まるのだった。
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