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第329話 新兵器

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 船大工達が公国に来たことにより、新村は慌ただしくなった。人数自体は60人程度と少ないが、なにせ職人たちだ。造船所の増築が必要となったのだ。その間は、現在新造されている大型船の手伝いをしてもらうことになったのだが。

 僕も彼らの仕事ぶりを見るために造船所に赴いたのだが、今までは比較的静かだった造船所がものすごい賑わい、というか怒号が飛び交うような戦場に変わってしまっていた。それでも各々職人の腕は素晴らしいのか、船の各部に配置された船大工達が手際よく木を叩きつけていた。これならば一隻の船など瞬く間にできてしまいそうだな。物資の供給を修正せねばならないな。

 ようやく一段落付いたのか、職人たちが船から引き揚げてきた。僕に軽い会釈のみをして休憩所に入っていく。テドも後ろから僕のところにやってきて、いきなり平謝りをしてきた。

 「申しわけありません。ロッシュ公。奴らは腕はいいんですが、どうも礼儀っていうのが苦手なもので。ろくな挨拶もできないんですよ」

 「それが職人というものであろう。僕は礼儀よりも技術がこの国に必要だと思っている。気にしていないさ。ただ、不興を買う恐れは常に持ったほうがいいかもしれないな。ところで……」

 僕はテドに船大工達が王国でどのような事をしていたか、と言う話を聞くことにした。船大工や忍びの里からも話は聞いているが、専門家ではない僕が聞いても話の全容をつかむことが出来なかったのだ。その点、テドは分かりやすく説明してくれる。

 「私も話は聞きました。奴らもただ言われるがまま造っていたところがありますからね。本人たちも何を造っているのかよく分かっていなかったんじゃないですか?」

 それでいいのか?

 「王国は大型船を何隻も造っていたようです。やつらが王国の造船所に行く前からすでに数隻はあったようですから。船の形を聞く限りだと、漁業用って感じじゃないですよ。戦でも出来るってものですから。何か外洋に用があるのか、もしくは戦用か……」

 そうか……最悪の場合、王国は艦隊を率いて三村か新村の海に出没する可能性があるのか。それは良くないな。現状、陸路からの侵攻しか想定していない。そのために南には強大な砦を築き、北には城郭都市を建設したのだ。この二つの要所がある限り、王国は公国に手出しはしにくい。しかし、海からとなると話は別だ。

 海岸線にはなにも防御陣がないので、簡単に侵入を許してしまうことになる。そうなると気になるのが、王国の大型船の兵装だ。

 「兵装ですか? そんなのはないですよ。ただ大量の兵士を運ぶだけです。一隻で五千人は運べると思いますよ。奴らが手にかけた仕事を入れると十隻以上、5万人以上の大艦隊です」

 何!? 兵装がない? それでは戦用と輸送用との違いがないではないか。

 「基本的には同じなのですが、戦用には船尾と船首に分厚い鉄板を仕込むんですよ。それで相手の船にぶつかって破壊するのが目的なんですよ」

 それがこの世界における海上戦というわけか。ぶつかりあいね……そうなると、こちらに遠距離攻撃が出来る海上戦兵器を備えれば……。僕はテドにすぐに戦用の大型船の準備をしてもらうことになった。

 「テド。これの命令は現在進行している造船計画よりも優先される。とにかく、大型船を三隻用意してくれ。そしてチカカに戦に耐えられるだけの船員を育ててくれるように頼んでくれ。それと船の作りについてだが……」

 僕は想像している兵器を船に装備するための構造をテドに説明すると、ちょっと驚いたような表情を浮かべていた。

 「ロッシュ公は一体……これで海戦は一変しそうだ。分かりました。すぐに取り掛かりたいと思います」

 事は一刻も争う事態かもしれない。僕は新村を離れ、村に戻った。直ちにガムドを呼び出し、作戦会議をすることとなった。さすがに陸路からの攻撃しか想定していなかったガムドは驚いたような表情をしながら、固まってしまった。

 「ガムド。こちらに何も策がないわけではない。しかし、僕も盲点だった。海路と言う手段があるとは考えてみれば当然だろう。船が出来た時点で考えておくべきことだった」

 「それは私も同感です。むしろ、私が積極的にロッシュ公に伝えるべきことでした。軍事顧問と拝命しておきながらなんたる失態。汚名をそそぐ機会を与えてください」

 軍人だからなのか、ガムドには融通がきかないところが玉に瑕だな。分かった時点で対処をすればいいのだ。公国にはそれだけの力があると僕には思っている。

 「ガムド。そう固く考えるな。まずはこちらにも軍備を整える必要がある。造船所には戦用の大型船を三隻用意してもらうことにした。相手の出方次第だが、それが限界と考えておいたほうがいい。しかし王国は十隻以上と聞く。そうなると一部の敵兵の上陸を許してしまうこともあるだろう。それに対処することを考えてほしいのだ」

 ガムドは不審な表情を浮かべていた。それはそうか。王国は十隻以上、こちらは三隻。一部の敵兵ではなく、大半の敵兵と言うべきところだったかな? 

 「まぁそんな顔をするな。敵兵の上陸は一部と言う認識でいいと思うぞ。むしろ一兵の上陸もさせる気はないが、一応の準備はしておいたほうがいいだろう」

 不承不承といった様子だったが、ガムドはじっと考え事をしていた。

 「ロッシュ公。現在、ラエルの街北部に展開している第三軍の基地をもう少し南下してもよろしいでしょうか? 三村は第一軍でも対応できるでしょうが、新村への対応が難しいのです」

 それだと北部の敵勢力に対して脆弱になってしまうな。それは望ましくない。基地から新村までどれくらいの時間が必要となるのだ?

 「準備にもよりますが、早ければ二日、遅ければ四日というところでしょうか」

 つまり四日ほど耐えられればいいということか。最悪五万人の兵に対して四日間か。やはり一万人の兵は必要だろうか。僕はガムドに第三軍を二つに割り、第四軍を新設し、専ら新村護衛のための部隊を作ることを提案した。

 「わかりました。そのようにしましょう。四日もあれば第一軍からも増援を見込めますから。それでは私は第四軍新設のため、行動を開始します」

 僕は頷き、ガムドは敬礼をしてから屋敷を出ていった。僕は考えている兵器を庭先で作ってみることにした。実用化されるかはわからないが……僕は資材置き場から鉄を持ち出し、魔力を込めてイメージしているものの形に作り変えていく。鉄は魔力との親和性が低いため、ちょっとの量でも大量の魔力を消耗する。以前であれば、こぶし大の鉄すら加工できなかっただろう。今ならば……。

 やや疲労感を感じながらも、なんとかイメージ通りの物を作り上げることが出来た。なかなかいい出来だ。試運転をしてみたいところだな。僕は土魔法で兵器を持ち上げ、山の手前にある平原にそれを持ってきた。鍛冶工房のカーゴも呼び出してある。それに暇つぶしと言ってシェラとルードが付いてくることになった。

 カーゴは興味津々といった様子で、それを触ったり眺めたりしていた。

 「これが兵器になるんですか? しかし、これはどうやって作ったのですか? 止め金が一切ないようですが……あっ、魔法ですか。さすがに私達に作れるようなものではありませんね」

 えっ!? 作れない? じゃあ、意味なかったかな? 実演を兼ねて、成果があれば量産をしてもらおうと思ったんだけど。

 「いや、こんな精巧なものは作れませんよ。ただ、このような物は作れると思いますよ? やってみなければ分かりませんが」

 一応はなんとかなるのか。それは良かった。僕はホッと胸を撫でおろして、さっそく兵器の実演をすることになった。僕は黒い粉を固めたものを兵器に詰め込み、黒い珠を兵器にはめ込んだ。カーゴは一体何が始まるのか、分からない様子だったが、目がキラキラと輝いていた。

 「耳を塞いでおけよ!!」

 僕はそういうと大きな火がついた松明をそれに押し当て……その瞬間、轟音が周囲に鳴り響き、遠くの山肌
から砂煙が上がった。その直後、ゴーンと音が響いた。見学に来ていた三人は驚いた表情をして、兵器と山肌を交互に眺めていた。

 「ロッシュ村長!!」

 そういうのはカーゴだ。言い方が昔に戻っている。

 「凄いものを作ってしまいましたね。こ、これは一体、何なんですか?」

 「ああ、これは大砲というものだ。火薬の爆発力を利用して、鉄球を飛び出させるというものだ。見ての通り、飛距離もバリスタを大きく上回るものだ。これを船に装備させたいと思っているのだが……どうだろうか?」

 「大砲……カッコイイですね。是非とも作ってみようと思います。それでいつまで?」

 その質問に答えるのは心苦しいところだ。僕は小さな声で一月と答えると、分かりました!! と明るい声が聞こえてきた。しかし、その時、僕が作った大砲は静かな音を立てて壊れてしまった。どうやら火薬の爆発力に耐えきれなかったようだ。僕が作れるのは純鉄の大砲だ。金属が弱すぎたようだ。

 カーゴは壊れた大砲に近づき、壊れたパーツを丹念に眺めていた。そして、大きな笑顔でこちらに振り向いた。

 「壊れてくれて助かりました。これで内部構造がよく分かりますから。すぐに工房に持ち帰って開発を急ぎますね」

 「助かる。よろしく頼むぞ。それと同時並行でバリスタの増産もよろしく頼む。一応、大砲が出来ればそれに越したことはないが、戦はいつ始まるかわからないからな。とりあえず、百機ほど頼む」

 「ひゃ、百基ぃ!!」

 カーゴの絶叫が辺りの山にこだましてしばらく鳴り響いていた。僕達はカーゴにその場を任せ、屋敷に戻ることにした。ルードは興味津々といった様子だ。

 「ロッシュ殿は色々なものを知っていらっしゃるのですね。あの大砲というのは、一体どうやって知ることが出来たのですか?」

 ふむ。さて、どうやって説明したものか。ルードには僕が異世界人であることは伝えていないが……。

 「ルード、それについては屋敷に戻ったら教えてやる。せっかくだから、オリバにも伝えたほうがいいだろう」

 「はあ」

 その話をするとシェラが食いつき気味になる。

 「あら? ようやく私の正体をルードが知ることになるのね。きっと驚くわよ。そして、敬うことは間違いないわね。今から敬ってくれてもいいんだけど」

 ルードはシェラのちょっと憎たらしい表情に怪訝な顔をしていた。

 「シェラさんは素敵な女性だと思います。美しいですし、回復魔法が使えるのは羨ましいと思いますけど、とても尊敬は出来ません」

 「な、なんでよ!! みんなも私を敬えないって。どうして?」

 「だって、寝てばかりじゃないですか。起きたら、お酒ばかり飲んでるし。それを見ていると……ごめんなさい!!」

 「そんな……謝罪なんて求めてない!! もっと敬ってほしいの」

 「シェラ。自分の身分にあぐらをかいていないで、しっかりと自らの行為に目を向けるんだ。そうすれば自ずと評価はついて回るものだぞ」

 「働きたくない……」

 僕は溜息をして、ルードはシェラに冷たい目線を向けている。三人はそれからとぼとぼと屋敷に向かって行った。
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