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第327話 家族で温泉旅行

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 新村で一泊してから、村に戻ることにした。今まで気にもしていなかったが、都の舗装された道に慣れてしまうと街道の道肌はあまりよくないな。一度、大改修をしたほうがいいかもしれないな。ルードは都にいた時はずっと温泉に浸かっていたこともあって、病みつきになってしまったようだ。

 「ああ、温泉。村に戻ったらしばらく浸かれないのか」

 そんな言葉を村に着くまで、ずっといい続けていた。気持ちは分かるが……。村に到着すると、様子は一変していた。僕達が村を出てから、三ヶ月ほど戻ることがなかったのだ。当然だな。村の境界となる大河の堤防の周囲には水田が見渡す限り広がり、緑色の絨毯が風に揺られるように靡いている。小麦の収穫は終わったのだろうか、畑は綺麗に耕運されており次の作付けを今か今かと待ち望んでいるかのようだ。

 季節は夏の始め。それでも気温は暑く、少しの時間で汗ばんでしまう陽気だ。僕達の姿を見ては、村人たちは手を振って挨拶を交わしてくる。それにしても、なんと子供が多いことか。子供と言っても生まれたばかりの小さな赤ん坊なのだが、どの夫婦もおんぶしながら農作業をしている。この暑さで赤ん坊が弱らないか心配になるが、健やかに寝ているところを見ていると、この世界の子供は強いのかもしれないな。

 村の中央に向かうと、荷車が行き交い大量の荷物も積んでラエルの街の方に向かって走っていった。そう思っているとラエルの街の方から村中央に向かう馬車がやってきた。本当に村も賑やかになったものだ。これらの変化を見ているのが楽しくなって、つい村を一巡してしまった。

 魔牛を手慣れて手つきで誘導していく村人、次々と土を起こしていく鍬さばきが上手な若者、料理店で長蛇の列で待つ村人、中央広場で巨石に手を合わせている夫婦、広場で合戦ごっこをしている子供たち、装いを新たにどこかに出掛ける夫人、色々と村の景色が変わっている。シラーが昔を懐かしむな声を出した。

 「ご主人様。随分とこの辺りも変わりましたね。ミヤ様と初めてこの村に来た時はひどい場所だと思いましたが」

 「そういうな。だが、シラーの言う通りだ。僕から見てもとても暮らしていけるような場所ではなかったな」

 そんな昔を知らないオリバとルードは意外そうな声を上げた。特にオリバは吟遊詩人として様々なところを訪問しているだけに酷い惨状の町や村を何度も目にしてきたことだろう。目の前に広がる景色もかつては酷い惨状であったのが信じられないのだろうな。

 「ロッシュ様は一体どれくらいの年月をかけて、ここまで村を再興なさったのですか? ロッシュ様の年齢を考えると数年ということでしょうが……信じられません」

 僕が話そうとしたが、シラーが昔話を始めだした。それにオリバもルードも面白そうに聞いていた。僕も側で話を聞いていたが、他人事のように話を面白く聞けた。とても僕がやってきたとは思えないな。丁度話が終わる頃に屋敷に到着した。

 屋敷ではエリスが子供二人を横のベッドに寝かしつけながら待っていてくれた。

 「おかえりなさい。ロッシュ様。今回は随分と時間がかかったようですが、都建設は如何でしたか?」

 エリスの笑顔に安心感を覚える。都にある屋敷とは違うな。エリスがいる屋敷こそ、本当の僕の家だ。話をしようとしたが、僕達の格好は綺麗なものではない。部屋着に着替えてから、皆を居間に集めた。三ヶ月という時間は本当に長いようだ。生まれたばかりの子供もすっかり表情を作ることを覚えてしまった。

 集まったのはクレイを除く、全員の妻だ。エリス、ミヤ、マグ姉、リード、シェラ、シラー、オリバ、ルードが集まった。今、妊娠をしているのはミヤとマグ姉だ。二人共少しお腹が大きくなってきている気もするがもともと細身だから言われなければ気付かない程度だ。エリスとの間の子供ホムデュムとサヤサ、リードとの間の子供リースは元気いっぱいに成長している。

 「今帰った。三ヶ月間、戻らなくて申しわけなかったと思っている。しかし、その甲斐あって都は大きく前進することが出来た。僕達の新たな住居となる城も徐々に完成へと向かっている。僕はこれからしばらくは村を拠点に活動をするつもりだ。そこで皆に提案がある。温泉に行かないか?」

 僕の提案はすぐに了承されることになった。特にエリスはずっと旅をしたがっていたからか、すごい喜びようだ。逆にシェラは団体行動が苦手? なのか、皆で温泉にあまり行きたがらない様子だ。僕はなんとか説得して連れて行くことになった。ルードはやや緊張気味だ。家族に慣れる前に都に連れて行ってしまったからな。すでにダークエルフの子供たちは村人にすっかり馴染んでいると聞いてしまったから、焦りを覚えているのかもしれないな。

 ただ、僕の何気ない提案だが意外と大事となった。移動手段のために、急遽馬車が新調されることとになったり護衛のために方々から自警団に召集がかかり、ガムドが軍に出動命令を出し、ミヤの眷属が総出で来ることになった。ちょっと、大袈裟すぎないか?

 僕達一行に便乗する形で、ガムドの妻娘トニアとティア、それに屋敷の家政婦のオコトとミコトも加わることになった。僕にとってはオコトとミコトに普段のねぎらいが出来るので、着いてきてくれるのは嬉しい限りだ。そういえば、ティアには学校建設の報告を聞かねばならないが……それは後回しでいいな。

 総勢三千人ほどが街道を突き進み、温泉街へと向かっていく。それに対し温泉街の管理人は大いに歓迎をしてくれた。僕達家族は別荘に移動した。トニアとティアだけは別だ。一緒に風呂に入るわけにはいかないからな。ティアは婚約者だが……それはティアが成人するまで待つことだ。

 それにしてもリードが旅用にコンパクトな子供用ベッドを用意してくれて助かった。地べたというも悪くはないが、板張りの床だから抵抗がある。三人の子供は長いこと馬車に揺られたのが楽しかったみたいで、馬車の中ではしゃいでいたが、今は疲れたのかぐっすりと寝ている。早速、風呂だな。するとエリスが動こうとしない。

 「ロッシュ様、先にお入りください。私はホムデュムとサヤサを見ていますから」

 エリスはやや寂しそうにいうと、オコトとミコトが子供の面倒を見ると名乗りを上げてくれた。それでもエリスはやや抵抗をしていたが、説得され二人に預けることにした。リースについては二人が守役となっているのでリードはあまり気にする様子もなく入浴の準備を進める。すると、ミヤとマグ姉も残ると言ってきたのだ。

 「どうせ、あなた達は酒を飲むんでしょ? 私達は後で入るから」

 折角、家族でと思ったが二人は身籠っているのだ。無理に言うのは良くないか。それにしてもエリスは入浴すると決めると行動が早いな。誰よりも早く露天風呂に向かっていった。僕もエリスの後を追うように行くと、すでに皆が風呂に浸かり酒を飲んでいるではないか。どんだけ早業なんだ?

 「ご主人様。遅かったではないですか。さあ、早く私達の間に入ってくださいよ」

 なぜか妻達が円陣を組むように入浴している。僕がこの間に入る? 冗談だろ。僕は端っこに座るように入っているとその円陣が移動してきて、僕を取り囲んでくる。それから僕に皆が酌をしてくる。しかし、なんだろう。皆がお互いに牽制しあっている?

 なんだろう。ここから脱出したほうがいいかもしれないな。僕は少し腰を上げ移動をしようとしたが思ったよりも酔いが回っている。つい足元がよろけてしまいシェラの体に触れてしまった。するとシェラはここぞとばかりに体を僕に密着してきた。

 「あら? 旦那様。私の側に来たかったのですか? それなら早く言ってくれればいいものを」

 シェラはなぜか僕に対して言うのではなく、周りのエリス達に言うように話すではないか。どうも様子がおかしいな。と思ったら、皆が一斉に僕に詰め寄ってきて僕をシェラから引き離そうとしてくる。だんだん腹が立ってきた。せっかくの温泉が台無しではないか。

 「いい加減にしないか!! 一体、これは何の騒ぎだ。お前たちは静かに温泉に浸かっていられないのか? エリスは皆をまとめる立場なのだぞ。それを一緒になって騒ぐとはどういうつもりだ」

 「ロッシュ様、すみませんでした。実は……」

 なんともくだらない話だ。僕が誰の体つきに一番興味があるかというので妻達の間で盛り上がっていたようだ。胸が大きい人? スリムな人? 肉付きがいい人? それとも……。色々と思惑が出てきたので、温泉で調べようということになったらしい。

 「それでこの騒ぎか。なんとも悲しいことだ。僕はお前たちの体目当てで妻にしているわけではないのだぞ。僕はお前たちに少し失望した」

 皆がシュンとなる中で、誰かがぼそっと言葉を吐いた。

 「でも、胸が大きい人は好きでしょ?」

 「それはもちろ……いや、今のは違うぞ。大きくても小さくても好きだぞ。そういうことを言おうとしたのだ」

 なぜか、僕のほうがタジタジになってしまった。それを見逃さないのが彼女たちの強さだ。皆が急に近寄ってきて、自分の体を見せびらかすようにするものだから……やってしまった。僕は一体いつ本能に打ち勝つことが出来るのか。皆は満足したような様子で風呂から出ていく。僕も出よう。

 それから食事をすることになった。しかし、今日のようなことが起きるのは懲り懲りだ。悪くはなかったが、体への負担が大きい。温泉に来て、疲れて帰るようなことはしたくないのだ。

 「話があるのだ。僕達はこれから数日、ここに逗留するつもりだ。だから僕と温泉に入る人を決めておきたいのだ。といっても何度も入るわけではないから二人ずつくらいにしてくれないか?」

 そういうとすぐに妻達が話し合いをすることになった。結局は、エリス・シェラ組、ミヤ・マグ姉組、リード・ルード組、オリバ・シラー組、最後にオコト・ミコト組となった。最後についてはミヤからの提案だった。

 「オコトもミコトもよく頑張っているわ。ロッシュからもお礼がしたいみたいだから温泉に入ることを許すわ」

 そのときばかりは、オコトもミコトもミヤ様と呼んでいたのはちょっと滑稽だった。

 それから代わる代わる、温泉に入ることとなった。その中でもエルフのタッグ組が凄い攻勢だった。しかも最中にしっかりとリードがルードに講義しているのが面白かったが。一番落ち着くのはミヤとマグ姉だった。三人でのんびりと浸かれたのは本当に良かった。

 オコトとミコトは、至れり尽くせりだった。僕が湯に浸かっているだけで快楽になれる。

 「一体、これは何なのだ?」

 「里の秘術ですから秘密です」

 「絶対?」

 「絶対」

 この秘術が世に広がれば、きっと幸せな世界になるかもしれないな。と寝ぼけたことを考えてしまった。結局一週間も滞在してしまったが、おかげで体の調子も良くなり、活力が溢れようになった。妊娠で遠のいてしまっていたから久々にエリスとリードと楽しめたのは良かった。

 馬車の中でも皆と仲良くしながら村へと戻っていった。今回、置いてけぼりを食らったクレイは叫ぶのだった。

 「私も行きたかった!!」
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