爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。

秋田ノ介

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第314話 ワイン造り

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 村はまだまだ春の農作業に忙しくしている頃、村人が大きなカゴを持って屋敷にやってきた。ここ最近は、春の収穫物を見せにやってくることが多かったのでその一つだと思っていた。やってくるものは畑から直接来るものが多く、泥を付けたままのものが多い中、その者は身ぎれいなままだった。

 僕はいつもと様子が違うことに少し警戒しながら、その者の持っているカゴに目をやると……なるほど。ついにやってきたか。僕はニヤける顔を止めることが出来ない。カゴの中にはオレンジがたくさん入っていた。ん? レモン、リンゴ……ブドウまである。そうか、植えてある果樹全てに実が付いたのか。

 僕は屋敷裏にある果樹園に行ってみると、なるほどたわわに実っているな。早速、ブドウの粒をもいで口に放り込んでみた。口の中にしっかりりと重い甘みが広がった。これは旨いな。このままでも十分に美味しいな。オレンジはどうだ? 僕は次々と実っている果実をそれぞれ食べて回った。

 どれも旨いな。本来は秋にならなければ実らないのに、これだけの短期間で出来たにも拘わらず、この完成度は一体何なのだ。他との違いは土壌復活剤が使われているかどうかだが。僕は、果実を持ってきた者に話を聞くと危惧していたことが現実化していたみたいだ。

 土壌復活剤を使うと土壌が蘇り、そこで育つ作物は見事なものができる。それを見ていると土壌復活剤が何か土地に力を与えている様に見えるのだ。最初はそれを疑っていなかったが、どうも違うようだ。作物を植えると急速に成長をするが、土地もそれに合わせて急速に衰えるのだ。しかも、復活剤を与える前よりひどい状態だ。

 ということは復活剤はなにか土地に力を与えているとは考えにくい。どうも土地の持つ力というのを呼び戻しているだけのようだ。そのうえで大量の肥料と堆肥を順次与えなければ、果樹のような永続的に収穫できる作物を育てることは出来ないだろう。しかも、作物の成長速度がかなり遅くなっている。というより通常の成長に戻っていると言う感じだ。

 この調子では、これらの果樹は今年にもう一度収穫というわけにはいかないだろうな。持ってきた者の話では、土地の急速な衰えが現れ始めているというのだ。肥料も堆肥もやっているのに……やはり急速な成長は土地への負担が大きいか。

 見てみれば屋敷裏の土地もひどいな。僕は果実を全て収穫すると、風魔法で木の本数を半分にした。村の果樹園も同様に本数を半分にした。これでなんとか土地が保ってくれればいいが。土壌復活剤は使いどころを間違えると却って土地を弱らせてしまう危険なものなんだと実感した。

 ちなみにアウーディア石と土壌復活剤の違いだが、土壌の本来の力を取り戻すまでの時間だ。アウーディア石のようにゆっくりと回復していくほうが肥料や堆肥を与えることでより豊かな土作りをすることができる。復活剤はそういう意味では劇薬なのだ。どうしてもすぐに必要となる作物以外に利用することはなさそうだ。

 果樹園でも収穫作業が行われ、大量の果実が地下倉庫にうず高く積まれていった。その倉庫だけは柑橘系の香りが漂い、なんとも爽やかな気分になる。オレンジやレモンは保存が効くがどうしても暑さに弱い。地下倉庫ならば一年中冷たい状態を維持することができる。ここならば、年中保管も可能だろうな。ただ、問題はブドウとリンゴだ。特にブドウが腐りやすい。この大量のブドウをどう処理するか……それは勿論決まっているだろう。

 僕はブドウを数房を取り出して、屋敷に持っていった。新鮮な果実というのは、どの世界でも貴重だ。食卓に果物があるだけで何やら賑やかになるものだ。エリスやマグ姉は嬉しそうに食べていた。ホムデュムとサヤサも少し口にいれてすっぱそうな顔をしていた。ほのぼのするなぁ。

 しかし、ミヤは物足りなさそうな顔をしていた。

 「ミヤ、分かっているぞ。僕も考えていることだが、ミヤも分かっているな?」

 ミヤは不満そうな顔を浮かべながら、小さく頷いた。

 僕が作ろうとしているのは、当然ブドウから作るワインだ。リンゴからも作る予定だ。まずは樽だな。樽製造の責任者であるハナを呼び出し、急ぎ樽を作ってもらうことにした。

 「ウイスキーや魔酒を作った樽ではいけないのでしょうか? それならば大量の在庫がありますよ」

 「ふむ。それでもいいかもしれないが出来れば大きいのが欲しいのだ。ブドウやリンゴは樽の中で醸造させるからな」

 ハナは力強く頷くと早速工房に駆け出し、製造を開始してくれるようだ。あとはブドウやリンゴを粉砕する道具が欲しいところだが、すぐに作るのは難しいだろう。

 僕は手が空いている村人を呼び出し、ブドウを踏みつける作業をしてもらうことにした。それによって果汁を取り出し、それを樽に収めていく。村人がこれでワインが作れるのですか? と聞いてきた。そうだろうな。酒造りというのは難しいからな。しかし……。

 「ブドウのワインはこれでいい。ブドウの皮に付着している酵母で酒が作られるのだ」

 村人は、よく分かっていないような顔をしていた。さて、リンゴは総出で手作業で粉砕をしてもらっている。それを油の圧搾機を使って果汁を絞り出していく。それにウイスキー製造の時の酵母を加えていく。後は結果を待つだけだな。

 その後、エリスにポツリと言われた。

 「ブドウ、全部使わなくても良かったのではないですか?」

 たしかに……。

 それから数カ月後。

 ワインの試飲会が開かれることになった。樽の中身にはブドウの枝やら皮が大量に含まれている。それを取り除くために目の細かい網を作ってもらい濾過していく。そうやって出てきた液体がワインだ。この何気ない物を作るために村の職人を総動員して、細々としてものを作ってもらった。それでも村には様々なものを作れるだけの職人が増えたことに僕は嬉しい気持ちになった。

 ワインはその場にいた村人に振る舞われた。評判は上々だ。しかし飲み慣れないのか、渋みを嫌がる人も少なくなかった。これが癖になるのだが、無理強いはしないでおこう。僕も飲んでみると……ふむ。フルーティーな香りが広がり、口の中には甘みと少しの酒精を感じた。もう少し醸造が必要だな。それでも魔の森の木で作られた樽のおかげでここまでの味になったのだな。

 屋敷にもワインを持ち帰り、皆に振る舞った。ただ、エリスやミヤ、マグ姉、リードはお預けだ。酒豪であるシラーにはちょっと口に会わないだろうな。シラーが一口飲むと、目が見開いた。

 「これは……懐かしい味ですね」

 どうやら、僕は勘違いをしていたようだ。魔界では魔酒が一般的な酒だと思っていたが、かなり貴重な酒に分類されるみたいだ。そのため、魔酒は一部の貴族に独占されて飲めるものは数少ないようだ。その代替品としてワインが飲まれているらしい。ブドウという果実を使っているわけではないが、味が似ているようだ。

 ルードもワインを口に入れる。すると何故か涙を流し始めた。

 「本当に懐かしい味ですね」

 それからずっと泣いていたのだ。一体ワインでこんなに泣くのだろうか? するとリードがリースを抱きながら僕に言ってきたのだ。

 「私も香りを嗅ぎましたがまさしくエルフの酒と同じ香りがしますね。しかし……」

 なるほど。たしかにそうだ。エルフの里で飲んだことがある酒によく似ている。まぁ当り前か。エルフの里から果樹を譲ってもらったのだからな。リードは素朴な疑問をルードに聞いた。

 「この酒のことをルードはなぜ知っているの?」

 ルードは少し目を伏せながら、どぎまぎしだした。

 「いや、あの。長が隠していたものをこっそりと飲んだことがあって……」

 盗み飲みをしていたのか。変な白状を聞いてしまったな。それでもワインを飲んで長のことを思い出して泣いているんだ。ルードは本当にいい子だな。

 試飲会はこれで終わった。村の中では評価は高かった。リンゴワインも評判が良かったが、リンゴ自体を知らない者が多かったせいもあって存在感はかなり薄くなってしまった。すでに米の酒やウイスキーのせいで舌が肥えた村人を唸らせるほどではなかったようだ。もう少し研究が必要なようだな。

 僕はこの酒を酒造の工房に預けるついでに、もう一つ頼みごとをした。責任者のスイは感心したような表情をしていたが、すぐに了承してくれた。

 僕はワインとリンゴワインの樽、そしてスイに頼んで完成した物を持って、ある人のところに赴いた。

 「おお、よく来たな」

 「ギガンス。念願の新しい酒を持ってきたぞ」

 「ほお。この短期間で……やるではないか。早速貰おうかの」

 僕はカバンから樽を取り出し、コップに並々とワインを入れた。それをギガンスに手渡すと、いきなり飲むことはなく顔をコップに近づけ、一気に匂いを吸った。感心したような表情を浮かべ、ぐいっとコップを傾けた。相変わらずの飲みっぷりだ。

 「旨いな。やはり儂には酒精が足りぬが……良い酒だ」

 「気に入ってくれたようだな。だが、それだけではないのだ」

 僕は小さい樽をカバンから取り出し、コップに移した。

 「うん? なんじゃ? これは。透き通った水? いや、違うぞ。この香りは……まさか」

 ギガンスは再び豪快に一気に飲んだ。

 「おおぉ!! これは凄いの。喉が灼けるようじゃ。これは一体なんじゃ。儂は断然こっちが好きじゃな。ウイスキーと似ているような気もするが……香りがなんとも良い」

 「気に入ってくれたようだな。まだ量は作れていないから誰にも言わないでくれよ。これはさっきのワインを蒸留したブランデーというものだ。リンゴワインからも作れるんだが、それはまた今度だ」

 「なんと、ワインからこのような素晴らしい酒を作ることが出来るとは。ロッシュはどこまで酒に精通しているのだ。儂は決めたぞ。お前に一生付いていくわい。ガッハッハ」

 どうやら満足してくれたようだ。さて、ギガンスには払ってもらうものを払ってもらうか。

 「なんじゃ? その手は……冗談じゃよ。精米用の水車のことじゃろ? 約束じゃからな。任せておけ」

 ギガンスが覚えていてくれてホッと胸をなでおろした。水車は動力として農業分野で大きな働きをしてくれる。麦の製粉に続き、米の精米まで出来るようになった。ただ、手が空いた者たちが増えてしまい、酒の消費量が増えてしまったのが公国内で大きな問題となってしまったのだった。
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