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第310話 ダークエルフを連れて

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 僕達は船に向かうと砂浜にたくさんの小舟が停泊していた。どうやらチカカが安全を確認してから、小舟を運んできてくれたようだ。シェラ、クレイ、オリバも一緒になって僕達を待っていてくれた。船員たちは未だに起きる様子のない子供ダークエルフ達を小舟に乗せ、船に運び込んでいく。僕達も船に乗り込んだ。やはり一番気になるのがルードの存在だろう。シェラがルードの姿を見て、頷いていた。
 
 「エルフの忌み子と言われた者の末裔か。まさか、まだ生き残っていたとは。しかも、これだけの人数に。私もこれについては把握できていなかったな」

 なにやらシェラがブツブツと言っている。何か知っているようだが、今はいいだろう。船はすぐに出航の準備が始まった。ルードは、ずっと住み続けた南の島を離れていく間、ずっと眺めていた。どのようなことを考えているかわからなかったが、すこし笑っているような気がした。

 僕はシェラ達に島での出来事を説明し、ルード達を村に移住させることを告げた。皆は話を聞いていたが、特に異論が出ることはなかった。むしろ、子供ダークエルフが可愛いと言って歓迎している様子だ。そういえば、リースに皆反応していたな。特にオコトとミコトが。屋敷に戻ったら大変そうだ。

 話をしているとルードがこちらにやってきた。

 「もういいのか?」

 「はい。長にはお別れを言いましたから、思い残すことはありません。これからは子供たちと共に新たな生活に踏み出したいと思います。ロッシュ殿。これからよろしくお願いします」

 「もちろんだ。長の願いは無碍にするつもりはない。ただ、教えてほしいことがあるんだ。以前、漁船を襲ったりしなかったか?」

 「はい。私達の親が存命中の出来事だと思います。人間が偶然にもこの島に近づいてきたので、種の存続のためにやむを得ずに襲ったそうです。そのときに生まれたのが私達ですから。当時ダークエルフは500人ほどいたらしいのですが、高齢のために産めないエルフも多くて、今は50人程度になってしまいました」

 なるほど。エルフと聞いて、まさかと思ったとおりだったか。エルフの習性とはいえ、餌食になった男どもが不憫でならないな。エルフを相手にすると地獄をみるらしいからな。僕達が話をしていると、子供ダークエルフ達が目を覚まし始めた。どの子も周りの状況を理解できずに泣き叫んだり、誰かを探すかのようにフラフラとする子ばかりだった。ルードはその子供たちを落ち着かせるために、一人一人を一か所に集めて長の最後と自分たちのこれからについてを丁寧に説明をしていた。

 それでも理解が出来ないのか、落ち着きを取り戻せないでいた。僕はその様子を見て、用意していた物をルードに手渡した。エリスのお手製のお菓子だ。エルフには大評判だったが、ダークエルフの子どもたちにはどうだろうか? 手渡されたルードも小包を見て首を傾げていた。それでも鼻がしきりに動いているからなんとなく中身が分かるのだろう。

 「それはお菓子というものだ。甘いもので、エルフが気に入っている物だぞ。ダークエルフも気に入るか分からないが……」

 「お菓子……」

 ルードがポツリと言った。すぐに包を取ると中から甘い香りが放つケーキが入っていた。その端っこの部分を摘み口に放り込んでいた。その瞬間、ルードはケーキと僕とを交互に見つめ、言葉にならないような様子だった。

 「こ、これ、な、何なんですか!!」

 「うん。ケーキだよ」

 ルードが感動していると、匂いにつられたのか、それともルードの興奮ぶりに興味があるのか、子供たちがルードの周りに集まり始めていた。僕はルードに手渡したケーキとは別に切り分けたものを子供たちに渡していった。僕を怪しむ子供もいたが、ルードと同じものが手に入ることのほうが嬉しいのか、受け取りを拒む子供はいなかった。

 皆に行き渡ったことを確認すると、ルードが手に持っているケーキを口に運んでいく。すると真似をするかのように子供たちも口に運んでいく。それまで泣いていた子供たちが笑顔になって、手にしたケーキを瞬く間に平らげていく。残しても仕方ないので、残りのケーキも全部子供たちに分けていく。二度目となれば、僕にお礼を言ってくる子供もいるほど警戒心が薄くなっていた。

 そして、食べている子供たちに僕はこれからのことを告げることにした。

 「君たちはこれから僕が暮らす村に来てもらうことになる。このようなケーキは村では珍しいものではない。食べようと思えばいつでも食べられるものだ」

 僕がそう言うとどよめきが起こる。ケーキの効果は抜群だったようだ。

 「しかし、君たちが成人をすれば働いてもらわなければならない。それを了承してくれるというのなら、君たちには衣食住を提供するつもりだ」

 しかし、僕の話を理解できる子どもはいなかった。よくわからない表情を浮かべ、ルードに助けを求める子供ばかりだ。ここでルードが助け舟を出してくれた。

 「いつもやっていることをこれから行く場所でもやればいいのよ。みんなが得意なことをやってほしいってロッシュ殿はお願いしているのよ」

 子供たちがそれぞれ自分のやってきたことを口々に言っていく。それにルードが頷いていく。ようやく、理解が出来てきたようで元気よく頷いてくれた。僕はルードに感謝をしてその場を離れた。ルードには子供たちの面倒をみるようにだけ頼んで。

 僕がシェラ達のところに戻ると、シャラが一言。

 「なんだか、物で子供の心を釣る悪い大人みたいだったわよ」

 ……ショックだ。

 船は順調に新村に向け進んでいたが、途中、急な嵐に遭遇してしまった。強風が吹き荒れ、船が前後左右に大きく揺れ始めた。船員たちは、なんとか投げ出されないように、船体に必死にしがみつきながらも帆を調整して転覆を防ごうとしている。

 しかしいつまで持つのか。チカカのところになんとか向かい、船の状態を聞いた。

 「正直に言って、いつ転覆してもおかしくありません。なんとか風だけでもなんとか出来れば」

 風か。僕は風魔法を使い、船体に吹く風を押し返えそうとした。しかし全方向とまではいかずに却って、風が不安定となり船体の揺れが大きくなってしまった。僕は全方向に風魔法が使えないか試していると、ルードが近寄ってきて、私達に任せてください、と言ってきた。

 ルードの後ろには子供たちがいて、風魔法を使っていた。一人一人の力は弱いが全方向に向かい、船体に吹く風がかなり弱まった。よし、このまま嵐が去るのを待てばいいだろう。しかし、それも長くは続くものではなかった。子供の魔力はさほど大きいものではないらしい。僕は子供たちの負担を減らすために、一方向が僕が担い、ルードも同じようにし、子供たちが残りの方向を担当することでなんとか嵐を凌ぐことが出来た。

 嵐が去ると、海は急に静けさを取り戻し、穏やかな風が吹いきた。再び船は帆を全開にし進み始めた。しかし、魔力が小さいとは言え、あれほどの風魔法を使うことが出来るとはな。

 「ルード。ダークエルフは皆、風魔法が使えるのか?」

 「そうですね。私達は風魔法を狩猟に使いますから」

 ほお。それは気になるな。一体、どうやって使うんだ? ルードの説明では、ダークエルフ自身は非力で強い弓を用いることが出来ないようだ。そのため、獣を仕留めるだけの攻撃を加えることが出来ない。そこで風魔法を使い、矢の速度を上げることで獣に大きなダメージを与える事が出来るというのだ。しかも、熟練した大人のダークエルフならば、木を避けながら獣を仕留めることが出来るため、無駄撃ちが少ないようだ。

 それは凄いな。是非とも見てみたいものだな。僕がそう言うと実際に見てみますか? と言ってくるので断る理由はない。ルードは頷いて、所持していた弓を絞り、空にめがけて一本の矢を放った。普通であれば、そのまま放物線を描いて海に落ちるはずだ。しかし、放った矢は上空で一回転したかと思うと、船をぐるりと一周回って甲板に突き刺さった。矢は深々と刺さり、抜くことが出来ないほどだ。これならば、獣に致命傷を与えることも難しくないだろう。

 僕も使えるだろうか? ルードに矢を一本飛ばしてもらい、風魔法を使って矢を動かそうとしたが、むしろ矢が失速してしまいすぐに海に落ちてしまった。

 「ロッシュ殿。すぐに出来るものではありませんから、そんなに落ち込まないでください。私で良ければ、いつでも教えますから」

 そんなに落ち込んだように見えたのだろうか? それから新村に着くまで練習を繰り返し、失速しない程度には出来るようになった。矢の操縦とまではいかないが、ルードいわく、筋はかなり良いそうだ。これからも練習を続けていこう。

 僕達はようやく新村に到着した。新たにダークエルフ50人を連れて。
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