298 / 408
第297話 模擬戦総括
しおりを挟む
僕の目の前にライルとニード、イハサが座っている。地面の上に正座という選択肢もあったが、さすがに一国の将軍相手に地面というのは体面がよろしくないので椅子を用意した。この状態になるまでに兵たちの治療を終わらせ、回復が済んだものから祭りへの参加を許可した。彼らも祭りを楽しみにしていたようで、よろこんで会場に向かっていった。
砦の中には最低限の兵士しか残っておらず、静まり返って、少し不気味さを感じるほどだ。その砦の一室で将軍と副官とで模擬戦の総括をすることになったのだ。ライルとニードはまだ傷だらけの顔だ。反省の意味を込めて治療を後回しにしたのだ。
「さて、三人共模擬戦をみごとやりきってくれたことに感謝を言おう。僕としては大変充実したもので定期的に模擬戦を実施することは公国にとって有意義であると思った。それと最初に言っておいたほうがいいだろう。ニードとイハサ。君らの用兵技能の高さは疑いようもないほど洗練されたものだ。五千人の兵を手足のごとく使う様は観戦していて気持ちのいいものだと気付かされたな。それゆえ、二人には公国の将軍として是非とも働いてもらいたいと思っている。イハサも将軍として一軍を率いてもらいたいと思っているが、異存はあるか?」
イハサは恐縮した様子であったが、はっきりとした意思表示をした。
「将軍というお話は大変名誉なことであります。そのような評価をしていただいたイルス公に感謝の念が絶えません。しかしながら、ニード将軍の元、副官としての地位をもらえる方が嬉しく思います。恐らく私には将軍としての才はないように思えます。それよりもニード将軍の足りぬところを補うほうが性分として合っております。ワガママとは思いますが……」
僕はニードに異存がないことを確認すると、イハサの願いを聞くことにした。二人が一軍として機能することで、あれほどの強さを発揮しているのかも知れない。弱体化は望むところではないからな。とりあえず、イハサは副官として留めておくことにしよう。
「さて、総括を始めようか」
今回の模擬戦、特に最終日についての話となった。ライル軍の奇襲から始まったな。ライルとニードの話を聞くと、やはり両軍とも情報収集を先に行なっていたようだ。その結果としてライル軍のほうが先にニード軍の情報を掴んだことで奇襲を上手く成功させたということだ。やはり情報収集するための斥候の技術や人数を向上させることが戦いの端緒を有利に運ぶ秘訣のようだ。
その後、奇襲を受けたニード軍は蜘蛛の子を散らすようにバラバラになってしまったが、いつの間にか整然とした軍になって、それがライル軍を挟撃することになった。あれには驚いたものだが、ニードは作戦だと言っていた。奇襲はある程度想定したようで、その上でバラバラに散ることで相手を深く誘い込むことが目的だったようだ。しかし、奇襲のタイミングが思ったより早かったので損害が大きくなってしまったところが誤算だったようだ。
やはり撤退を偽装しようとしていたのか。そうでなければ、撤退した兵をまとめるなど出来るものではないだろう。この時点で両軍は多大な損害が生じていたことになる。本来であれば、そこで痛み分けとなるのが戦場だろう。しかし、これは模擬戦だ。一兵となるまで戦うことをやめるわけにはいかない。
ライル軍の撤退を追撃しなかったのは、やはりニード軍に疲労の色が濃かったせいのようだ。あそこで追撃ができていれば、ライル軍を完膚なきまでに叩き潰すことが出来たであろう。前日の訓練が響いていたことは否定できないな。初日と二日目の疲労を見抜き、ライルが思い切って休息を与えたのは素晴らしい判断だったと思う。
その後のライル軍は高台に逃げ込んだ。ここでもニード軍の有利は変わらないはずだった。包囲すれば良かっただけだったのだが、なぜかそれが出来なかった。包囲しようとする網の弱い部分を見事に突いていたからだ。ライルにその秘密を聞くことにした。
「ライル。あの時、的確に兵を動かしていたが何か秘密でもあるのか? 僕には千里眼持ちの兵がいるのかと思っていたぞ」
「千里眼の兵がいれば戦場では楽するだろうな。残念だが、そうではない。実は、オレは戦場を見渡せる場所に兵を何人も配置していたんだ。その兵からの合図で行動を決めていたんだ」
そういうことだったのか。しかし、よく的確に見渡せる場所などを見つけたものだな。それもライルからすれば簡単なことらしい。なにせ、戦場は砦周りだ。ライルは砦周りの地形は全て頭に入っていると豪語するほど理解しているらしい。その強みを活かした戦術だったというわけだ。やはり、地形の理解は戦況に大きく影響を与えるということか。詳細な地図づくりというのも考えなければならないな。
そして最後だ。ニード軍は最後の手段として奇襲を考えた。とてもいい作戦だと思うし、成功する確率も高いだろうと踏んでいたが残念ながらニード軍の奇襲は失敗した。出てくるタイミンが早すぎたのだ。あれではクロスボウの格好の的となってしまう。
「ニード。あのタイミングは素人の僕でも良くないと思った。なぜ、早く飛び出してしまったのだ?」
「実は我々が潜伏していた森でライル軍の奇襲を受けていたのです。それゆえ、慌てて戦場に飛び出してしまった次第で。あれは完全にライルさんのほうが上手と言わざるを得ませんでした」
奇襲に奇襲か。そんな芸当が本当に出来るのか。……まさか、あの離脱した五百人の兵か? 僕がライルに聞くと素直に頷く。それも斥候による情報を頼りに行動していたからこそ出来たようだ。なるほど、情報とはこうまで戦況を左右するとは驚きだな。これで総括は終わりだ。えっ⁉ まだ続きがある?
「最後に二人にあの見苦しい殴り合いは何だったのだ? 正直に言って、二人には尊敬の念を密かに抱いていた僕の気持ちを大いに踏みにじられた気分だった。弁解があれば、それを聞こう」
ライルとニードは落ち込んだ様子で弁解を言うことはなかった。ただただ感情に流されて、その場の雰囲気に飲まれただけだったようだ。僕は反省しているのか? と問うと両者とも頷いた。
「それを聞いて安心した。とはいえ、このまま許すのも二人にとっては不満であろう。幸い両軍の勝敗が決まらず、罰がそのまま残っている状態だ。この罰を二人にやってもらうことにしよう。異論は……受けぬ」
ライルとニールには祭りの催し物になってもらおう。二人がなにをやるのか今から楽しみだ。ふと、イハサの方に目を向けると物凄く安堵したような表情をしていた。しかし、イハスも二人の愚行を止める責任があるにも拘わらず兵と混じって囃していたのを僕は確認している。
「イハス……何を安心しているんだ? 君も同罪だぞ」
その言葉を聞いて、イハスは絶望の色を顔に出したが、ライルとニードは殊更喜んでいた。やっぱり、この三人って仲いいよな? なんだか……羨ましいな。
さて、折角だ。ソロークにも話を聞いてみよう。
「ソローク。どうであった? 模擬戦を直に見てみて、三人に言いたいことがあったら言っても構わないぞ」
「私のようなものが滅相もない。このような場に参加させてもらえただけで夢のようです。ただ、少しに気になるのです。ライル将軍の情報を巧みに使った戦術は大変見事だったと思います。そうであるならば、最初の奇襲が成功した後、挟撃されるまで間に後方に兵が近づいているを知っていたはずです。何故、ニール軍を深追いをしたのですか? 深追いしなければ、挟撃による傷は浅かったと思うのですが」
ライルはあまり聞かれたくないような表情を浮かべた。ソロークの視点はなかなか面白いもんだな。
「それを聞かれるとは。たしかに後方に兵がいたことは知っていた。そして深追いする危険性も理解していたつもりだ。しかしな、ニールの態度がどうしても気に食わなかったんだ。あいつのオレ達へのおちょくりは度を越していた。そのせいで冷静さを欠いてしまったんだ。冷静に考えれば、オレ達を引きつける作戦だということはすぐにわかったはずなんだが」
ほお、そんなことが行われていたとは知らなかったな。ライルが逆上するおちょくりというのものがどんなものか非常に気になるところだ。実際にニールにやってもらった。最初は実演することを抵抗していたが、僕がどうしてもとお願いしてやってもらった。……うん、すごく腹が立った。
そのせいで場の空気が重くなってしまったが、ソロークはニールへの質問をした。
「ニール将軍の用兵はやはり素晴らしいものでした。情報を駆使するライル将軍に対して対等に戦闘を行えるのは芸術の域に達しているさえ感じました。それでニール将軍に聞きたいのですが、最後の奇襲が失敗した後、ライル軍のクロスボウ達による一斉射撃で十分な痛手を受けました。本来であれば、そこで撤退なり降伏なりを選択するべきだと思うのですが、何故突撃を敢行されたのでしょうか? 本番であれば、全滅していたでしょう。それほどの状況だったのでしょうか?」
この質問でもニールは苦い顔をしている。ふむ。確かにソロークの言っていることは気になるな。まぁ、その時点でニール軍が敗北するという意味を持つが、それが我慢できなかったと勝手に解釈して気にもしていなかったな。
「たしかにソロークの言う通りです。あの場面では奇襲に失敗した時点で全力で撤退するのが筋でしょう。しかし、私は見てしまったのです。勝ち誇ったライルさんの顔を。そして、我々を愚弄するようなことを言ってきたのです。私もあれを見ずに、そして聞かずにいれば冷静さを欠くことはなかったでしょう。つい、突撃を全軍に命じてしまったのです」
なんだ、それ? ニールといい、ライルといい、子供の喧嘩みたいなことをしているんだな。ニールは作戦上だと弁解していたが、それにしても他にやり様はないのだろうか。まさか、最後の取っ組み合いは、そのくだらない理由になってはいないだろうな?
ああ、やっぱりそうだったか。たしかにニールの態度は殴りたくなる気持ちは分からないでもない。きっと、ニールもライルに同じ気持ちを抱いていたのだろう。しかし、それでも模擬戦でやるべきことではない。本番であれば、それだけで多数の命が失われてしまうのだ。二人には模擬戦に対する真摯さにやや欠けるところがあるのかも知れない。これが前例になるようなことを避けなければならないな。
「二人共。よく聞いてくれ。この模擬戦は公国で今後も続けていくつもりだ。しかし、二人の最後のようなことがあってはならない。そのため、最後については箝口令を布くつもりだ。二人もそのつもりで頼むぞ。オリバにはその旨を伝えてあるから安心してくれ」
これで模擬戦はきれいに幕を閉じることが出来るだろう。最後さえなければ、本当に素晴らしいものだったのだ。最後さえなければ……
しかし、僕の願いは簡単に消え去るのだった。先行していた兵たちが最後のシーンを面白おかしく住民に話していたのだった。箝口令は布かれずに終わったのだった……。
砦の中には最低限の兵士しか残っておらず、静まり返って、少し不気味さを感じるほどだ。その砦の一室で将軍と副官とで模擬戦の総括をすることになったのだ。ライルとニードはまだ傷だらけの顔だ。反省の意味を込めて治療を後回しにしたのだ。
「さて、三人共模擬戦をみごとやりきってくれたことに感謝を言おう。僕としては大変充実したもので定期的に模擬戦を実施することは公国にとって有意義であると思った。それと最初に言っておいたほうがいいだろう。ニードとイハサ。君らの用兵技能の高さは疑いようもないほど洗練されたものだ。五千人の兵を手足のごとく使う様は観戦していて気持ちのいいものだと気付かされたな。それゆえ、二人には公国の将軍として是非とも働いてもらいたいと思っている。イハサも将軍として一軍を率いてもらいたいと思っているが、異存はあるか?」
イハサは恐縮した様子であったが、はっきりとした意思表示をした。
「将軍というお話は大変名誉なことであります。そのような評価をしていただいたイルス公に感謝の念が絶えません。しかしながら、ニード将軍の元、副官としての地位をもらえる方が嬉しく思います。恐らく私には将軍としての才はないように思えます。それよりもニード将軍の足りぬところを補うほうが性分として合っております。ワガママとは思いますが……」
僕はニードに異存がないことを確認すると、イハサの願いを聞くことにした。二人が一軍として機能することで、あれほどの強さを発揮しているのかも知れない。弱体化は望むところではないからな。とりあえず、イハサは副官として留めておくことにしよう。
「さて、総括を始めようか」
今回の模擬戦、特に最終日についての話となった。ライル軍の奇襲から始まったな。ライルとニードの話を聞くと、やはり両軍とも情報収集を先に行なっていたようだ。その結果としてライル軍のほうが先にニード軍の情報を掴んだことで奇襲を上手く成功させたということだ。やはり情報収集するための斥候の技術や人数を向上させることが戦いの端緒を有利に運ぶ秘訣のようだ。
その後、奇襲を受けたニード軍は蜘蛛の子を散らすようにバラバラになってしまったが、いつの間にか整然とした軍になって、それがライル軍を挟撃することになった。あれには驚いたものだが、ニードは作戦だと言っていた。奇襲はある程度想定したようで、その上でバラバラに散ることで相手を深く誘い込むことが目的だったようだ。しかし、奇襲のタイミングが思ったより早かったので損害が大きくなってしまったところが誤算だったようだ。
やはり撤退を偽装しようとしていたのか。そうでなければ、撤退した兵をまとめるなど出来るものではないだろう。この時点で両軍は多大な損害が生じていたことになる。本来であれば、そこで痛み分けとなるのが戦場だろう。しかし、これは模擬戦だ。一兵となるまで戦うことをやめるわけにはいかない。
ライル軍の撤退を追撃しなかったのは、やはりニード軍に疲労の色が濃かったせいのようだ。あそこで追撃ができていれば、ライル軍を完膚なきまでに叩き潰すことが出来たであろう。前日の訓練が響いていたことは否定できないな。初日と二日目の疲労を見抜き、ライルが思い切って休息を与えたのは素晴らしい判断だったと思う。
その後のライル軍は高台に逃げ込んだ。ここでもニード軍の有利は変わらないはずだった。包囲すれば良かっただけだったのだが、なぜかそれが出来なかった。包囲しようとする網の弱い部分を見事に突いていたからだ。ライルにその秘密を聞くことにした。
「ライル。あの時、的確に兵を動かしていたが何か秘密でもあるのか? 僕には千里眼持ちの兵がいるのかと思っていたぞ」
「千里眼の兵がいれば戦場では楽するだろうな。残念だが、そうではない。実は、オレは戦場を見渡せる場所に兵を何人も配置していたんだ。その兵からの合図で行動を決めていたんだ」
そういうことだったのか。しかし、よく的確に見渡せる場所などを見つけたものだな。それもライルからすれば簡単なことらしい。なにせ、戦場は砦周りだ。ライルは砦周りの地形は全て頭に入っていると豪語するほど理解しているらしい。その強みを活かした戦術だったというわけだ。やはり、地形の理解は戦況に大きく影響を与えるということか。詳細な地図づくりというのも考えなければならないな。
そして最後だ。ニード軍は最後の手段として奇襲を考えた。とてもいい作戦だと思うし、成功する確率も高いだろうと踏んでいたが残念ながらニード軍の奇襲は失敗した。出てくるタイミンが早すぎたのだ。あれではクロスボウの格好の的となってしまう。
「ニード。あのタイミングは素人の僕でも良くないと思った。なぜ、早く飛び出してしまったのだ?」
「実は我々が潜伏していた森でライル軍の奇襲を受けていたのです。それゆえ、慌てて戦場に飛び出してしまった次第で。あれは完全にライルさんのほうが上手と言わざるを得ませんでした」
奇襲に奇襲か。そんな芸当が本当に出来るのか。……まさか、あの離脱した五百人の兵か? 僕がライルに聞くと素直に頷く。それも斥候による情報を頼りに行動していたからこそ出来たようだ。なるほど、情報とはこうまで戦況を左右するとは驚きだな。これで総括は終わりだ。えっ⁉ まだ続きがある?
「最後に二人にあの見苦しい殴り合いは何だったのだ? 正直に言って、二人には尊敬の念を密かに抱いていた僕の気持ちを大いに踏みにじられた気分だった。弁解があれば、それを聞こう」
ライルとニードは落ち込んだ様子で弁解を言うことはなかった。ただただ感情に流されて、その場の雰囲気に飲まれただけだったようだ。僕は反省しているのか? と問うと両者とも頷いた。
「それを聞いて安心した。とはいえ、このまま許すのも二人にとっては不満であろう。幸い両軍の勝敗が決まらず、罰がそのまま残っている状態だ。この罰を二人にやってもらうことにしよう。異論は……受けぬ」
ライルとニールには祭りの催し物になってもらおう。二人がなにをやるのか今から楽しみだ。ふと、イハサの方に目を向けると物凄く安堵したような表情をしていた。しかし、イハスも二人の愚行を止める責任があるにも拘わらず兵と混じって囃していたのを僕は確認している。
「イハス……何を安心しているんだ? 君も同罪だぞ」
その言葉を聞いて、イハスは絶望の色を顔に出したが、ライルとニードは殊更喜んでいた。やっぱり、この三人って仲いいよな? なんだか……羨ましいな。
さて、折角だ。ソロークにも話を聞いてみよう。
「ソローク。どうであった? 模擬戦を直に見てみて、三人に言いたいことがあったら言っても構わないぞ」
「私のようなものが滅相もない。このような場に参加させてもらえただけで夢のようです。ただ、少しに気になるのです。ライル将軍の情報を巧みに使った戦術は大変見事だったと思います。そうであるならば、最初の奇襲が成功した後、挟撃されるまで間に後方に兵が近づいているを知っていたはずです。何故、ニール軍を深追いをしたのですか? 深追いしなければ、挟撃による傷は浅かったと思うのですが」
ライルはあまり聞かれたくないような表情を浮かべた。ソロークの視点はなかなか面白いもんだな。
「それを聞かれるとは。たしかに後方に兵がいたことは知っていた。そして深追いする危険性も理解していたつもりだ。しかしな、ニールの態度がどうしても気に食わなかったんだ。あいつのオレ達へのおちょくりは度を越していた。そのせいで冷静さを欠いてしまったんだ。冷静に考えれば、オレ達を引きつける作戦だということはすぐにわかったはずなんだが」
ほお、そんなことが行われていたとは知らなかったな。ライルが逆上するおちょくりというのものがどんなものか非常に気になるところだ。実際にニールにやってもらった。最初は実演することを抵抗していたが、僕がどうしてもとお願いしてやってもらった。……うん、すごく腹が立った。
そのせいで場の空気が重くなってしまったが、ソロークはニールへの質問をした。
「ニール将軍の用兵はやはり素晴らしいものでした。情報を駆使するライル将軍に対して対等に戦闘を行えるのは芸術の域に達しているさえ感じました。それでニール将軍に聞きたいのですが、最後の奇襲が失敗した後、ライル軍のクロスボウ達による一斉射撃で十分な痛手を受けました。本来であれば、そこで撤退なり降伏なりを選択するべきだと思うのですが、何故突撃を敢行されたのでしょうか? 本番であれば、全滅していたでしょう。それほどの状況だったのでしょうか?」
この質問でもニールは苦い顔をしている。ふむ。確かにソロークの言っていることは気になるな。まぁ、その時点でニール軍が敗北するという意味を持つが、それが我慢できなかったと勝手に解釈して気にもしていなかったな。
「たしかにソロークの言う通りです。あの場面では奇襲に失敗した時点で全力で撤退するのが筋でしょう。しかし、私は見てしまったのです。勝ち誇ったライルさんの顔を。そして、我々を愚弄するようなことを言ってきたのです。私もあれを見ずに、そして聞かずにいれば冷静さを欠くことはなかったでしょう。つい、突撃を全軍に命じてしまったのです」
なんだ、それ? ニールといい、ライルといい、子供の喧嘩みたいなことをしているんだな。ニールは作戦上だと弁解していたが、それにしても他にやり様はないのだろうか。まさか、最後の取っ組み合いは、そのくだらない理由になってはいないだろうな?
ああ、やっぱりそうだったか。たしかにニールの態度は殴りたくなる気持ちは分からないでもない。きっと、ニールもライルに同じ気持ちを抱いていたのだろう。しかし、それでも模擬戦でやるべきことではない。本番であれば、それだけで多数の命が失われてしまうのだ。二人には模擬戦に対する真摯さにやや欠けるところがあるのかも知れない。これが前例になるようなことを避けなければならないな。
「二人共。よく聞いてくれ。この模擬戦は公国で今後も続けていくつもりだ。しかし、二人の最後のようなことがあってはならない。そのため、最後については箝口令を布くつもりだ。二人もそのつもりで頼むぞ。オリバにはその旨を伝えてあるから安心してくれ」
これで模擬戦はきれいに幕を閉じることが出来るだろう。最後さえなければ、本当に素晴らしいものだったのだ。最後さえなければ……
しかし、僕の願いは簡単に消え去るのだった。先行していた兵たちが最後のシーンを面白おかしく住民に話していたのだった。箝口令は布かれずに終わったのだった……。
5
お気に入りに追加
2,659
あなたにおすすめの小説
完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-
ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。
自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。
安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。
いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して!
この世界は無い物ばかり。
現代知識を使い生産チートを目指します。
※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~
しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」
病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?!
女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。
そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!?
そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?!
しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。
異世界転生の王道を行く最強無双劇!!!
ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!!
小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

転生チート薬師は巻き込まれやすいのか? ~スローライフと時々騒動~
志位斗 茂家波
ファンタジー
異世界転生という話は聞いたことがあるが、まさかそのような事を実際に経験するとは思わなかった。
けれども、よくあるチートとかで暴れるような事よりも、自由にかつのんびりと適当に過ごしたい。
そう思っていたけれども、そうはいかないのが現実である。
‥‥‥才能はあるのに、無駄遣いが多い、苦労人が増えやすいお話です。
「小説家になろう」でも公開中。興味があればそちらの方でもどうぞ。誤字は出来るだけ無いようにしたいですが、発見次第伝えていただければ幸いです。あと、案があればそれもある程度受け付けたいと思います。

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

異世界に転生した社畜は調合師としてのんびりと生きていく。~ただの生産職だと思っていたら、結構ヤバい職でした~
夢宮
ファンタジー
台風が接近していて避難勧告が出されているにも関わらず出勤させられていた社畜──渡部与一《わたべよいち》。
雨で視界が悪いなか、信号無視をした車との接触事故で命を落としてしまう。
女神に即断即決で異世界転生を決められ、パパっと送り出されてしまうのだが、幸いなことに女神の気遣いによって職業とスキルを手に入れる──生産職の『調合師』という職業とそのスキルを。
異世界に転生してからふたりの少女に助けられ、港町へと向かい、物語は動き始める。
調合師としての立場を知り、それを利用しようとする者に悩まされながらも生きていく。
そんな与一ののんびりしたくてものんびりできない異世界生活が今、始まる。
※2話から登場人物の描写に入りますので、のんびりと読んでいただけたらなと思います。
※サブタイトル追加しました。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる