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第289話 模擬戦と祭りの準備

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 僕が思いつきで言った話にライルが異常なほど食いついてきた。

 「面白そうだな。さっそく準備をさせよう。ニードとイハサの方は大丈夫か?」

 すると、ニードも楽しそうにしている。

 「ああ。もちろんだ。しかし、イルス公も面白いことを考えるものですな。我々の実力を見届けてもらいましょう。それで、どういった事をやるんです?」

 そこで沈黙が流れた。何も考えていなかった。こういう時、軍人同士通じ合うものがあるのではないのか? 何をやるかなんて、僕に言われても……模擬戦でもやらせてみるか? とはいえ、元侯爵家軍の主力は剣や槍のため模擬刀などを用意すればいいかもしれないが、公国軍の主力はクロスボウだ。怪我を負わせてしまう危険性が……怪我しても、回復魔法で治せばいいか?

 「模擬戦をやってみるか? 実際の武器を使うのは危険だから、木製の剣や槍を使用する。クロスボウについては、鏃を取り外し、同じ重さのおもりをつけるようにしよう。どうだろうか?」

 ライルはニヤッとした顔を浮かべた。

 「それはいいな。しかし、いくら武器を加工しても怪我をしてしまうんじゃないか? オレらは怪我をすることは気にする奴なんていないだろうが」

 「それについては、僕の回復魔法でサポートしよう。ニード達もそれでいいか?」

 ニードは頷いた。拳を握りしめて、少し興奮し始めている様子だ。

 「ああ、それでいいです。勝敗は何で決めるんです? やはり、相手を全滅するまで戦うっとことでいいですかね?」

 ニードは戦いになると、人柄が変わったような雰囲気になるのだな。逆に、よく話していたイハサが黙ってしまったな。この二人の役割分担というのがよく分かるな。これからも軍を任せるにしても、二人を一緒にしたほうが良さそうだ。

 「いや、全滅するまで戦う必要はない。実際の戦いでもそんな状況はないだろ? 勝敗条件は、大将を撤退させるか、戦闘不能状態、もしくは捕縛した時点で勝敗を決することにしよう。もしくは、僕が勝敗を決めたときだ。それでいいか?」

 三人は一斉に頷いた。しかし、ここまで話を面白くしたなら、祭りのようにしたいものだな。それに、元侯爵家軍が公国に加わったことを宣伝する意味でも面白そうだ。そうなると、一日だけでは……

 「僕から提案があるんだが……」

 僕が提案した内容は、模擬戦を全三戦行うことだ。主力となる兵科が異なれば、当然得意とする地形が大きく変わる。一か所では文句が出るかも知れないからな。というのは、完全に言い訳で、実際は祭りを長引かせるためだ。

 そうなると準備の期間をいれて、一週間後の開催というのは良さそうだ。ゴードンも呼び出すことにしよう。村からも家族を呼び出したいが、難しいかも知れないな。周辺の住民にも告知をしよう。

 僕はライル達に準備を進めるように伝え、街に戻ることにした。久しぶりの祭りだ。せっかくだから、大きな祭りにしたいものだ。街に戻るとロドリスとカーリを呼び出した。二人はすぐにやってきてくれた。

 「二人ともよく来てくれた。実は相談があって来てもらったのだ。近々、公国第一軍と元連合侯爵家軍で模擬戦を執り行うことにしたのだ。元公爵家軍のお披露目と実力を図るのが目的だ」

 僕がこんな話をしても、二人はなぜ呼ばれたのか全くわからないような表情を浮かべていた。それはそうだろうな。しかし、話はこれからだ。

 「この催しに合わせて、祭りを開こうと考えている。もちろん、日中は作付け作業で時間を取られているだろうから、夕方の開催とするつもりだ。祭りは三日間続ける。その手伝いを君たちにやってもらいたいと思っているのだ。ロドリスは、街の住民達の調整を行なってもらいたい。カーリには、祭りに出される料理や酒を裁量してもらいたいと思っている」

 ロドリスはお任せください、といってすぐに了承してくれた。しかし、カーリは僕からの急な要請に混乱している様子だった。

 「イルス公。決して反対を申し上げるつもりはありませんが、私達は料理が出来る者がほとんどいません。とても役に立てるとは思えません。イルス公の前で失態をする前に辞退をさせていただきたいのですが」

 「なるほどな。しかし、君は、元子爵の夫人だ。君には皆を裁量できるだけの能力があると思っている。街には料理が出来るものも多くいることだろう。食材や資材もロドリスに頼めば、調達してくれよう。もちろん、僕もできる限りの協力をさせてもらう。だから、やってみる気はないか?」

 そういうと、近くで話を聞いていたロイドの息子ソロークも一歩前に出て、母親に参加を促していく。そうすると、カーリは何かを決意した様子で、コクリと頷いた。どうやら、やってくれる気になってくれたみたいだ。とにかく、ゴードンがいないところでは、現地の人の力を結集して、事に当たらなければならない。この祭りを通じて、有能な人物を発掘できたらいいのだが。

 「ソローク。僕の同行はここまでだ。これから、カーリを支え祭りを素晴らしいものに仕上げてくれ。これは、公国にとっては重要な行事だ。決して、疎かにすることなく、全力で仕事に当たってくれ。この成果によっては、僕はソロークに今後も重要な仕事を与えるだろう」

 ソロークからは威勢のよい返事があった。そして、僕はゴードンに手紙を書き、ハトリに手渡した。手紙には祭りをやるからすぐに来い、とだけ書いてある。それだけでゴードンには話が通じるだろう。手紙を受け取ったハトリは、すぐに外に出て、しばらくしてから戻ってきた。どうやら、手紙を忍びの里に手渡したようだな。

 そうなると、会場を決めなければならないな。街には、住民たちが集まれるような広場というのは未だ設けられていない。街が出来てから、住居だけが作られるだけで娯楽など一切催されたことがないからな。街は広い平原の真ん中にあるため、どの方角でも拡張する問題はない。ただ、僕としてはこういう広場は街の中心近くに起きたいと考えている。そうすると、街道に近いのが理想だな。

 僕は街を離れ、東の郊外に向かった。そこには手を付けられていない平原が広がっていた。しかし、街道の状態が良くないな。最近、頻繁に木材や鉄が運び込まれているせいなのか、道がデコボコとしている。まずは、それを直しておいたほうがいいな。折角だから、拡張をしておこう。この道は王国でも主要な道路として利用されていたが、それにしても道路幅が狭いのだ。馬車が二台通るのも容易ではない。これでは、物流に悪い影響を与えてしまうだろう。

 僕は思わぬ拡張工事をすることになった。道路幅を思い切って三倍程度に拡張し、分離帯を設け、そこに樹木を植えられるようにした。これは、僕の趣味だけど。道路面を平らにし、近くの山から切り出してきた石材を調達し、道路に敷き詰めることにした。これだけでは、石同士に隙間があるため荷車に衝撃が出てしまう。そのため、目地にも砂を詰め込み、平にしていく。そして、側溝を設け、道路面に水がたまらないように工夫をしていく。

 完成には数日かかってしまったが、砦から街の郊外にかけて道路の拡張をすることが出来た。シラーに石材の切り出しを頼んでいたので、かなり疲れた様子だ。でも、休むのはもう少し先になるな。済まない、シラー。

 街道の整備が終わってからは広場の設置をすることにした。祭りの時に開放される道をまずつくる。ここは将来的には、商業施設が並ぶような道にしたいと考えているので、多くの人が往来できるような設計をしなければならない。あとは、荷車を停留できる場所を設けることが必要だ。それらを考慮すると、どうしても道幅が広くなってしまうが、ここは平原だ。どんどんやっていこう。

 とりあえず、一キロメートル程作ってから、広場を道路に併設する。十万人規模が集まれるような場所にしなければならない。途方もなく広い場所になるが、平原に仕切りを設け、中に通路を設けるなどをするだけで終わりだ。あとは、祭りの準備が本格的に始まってからでいいだろう。

 僕は、ロドリスとカーリと相談をしながら祭りの準備を進めていた。祭り開催の数日前にゴードンが合流し、祭りの準備は加速的に進んでいった。僕とシラーは、ゴードンが合流したことで、祭りに関する仕事が無くなったので、ひたすら堤防と水田の設置を行なっていた。貯水池の設置までしたかったところだが、時間が無くなってしまった。それに、シラーの体力も限界そうだ。僕は諦めて、街に戻っていった。

 祭りの会場となる広場には、多くの人だかりが出来ており、草原の草を刈るものがいたり、道普請をしたり、祭りの設営をしたりしている者など様々だが、皆の表情は非常に明るい。これなら、きっと楽しい祭りになるはずだ。

 ついに祭りの当日となった。つまり、公国第一軍と元侯爵家軍の模擬戦でもある。楽しみが広がるな。
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