爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。

秋田ノ介

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第281話 寄り道 忍びの里 前半

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 一泊の予定が思わぬ宴会が続き、二泊となってしまった。体には若干疲れが残っているけど、これほど楽しんだのは久しぶりだ。気分はとても晴れやかだ。僕達に眷属たちが加わり、村に向け再度出発した。ここからは、しばらく坑道内の行動となる。ちなみに、坑道内には光が入らないため、当然真っ暗となる。そうなれば、移動は出来ない。そのため、ホタル石という物が利用されている。原理はよく分からないが、光は強くないが空気に触れると長い間光り続けるという特性がある石だ。

 この石は、僕とシラーが採掘をしているときに大量に手に入ったものだったが、ここにきて急激な需要が高まった変わった石だ。それ以外にも、空気孔が定間隔で設置されており、そこから採光している。それらを併せることで比較的坑道内の明るさは確保されているのだ。といっても、もう少し明るさが欲しいところだな。噂ではヒカリゴケという植物があるらしいが……それは別の話にしよう。

 僕達は坑道内ということで見るものもないので、足早に坑道内を突き進んでいった。坑道内は、旅人用に五キロメートル毎に休憩が出来るように広い空間が設置されている。ゆくゆくは宿泊施設や飲食ができる場所、テーブルなど作っていきたいと考えるのだ。旅人が多く行き来するような公国を早く実現したいものだな。

 僕はミヤに甘酒を差し出した。毎日のように飲むようになって、在庫が心許なくなってきている。でも、酒粕の在庫もないし、なんとか今ある量で我慢してもらわないと。眷属達は美味しそうにトマトジュースを飲んでいた。ずっと不思議だった巨大な樽の正体がやっと分かって、納得ができた。シェラは馬車?の中に温泉街の別荘から布団を持ち出して、荷車に布団を敷き詰めていた。そのせいで、起きることなくずっと寝ているのだ。シラーは相変わらずミヤの体を擦ったりして労り続けている。これが姫と部下の関係なのだろうか。

 僕もコーヒーを飲みながら、休憩しているとハトリがフェンリルに跨り、進行方向からやってきたのだ。僕は疑問に思ったが、僕達が出発したことを知って先回りしていたと考えるのが普通か。忍びの里ならそのような情報交換は簡単だろう。それにしても、このタイミングということは元北部諸侯連合の貴族の家族についての続報ということだろうか。ハトリは僕に近づくと、フェンリルから華麗に降りた。随分と慣れたものだと感心してしまった。僕は、まだハヤブサから降りる時は苦労していると言うのに。

 「ロッシュ殿。お会い出来てよかったです。すでにサノケッソの街を出発したと報告を受け、先回りさせてもらいました」

 やはり、そうか。忍びの里の情報網はすでに公国中に張り巡らされているようだ。ということは、村にいながら北部や南部の情報をすぐに入手できると考えてもいいのだろうか。あとで聞いてみるか。僕は、ハトリの報告に耳を傾けた。

 「連合の家族は無事入国することが出来ました。家族は全員衰弱しているものの、外傷もない状態です。本人確認についても、元連合からやってきたサザンという方が行ってくれました。今は、砦近くの街で休養を取っております。これからの行動について、ロッシュ公から指示を待っております」

 そうか。家族は無事だったか。それはなによりだ。ロイド達もきっと喜ぶに違いない。すぐに会わせたいところだが、まずは体力が戻ってから城郭都市に移動してもらったほうがいいだろう。その上で、再会の機会を作ることにしよう。それにしても、今回の一件はどういうことなのか。それが知りたいものだ。

 「今回の一件については、里の長から直接伺ったほうがよろしいかと思います。ご足労ですが、里に立ち寄ってはいただけないでしょうか?」

 もちろんだ。僕はそのつもりだった。忍びの里には本当に助けられている。彼らの存在がなければ、王国軍に対して有効な作戦を展開することも出来ず、大きな損害を受けていただろう。僕は忍びの里との契約の条件を見直し、もう少し里に対する報酬を増やすつもりだ。

 僕はハトリの提案に頷き、休憩が終わった後、忍びの里に向けて出発した。忍びの里へは坑道から直接入ることは出来ず、秘密の抜け道を通って行く必要がある。その抜け道には僕と側近しか入れないというのが忍びの里との約束なのだ。

 僕はミヤとシラー、シェラを連れてハトリと共に忍びの里に向かった。抜け道はどこから入ってどのような経路で進んでいるのか、さっぱりわからないように出来ているようで、僕も覚えようと思ったがとても覚えられるものではなかった。きっと、不思議な術が使われているのだろう。抜け道を抜けると、長閑な農村といった風景が広がっていた。藁葺の屋根で、僕にとっては昔懐かしの光景だ。

 ミヤ達はしばらく坑道での薄暗い中にいたため、ひさしぶりの天然の光を浴びてとても気持ちよさそうにしている。ミヤとシェラは、その辺りで散歩してくると言って、勝手に行動を始めてしまった。ハトリも特に文句を言う様子はなかったから、問題はないのだろう。護衛はシラーがいれば十分だろう。ハトリについていくと見慣れた長老の家が見えてきた。周りの家に比べて、やや大きいのですぐに分かる。屋敷の前には長老が立って待っていた。横に若い女性もだ。見たことは……ある。えっ!? なぜ、オコトがここにいるんだ? 村の屋敷にいるはずなのに。

 「ロッシュ殿。ご足労、痛み入ります。外で話も出来ないでしょうから、中に入りましょう。ハトリは外で待っていなさい」

 珍しいな。ハトリはこの里の後継者と言われているのだ。つねに長老の側にいることが多いのに。ハトリも意外そうな顔をして、抗議していたが、長老は頑として意見を曲げなかった。ハトリはすでに公国の重要な話を知っている。そうであれば、どんな話でも聞いてもらったほうがいいだろう。

 「長老。そういわずに。ハトリはすでに僕の側近も同然。どうか、同席を許してもらえないだろうか」

 長老はしばらく考えていたが、僕の要請ということで無視は出来ないと諦めたのか、ハトリの同席を認めた。ハトリは僕にお礼を言ってきた。ハトリを遠ざけた長老の意図を無視しても良かったのか、今更ながら心配になってきた。僕達は屋敷の中に入り、長老とオコトに対面する形で僕とシラー、ハトリが座った。

 「長老。まずは話を始める前に感謝を伝えたい。里の者達の尽力は並々ならぬものだ。我が公国の受けた利益は計り知れないものだろう。その働きに報いるために報酬を追加で出したいと考えている。このような形しか思いつかない僕を許してほしい」

 「おお。なんと寛大なお言葉。大変痛み入ります。きっと、里の者も喜んでくれるでしょう。しかし、今回はそれを受け取ることは出来ないでしょう。我らはロッシュ殿に謝罪しなければならないことをしてしまったのです」

 長老は何を言っているのだ? これほど公国のために尽くしてくれている忍びの里が僕に謝罪することなどあるわけがない。とはいえ、まずは話を聞いたほうがいいだろう。だが、どうしても気になることがある。

 「オコト。どうして、ここにいるんだ? お前は屋敷の家政婦をしているはずだろ」

 オコトが話す前に、長老は話を遮った。どういうことだ?

 「この者はオコトではありません。ミコトといいます。見ての通り、オコトとは瓜二つ。オコトとミコトは二人で一人になるように育てられております。もちろん、双子の姉妹となります」

 オコトに双子がいたとは……それにしてもそっくりだ。二人で一人というのが意味がわからないが、あとで聞くことにしよう。まずは長老の話を聞かなければ。

 「ロッシュ殿に謝罪しなければならないのは、元連合貴族の家族についてなのです」

 長老はすっと、巻物を僕に差し出してきた。僕はその巻物を見ると、なんと海路図だったのだ。新村と三村の間の海の深さが記されており、岩礁などの存在の有無についても詳細が描かれている。ついに手に入れたのか。しかし、これと家族がどう関わってくるというのだ。

 「その巻物は、王都の侯爵家の屋敷にて発見することが出来ました。しかし、偶然にもその屋敷に幽閉されていた元連合貴族の家族も発見してしまったのです。本来であれば、任務外のことは無視するのが里の掟。余計なことを持ち込み、依頼人に迷惑をかけ、里へも影響を与えないがためのものです。しかし、こともあろうことか、ミコトは家族の衰弱した様子と懇願に心を揺さぶられ、脱出に手を貸してしまったのです」

 なるほど。そんなことがあったのか。偶然とは言え、それによって公国、いやロイド達は喜んでいるのだ。それでいいではないか。何が問題だというのだ。

 「ロッシュ殿にはわからないかも知れませんが、我らにとって掟は絶対なのです。それを揺らいでは、この小さな里など他の勢力に瞬く間に蹂躙されてしまうでしょう。ミコトの犯した里の掟は重大なものです。これを見過ごすことは許されないのです」

 また、掟か。ハトリのときも掟のために毒を飲ませる羽目になった。目の前のオコトにそっくりなミコトは神妙な表情をして、成り行きを見守っていた。
 
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