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第276話 城郭都市の拡張

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 シャート達を送り出して、僕はシェラと共に負傷兵の回復を順次行っていった。ミヤの眷属には、魔牛牧場に戻ることの許可を与えた。皆は帰り道の温泉街で一泊するのだと言って盛り上がりながら帰っていった。残ったのはミヤとシラーだけだ。二人にはまだ僕の護衛という仕事が残っている。といっても、襲撃される予兆は今のところないし、ハトリも陰ながら護衛に付いているので、ミヤ達の護衛というのは半ば、僕と共に行動する口実みたいになっている。

 負傷していた二千人は、すぐに回復した。皆は北部諸侯が消滅してしまったことに少なからずショックを受けていたが、身内が無事であることを知るとすぐに公国への帰属の意志を表明した。彼らはすぐにでも家族の元に行けるだろう。

 僕もここでやるべきことはほとんどやったつもりだ。住民の移動や物資の運搬などはロイドやナックルに任せておけば大丈夫だろう。グルドには引き続き、城郭都市建設を行ってもらうことにし、引き連れてきた五千人の兵とともに帰還していった。僕はガムドにも任務を与えた。

 「ガムドには、元北部諸侯連合領民の移住について全ての権限を与える。物流についてはサリルとよく相談して決めるがいい。ロイドとナックルには領民の直接的な指示を与えてもらう任務につかせるから、それをよく監督するように。僕は、彼らを受け入れられるように公国で準備をしておこう。移住先が決まり次第、移住を開始してくれればいい」

 ガムドは承知しました、と顔を伏せた。ガムドには、移住の司令としての役割を与えることにした。このような仕事はガムドが適任だろう。それに、ここには未だに万人近い兵が残っている。それらを統率するためにもガムドの存在は不可欠だ。ロイドとナックルはガムドの下についてもらうことになるが、二人から不平の声は出なかった。気がかりだったが、問題がなく安心した。

 僕は、ミヤとシェラ、シラーを連れて城郭都市建設現場に向かうことにした。ようやく、この地を離れることができる。まさか、このような事態になるとは村を離れる時に想像できなかった。なんとか、上手くまとめることが出来たが、これから先もこのような感じで回るとは思わないことだ。僕は気を引き締めて、公国領に足を向けた。

 僕が戻ってからは、城郭都市建設の再度見直しを行い、北部で最大の都市の建設へと変えることにした。城塞都市は二キロメートル四方を予定していたが、八キロメートル四方の都市を築くことにした。その中で、15万人が住むような街だ。はっきり言って、王国内の都市と比べても王都の次になるほどの人口を有する都市となることだろう。公国では群を抜いた人口となる。しかし、北部諸侯連合の人口は四十万人。それを受け入れれば、それほどの規模があと二つは出来ることになるだろう。

 それについては後々話すことにしよう。僕がさっそく外堀の拡張工事を行い、外壁の土を盛り上げている時に、ゴードンが村からやってきたのだ。ゴードンも移動するとなると、大勢の人を従えるようになった。本人は嫌がっていたが、そうも言っていられないな。

 「ロッシュ公。今回もとんでもないことをしましたな。村に使者がやってきて話を教えてもらいましたが、びっくりして尻を強く打ち付けてしまいましたぞ。北部諸侯についてもそうですが、王国との一戦は予想外でしたな。これほど早く、戦に発展するとは思ってもいませんでした。正直に言って、長期戦になっていれば公国は負けていたかも知れませんな」

 ゴードンの分析は正しい。実は王国軍との戦は紙一重だったのだ。数字上では、僕達の兵力がやや上まっており互角と言った状態であった。だから、戦はどのように転ぶかわからないという状況のように見える。しかし、実情は全く違っていたのだ。はっきり言えば、王国軍が圧倒的に有利だったのだ。王国軍は準備をしっかりとした上での侵攻だったのに対し、公国は寄せ集めの兵で、しかも物資も十分に揃えることが出来なかった。

 武器や物資はサノケッソの街にあるものをかき集め、何とか体裁を整えたが、後続の物資の見通しはなかったのだ。そのため、長期戦となれば先に疲弊するのは公国側ということになる。ましてや、連合は公国に参入したばかりである、住民も公国より王国のほうがマシと考えるものも出てくるかも知れない。そうなれば、領都から火が上がる可能性もあったのだ。

 そうなれば、我々に待っていたのは連合の領土を放棄し、公国に逃げ込むことしかなかった。王国の将軍が短期決戦で勝負仕掛けてきてくれたことが幸いした形だ。ゴードンは話だけでそのあたりをすぐに理解できるのは凄いことだ。

 「ゴードンはしばらくはこっちにいるつもりか?」

 「そうですな。物資の運搬については物流担当のリックに一任してありますし、南方の移住者も落ち着きが出始めています。私としてはこちらに力を注ぎたいと考えております。なにせ、四十万もの人ですからな。すぐに落ち着くことは難しいでしょう。それで、ロッシュ公は城郭都市を建設しているとか。そもそも城郭都市とはなんですか?」

 僕はゴードンに城郭都市のことを説明し、ここで巨大な都市を建設することを説明した。さすがにいままでにない大きさの話だったため、ゴードンと言えどもなかなか話が飲み込めなかったようだ。それでも、僕がすでに着工している壁などを観察していくと徐々に理解が出来てきたのか、色々と質問が出てきた。

 基本的に、公国において人口密集地帯を作る意味合いは薄い。なぜなら、主要な産業が農業だからである。農業は農地を農民が耕すことで維持管理される。しかし、人口密集地帯の場合、農地が遠くなるという欠点が出てきてしまう。一番の理想は家の周りに畑があることだからで、密集地帯ではそれが叶わない。

 そのため、人口密集地帯では農業の効率は落ちる傾向にある。それでも、人口を集約するのには意味がある。防衛に適しているためだ。村という形で各地に拡散しているよりも街という形で人を集約したほうが、防衛する面積が限定される。そのため、公国民を守りやすい。特に、城郭都市は王国との境界線に建設されている。

 防衛という観点から、人口密集地帯を作る意味が出てくる。もちろん、それだけではない。人口が密集していれば消費が拡大する傾向がある。そのため、農業以外の産業が振興されやすくなる。今は、物を配給するという形を取っているため、それほどまでの効果というものは出ないかも知れない。僕は、公国が大きくなったことから貨幣を導入することを検討している。そのための布石として大人口の街を作る必要性があるのだ。

 「ゴードン。この城郭都市には15万人を入れる予定だ。都市の外壁の内外に畑を作り、その近辺に農家を配置していくことになるだろう。国境に近い場所に砦の機能を有した場所を設置し、その周囲に兵の宿舎を建てる。商業施設なども作る必要があるだろう。また、街の中での物流は水路を使ったものを考えている。大容量の搬送が可能となるだろう」

 「それは大きな話ですな。なにやらワクワクしてくる気分ですわい。しかし、城塞都市ばかりにはかまっていられませんな。未だ大人数の者たちが移住を待っておられるのでしょう。その者たちはどこに移住させる予定なのでしょう」

 これが悩ましいところなのだが、まずは南方の砦近くの街にも巨大な街を築こうと思っている。北方と同じだけの規模を作れば、南北の物流は一気に増大し良い循環が生まれてくれるだろう。そして、最後に新たに街を作るつもりだ。船着き場の機能を有する三村より東にある広大な平地にその街を築く予定だ。ルドがかつて、王国が東に王都を築くならこの場所と決めていたと言われる場所だ。

 広大な平地。北方は山があり、東西は街道が貫いている。南方は海が広がり、海運も展開できる立地となる。そのような場所に、新たに街を作るのだ。最初は15万人ほどになる。複数の街を築き、それらを道で結ぶようにつくるつもりだ。

 「ロッシュ公。話は尽きないようですが、そのためにも城郭都市の建設を急がねばなりませんな。さらに木材が必要となるでしょう。サノケッソの街の者をできる限り動員して木材の調達を急がせましょう。南方の砦近くの街についても、今から木材の調達を始めたほうがいいでしょう。村と二村にお願いをしておきましょう」

 将来の話はこれくらいにして、作業に戻らなければ。僕は続きの壁を土魔法で素早く作ることにした。最初に作った壁が内壁だとしたら、外壁は鉄板も入っていない土だけで作ったものだ。決して脆いわけではないが、数年で風化を始めてしまうだろう。だから、徐々にしっかりとした壁に入れ替えていくことになるだろう。

 壁が出来上がり、移住が開始されたのはそれからすぐのことだ。
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