爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。

秋田ノ介

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第268話 反撃

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 僕達は侯爵家領都をなんとか脱することが出来たが、油断をすることは出来ない。体制を立て直した侯爵の兵たちが僕達に迫ってきているのだ。侯爵は僕達を逃がす気はないみたいだ。サノケッソの街までは30キロメートルほどある。地理に不案内である僕達が安全に逃げるのは難しいかも知れない。

 僕達はサノケッソの街への街道を見つけ、方角を見定めた上、なるべく急いだ。すると、前方に見知った者たちがその場で待機していた。ガムドたちだ。その周囲にはあとで現れた見慣れない旗を付けた集団がガムド達と共にいた。僕は警戒しながら、その集団に近寄っていった。すると、向こうも僕達を発見したのか、すぐに駆け寄ってきた。

 真っ先にハトリがロンロに跨ってやってきた。ハヤブサも一緒だ。ハヤブサとロンロは都市建設現場に魔獣ゆえに連れて行くことを止めていたのだ。無用な混乱が起こる可能性が捨てきれなかったためだ。しかし、野生の勘と言うべきものなのか、僕達の危機を肌で感じたようでこちらに二匹で急行したようだ。ハトリも僕の体を観察してホッとしている様子だった。

 「ロッシュ殿。お怪我もなく安心しました。別れ離れになった時は不安でしたが、ミヤ殿がいればと思ってガムド殿達の護衛に徹しておりました。それから逃げる途中で、目にも止まらない速度で駆けつける集団を見て、驚きましたが、その中にシラー殿がいましたので、私は安堵したものです」

 まさか、ハトリがこれほど僕を心配してくれているとは思ってもいなかった。思わず、胸が熱くなってしまった。

 「ハトリもよくやってくれた。ガムド達は公国でも重要な人物たちだ。その者たちを救ったということは公国を救ったものだ。この礼はいずれな。未だ、僕達の危機は去っていない。まずはそれを乗り越えてからだ」

 僕はずっと疑問だったことをハトリに聞いた。あの見慣れない旗を担いでいる集団は?

 「申し遅れました。あれは……」

 ハトリが説明しようとすると、その集団から騎乗した一人の男が近寄ってきた。フルフェイスの兜をかぶっていたため、誰かは分からなかったがその途中で兜を取って、やっと分かった。ロドリ子爵だったのだ。

 「イルス公。到着が遅れ申し訳ありませんでした」

 ロドリ子爵は、会食が終わった後、侯爵に呼び出され、一つの質問をされたようだ。王国に忠誠は誓えるか? と。ロドリ子爵は自分の家族を殺された恨みがあったため、出来ないと答えると屋敷を追い出されたようだ。その時は不審に感じたが、それ以上調べることは出来なかったので、僕を領都で待つことにしたらしい。その間に領都内に変な動きがあることに気付き、それが僕を危害するものであるとは分からなかったが、僕を無事に領都から脱出させることが自分の責務と感じたらしく、すぐに自領に戻り、兵を集め、領都に向かったというのだ。

 ロドリ子爵は、領都で住民の暴動を予想していたらしいのだ。今までもその兆候があり、その都度、領都から兵が出て鎮圧をしていた。今回は僕が来ているので、それに合わせた暴動だと思っていたらしい。しかし、現実は僕を亡き者にするために侯爵領の兵が動いていることを知った。

 ロドリ子爵は悩んだが、ここに僕達を連れてきたのは自分であることに責任を感じ、侯爵に反抗してでも僕達を救出しようと動いたみたいだ。しかし、救い出せたのはガムドたちだけで僕を救い出せなかったことを悔やんでいたみたいだ。

 それが最初の一言にすべてが詰まっていたようだ。

 「ロドリ子爵。救助については礼を言おう。本当に助かった。しかし、未だ、君は北部諸侯連合の一貴族だ。僕はその連合の侯爵に殺されそうになった。つまり、君とは敵対関係にある。ここでは君とは争いたくない。この場は引いてもらえないだろうか。我々は、追ってきている兵をこれから討つ」

 「ならば、我々も協力しましょう。相手は五千ほど。とてもイルス公の手勢では持て余すでしょう」

 「その言葉だけ受け取っておこう。しかし、我々にはロドリ子爵の兵と侯爵の兵の見分けがつかない。無用な損害を与えたくない。それとロドリ子爵には申し訳ないが、連合との食料支援の話は白紙に戻させてもらう。それにこれから来るであろう王国軍への対応も独自にやってもらいたい。こちらもその余裕はないからな」

 僕はロドリ子爵と別れを告げ、僕達はサノケッソの街に向け街道を進んでいった。それからロドリ子爵がどのように行動したかは知らないが、彼は何かを思ったのか僕達と別れてすぐに行動したように見えた。僕達はなんとか公国と連合の境界線である川が見えるところまで見えてきた。まだ、侯爵の兵は執拗に僕達を追ってきている。

 僕はグルドに先に戻り、兵を集めてここに来るように命じた。そして、僕達は追ってくる兵に対峙するように立ち止まった。僕はミヤの方を向き、頷いた。

 「やっとね。私達に危害を加えたことを後悔させてやるわ。五千人と言っても所詮は人間。我ら吸血鬼の力を思い知らせてやるわ。といっても、私が出る必要もないわね。シラー」

 そういうと、シラーがミヤの前に跪く。ミヤの威厳が高まっていく。これが魔王の娘の威厳というものか。僕も身に着けたいものだ。シラーも雰囲気に飲まれているのか、ミヤのこと姫って呼んでいるし。とりあえず、二人の会話を聞いておこう。すでに命令は出しているから、ミヤに全てを任せるつもりだ。

 「シラーと数名を連れて相手の後方に向かいなさい。いい? 倒すのは簡単だけど、今回大切なことは逃げさせないことよ。徹底的に叩き潰しなさい。殺しても構わないけど、あとでロッシュが使えるようにできるだけ怪我だけで済ませなさい」

 「姫、かしこまりました。あとの細かいところは我々の独断で構いませんか?」

 「ふふっ。いいわよ。普段の練習の成果を見せてみなさい」

 一体、何の話をしているのだ? これから戦いに出向くというのに。これが魔族なのだろう。ミヤはシラーに静かに指示を出すと、シラーは一礼をしてその場をすぐに離れた。今回、連れてきた吸血鬼はミヤの眷属の全員だ。久々に見た全員が一列に並んでいた。なんとも圧巻だな。魔族の特徴である尻尾を除けば、至って普通の女性たちなのだ。それが五千人の屈強な男たちに挑むのだから。

 知らない人が見れば、無謀にもほどがあるだろう。しかし、僕は些かの不安もなかった。むしろ、五千人の兵たちが不憫でならない。ついに戦が始まった。しかし、これを戦と言っていいのだろうか。あまりのも一方的で弱い者いじめのような見方すらできる。

 シラー達吸血鬼は、五千人の集団に突っ込み、当たる敵全てが一撃の元、戦闘不能になっていった。そんな状況でも果敢に挑むもの、逃げ出すもの様々だったが、そのどれもが討ち取られていく。残った最後の一人にも苦戦することなく、戦闘不能にしていく。

 ここにいる五千人は北部諸侯連合の中でも精鋭と聞いている。その精鋭が、三十人にも満たない吸血鬼に瞬く間にやられてしまったのだ。横にいたガムドは信じられないものでも見るかのように、数歩前に足を踏み出して、目を見開いていた。小さな声で、信じられない……、というのが聞こえてきた。僕も未だに信じられない思いだよ。

 戦闘不能になった者たちは、どれも気絶しているようでピクリとも動かなかった。僕達は、戦場となった場所に近づき、確認したが死んでいるものはいなかった。シラーは、僕の側に近寄ってきて、いかがでしたか? と聞いてきた。

 一瞬なんのことか分からなかったが、おそらく戦場での活躍の事を言っているのだろう。

 「素晴らしい働きだった。僕は満足しているぞ。あとでしっかりとお礼をするからな」

 シラーは喜色を浮かべ、僕にお礼を言って仲間たちのところに戻っていった。側にいたミヤが僕に寄ってきて囁いてきた。

 「シラー達は隠れて、連携の訓練をしていたのよ。今日の戦いでそれをやったから褒めてほしかったんでしょう。でも、ロッシュ、気づいてなかったでしょ?」

 そうだったのか。全然気付かなかった。一人一人の動きが美しいので、それにばかり目がいってしまっていた。今回は分からなかったが、次からは観察したいものだ。しかし、吸血鬼は最強のような存在なのに、更に強くなろうとしているのか。恐ろしいな。

 僕達は倒れている敵たちの意識がないことを確認していると、グルド達が兵を五千人ほど引き連れてやってきた。急な招集だったのに、よくぞこれほど集められたな。

 「グルド。よくこれほど集めてくれたな。僕はこれから北部諸侯連合を攻める。今なら、精鋭五千人を欠いていることで混乱しているだろう。僕は侯爵と伯爵には報いを受けてもらわねば気がすまない。済まないが、付き合ってくれるか」

 「何を言っているんだ。腹に据えかねているのはオレも一緒だ。それに、王国と内通している侯爵を討てるなんて嬉しいな。ここからはオレの指揮でやらせてもらっても構わないか? それと、吸血鬼は貸してもらえるのか?」

 グルドに任せておけば大丈夫だろう。しかし、ミヤたちを貸すことは難しいな。いろいろな局面に対応できるように手元においておきたいというのもあるが、そもそもミヤ達はグルドの指示には従わないだろう。僕が、吸血鬼については諦めるように伝えると、すこし落ち込んだが、すぐに気を取り戻して、兵たちに指示を与えていた。

 気絶している兵たちには手足を縛り付け、その場に放置することにした。救援に来られても困るからな。戦いが終わるまではその場にいてもらうことにした。

 僕達は、北部諸侯連合の本部、侯爵家領を攻めることにした。相手の兵力は僕達より断然上だ。しかし、僕には勝てる自信があった。僕達は、侯爵家領の領都が見えるところまでやってきた。領都からは……空を焦がすほどの火の手が上がっていた。
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