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第256話 始祖エルフの話

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 僕はエルフの里に来て、用件を済ませたので用意してくれた食事を楽しんでいた。もちろん、ミヤとシラーは久しぶりに食べる魔界の料理に喜んでおり、最近、村の屋敷でも魔の森産の魔獣の肉が出るようになったが、やはり料理の奥行きが違うため、こちらのほうが美味しいと思う。

 酒が入ったせいで、僕の口は軽くなり、ミヤと行きの時に話していたエルフの貧乳の話をしてしまった。その瞬間、周りにいるエルフたちは若干苛立ちを出す場面もあったが、表だって言うものはいなかった。僕は言ってしまった瞬間に言ってはマズイことに気づき、謝罪したがリリはさほど気にする様子はなかった。ミヤは爆笑してたけど。

 「ミヤ嬢から聞いたのじゃな? たしかに、魔界ではエルフは貧乳であると、噂になっているのは知っておる。しかし、その話は全く違っておる」

 それはそうだよな。あんな嘘臭い話、僕も鵜呑みにはしてなかったが、ちょっと話が面白かったので話をしたまでだ。まぁ、話したことは後悔しているけど。僕が違う話をしようとしたが、リリは先程の話の続きをし始めた。

 「エルフが貧乳になったのは始祖のせいで間違いないぞ。まぁ、ミヤ嬢のように大きくはないが妾もなかなかものじゃろ? 我が君はよく知っておると思うが」

 リリが自分の胸を強調するかのように突き出してきて、僕の方に見せびらかせてくる。なんという恥ずかしいことをしているんだと思ったが、リリが楽しそうにしているから気にしないようにしよう。それよりも話が少し面白くなったな。始祖が貧乳の原因だったというは間違いないのだな。

 「さっき、言ったがミヤ嬢の話は間違っている。その大きな間違いは、始祖は男だということじゃ。数千年に一度、女しか生まれないエルフの中で突然変異のように男が生まれることがある。始祖が生まれると、必ずエルフ族は繁栄を遂げるのじゃ。始祖はエルフや人間と子をなし、ハイエルフやエルフを多数産むことになる。そのため、エルフは大きな繁栄をすることが出来るのじゃ。その者は美しい姿かたちをし、知識は他のエルフとは比べ物にならぬほど高い。そして、なによりも貧乳好きなのじゃ」

 まさか、始祖が貧乳好きが原因だったとは。リリは、もっとも直近の始祖が貧乳好きだっただけかもしれんから、次の代の始祖は違うかもしれん、とも言っていた。これが始祖が生まれると貧乳から脱することが出来ると信じられる所以か。なるほど、話を聞いてみると面白いものだな。ということは、リリもその始祖の子供ということか。その始祖はどこにいるんだろうか? 今でも、子供を生み続けているということなのか。

 「いや、始祖はエルフでありながら長命ではないのだ。人間より長く生きるが、その程度だ。私が子供の頃には、始祖は亡くなっておったよ」

 そういうものか。やはり突然変異だけあって、寿命が短いのかも知れないな。始祖は、エルフの繁栄をもたらす者か。そういう者は、一族の使命のために自らの命をも犠牲にしているのだろうな。儚い命を一族のために尽くす。なんとなく、格好いい響きだな。

 「そんな格好いいものではないと思うぞ。始祖は見てくれがいいことに方々に女を作って、そこらへんにエルフの里を形成していくだけじゃからな。見ようによっては、ただの遊び人ぐらいにしか見えんと思うぞ。きっと、始祖が生まれると皆が甘やかすから、調子に乗ってしまうんじゃろ」

 そういうものか。まぁ、数千年に一度出会えるものだ。僕が存命中に会うことはきっとないだろう。とりあえず、夢物語くらいに話を覚えておいてもいいかもしれないな。そういえば、始祖とハイエルフ、エルフの違いってなんなのだろう?

 「それはなかなか難しい質問じゃない。見た目は、見ての通り、エルフは金色の髪で妾は銀色だ。しかし、ハイエルフの特徴かと言われると怪しいな。他のハイエルフには金色の髪のものもいたからの。妾は自然と自分がハイエルフであることを悟ることが出来たからの。強いて言うなら、成長速度が遅いことかの。まぁ、銀色の髪が生まれたならばハイエルフで間違いはなかろう」

 それから、ハイエルフはエルフに比べ長命で、なおかつ知能が優れている。弓を持たせても他のエルフを圧倒し、家具を作らせれば格の違いが素人目でも簡単に分かるほど差が出る。さらに、僕に小声で魔石も作ることができると言っていた。なるほど、始祖が現れて、そんな優秀なハイエルフが増えればエルフの繁栄が約束されるのもう頷けるな。

 始祖の特徴は言うまでもなく、男子のエルフだということらしい。何千何万という年月の中、その例外は一人もおらず、始祖は男子のみだというのだ。姿形はエルフそのもので、金色の髪と緑色の瞳を持つらしい。

 今回、リリから面白い話を聞くことが出来たな。以前から気になっていた種族間の差を知ることが出来た。ちなみに、始祖が生まれるのはハイエルフからのみだと言う。ただ、どういう条件で生まれるかは誰も知らないようだ。もっともそれが分かっていれば、エルフの里には始祖が溢れかえっていることだろう。

 僕達は食事を終わらせると、里を離れるためリリの屋敷を出ることにした。最後にリリにぼそっと言われた。

 「我が君よ。魔石として取り出すのに我が君の場合、一月はかかると思った方がよい。それと、リードのことをよろしく頼むぞ。あの者は唯一、人間と共に暮らし子を為すだろう。その子供がどのように成長するかは我が君にかかっておる。もしかしたら、再び、エルフが人間と共に暮らす日が来るやも知れぬからな」

 どういうことだ? エルフが人間と暮らしていた? 魔界の住民であるはずのエルフが。続きを聞こうと思ったが、リリはそれ以上話すことはないかのように僕達を見送った。とりあえず、今すぐに何かあるわけでもないだろう。それよりもゴムの木の苗だ。リリは、すでに苗が用意されているから受け取って帰るように、と言っていたな。

 案内役のエルフは僕達を里外れまで誘導していった。そこには、見たことのない木が乱立しており、エルフたちが木の樹皮を剥がし、何かを採取していた。僕はその作業をずっと見つめていたが、それがどうやらゴムのようだ。ということは、この乱立している木はすべてゴムの木ということか。これほどの本数の木がありながら十分な量を採れないのか。

 僕達が案内された場所で、しっかりとした苗が何本も置かれていた。これがリリが僕達に用意してくれたゴムノキの苗のようだ。未だ、若木と言った感じで、収穫するのにあと数年はかかってしまうだろうな。それでも、ゴムが手に入るのは有り難いことだ。受け取った苗を手で運ぶことは出来ないので、鞄の中に丁寧にしまうことにした。僕は案内してくれたエルフに礼を言って、里を離れることにした。

 里から帰る道中、再びミヤが話を始めた。

 「なかなか面白い話が聞けたわね。エルフの話って意外と聞けないものなのよ。人見知りが激しい種族だからね。そういえば、この前魔の森に作った私の別荘で使われた家具なんだけど、当然エルフの家具だって知っているわよね? 私、結構無理してもらったからリリがこれで帳消しね、って言ってたわよ。言うの忘れてたの。ごめんなさいね」

 ん? どういうことだ? 帳消しって……まさか、僕がリリに貸してた恩を使い切ってしまったというのか。僕はエルフの里に何人の人間を送り込んで……といっても犯罪者で公国にとって痛くも痒くもない者たちか。しかしなぁ、どこかで使おうと思っていたのだが、たしかに城にあった調度品はどれもが素晴らしかったからな。まぁ、いいか。もともとエルフの家具は敷居が高すぎて、一般には開放できないものだ。精々、僕の屋敷で使うくらいしか使いみちがなかったのは事実だからな。

 「今度、城の家具について教えてくれればいいぞ。リリにはまた貸しを作ればいいだけの話だ。その時はしっかりとミヤにも協力してもらうからな。それくらいは代償として払ってもいいと思うぞ」

 「その時が来れば、協力するわよ。まさか、リリも私にあれほど協力的に家具を提供してくれるとは思ってもいなかったから、調子に乗ってしまったところもあったわ。でも、子作りが終わってからね。あの城は子作りのためのものだもの。無意味だったら、私は協力しないわ」

 ミヤの訳のわからない理屈を言われてしまった。ただ、ミヤが子作りという言葉を行った時、すごく恥ずかしそうにしている姿を見て、我慢できなくなってしまった。僕はミヤを魔の森の城に連れ込み、夕飯に間に合う時間まで楽しい時間を過ぎした。当然、シラーも途中参戦だ。屋敷まで仲良く三人で帰ったのは言うまでもない。
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