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第239話 魔の森の城

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 僕達の目の前には、場違いな城が建てられていた。僕の屋敷の数倍はあるであろう。皆も呆然とした様子でこの城を眺めていた。この中で、動じていないのはマグ姉くらいだろうか。もっとも、この場所にあることに対してはびっくりしていたけど。ミヤは僕に期待した目を向けている。これをどう評価したものだろうか。

 「これは凄い建物だな。よくぞ、この短期間で作り上げたものだ。しかし、この辺りでは見ないような建物に感じるけど」

 そういうと、ミヤはハニカミながら嬉しそうに頷いた。

 「そうなのよ。実は、私が魔界に住んでいた時の居城をイメージして作ったのよ。しかも、ドワーフに頼んだからすぐに出来ちゃったのよ。とりあえず、中には入りましょ」

 なんか色々と驚きすぎてついていけない。しかも、ドワーフだって!? 彼らがよく建物作りに協力したものだな。といっても、ミヤ達は酒造蔵を握っているのだから理由を考えたら簡単か。僕達は城に圧倒されながらも、中に入ることにした。まずは扉……といちいち感想が言っていては切りがない。とにかく、細部まで細かな細工が施されており、申し分のない作りだ。

 しかも、置かれている家具はもしかして、エルフの家具か。この建物に魔界でも一級品を製造するエルフとドワーフを使うなんて、きっとこれほどの贅沢はないんだろうな。ミヤは広めの部屋として会議室に僕達を通した。なるほど、大きなテーブルが置かれ十分な広さを持っている。これなら僕達の人数でもかなりの余裕を残して話し合いが出来るというものだ。しかし、部屋にはテーブルしか無く、物寂しさは拭えないな。

 僕達が座ると、まず出てきたのはトマトジュースだった。真っ先に喜んだのはシラーだけだった。それはそうだろう。この世界ではトマトをジュースにして飲むという習慣はない。知らなければ、かなり怪しいものにしか見えないだろう。しかも、吸血鬼が持ってきてるなら尚更だ。僕はトマトジュースのことを説明し、最後に美容にも効果があるかも、というと女性陣の目つきが変わった。皆上品に飲みながらも、すぐにおかわりを要求する辺りは欲望に忠実なんだと思ってしまう。

 さて、話し合いをするまでに随分と時間がかかってしまったな。といっても、初めて顔を合わせるものも多い。まずは自己紹介からしてもらうことにしよう。ガムドのことは皆も知っているが、なぜか、一番手を買って出て自己紹介が始まった。しかし、半分は僕の話になってしまったので、途中で区切らせてもらった。

 トニア、ティアと順番に自己紹介していった。しかし、ティアが開口一番に僕の婚約者と言ったから驚いたが、どうやら驚いたの僕だけだった。マグ姉は知っていたので分かるが、ミヤは、というとこの城に入ってから上の空なのだ。何か考え事をしているみたいで、周りの話はあまり入ってきてないようだ。まぁ、放って置いてもいいか。

 ハトリが自己紹介した時、里の噂は耳にしたことがあるのだろうか、マグ姉が興味を示した。マグ姉はハトリに色々と質問をしていったが、過去の王国との仕事に関することだから、ハトリは一切口を閉ざしていた。そんな態度にもマグ姉は一々感心して、僕に興奮をぶつけてきた。

 「ロッシュ。すごい人達を味方に付けたわね。彼らの働きは王国では隠されていたけど、その功績はおそらく誰よりも高いはずよ。これから王国が彼らに蹂躙されると思うと不憫でならないわね」

 いや、蹂躙なんかさせるつもり無いんだけど。一体、王国は忍びの里の者たちをどういう使い方をしていたんだ? 僕は当面は情報収集だけをさせるつもりなんだけど。彼らの使い方としては間違っているのか? ハトリに聞いても答えてくれなそうだな。試しに聞いてみたけど、ダメだった。

 次にクイチが続き、最後にオコトが自己紹介をした。その際に、ロッシュ様の身の回りの世話をさせてもらいます、という言葉でミヤも現実に戻ってきて、僕に文句を行ってくる始末だった。オコトには、家の家事全般をしてもらうつもりで、決して僕の身の回りをさせるつもりは……僕が何度行っても、ミヤとマグ姉は信用してくれないのだ。その理由はオコトが醸し出す妖艶な雰囲気がそうさせるのだろうか。

 ミヤとマグ姉はとりあえず引き下がり、オコトの家事の腕を見てから判断するということになった。信じてもらえなかったのは残念だけど、正直、オコトの家事には興味がある。なんというか、忍びの里で出された料理は、日本で食べていたものに少し似ていた気がしたのだ。もしかしたら、オコトの作る料理は日本食に近いものがあるのかも知れないのだ。

 それから、皆のこれからの居住場所についての話になった。ガムド夫婦には村で屋敷を提供することで決まっていたので、居住はそこで行ってもらうことになる。当然、ティアも一緒だ。ハトリたちが問題だった。僕としてはオコトに家事をやってもらう以上は住み込みを考えていたのだが、マグ姉とミヤの反対があり、結局、屋敷近くに家を構えて、そこに住んでもらうことになったのだ。ミヤとマグ姉がやたらとオコトを警戒しているようだった。

 次は仕事だ。公国では基本的には働かなくてはならない。以前は、皆が働かなくては食べていけない状況だったので致し方ないところがあるのだが、今は人口も増え、全員が、というわけではないのだが以前の名残で皆が働くことになっている。

 ティアには学校設立の手伝いをお願いしているので、その母親であるトニアにはサポートをお願いすることにした。ガムドは基本的には村にいることは少ないだろうから、娘の手伝いのほうがいいと判断したのだ。ハトリには、忍びの里との連絡を任せることにしてある。といっても、人質という建前があるからハトリが村の外に出ることはあまりないだろうから、実際は自由行動ということだ。後は本人の希望を聞きながらということになるな。クイチについても同様となる。だから、僕はクイチに、好きなことをしていて構わないぞ、というとお菓子作りを勉強したいですと言ってきた。

 お菓子作りだったらエリスが適任だろうな。あとは食堂のラーナさんってことになるか。とりあえず、二人に聞いてみないことには分からないな。僕がそういうと、マグ姉が間に入ってクイチに話しかけた。

 「クイチちゃん。どうかしら? 私のところに来て薬の勉強をしてみないかしら。お菓子作りもいいと思うけど、色々と役に立つことがあるわよ」

 クイチは少し考えて、マグ姉の誘いに小さく頷いた。とりあえずはクイチの仕事が出来たな。あとは、暇な時にお菓子作りを勉強すればいいだろう。残るはオコトだ。先程、実力を見てから判断となっているので特に話す事はなかった。

 なんだろ? 話し合いってこんなものか? そういえば、ガムド達の宿が用意できていないぞ。建物だってすぐには出来ないだろうから、空いている家があるといいけど。僕が悩んでいると、ミヤがこの城になら客間がたくさんあるから住んでも大丈夫よ、と言ってくれた。僕としては有難かったけど、ここは魔の森だ。いい気分ではないだろうが……と思ったらそうでもなかったみたい。最初は城に度肝を抜かれたが、住みやすそうと評判がいいのだ。結局、この城で寝泊まりをすることになった。

 外出する時はフェンリルの護衛をつけよう。そういうと女性陣が出掛ける支度を始めたので、流石に止めたけど。撫でるだけなら、フェンリルを城の中に入れてもいいから。

 さて、僕達は屋敷に帰ろうか。と思ったらマグ姉ははハトリ達に興味が尽きないのか、未だ諦めずに質問攻めをしていた。仕方がない、僕は城の中をブラブラとすることにした。この城の作りは本当に興味深い。この城はかなりの広さを持っているはずだ。しかし、どの部屋に向かおうとも、距離が近く感じるのだ。それが不思議でつい歩き回ってしまった。結局、謎は分からなかったが、これがドワーフの技術なのだろうな。

 すると、ミヤが僕を見つけ、呼んできた。どうやら、僕に見せたいものがあると言うので付いていくと、一つの部屋の前に辿り着いた。この部屋だけは入り組んだ場所にあり、迷う自信があった。部屋に入ると大きなベッドが中央に置かれていた。ああ、なるほどね。僕はふと、この城が作られた目的を思い出したのだ。そう、ここは魔族が身ごもりやすくするための場所なのだ。

 そうなると、ここに来た目的は決まっているが、マグ姉を待たせるわけには行かないだろう。僕はミヤの誘惑に打ち勝ち、部屋を出ようとすると、ミヤが衣装替えをしていたのだ。メイド服だと!? しかも、かなりのミニスカート。これはエリスが最初に着ていた服ではないか。これをミヤが着ているなんて。

 僕は誘惑に負けてしまった。あとでマグ姉にミヤと共に怒られたが、悔いはないぞ。
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