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第230話 視察の旅 その34 森を突き抜けて道を作る

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 僕達は、サノケッソの街を出発し、ゆっくりと東に進んでいった。森の縁に沿って進むように移動していく。この辺りは森から材木を運ぶために使われている道があるため、特に難もなく進むことが出来るのだ。道幅も広く、馬車が二台並んでも余裕がある程度だ。左手には森、右手には高くそびえる崖がある。そこを歩くこと、二日。とうとう、この林道の終着地点が見えてきたのだった。先導していたガムドが僕達のところにやってきた。

 「ロッシュ公。そろそろ林道の終わりに差し掛かります。ここからは、ロッシュ公が言われたように道を拓きながらの行軍となります」

 僕は頷き、荷馬車にいるシラーを呼び出た。ここからは二人の土魔法で道を切り開いていく。二人にとって慣れた作業と言えばそうだが、今回はこの先がどうなっている分からないで進むはじめての経験だ。なんとか、斥候を繰り出し、周りの状況を見ながら慎重に突き進まなければならない。ガムドに斥候の手配を頼み、拠点の設置を急がせた。

 道を切り開きながらの移動は、あまり効率的とは言えない。皆の体力を無駄に消耗するだけでなく、気力まで失い兼ねないのだ。拠点を構え、一日に進む距離をある程度決めておいた方がよい。それに不測の事態にも対処しやすいからな。まぁ、ないに越したことはないのだが。

 まずは、拠点を作るための用地を確保しなければ。この周囲には森と崖しかないからな。僕は、森の方に向かって風魔法を使い、周囲の木材を切り倒すことから始めた。シラーは、僕が風魔法を使い始めたのが不思議だったみたいだ。たしかに、用地を作るだけなら土魔法で済むだろうが……木材が勿体無いから。ここで伐り倒した木材はサノケッソの街で使うことが出来るだろう。とりあえず、伐り倒した木材を周囲に積んでおいてから、土魔法で均す作業をしていく。

 僕が土魔法で均す作業をしている時に、ガムドに頼み、斥候を出してもらい障害物の有無などの確認してもらっていた。ふと、崖の中を突き進むのも悪くないかもと思ったが、シラーが首を横に振っていた。

 「それはオススメできないですね。この辺りの地層は非常に脆いので坑道を開ければ、多分、そこから崩れ始めると思いますよ。今は、崖に沿って道を切り開くのが無難だと思います。ただ、坑道を作るという選択肢は悪くないと思うので、大丈夫そうな地層になったらお教えします」

 そういうものなのか。シラーがいなければ、僕は多分掘っていただろう。坑道内で閉じ込められることを想像すると寒気がしてくるな。斥候の帰りを待つ間も、少しでも進むためにシラーと力を合わせて、森を突き進んでいった。数キロメートル進んだところで、斥候が戻ってきた。

 斥候はガムドに紙を手渡し、ガムドはその紙を見ながら思案している様子だった。少しの時間見てから、僕に手渡してきた。その紙の内容はこの周辺の地図のようだ。周囲10キロメートルほどのある障害物や地形などが細かく記載されていた。僕が見ただけではよく分からなかったが、それでもこの地図の凄さはよく分かる。これだけの短時間でこれほどの情報を集めてくるとは。

 さすがはガムドの部下だな。この調子なら、道づくりに迷わずに突き進むことが出来るだろう。とはいえ、まずはガムドから地図の分析を聞かなければならないな。

 「斥候の報告では、この先には特に障害物らしいものはないようですので、このまま森と崖の境界線を切り開いていくのが良いと思います。それと斥候は一日十キロメートル程度の探索が限界になってくると思います。切り開ける距離もそれが限界かと思われます」

 なるほど。僕としてもそれに異論はない。そうなると、十キロメートル程度ならシラーと二人でやれば半日でこなせる距離だ。拠点の設置は夕方に行えばいいだろうな。

 そんな感じで僕達一行は道なき道を切り開きながら、徐々に村へと近付いていった。数日が経過した時、斥候からこの先に大きな湖があるという報告が入ってきた。大きなという表現は少しわかりづらいな。人によって想像する大きさがかなり違ってくるだろう。僕が斥候に行ったものに聞くと、恐縮した様子で、見渡す限りの広さとしか言い様がないです、と答えた。

 見渡す限りか。それは楽しみだ。考えてみれば、この世界に来てから湖というものを見たことがなかったな。こんなところで初めての湖を経験するとは思ってもいなかった。ただ、湖の方角はやや北に進まなければならないため、遠回りになるというのである。それは悩ましいな。見渡す限りの湖には興味があるが。

 すると、シェラが急に間に入ってきた。

 「湖ですって!? すぐに行きましょ!!」

 僕が理由を聞くと、水浴びがしたいからだそうだ。うん。シェラらしいな。残念ながら、却下だ。僕がシェラにそう告げると、思わぬ増援がやってきた。今回旅に同行している女性陣全員が湖での水浴びをしたいと言い出してきたのだ。僕が迷っていると、シラーが一人でも湖の道を作ってみせます!! と大張り切りしていたので、諦めて許可を出すことにした。

 僕達は森と崖の境界線から初めて抜け出すことになった。斥候の報告にあった湖を目指し、北へと進路を変えた。数キロメートルほど進むと、そこには見渡す限りという表現がそのままの湖が目の前いっぱいに広がっていた。水は透き通っており、百メートルも進めば水深が一気に深くなっている様に見える。湖の水が海水であれば海と勘違いしていたであろう。

 湖に到着すると、女性陣達は走り出し、早速水浴びの準備をし出した。まさか、ここで裸になるの? 皆に見られてしまうではないか、と危惧したが、シラーが土魔法で壁を作り見えないようにしたのだ。シラー、よくやった。

 男たちはそこで野営の準備をし、僕とガムドと数人の自警団で湖の探索に向かった。僕達がいたのはちょうど砂浜と岩礁地帯の中間くらいだったため、岩礁地帯の方に向かった。入り組んだ岩礁のおかげで、水の生物が発見できやすのだ。そこには貝やエビが大量にいたのだ。どれが食べれるのか分からなかったが、手当り次第捕まえることにした。後は魚が欲しいところだな。

 近くに魚影が見えるので間違い無くいるのは分かっているのだが、取る方法が……僕は鞄からあるものを取り出した。それに火を点け、水の中に。たちまち、周囲に水しぶきが上がり、大量の魚がプカプカと浮かび上がってきた。僕が何気なくやった動作にガムドが驚いていたのは面白かった。

 「ロッシュ公。今、何をやったのですか。何かを水の中に放り込んだのはわかったのですが」

 「火薬玉だよ。錬金工房のスタシャに小型の火薬玉を手渡されていたのを思い出したんだよ。なんでも雨の中でも使えると言っていたから水中でも行けるかなと思っていたんだけど、成功してよかった」

 「火薬玉ですか。こんな使い方があるなんて、初めて知りました。いやはや、ロッシュ公には驚かされます」

 その日の食事は、新鮮な水の幸に舌鼓をうつことが出来た。この湖に来たのは正解だったな。ここの水産資源は大いに利用したいものだ。道が出来上がったら、このあたりに村を構えるのもいいかもしれないな。一行は魚介料理と酒を飲みながら、楽しい時間を過ごすことが出来た。

 その後、久しぶりに僕も水浴びをしていると、シェラとシラーが裸でやってきた。うん。汗がすぐ流せる環境っていいものだね。
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