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第228話 視察の旅 その32 難民たちの行き先

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 ガムドとグルドの戦談義がかなり面白かったせいで、僕は、深酒してしまった。部屋に戻ってからも、シェラとシラーが部屋で飲み比べをしていたものだから、僕も酔った勢いで付き合ってしまったのだから、この朝に最悪な気分は自業自得なのだろう。朝から深いため息を付いて、横で寝ている二人を起こさないようにベッドから出ることにした。裸だと落ち着かないので、辺りにある服を来て食堂に向かった。

 食堂では、トニアとティアが先に朝食を摂っている最中だった。僕は二人に挨拶をし、勝手に自分の席と決めてしまった場所に座ると、朝食が来るのを待っていた。その光景を見ていたティアが僕を見て、笑っていた。

 「ロッシュ様も随分とこの屋敷に慣れましたね。ずっと昔から一緒に暮らしていたみたいです。ねぇ、お母様」

 話を振られたトニアはあたふたとして僕に謝罪をしてきた。僕は気にしないようにと言葉を掛けるだけにした。ティアの顔を見ていると、ふと考えたことがあった。スータンの部落についてだ。スータン達は公爵家の領地出身で、かなりの地位について者もいると聞いたな。そうなれば、当然、王都での教育も受けているに違いない。その知識を活かせないものだろうか。こう言っては何だが、スータン達の中に過酷な労働に耐えうるものは少ないだろう。

 「ティア。まだ、早いが学校のことで相談したいことがあるのだ。実はな、今日、公爵家領出身のものが見えることになっている。その者を教師として使えるかも知れないと思っているのだが、どうだ? 一緒に会議に参加してみるか? その者たちの人事を色々と決めるための会議だから、勉強にもなるだろう」

 ティアは、きれいなオッドアイを何度も瞬きをして、信じられないと言った様子でこっちを見ていた。何度も本当ですか? と聞き返してくるので、僕は何度も頷いてやると、飛び上がるように喜んでいた。それを見て、トニアに叱られていたが、何も気にしていないかのように食事を続けていた。僕の食事が終わり、食後のコーヒーを飲んでいる頃、ガムドとグルドが二人でひどい顔をして食堂に現れた。

 トニアはすっと立ち上がり、濡れたタオルを二人に手渡して顔を拭くように叱っていた。僕の前だからというのだが、僕も顔を洗わずにここに来ているのだから、なんとも気まずくなってくる。二人は僕に挨拶を交わすと、各々席につき、朝食を食べ始める。僕が会議にティアも参加させることを告げると、ガムドが嫌な顔をして反対したそうな顔をしていた。ティアはなんとか参加したいためにガムドを説得するのだが、なかなか首を縦に振らない。

 僕もまだ早いかと諦めかけていたが、グルドが助け舟を出していた。

 「ガムド。君臣のけじめはしっかりとな。ティアを参加させるのはロッシュ公の考えだ。後は分かるな。それにロッシュ公とティアの関係はお前がよく知っているではないのか。将来を見据えて、いろいろと勉強させてやりたいのだろう。その気持ちを無下にするのではないぞ」

 ガムドはハッとしたのか、席からすぐさま立ち上がり、僕に謝罪をしてきたので、一応は受け入れはした。僕とティアは学校設立での協力者という関係性だ。決して、婚約関係ではないのだが、二人の中では確定事項となっている。僕の行いがティアが妻としての教養を付ける意味と捉えているのだろう。なんとも、やりきれない思いだ。まぁ、ティアが会議に参加できると分かって、喜んでいるので良いとするか。

 僕とガムド、グルド、それにサリルでこれから来る部落の処遇について相談していると、三人の部落長がやってきたという報告が入ってきた。どうやら三人の他に家族と護衛を連れての登場なので、結構な大所帯となっていた。ガムドは、部族長達を応接室に通し、家族と護衛にはメイドたちに指示を出し、食事や酒を振る舞ったりした。

 僕達が会議室に入り、席に着くとスータンが感謝を述べるところから始まった。

 「我々の家族や護衛のためにもてなしてくれることに感謝する。それに昨晩は、ロッシュ公の置土産で随分と楽しい思いをさせてもらった。おかげで、皆、生きる力を取り戻したようだと言って今朝から張り切っているものが大勢いたな」

 ガムドが頷いて、気にするな、と声をかけた。ここから会議が始まった。今回は、三人の部落長は僕達が決めた事柄を聞いて、それぞれの部落の住民に話すことが目的となっているため、三人は聞く姿勢となって僕達が話し始めるのを待っていた。

 ここで話し始めるのはサリルだ。先程、話し合った結果を伝え始めた。スータンの部落の住民約三千人はラエルの街に赴くことにしてもらった。ラエルの街では、物流の拠点となっているのでどうしても人手が不足がちなので、それを補充する意味で移住をしてもらうことにした。それ以外にも理由があるが、とりあえず置いておいて。

 テカッドの部落の住民約七千人は、元オーレック領に入ってもらい、鉱山開発と農地開拓をしてもらうことにした。オーレック領は、鉱山の宝庫とも言える場所でおそらく七千人の移住だけでは十分な開発とまでは行かないだろうが、それでも先駆けとしては十分な人員と言える。さらに、鉱山開発に長けているものを派遣して、本格的な開発を進めるつもりだ。それについては、村に戻りゴードンと話し合わなければならない。

 最後にワーモスの部落だが、村と魔の森の境界にある畑の管理人をやってもらうことにした。話を聞く限り、ワーモスたちの戦闘能力は純粋な人間や亜人に比べて数段高いらしい。実際、魔獣相手でも十分に戦うことが出来るらしい。そういうものであれば、魔の森の畑でも十分に仕事をこなすことが出来るだろう。それに、これは彼らの希望でもある。なるべく、魔族の側で生活がしたいと言う。

 決定事項を話し終えると、スータンが質問をしてきた。当然、来るだろうなとは思っていたが。

 「皆の役割はよくわかったが、私達のだけがよく分からない。ラエルの街に行くのは理解できたが、一体何をやれば良いのだ?」

 僕は当然の疑問だと思い、スータンに質問することにした。この返答いかんで、スータン達に仕事の内容が決まるのだ。

 「その前に、スータンに聞きたいことがあるのだが。スータンたちの中で、王都で勉学を治めたものは如何程いるのだ?」

 僕はスータン達の中に王都で勉強したものがいると憶測で言っているだけなのだ。スータンは意外そうな顔をしていたが、なにやら自信有りげな表情をして返事をした。

 「自慢ではありませんが、故郷の公爵領では勉学がかなり推奨されておりました。先の大戦が始まる前でしたら、それなりの階級のものと皆勉学を修めております。ただ、王都で、となると私を含めて百人ほどいるでしょうか。更に高等学校まで行ったものとなると十名ほどでしょうか」

 やはりいたか。ここで、王都での学校についてだが、王都の学校には初等・中等・高等とある。初等は6歳から12歳までで、王都出身者や領主の師弟が在籍する。地方には、初等学校を備えているのが少ないため、どうしても王都の初等学校に行きたい場合は、領主の推薦を取る必要がある。中等学校は12歳から18歳までで、王族や貴族の師弟と初等学校で優秀な成績を修めた者が通うことを許される。王都で中等学校に上がるだけでも狭き門なのだ。

 次にあるのが高等学校。専門的なことを学ぶために作られた研究機関という要素が強い学校だ。中等を優秀な成績で卒業したもののみが入学できる。ここは王国の技術者の卵を育成するため、たとえ身分が高くとも、成績が伴わなければ入学を認められない場所だ。

 話は戻るが、そんな高等学校を卒業したものが10名もいることに驚くばかりだった。スータンが自慢するのもよく分かるな。専門を聞いたが、よく分からない。大切なのは高い知識を有していることなのだ。

 「素晴らしい答えだな。これで決まったな。スータン達には学校設立のための活動をしてもらいたいと思っている。王都の学校を卒業したものを中心にやってもらうことになるな。それ以外のものは、といっても子供だけになってしまうか。彼らにも出来ることは色々となるだろうが、中心的な役割は学校だ」

 スータンは感心したように首を縦に振り、それは素晴らしい考えですと心から言っているような気がした。そこで、僕はティアをスータンに紹介した。

 「彼女はティアだ。ガムドの娘なのだが、彼女に学校設立の協力者になってもらうつもりだ。具体的には彼女のイメージした学校像というものを目指してもらいたいのだ。もちろん、現実的でなければならない。そのために、スータン達と話し合い、設立に向けて話を進めてほしい。一応、ティアの意見は私の意見だと思ってくれて構わないからそのつもりで頼む」

 スータンは、畏まりました、と了解してくれた。これで、難民たちの移住先については全てが決まった。あとはサノケッソの街に残り、移住が完了するまで指揮を取るものが必要だな。それが出来るのは一人しかいまい。僕は、皆の前で、サノケッソの街の新たな責任者を指名することにした。

 「サノケッソの街にはサリルを責任者として赴任させることにする。ガムドには追って新たな任務を伝えるからそのつもりでな。サリル。お前の手腕は僕はよく見ていたつもりだ。スータンたちの移住が完了するまで時間はかかるだろうが、尽力してくれ。頼んだぞ」

 このことは誰にも相談することなく決めたことなのだ。聞かされていなかったサリルは驚くと言うよりも、僕と離れることが相当嫌みたいで、かなり駄々をこねられたが、何とか説得して責任者になってもらうことになった。ガムドはサリルに、よろしく頼む、と街の行政権を全て移譲したのだった。

 これで僕達の視察の旅は終わる。残すは、サノケッソの街より東に新たな道を設置しながら、村に戻るのみとなったのだ。この旅によって、公国はさらに発展する糸口を見つけることが出来、僕は皆が餓えずに暮らせる世の中に少し近付いた気がしていた。
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