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第220話 視察の旅 その24 ガムドの勘違い
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元ガムド子爵領に到着してから、ガムドの屋敷にて会議が続いているのだった。サリルを紹介してからは、ガムドと二人で細かい話をやり取りしていたのだ。僕は、二人の会話を聞きながら、のんびりと酒を飲んでいると、居間に上品なドレスに身を包んだ美しい女性が二人現れた。すぐには分からなかったが、ガムドの奥方と娘だった。屋敷に入った時、姿が見えなかったので不思議に思っていたが、どうやら、身だしなみに時間がかかって、出迎えが遅れたみたいだ。サリルと話し込んでいたガムドが気づいたみたいで、二人に近付いていった。
ガムド達三人が僕に近付いてきて、僕に挨拶をしてきた。ガムドが話かかけてきた。
「ロッシュ公。改めて、妻のトニアと娘のティアです。ここに妻と子がいるのはロッシュ公が骨を折って頂いたからです。感謝いたします。どうでしょう。夕飯の準備が出来たようですから、一緒に食堂に参りましょう。今夜は腕によりかけて作らせましたから、満足して頂けると思います」
僕は頷いて、二人に姿を改めてみた。トニアは上品そうな顔出しでいかにも貴婦人と言った佇まいだ。一方、ティアは12歳という年齢を考えても、すこし大人びた姿をしていて、母譲りの金色の髪と、目の色はいわゆるオッドアイというやつで、髪の色と同じ色と父譲りの青い色をしていた。人形のような容姿をしている。
「二人共、元気そうでなりよりだ。あの時は話も十分に出来なかったから、その後のことを心配していたんだ。ガムドからは平穏に過ごしていると聞いていたがな。今夜は夕食を食べながら、共に語り合いたいものだ。女性の視点で様々なことを教えてもらえると助かる」
すると、トニアは僕を煽てるように言葉を返してくるが、ティアは違った。
「私からもロッシュ公にいろいろとお伺いしたいことがあるんです。お話できることがとても楽しみです!!」
とても元気のいい子だ。こういう子を持つ親は大変だろうな。ガムドを見ると、すこし苦笑いを浮かべているところを見ると間違いではないようだ。とにかく、僕達はトリアの案内で食堂に赴くことにした。食堂には何人かのメイドがすでに待機しており、給仕の準備が全て終わっている様子だった。ガムドが直々に僕の椅子を引き、テーブルにつかせた。
食卓には、村で食べるような料理がほとんどだ。まぁ、村の食材を使っているのだから当り前か。とりわけ、肉料理が珍しいと言ったところか。イノシシのような外見をした獣の丸焼きだ。一見、野蛮そうに見える料理だが、丁寧に料理がされていることが分かるほど、見た目が美しく、とにかく旨そうである。
酒が各人のコップに注がれ、乾杯をすることとなった。その時飲んだ酒も村で拵えた米の酒だ。ぐびっと飲むとやはりおかしいのだ。暖炉の前で飲んだ時は、寒くて舌がおかしくなったのかと感じていたのだ、やはりおかしい。村で飲む酒とは違った旨味が舌の上に広がっていくのだ。
「ガムド。この酒に何か加えているのか?」
その言葉に、ガムドが一瞬、たじろいだように見えた。が、それは違ったようだ。僕が、酒に不満を漏らしたように感じたみたいだ。僕はそのことを否定して、味に深みがあり、とても旨いから何か秘訣があるのか? と聞き直すとホッとした様子を見せた。
「さすが、ロッシュ公はお気づきになられましたか。この地方はとくにかく雪が多いですから、古くから雪の中で保存するという伝統があったのです。そこで保存するとなぜか、肉や野菜に旨味が増すのです。この方法で米の酒を保存し、熟成させれば、と思いまして、実験した所、この味に辿り着いたのです」
なんと、そんな熟成法があったとはな。やみつきになってしまうほど、旨いな。村でも雪が多いから真似してやってみようかな。僕はそんなことを考えていると、ティアが僕に話しかけてきたのだ。
「ロッシュ公にお伺いしたいことがあるですが、父から伺ったのですが、学校が村に出来るという話は本当なのでしょうか?」
学校か。ティアはそれに興味があるのか。確かに、貴族の子女であれば、本来王都の学校に通っていてもおかしくない年頃だ。学校に興味を持つのは、当たり前のことか。しかし、学校か。
「確かに、村かどうかはわからないが作る計画はある。しかし、今は準備段階と言ったところで、目処が立っていないのが実情だ。職人を養成する学校というのを始めたが、ティアの言う学校とは性質が少し異なるからな。ティアは学校に興味があるのか?」
「はい!! 私が子供の頃に王都の学校の話をよく聞いていましたから。様々な人と出会い、様々な勉学を修める場と聞いております。そんな場所に行けば、どんなに可能性が広がるか、考えただけでも楽しくなってしまいます」
そうか。そんなふうに考えてる者もいるんだな。僕としては、学校の建設はまだまだ先の話で、多分、ティアの言う学校だと更に先の話になるだろう。これから建てる学校は、所詮は読み書きを教える程度の学校。とても様々な学問を学ばせられるところではない。
「そうか。僕も公国の若者たちが学問に励めるような場所を提供してやりたいと思っているのだが、正直に言えば、余力がないのだ。王都の学校に近いものを作るためには膨大な時間が必要となってくるだろう。なかなか思うようにいかず、皆に申し訳ない気持ちだ」
「そんなことはありません。ロッシュ公は本当に多くの人達に食事を提供して、希望まで与えてくれています。そんな方に、申し訳ない気持ちになってもらいたくありません。私は、学校がとても好きですから、私の代で無理だったとしてもその次の代に実現できれば、私は幸せです。そして、私もいつか学校に携わりたいと思っています」
僕はすこし胸が熱くなってしまった。ティアという少女がこれほどまでに将来を若者のことを考えているとは。こういう者にこそ、学校の建設に関わってもらい、よりよい学校づくりをしてほしいものだな。ん? それが実現できれば面白いかも知れないな。そうなると、ガムドの許可を取らなくてはなるまい。
「ガムド。少しいいか。僕はティアの話を聞いて、とても感動したのだ。どうであろう。ティアを僕に預けてくれる気はないか?」
僕の言葉にガムドは妻のトニアと顔を合わせて、ひどく驚いたような顔をしていたが、互いに深く相槌を打っていた。それはそうであろう。今まで、大事に育てた娘だ。それを自分の手から離さなくてはならないのだから。それにしても、僕の言葉は少し急すぎただろうか? しかし、ティアの熱意につい言ってしまったのだ。もう後戻りは出来ないな。
「ロ、ロッシュ公。それは本気でおっしゃっているのですか? 我が娘を……それほどまでに高く評価いたしてくれたのですか。私共に依存はありません。しかし、娘は12歳。いささか、早い気もしますが」
なるほど。確かに12歳で親元を離れるのは心配だろうな。しかし、学校設立に向けて、すぐに動き出したいところだ。なるべくなら、ティアに参加してもらいたいところだが。
「気持ちは分かるが、僕もティアには早く来てもらいたいのだ。これは公国のためでもあるのだ。ティアには、最大限の便宜を取るつもりだ。だから、許可してもらえないだろうか」
なぜか、ガムドが上を向いて涙を我慢しているようだ。そんなにティアとの別れが辛いのか。なんだか、少し可哀想な気分になってくるな。しかし、ガムドはいずれ、村かラエルの街に赴任してくるようになるはず。そうなってくれば、いつでも会えるだろうに。
「そこまでロッシュ公がおっしゃってくれるのであれば、何もいいますまい。どうか、娘を幸せにしてやってください!!」
幸せ? ああ、なるほど。ティアが先程言っていたことか。学校が実現すれば、ティアが幸せになるということだな。
「もちろんだ。必ずや実現してみせよう。ティアが幸せになってくれることが、私にとっても、公国にとっても幸せなことなのだ。ガムド夫妻は心配せずに、ティアを僕に預けてくれ」
それからは、ガムドは狂ったように酒を飲みだした。余程、嬉しかったのだろう。奥方のトニアはティアに抱きつき、涙を流しながら別れの言葉を告げていた。なんだか、異様な雰囲気だが、ここから村まではかなりの距離があるからな。
少し落ち着いたところで、僕はティアと二人で話すことにした。ガムドに先に話を通してしまったが、本来はティアの承諾を得てからすべきであったことをふいに考えてしまったのだ。
「ティアの意志を確認せずに話を進めてしまって申し訳ない。僕はティアには学校設立の手伝いをしてもらいたいと思っているのだ。ティアの考えている素晴らしい学校という理想を実現してもらいたいのだ。そのための準備は全面的に協力させてもらうつもりだ。どうだろうか。今なら、取りやめることも出来ると思うが」
「是非、協力させてください!! 信じられません。これは夢ではないんですよね?」
良かった。ティアがこれほど前向きだと、こちらの心が痛まずに済むな。詳細については、村に着いてからという話になり、この地を出立する準備だけに集中するようにだけ告げて、ガムドのいる食卓に戻ることにした。僕が食卓に戻ると、サリルが僕に話があると言って、その場を離れることをお願いしてきた。なにやら、悲痛そうな表情をしていたので、なにか重要な話かと思って、すぐに頷き、食卓を離れることにした。
「サリル、何かあったのか?」
「ロッシュ公にお尋ねしたいことがあるのです。ガムド様のご令嬢とはどのような話をなさったのですか?」
ん? 変なことを聞くんだな。特に隠すような話ではないから、話しても問題ないだろう。僕は、ティアには学校設立の協力をしてもらうことをお願いしたことを話した。すると、サリルが深いため息をした。なにか、問題でもあるのだろうか? もしかして、サリルの相談してから決めたほうが良かったのか?
「それでは、少し困ったことになってしまいましたな」
やはり……しかし、なにが困ったことだというのだ。全く、わからないな。
「ガムド夫妻ですが、ロッシュ公がご令嬢を所望なされたと勘違いしておりますよ」
ああ、確かに所望した。学校設立の協力者としてだが。何か、問題でも?
「そうではありません。奥方として所望されたと勘違いしているので困ったことなのです」
奥方……嫁。僕とティアが? いやいやいや、ティアは12歳だよ。え⁉ だから、ガムドが確認した? ……たしかに、確認してたな。うん、なんか僕の言い方だと、そういうふうに勘違いしてもおかしくないかも? どうしよう……。そうだ、今からその勘違いを訂正すればいいんじゃないか? 簡単なことではないか。
「それは止めておいたほうがいいと思います。ガムド様はご令嬢が嫁ぐことを信じ切っております。これを翻せば、ロッシュ公の信頼は大きく落ちましょう。ガムド様は公国にはなくてはならないお方。そのお方の信頼を損ねるのは愚策としか言いようがありません。それに、私はこの縁談は悪いとは思いませんが」
ガムド……済まない。こうなった以上は、必ず、ティアを幸せにしてみるぞ。遠くで、ガムドがティアの名前を大声で叫んでいるのが聞こえてきて、僕の心を大きく抉っていった。
ガムド達三人が僕に近付いてきて、僕に挨拶をしてきた。ガムドが話かかけてきた。
「ロッシュ公。改めて、妻のトニアと娘のティアです。ここに妻と子がいるのはロッシュ公が骨を折って頂いたからです。感謝いたします。どうでしょう。夕飯の準備が出来たようですから、一緒に食堂に参りましょう。今夜は腕によりかけて作らせましたから、満足して頂けると思います」
僕は頷いて、二人に姿を改めてみた。トニアは上品そうな顔出しでいかにも貴婦人と言った佇まいだ。一方、ティアは12歳という年齢を考えても、すこし大人びた姿をしていて、母譲りの金色の髪と、目の色はいわゆるオッドアイというやつで、髪の色と同じ色と父譲りの青い色をしていた。人形のような容姿をしている。
「二人共、元気そうでなりよりだ。あの時は話も十分に出来なかったから、その後のことを心配していたんだ。ガムドからは平穏に過ごしていると聞いていたがな。今夜は夕食を食べながら、共に語り合いたいものだ。女性の視点で様々なことを教えてもらえると助かる」
すると、トニアは僕を煽てるように言葉を返してくるが、ティアは違った。
「私からもロッシュ公にいろいろとお伺いしたいことがあるんです。お話できることがとても楽しみです!!」
とても元気のいい子だ。こういう子を持つ親は大変だろうな。ガムドを見ると、すこし苦笑いを浮かべているところを見ると間違いではないようだ。とにかく、僕達はトリアの案内で食堂に赴くことにした。食堂には何人かのメイドがすでに待機しており、給仕の準備が全て終わっている様子だった。ガムドが直々に僕の椅子を引き、テーブルにつかせた。
食卓には、村で食べるような料理がほとんどだ。まぁ、村の食材を使っているのだから当り前か。とりわけ、肉料理が珍しいと言ったところか。イノシシのような外見をした獣の丸焼きだ。一見、野蛮そうに見える料理だが、丁寧に料理がされていることが分かるほど、見た目が美しく、とにかく旨そうである。
酒が各人のコップに注がれ、乾杯をすることとなった。その時飲んだ酒も村で拵えた米の酒だ。ぐびっと飲むとやはりおかしいのだ。暖炉の前で飲んだ時は、寒くて舌がおかしくなったのかと感じていたのだ、やはりおかしい。村で飲む酒とは違った旨味が舌の上に広がっていくのだ。
「ガムド。この酒に何か加えているのか?」
その言葉に、ガムドが一瞬、たじろいだように見えた。が、それは違ったようだ。僕が、酒に不満を漏らしたように感じたみたいだ。僕はそのことを否定して、味に深みがあり、とても旨いから何か秘訣があるのか? と聞き直すとホッとした様子を見せた。
「さすが、ロッシュ公はお気づきになられましたか。この地方はとくにかく雪が多いですから、古くから雪の中で保存するという伝統があったのです。そこで保存するとなぜか、肉や野菜に旨味が増すのです。この方法で米の酒を保存し、熟成させれば、と思いまして、実験した所、この味に辿り着いたのです」
なんと、そんな熟成法があったとはな。やみつきになってしまうほど、旨いな。村でも雪が多いから真似してやってみようかな。僕はそんなことを考えていると、ティアが僕に話しかけてきたのだ。
「ロッシュ公にお伺いしたいことがあるですが、父から伺ったのですが、学校が村に出来るという話は本当なのでしょうか?」
学校か。ティアはそれに興味があるのか。確かに、貴族の子女であれば、本来王都の学校に通っていてもおかしくない年頃だ。学校に興味を持つのは、当たり前のことか。しかし、学校か。
「確かに、村かどうかはわからないが作る計画はある。しかし、今は準備段階と言ったところで、目処が立っていないのが実情だ。職人を養成する学校というのを始めたが、ティアの言う学校とは性質が少し異なるからな。ティアは学校に興味があるのか?」
「はい!! 私が子供の頃に王都の学校の話をよく聞いていましたから。様々な人と出会い、様々な勉学を修める場と聞いております。そんな場所に行けば、どんなに可能性が広がるか、考えただけでも楽しくなってしまいます」
そうか。そんなふうに考えてる者もいるんだな。僕としては、学校の建設はまだまだ先の話で、多分、ティアの言う学校だと更に先の話になるだろう。これから建てる学校は、所詮は読み書きを教える程度の学校。とても様々な学問を学ばせられるところではない。
「そうか。僕も公国の若者たちが学問に励めるような場所を提供してやりたいと思っているのだが、正直に言えば、余力がないのだ。王都の学校に近いものを作るためには膨大な時間が必要となってくるだろう。なかなか思うようにいかず、皆に申し訳ない気持ちだ」
「そんなことはありません。ロッシュ公は本当に多くの人達に食事を提供して、希望まで与えてくれています。そんな方に、申し訳ない気持ちになってもらいたくありません。私は、学校がとても好きですから、私の代で無理だったとしてもその次の代に実現できれば、私は幸せです。そして、私もいつか学校に携わりたいと思っています」
僕はすこし胸が熱くなってしまった。ティアという少女がこれほどまでに将来を若者のことを考えているとは。こういう者にこそ、学校の建設に関わってもらい、よりよい学校づくりをしてほしいものだな。ん? それが実現できれば面白いかも知れないな。そうなると、ガムドの許可を取らなくてはなるまい。
「ガムド。少しいいか。僕はティアの話を聞いて、とても感動したのだ。どうであろう。ティアを僕に預けてくれる気はないか?」
僕の言葉にガムドは妻のトニアと顔を合わせて、ひどく驚いたような顔をしていたが、互いに深く相槌を打っていた。それはそうであろう。今まで、大事に育てた娘だ。それを自分の手から離さなくてはならないのだから。それにしても、僕の言葉は少し急すぎただろうか? しかし、ティアの熱意につい言ってしまったのだ。もう後戻りは出来ないな。
「ロ、ロッシュ公。それは本気でおっしゃっているのですか? 我が娘を……それほどまでに高く評価いたしてくれたのですか。私共に依存はありません。しかし、娘は12歳。いささか、早い気もしますが」
なるほど。確かに12歳で親元を離れるのは心配だろうな。しかし、学校設立に向けて、すぐに動き出したいところだ。なるべくなら、ティアに参加してもらいたいところだが。
「気持ちは分かるが、僕もティアには早く来てもらいたいのだ。これは公国のためでもあるのだ。ティアには、最大限の便宜を取るつもりだ。だから、許可してもらえないだろうか」
なぜか、ガムドが上を向いて涙を我慢しているようだ。そんなにティアとの別れが辛いのか。なんだか、少し可哀想な気分になってくるな。しかし、ガムドはいずれ、村かラエルの街に赴任してくるようになるはず。そうなってくれば、いつでも会えるだろうに。
「そこまでロッシュ公がおっしゃってくれるのであれば、何もいいますまい。どうか、娘を幸せにしてやってください!!」
幸せ? ああ、なるほど。ティアが先程言っていたことか。学校が実現すれば、ティアが幸せになるということだな。
「もちろんだ。必ずや実現してみせよう。ティアが幸せになってくれることが、私にとっても、公国にとっても幸せなことなのだ。ガムド夫妻は心配せずに、ティアを僕に預けてくれ」
それからは、ガムドは狂ったように酒を飲みだした。余程、嬉しかったのだろう。奥方のトニアはティアに抱きつき、涙を流しながら別れの言葉を告げていた。なんだか、異様な雰囲気だが、ここから村まではかなりの距離があるからな。
少し落ち着いたところで、僕はティアと二人で話すことにした。ガムドに先に話を通してしまったが、本来はティアの承諾を得てからすべきであったことをふいに考えてしまったのだ。
「ティアの意志を確認せずに話を進めてしまって申し訳ない。僕はティアには学校設立の手伝いをしてもらいたいと思っているのだ。ティアの考えている素晴らしい学校という理想を実現してもらいたいのだ。そのための準備は全面的に協力させてもらうつもりだ。どうだろうか。今なら、取りやめることも出来ると思うが」
「是非、協力させてください!! 信じられません。これは夢ではないんですよね?」
良かった。ティアがこれほど前向きだと、こちらの心が痛まずに済むな。詳細については、村に着いてからという話になり、この地を出立する準備だけに集中するようにだけ告げて、ガムドのいる食卓に戻ることにした。僕が食卓に戻ると、サリルが僕に話があると言って、その場を離れることをお願いしてきた。なにやら、悲痛そうな表情をしていたので、なにか重要な話かと思って、すぐに頷き、食卓を離れることにした。
「サリル、何かあったのか?」
「ロッシュ公にお尋ねしたいことがあるのです。ガムド様のご令嬢とはどのような話をなさったのですか?」
ん? 変なことを聞くんだな。特に隠すような話ではないから、話しても問題ないだろう。僕は、ティアには学校設立の協力をしてもらうことをお願いしたことを話した。すると、サリルが深いため息をした。なにか、問題でもあるのだろうか? もしかして、サリルの相談してから決めたほうが良かったのか?
「それでは、少し困ったことになってしまいましたな」
やはり……しかし、なにが困ったことだというのだ。全く、わからないな。
「ガムド夫妻ですが、ロッシュ公がご令嬢を所望なされたと勘違いしておりますよ」
ああ、確かに所望した。学校設立の協力者としてだが。何か、問題でも?
「そうではありません。奥方として所望されたと勘違いしているので困ったことなのです」
奥方……嫁。僕とティアが? いやいやいや、ティアは12歳だよ。え⁉ だから、ガムドが確認した? ……たしかに、確認してたな。うん、なんか僕の言い方だと、そういうふうに勘違いしてもおかしくないかも? どうしよう……。そうだ、今からその勘違いを訂正すればいいんじゃないか? 簡単なことではないか。
「それは止めておいたほうがいいと思います。ガムド様はご令嬢が嫁ぐことを信じ切っております。これを翻せば、ロッシュ公の信頼は大きく落ちましょう。ガムド様は公国にはなくてはならないお方。そのお方の信頼を損ねるのは愚策としか言いようがありません。それに、私はこの縁談は悪いとは思いませんが」
ガムド……済まない。こうなった以上は、必ず、ティアを幸せにしてみるぞ。遠くで、ガムドがティアの名前を大声で叫んでいるのが聞こえてきて、僕の心を大きく抉っていった。
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