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第208話 視察の旅 その12 浄化魔法

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 三村に街道からの道が開通したことで、物資の搬入が始まろうとしていた。当面は木材が大量に運び込まれる予定となっている。今頃、ゴードンが指示を出している頃だろう。僕は、整地された道をシェラと歩きながら、三村に向かっていった。

 「そういえば、シェラは子供が欲しいとか思うことはないのか?」

 僕が何かの拍子でシェラに聞いたのだ。意外だったのか、シェラの割にはよく考えている感じだ。

 「どうでしょう。今の生活は満足していますし、まだ、この生活を続けていたいと思っていますよ。まぁ、どっちでもいいです。ロッシュの子供なら欲しいですから。それに私達の人生はこれからも悠久に近い時間を過ごすんですから、慌てなくても大丈夫ですよ」

 なんか、変な言葉が聞こえた気がするが。悠久ってどういうことだ? 不老不死になるの? 僕はこの世界に来てから成長を続けているし、確実に歳を重ねている。周りの人と同じくらい生きて、人生が終わるものと思っていたが。違うの?

 「シェラ。今の話だと、僕が永遠の命があるみたいな言い方だけど、ちがうよね?」

 「違いますよ」

 僕がほっと胸をなでおろした。それはそうだよな。永遠なんて想像も出来ないけど、命が尽きると分かっているからこそ頑張れるっとこともあるだろうし。でも、永遠って言葉も捨てがたいが。違うなら、それでいいや。僕は自分の中で納得しかけていると、シェラが話を続けてきたのだ。

 「永遠ではなく、悠久です。似て非なるものですよ。いつかは命が尽きてしまうんですから」

 「いや、だって、僕は成長しているじゃないか。それも普通の成長速度と変わらない。とても信じられないんだけど」

 「成長しているのは、旦那様が望んでいるからではないですか? 旦那様は、神の力を身に宿していますから、見た目は自在に変わるんですよ。ただ、望んだからと言ってすぐには変わらないですけど」

 つまり、僕がこのまま成長を望めば、爺さんになっていくが、爺さんになった時に若い体を望むと若くなるってこと? そういうと、シェラは頷いて、肯定してきた。数十年かかった変化は、逆に数十年かからないと元には戻りませんよ、と付け加えてきた。なんてことだ。ここに来て、凄い事実を聞かされてしまった。待てよ。シェラがここにいるから知ることが出来たが、本来はシェラはここにいていい人物ではない。だって、女神だから。

 「あれ? 言ってませんでしたっけ?」

 なんと、いい加減な女神なんだ。こんな重要な情報を言い忘れるか? そういえば、ハイエルフのリリも僕が長命みたいなことを言っていたことを思い出したが、この話はとりあえず忘れることにしよう。覚えておいてもいいことはなさそうだ。一応、シェラに言い忘れていないことがないか、確認すると首を振っていた。シェラの場合、言ったことを覚えていないから、何を言い忘れているか分からなそうだが……疑っても、切りがないからな。信じることにしよう。

 三村には、木の棒が何箇所にも立てられていた。どうやら、これが区画の境界線を示しているようだ。その中心に一軒の掘っ立て小屋が立っているのが見えた。あそこが司令室的な役割を果たす場所だろう。そこに行けば、ルド達に会えるだろう。

 僕達が向かうと、掘っ立て小屋にはルド達が粗末だが様々なことが書き込まれた地図を見ながら相談をしているようだ。僕が姿を表すと、まっ先にマッシュが敬礼をしてきた。マルゲルもマネをしようとしていたが、僕は制止して、挨拶をした。僕も地図を眺めると、区画整理された町並みが簡単だが描かれていた。船着き場から街道までの道にまっすぐ伸びた太い道路を中心に町並みが作られている。東西と南北に主要道路が作られ、居住区や商業区が割り振られている。その郊外に農地が広がっている。

 居住区だけでも、数万人は住める規模だぞ。一体、どれだけの街を作る気なんだ? ルドは、この漁村はゆくゆく公国では有数の街となるだろうから、今のうちに都市計画はきっちりとやりたいのだ、と息巻いていたな。ルドの中では、すでに公国の青写真が鮮明に出来上がっていそうだな。面白そうだから、今度話を聞いてみるか。

 僕が、ルドに当面の予定を聞くことにした。すると、どうやら第一陣の三千人程度の人達が出発の準備を始めているようだ。先発組は、若い男衆で大工や農家が多くを占めていると言う。優先的には居住区が先に作られる予定だ。僕がやるのは、井戸の設置と村の中の道の整備だな。時間があれば、更地にする作業をするといいだろう。

 僕はルドやマッシュ達と相談してから、土木作業を始めることにした。居住区の予定地で適当な場所に井戸を掘ってみることにした。数メートルも掘るとすぐに水が滲み出てきた。これなら今日中にたくさんに井戸が作れそうだな。試しに、井戸の水を汲み上げ、飲んでみることにした。見た目は無色透明だ。これなら大丈夫だろうと思い、口につけると、口中に塩辛い味が広がってきた。これは、海水だ。塩分は弱めだが、これでは飲料水として使えるものではないな。困ったな。他のところも掘ってみなければ。

 居住区として考えている地区は全て全滅だった。これでは人が住める環境ではない。すぐにルド達と相談をしなければな。僕は、自警団に頼み、皆をすぐに集めてもらうようにした。僕もすぐに司令室に向かうことにした。皆に井戸のことを説明すると、難しい顔になり、計画の練り直しを余儀なくされることになった。ルドは難しい顔をしながら、地図を睨みつけていた。すると、後ろに立って僕達を眺めていたシェラが珍しく会話に参加してきた。

 「ねぇ、旦那様。浄化魔法は使わないのですか? それがあれば、地下の水から不純物を取り除くなんて簡単ではありませんか」

 皆の視線が僕に集中する。いやいやいや、知らないよ。浄化魔法って何? 使わないのかって言い方をするということは使えるってことだよな? 久しぶりにステータスを見てみよう。本当に久しぶりだな。僕は頭の中で考えると……あれ? 何も出てこないぞ。久々すぎて使い方を間違えたか? あの手この手でステータスを出そうとしたが出る気配がない。シェラなら知っているのか? といっても、皆がいる前で話すわけにはいかない。

 僕はこっそりと、シェラを建物から連れ出し、スタータスが出ないことを告げると、笑われてしまった。

 「旦那様はおかしなことを言うんですね。あれは、旦那様が魔法が使ったことがないと思い、女神の権限で見せていたに過ぎないんですよ。だから、魔法が使えるようになった今は、思うだけで感じることが出来るはずですよ」

 僕はシェラの言うとおりに、浄化魔法を思い描いてみた。なるほど、頭の中で何かを感じることが出来る。すると、情報が瞬く間に頭の中を駆け巡り、浄化魔法の使い方を理解することが出来た。しかも、最適化されているようで魔法を使っても疲れにくそうだ。これならたしかに地下水の浄化に役に立ちそうだ。

 僕は、建物に戻り、浄化魔法を実践してみることにした。コップに水を入れ、その中に泥を混ぜたものを用意した。これを海水混じりの井戸水に見立ててるつもりだ。僕は、コップの泥水から異物を取り除くイメージをして浄化魔法を使った。この時、異物の移動先を指定してあげなければならない。とりあえず、テーブルの上でいいだろう。

 すると、コップに淡い光がかかり、そこには先程まで泥水だったのが真水に生まれ変わっていた。その横に、カラカラに乾いた土塊が置かれているだけだった。これはすごいな。一瞬で真水に生まれ変わったぞ。しかし、この程度なら土魔法でも出来る気がするな。泥は鉱物の集合体だ。土魔法を使えば、泥だけを除去することが出来るぞ。その点についてはシェラが答えてくれた。

 「それは正しいですよ。ただ、浄化魔法は不純物全てを取り除くのです。毒物なんかも不純物に含まれるでしょう。一方、土魔法はどこまで言っても鉱物しか取り除けません。そこに違いがあるんです」

 なるほど。そうなると、原因不明の物に汚染された土壌や水だと、土魔法ではきれいにすることが出来なかったが、浄化魔法ならばそれが可能となるわけか。これは素晴らしい魔法だな。今のところ、汚染された場所は見たことがないが、いつかは使うことになるかも知れない。これなら塩分が染み込んだ土壌を浄化することが出来るだろう。

 僕はシェラに礼を言って、居住区で浄化魔法を使ってみることにした。成功するといいんだが。
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